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2015年6月22日

「小さくはじめて大きく育てる、ICT教育古河モデル」の神髄/古河市教委

<ICT教育の現場から>
「小さくはじめて大きく育てる、ICT教育古河モデル」の神髄/古河市教委

私が知る限り、その人はかなりの「目立ちたがり屋」で、尚且つ「ええ格好しい」だ。何処よりも早く1人1台タブレットを導入し、ICT教育が何たるかを追求し続けてきた。言うならば「1人1台タブレット初志貫徹~」「ICT教育導入徹底追求~」と叫んできたのだ。と、そう思っていた。

EDIXで「古河モデル」を熱く語る平井課長(2015.5)

しかしその人は、「格好付けたな理想主義者」でも「ガチガチの石頭」でもなかった。焦らず、無理せず、諦めず、自ら信じる教育のあり方が実現する未来へ向かって、着実に歩みを始めた。大向こうをうならせるような大がかりな仕掛けではなく、「小さくはじめて大きく育てる」やり方で、古河市独自のチャレンジをスタートした。その人とは、茨城県古河市教育委員会 指導課 平井聡一郎課長。元古河第五小学校の校長だ。

「ICT教育は推進したいけれど、人もいなけりゃ予算も無い」。多くの自治体が抱えるこのテーマに正面から取り組んで出した一つの結論。「小さくはじめて大きく育てる、ICT教育古河モデル」、この神髄を紹介する。

古河第五小学校ではじめたこと

3年前、古河第五小学校に校長として赴任した平井が、ICT機器を活用した教育をはじめたのは、「どこよりも早くICT教育に取り組んでやる」という意気込みでも、「1人1台iPadやったらどうなるかな」といった興味からでもなかった。

教室の子どもたちは落ち着いて授業を受けているものの、どこか受け身で活気が感じられない。「この雰囲気を変えたい!」それが最初のきっかけだった。自分で考え、判断し、行動できる子どもを育てるためにはどうすればいいか。学びの枠組みを、授業のやり方を変えなければならない、そのきっかけづくりがICTの導入だったのだ。

2015年、古河市が市内の全小中学校で取り組むICT環境整備「KOGA SCHOOL INNOVATION(KSI)」のキャッチフレーズは、「授業が変わる 学びが変わる」だ。第五小学校で最初にICTに取り組みはじめた頃の思いは変わらない。そのために平井は、ICT活用を推進する。

ICTを活用して授業を変えると一口に言っても、実際に行うのは大変なことだ。まずは教育委員会にモデル校制度を作ってもらい、電子黒板や書画カメラ(実物投影機)、デジタル教科書などICT教育の基本ツールを購入したり借りたりした。

第五小学校のiPadを使わない授業風景

ICTを活用した授業の実施は慎重に進めた。とにかく、教師も子どもたちも取り組みやすそうなところからはじめてみた。書画カメラと電子黒板を使って、子どもたちのノートを大きく写し出して説明したり、デジタル教科書を板書代わりに使ってみたりと、簡単な使い方からはじめて少しずつ活用範囲を拡げていった。
そして、2年目には1学級分の40台と実証実験用に借用した60台、あわせて100台のiPadを手に入れ、Wi-FiやApple TVも整備して、3~5年は1人1台、1、2、6年は2人に1台という環境を整え、授業を変える準備は着々と進んでいった。

*この取り組みは「古河第五小学校/「五小式★論理的な思考力を育成する方法」研究発表会を開催」を参照。

このやり方がKSIにも活かされている。

ICT教育推進のための二つの課題「金と人」

ICTの導入が容易に進まない大きな原因は、主に「予算と人材」である。「ICT教育は導入したいが、金も無ければ人だっていない」というのが、どこの自治体でも悩みの種だ。

2014年4月、第五小学校校長から古河市教育委員会 教育指導課長に立場が変わった平井は、古河市全体のICT教育推進に取り組むことになった。五小で実現した、Wi-Fi+1人1台iPad環境は、ICTを活用して授業を変えていくのに必要不可欠であることは、短い実践期間でも確認できた。

できれば、古河全ての小中学校でも同じ環境で取り組ませてやりたい。教育委員会内部はもちろん市の担当者や議会、校長会など機会がある度に説明して回るのだが、どうにも先立つ予算も人も手当できない。

古河市は人口が14万5000人弱、児童生徒は1万人以上が32の小中学校に在籍している。

iPad mini Wi-Fiモデル,1台3万円としても1万台で3億円。iPad Air 2 Wi-Fiモデルなら1台6万円で、6億円だ。

iPadとテレビをケーブルでつないだ三和北中学校のプレゼン授業

もちろん、iPadさえ整備すればICT教育がはじめられるわけではない。電子黒板も書画カメラもデジタル教科書も、もちろん授業を変えるための様々なアプリも必要になってくる。

そして何より、32校すべてにWi-Fi環境を整備するのが大変なのである。整備のために必要な費用の他、インターネットなど校外接続環境やメンテナンス、通信トラブル対応に備えるICT支援員の確保など、関連する費用を考えると到底短期間での整備は難しい。

「金」が無理なら「人」はなんとかなるのか。人はもっとどうにもならない。道具も環境も無い学校の教師にICT活用のスキルを望むこと自体が、無理難題なのである。「金は無理」なら「人も無理」なのだ。

