2018年9月5日
渋谷区のPTA手作り「プログラミング体験会」が大盛況だったのひみつ
今年の夏休みが始まった7月23日、東京都渋谷区立の中幡小学校で、同校のPTA主催による「プログラミング体験会」が開催された。参加したのは、中幡小学校の小学1年生から5年生までの児童と保護者、計60人だ。
使った教材は、ディー・エヌ・エーが無料で公開しているプログラミング学習アプリ「プログラミングゼミ」で、同社のデライトドライブ本部CSR・ブランディング推進室の末廣章介氏と樋口裕子氏の2名が講師を担当した。
体験会では、プログラミングを初めて体験する小学1年生の親子から、すでにプログラミングに慣れている高学年の小学生までが、中幡小学校の教室に集い、プログラミングゼミの操作方法から、自分でキャラクターを動かす作品作りまでを体験した。
PTAがプログラミング体験会を開催した背景とねらい
PTA主催のイベントというと、どちらかというと地域に根付いたお祭やバザーいったものが多く、「プログラミング体験」を行う例はまだ数が少ない。今回、中幡小学校PTAが体験会を開催した背景を紹介するとともに、主催者として、開催して気付いた反省点などをまとめていく。
渋谷区では2017年の9月から、「ICT教育システム 渋谷区モデル」の一環として、渋谷区立の小中学校において、全児童と生徒に、”1人1台”のセルラータブレットを導入した。タブレットは、富士通の文教用モデル「ARROWS Tab Q507/PE」で、分離できるキーボードが付属しており、NTTドコモの回線を使用したセルラー版となっている。
児童用のタブレットには学習用アプリがプリインストールされており、プログラミング教材として用意されていたのが、今回体験会で使った「プログラミングゼミ」だ。
中幡小学校でも現在、小学1年生からタブレットを使用しており、今年の夏休みに初めて自宅に持ち帰り、夏休みの宿題や学習に活用することになった。こうしてICT環境が整ってきた中で、PTAとして何かできないかと考えた筆者は、PTA主催のプログラミング体験会を思いいたった。
ただし、PTAで行う以上、一人だけで主催を強行することは不可能だ。今回は、PTA会長がプログラミング体験について積極的な姿勢を持っており、今年のPTAの方針として「新しい挑戦」を掲げていたため、PTA総務が全面的に賛成してくれたことも大きい。
開催のハードルを下げ学校とPTA間で調整
学校によってPTA活動の形態は異なるが、今回のプログラミング体験会開催においては、PTAと学校の連携が必須と考え、以下のような順序で進めた。
1. 体験会の企画、内容の選定、PTA・講師への仮打診
2. 企画書をPTA総務へ提出し、主催を決定
3. PTA総務で承認を受けた企画書を学校へ提出し、開催の可否を仰ぐ
4. 学校の許諾を得て、改めて講師に正式依頼
5. 日程の調整、教室の手配、児童へ配布する書類の準備
6. 参加者への連絡、教室の準備、参加者用アンケートフォームの作成
7. 「PTA主催 プログラミング体験会」開催
プログラミング体験会を開催したいという構想は昨年秋から持っていたが、タイミングなどを考慮した結果、開催準備を始めたのは2018年の6月から。実際の準備から開催までは1カ月ほどだった。
今回は、初めての開催ということもあり、とにかく「ハードルを下げること」を念頭に置いた。低くしたハードルは「体験会の内容」「開催にあたっての準備」「参加しやすさ」だ。一番の問題となる機材は、児童が貸与されているものを使うことで解決、「プログラミングゼミ」もあらかじめインストールされているため、使用することには問題なかった。普段の授業で使っている各自のタブレットを使用したことで、児童が操作に慣れていたため、プログラミング学習に集中することができた。
あらかじめ、学校に企画書を提出し、企画の趣旨を詳しく説明していたこともあり、学校の全面的な協力があったことも大きい。教室だけでなく、体験会で使用するスクリーン、プロジェクター、電源の貸し出しなどもお願いでき、機材の調達が格段に楽になった。
また、講師については、ディー・エヌ・エーでは「プログラミングゼミ」を中心としたプログラミング教育の取り組みをCSR活動の一環で行っているということで、無償で担当してもらうことができた。
PTA開催でめざすのは全校児童が公平に参加できる環境づくり
一番大変だったのが、「公平・公正」を心がけることだった。今回の開催においては、PTA主催という性質上、どうしても学校の児童全員が平等に機会を得る必要があると考えた。
当初は20人ほどが参加すれば成功と考えていたが、実際に希望者を募ったところ、50人の参加者があった。
開催日は6年生が夏期合宿だったことがあり、参加可能な全校児童約300人のうち、実に1/6が参加を希望したということになる。
しかも、小学2年生までは保護者同伴を必須としたため、保護者10人が加わり計60人となった。
抽選も考えていたが、PTA内で話し合った結果、「せっかくだから、全員に参加してほしい」という決断を下し、学校で一番大きな教室を借り、椅子とテーブルの配置を工夫して、なんとか全員参加を実現させた。
プログラミング体験はあくまで「きっかけ作り」
プログラミング体験会は当初1時間の予定で、10分ほど延長したところで終了した。子どもが50人ちかく集まっているため、かなり騒がしくもあったが、全員が最後まで飽きずに画面に楽しそうに向かっていたのが印象的だった。
体験会の終了後、参加者に話を聞いてみたところ、子どもは「楽しかった。家でもやってみたい」という反応が多く、大半の児童から「また行きたい」という反応を得ることができた。
また、保護者からも「初めてやってみてよかった。学校から持ち帰るタブレットでできるので、宿題などの勉強のついでに、ちょっと触れてみることができるのはうれしい」という感想も語られた。この開催を通じて、プログラミング教室に通うほどではないが、プログラミングをもっと知りたいと思う保護者は多いことを改めて感じた。
こうして、中幡小学校PTA手作りによる初めての「プログラミング体験会」は大盛況のうちに終わった。参加者の満足度だけでなく、渋谷区の教育委員会から見学に来るほどの注目を集めることができたこともひとつの成果だ。
今回のプログラミング体験は、あくまで2020年からの次期学習指導要領を知るための「きっかけ作り」だと考えている。学校だけに頼らず、保護者や地域も一緒に子ども達を育てていく。そうした草の根の力が、大きく変わっていく教育や現場の手助けの一端を担っていくのではないかと期待している。今後、PTAや地域主催でICT教育の活動を考えている方に向けて、少しでも参考になれば幸いだ。
ちなみに、教育や学校が変わっていくのであれば、当然PTA活動も変わっていかなければならない。中幡小学校PTAでは活動の効率化、時短をはかるため、ICTを積極的に活用している。PTA総務では、連絡手段に「Slack」を使い、行事ごとにスレッドを立てて連絡を図っている。また、資料はGoogleドライブを活用し、できるだけ自宅でも作業できるように心がけている。
次回の開催は未定だが、今後はPTAの中から教えられる人材を募り、こうしたワークショップを定期的に開催できるのではと期待している。
ちなみに、ディー・エヌ・エーではワークショップやイベントの主催者に向けて、「プログラミングゼミ」のワークショップガイドを、7月より無料公開している。こうしたガイドブックがあれば、PTA自らが講師となってワークショップを開催することも可能だ。
(渋谷区在住のICT教育ライター 相川いずみ)
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