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2025年1月16日

「AIと教育」第3回:未来の教育を支えるAIリテラシーの重要性

【寄稿】

<はじめに>
これまでの連載では、AIが教育現場にもたらす新しい可能性や、AI導入の事例などを紹介してきました。今回は最終回として、これからの教育を支えていくうえで欠かせない「AIリテラシー」の重要性に焦点を当てたいと思います。

2025年1月現在、AIは教育、医療、金融など多くの分野で急速に普及し、AI市場規模は2027年には最大9900億ドル(約142兆円)規模に達するという予測も出ています(*1)。社会全体でAIの活用が急速に進み、子どもから大人までAIと共に生きる時代がやってきたとも言えるでしょう。そんな変化の大きい時代にこそ、教育現場では“AIを使いこなす力”だけでなく、“AIと向き合う姿勢やリテラシー”を育んでいく必要があります。今回は、なぜAIリテラシーが必要なのか、その背景と教育現場での育成ポイント、さらに実践的な取り組み方法や課題について詳しく考えていきます。

Photo by PIXTA(Generative AI.)

なぜAIリテラシーが必要なのか

AIは、私たちの生活を便利にする技術として急激に普及してきました。検索エンジンやSNSのレコメンド機能、あるいは自動翻訳や文章や画像、動画の自動生成ツールなど、すでに日常的に使われるようになったAIサービスは数えきれません。

教育現場でも同様です。「教育 AI 事例」のようなキーワードで検索してみると、実に多くの事例が出てくる時代となりました。ChatGPTをはじめとする生成AIの活用に始まり、AIが生徒一人ひとりの理解度に合わせた学習カリキュラムを作成してくれるようなサービスまで登場しています。これらの技術は、従来の教育現場では実現が難しかった個別最適化された教育の提供を可能にしつつあります。

Photo by PIXTA

たとえば、中国の囲碁教室で行われた、AIによる指導と人間による指導を比較した非常に興味深い事例(*2)があります。囲碁は競技人口の約8割が男性で、男女間の実力差が顕著に現れる分野です。この教室では、新型コロナウイルス対策として教師が隔離され、代わりにAIが指導を担当することになりました。その結果、わずか5ヶ月間のAI指導で、これまで明確に存在していた男女間の実力差がほぼ解消されたのです。

この成果を分析したところ、人間の教師による指導では、男女によって態度や指導内容に無意識のバイアスがかかっていたことが判明しました。無意識であったとしても、このような偏りが学習成果に影響を与えていたのです。

本記事を読んでいる皆さんも学生時代に先生に何かを決めつけられたり、レッテルを貼られたりした経験を持つ方も多いのではないでしょうか?または職場で上司から「お前は〜〜だ」と決めつけをされた経験を持つ方もいるかもしれません。

AIによる指導・教育が普及していけば真の意味での平等な、男女格差解消に繋がっていく可能性すら存在します。今後はAIと上手に連携していく人間とAIの共創の時代になっていくとも言えるでしょう。

その時代に必要となるものが「どのようにAIを使うのか」「どこまでを人間が判断し、どこからをAIに委ねるか」という境界を知り、活用目的を明確にするAIリテラシーです。今の子どもたちはAIネイティブと言える世代です。彼ら、彼女らが社会に出る頃には想像以上に高度なAIが広く使われている可能性があります。その時にただAIを相棒として使いこなし、主体的に課題解決をする存在になるためにはAIリテラシーの教育は必要不可欠なのです。

リテラシー不足によるリスク

AIを誤用したり、過度に盲信したりすると、多くのリスクが生じる可能性があります。たとえば、AIの判断結果が偏ったデータに基づいている場合、特定の人々や地域が不利益を被る懸念が指摘されています。また、AIに依存しすぎることで、人間が自ら考えたり、創造性を発揮する機会を失う恐れもあります。

たとえば東京都内の私立中学校で、1年生の半数以上が理科の課題に対する解答を間違える事態が発生しました(*3)。これは生成AIが学習元にしていたネット上の情報が誤っていたため、起きたことですが、この事例はAIが学習データに依存している点を示しており、誤ったデータがAIの判断にどのように影響を与えるかを具体的に教えています。

他にも、採用プロセスにAIを活用する企業が増える中で、偏ったデータに基づくAIの判断により、特定の候補者が不当に排除されるリスクも懸念されています。

このようにAIリテラシーの不足は結果的に、本来便利であるはずのツールを使うことで意思決定の質が低下する可能性があります。

また、こういったニュースが流れると「AIの出力したことをそのまま鵜呑みにせず、しっかりと事実検証をしましょう」という論調で諭してくる人も多いですが、私はAIがますます普及していく未来を想像すると、すべての情報を検証するのは現実的ではないと考えています。それはインターネット上で検索してくる情報をすべて事実検証できるか、という話に似ており、事実検証をすべてに対して行うのではなく、「AIは完璧ではない」「AIが判断する背景には学習データがある」「便利な反面、弱点もある」といった基本的なAIの理解をしていくことが重要です。

AIリテラシーを育む教育のポイント

子ども自身の経験を通じた学び

AIリテラシーは「頭で理解する」だけでなく、「体験を通じて身につける」ことが重要です。たとえば、簡易的なAIツールを使ってみたり、身近なアプリに搭載されているAIの機能を意識的に探してみたりすることで、AIの仕組みや可能性、限界を肌感覚で理解できるようになります。

また、生徒が疑問を持ったら、その場で「調べる・試す」というプロセスを大切にしてみてください。教師が「まだ早いから」「難しいから」と先回りしてしまうのではなく、自発的に学びを深める意欲をサポートすることで、AIリテラシーは自然と高まっていきます。