各学年1クラス、全校で児童130人強という小規模校の第五小学校では実現できても、同じやり方を古河市すべての小中学校で実現するのは困難なのである。その事実をしかと認識したとき、平井は決断した。

「小さく始めればいいじゃないか。そして大きく育てよう」

「Wi-Fi」も「1人1台」も諦めて取り組む4ステップ

小さく始めるに当たってまず、Wi-Fi設備と1人1台環境は諦めることにした。

結論は、「セルラーモデル端末」「1校40台」だった。

Wi-Fiを使わないでインターネットに接続するためには、通信手段が必要である。そこで、採用するタブレット端末は、携帯電話と同じ通信手段のある機種にした。いわゆるセルラーモデルと呼ばれる端末である。

通信料無料のWi-Fi方式に比べ、セルラーモデルでは毎月の通信料が掛かる。その上、使用するのが一般市民と同じ公衆回線だから、安定した接続環境が確保できるかも心配になる。

そのことを平井に訊くと、「通信会社のコンシューマー向けサービスには長期間契約すると端末代がほとんど無料相当で提供される場合がある。通信料を端末代とセットで調達することで、Wi-Fi設備を整備するのと変わらないかもしれない。その上、児童生徒が享受するメリットは大きくなる。通信環境については、心配していない。問題なく利用できることを前提に契約するし、一般市民から学校の周りは繋がらないといった評判が立つと大変だから、通信会社も強化するでしょ。そうすれば、古河市内全域のモバイル通信環境が高まって、市民も喜んでくれますよ」と、一石二鳥を強調する。

毎月の通信料の掛かる「セルラーモデル」だが、試算するとWi-Fiを整備する予算に比べても同程度、しかも校外接続環境やメンテナンス、通信トラブルの対応など、本来整備主体がクリアする問題をすべて通信会社に委ねることができる。インターネットなど通信環境もLTE接続ならWi-Fiと遜色ないということも確認した。

第五小学校での1人1台iPad利用授業風景

1人1台については最初から拘っていなかった。第五小学校独自の検証で、授業中に1人1台、2人1台、グループ1台などの学習パターンを試したが、どのパターンでも効果的な使用方法があることは既に実証済みだ。

もちろん、1人1台の学習パターンで授業を行うこともあるだろうから、最低でも1校につき1人1台が1クラス可能な児童生徒用40台を確保する。

「セルラーモデル」「1校40台」の環境をどのようにICT教育の推進につなげてくのか。平井は「ICTで授業を変える4つのステップ」を構想した。

第①ステップ:大型ディスプレイ+書画カメラ
第②ステップ:①+教師用タブレット+教師用デジタル教科書
第③ステップ:①②+2~名4グループ1台タブレット
第④ステップ:①②+1人1台タブレット(BYODも検討)

ステップ①については2014年度からディスプレイを中心に整備をすすめており、書画カメラについても目処が立った。

今回のKSIでは、ステップ②と③にチャレンジして第五小学校で検証してきた成果を古河市全校に拡大していく。

目指すのは、2つのモデルだ。教師主導の一斉授業から学習者主体のアクティブ・ラーニングへ学びを変える「ICTを活用した授業モデル」。そして、5年後を見据えた効果的・効率的に整備を進める「ICT機器の整備モデル」だ。

ICT機器の整備について平井は、「後出しジャンケンでいいんじゃないかな」と、先進的、先導的に拘らない姿勢をみせている。「やっぱりWi-Fiの方がいい。となったら、セルラーモデルはいつでもWi-Fiモデルとして使えるからね。この先、どういう方向にも行けるんだ」と、小さく始めることは多くの可能性を秘めていることだと強調した。

ツールは準備した、人はどうする?

「エバンジェリストを育成する」

平井はそう宣言した。エバンジェリスト?何?

エバンゲリオンの熱狂的なファンのことではない。エバンジェリスト(Evangelist)とは、キリスト教における伝道者のことだという。つまり、ICT教育を伝道する教師。それが、ICT教育エバンジェリストだ。

エバンジェリスト育成を説明する平井課長・EDIX(2015.5)

そのエバンジェリストを1年で15人、3年間で45人育てるのだという。小中学校教師から募集して、選考して、研修して、知識も技術もエバンジェリストと呼ぶのに相応しくして学校に戻す。

もちろん手ぶらで行かせるわけではな

い。エバンジェリスト1人にタブレット10台、アップルTV、専用プロジェクターを持たせる。エバンジェリストを種蒔き人にして、ICT活用教育を学びの現場に芽吹かせ、育て、花を咲かせていく戦略だ。

2015年5月20日。古河市はこのプロジェクトで採用する通信会社と端末について、決定したと発表した。それは、NTTドコモのLTE対応iPadだ。

古河市とドコモ/市立小・中学校32校にLTE対応iPad1421台導入を決定、を参照。

平井が第五小学校で検証してきたiPadが採用されたことで、その経験値を活用することができる。また、古河市の全小中学校が対象になることで、「クラウドの活用」という新たなテーマにも取り組まなければならない。

「小さくはじめて大きく育てる、ICT教育古河モデル」のチャレンジは、まだはじまったばかりである。ICT教育ニュースでは引き続き、古河モデルの取り組みを追いかけていく方針である。(つづく)

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