プロジェクト型学習の実施

AI学習は単なるツール操作にとどめず、プロジェクト型学習(Project-Based Learning:以下PBL)に組み込むと、より深いAIリテラシーの向上にもつながります。地域や社会の課題をテーマにして、AIを用いた解決策を提案する活動をすれば、生徒はデータ収集から分析、課題設定、プロトタイプ作成、プレゼンテーションまでの一連の流れを体験することが可能です。AIリテラシーはこのように「実際にAIを活用していく経験を通じて体感的に学んでいく」ことが単なる座学で学ぶよりも圧倒的に向上します。

教員・保護者も学ぶ

AIリテラシーは、生徒だけが身につければいいというものではありません。教員、さらには保護者もまた、「AIとは何か」「どう活用できるか」を学ぶ必要があります。特に教員は、AIを活用した新しい学習指導案を作成するだけでなく、子どもたちがAIに過度に依存しないようAIのリスクについての指導も行う必要があるでしょう。

Photo by PIXTA

保護者も、家庭で子どもがAIを利用するときにアドバイスできる素養があると安心です。過度にAIを嫌悪したり遠ざけようとするケースは過去何度か見てきました。これはAIの本質的な理解、AIリテラシーの低さが原因です。正しくAIを理解した上で、AIがレコメンドする動画や記事に長時間没頭する状況を防ぐにはどうするか、個人情報をどのように扱うべきかなどを話し合う機会を設けられるよう、学校側から保護者に対してのAIリテラシー教育も行うことが望ましいと言えます。

AIリテラシーを育む教育の実践

AIリテラシーを学ぶ際は高度なAIプログラミングは必要ありません。むしろ、リテラシーを学ぶ場合はできる限り身近なものを使用することが望ましいです。たとえば、多くのスマートフォンに搭載されている写真アルバムアプリ。これには最近では画像の分類機能があります。写真に写っているもの・人をAIが認識し、自動的に分類してくれるというもので、これはスマートフォンユーザーだったら特にプログラミングなどは意識せずに使っているAIです。

Photo by PIXTA

これを題材にして「なぜ分類結果がそうなるのか」「(誤分類を提示して)どうして間違えるのか」などの疑問を考えること自体が、AIの仕組みを理解するファーストステップとなります。これらの身近なものを題材とした学びは小中学生にも取り組める一方で、高校生、大学生、あるいは大人でも意外と知らなかったという発見が多い点です。どの年齢層でも身近なものからAIを学ぶという部分は共通として考えてください。

身近なものを題材にしたAIの理解が進んだ後は実践的な学習に入っていきます。しかし、これも今はプログラミングなどは不要です。たとえばGoogleが提供するTeachable Machineというサービスを利用すると誰でも簡単に画像解析AIなどが作成できます。

これを活用するとたとえば「監視カメラに特定の動物が映り込んだかどうかを検知するAI」や「不良品の検知AI」のプロトタイプが比較的容易に作成することが可能です。前述したPBL形式での学びの際は是非こういったツールを活用していただければと思います。

他にも、たとえば弊社で提供しているAI学習教材の中でかなり満足度の高いものの一つに「AIを用いて絵本を作成する」というものがあります。何らかのテーマを設定して、そのテーマに基づいたの絵本の構成(ストーリー、舞台・キャラクター設定)をChatGPTを用いて作成し、それに合わせて画像生成AIでイラストを作成。最終的にCanvaというサービスを用いてPDF形式の絵本を作るというものです。

たとえば、絵本のテーマを社会課題をテーマにすることで、これまでイラストを描ける人だけが取り組めたクリエイティブ(絵本)という課題解決のアプローチが誰にでも可能になります。これも実践を通じてAIリテラシーを高める教育の一環と言えます。

まとめ

そもそもAIリテラシーとは一言でいえば「AIを正しく理解して適切に活用するための素養」です。私は教育現場でAIリテラシーを重要視する必要性があるのは生徒が将来、社会で生き抜いていく力を養うため、と考えています。AIに対する正しい理解を持たずに社会へ出てしまうと、必要なときにAIを活用できないばかりか、過剰に怖がってしまったり、逆にAIの結果を盲信してしまったりといった危険が生じます。

子どもたちにとってAIリテラシーを学ぶことは、単に技術を学ぶだけでなく、社会の変化に対応する柔軟性や、持続可能な成長を支える基盤となるのです。

<関連記事>

「AIと教育」第1回:AI技術が教育と社会に与えるインパクト

「AIと教育」第2回:教育現場でのAI活用事例—効果的な導入と実践

*1 AI Market to Surge to Near $1 Trillion by 2027, as Bain Warns of Supply Crunch – Bloomberg

*2 成長を阻む無意識バイアス 囲碁ではAIの指導で女子上達 多様性 私の視点(山口慎太郎・東京大学教授) – 日本経済新聞

*3 中学1年生250人の半数超、理科の課題で同じ間違い…教諭の違和感の正体は生成AIの「誤答」 : 読売新聞

◆執筆者
株式会社dott
代表取締役 浅井 渉
会津大学でコンピュータサイエンスを学んだ後、エンジニアとしてキャリアをスタート。その後、ディレクター、経営参画を経て株式会社dottを設立。設立2年目からAIシステムの提案・開発を開始。ビジネスのニーズに合わせたシステム提案、またクライアントと共にビジネス自体の設計・進行を主に担当する。IT系専門学校で非常勤講師も兼任しながら、民間企業、自治体、学校機関などでの講演・セミナー活動も積極的に実施。愛猫と二人暮らし。

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自律的な学習者への第一歩に 自己効力感の向上 活用事例多数紹介 すらら 活用事例のご紹介
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