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2016年2月8日

体育科の授業でICT機器を「学習履歴」と「評価」に活用

体育の授業、例えば複数のコートを使って同時進行でおこなわれるボールゲーム。一人の教師だけではとても見切れるものではない。子どもたちに自主的なグループ活動を促し、一人ひとりが主体的に活動に取り組める場を設定すればするほど教師の目が届かない場所が出てきてしまう。

東京学芸大学附属小金井小学校の体育の授業

東京学芸大学附属小金井小学校の体育の授業

いくら熟練した観察眼を持つ教師でも、全体を常に把握し続けることは難しく、せっかくの子どもの変容を見落としてしまっている可能性は十分考えられると、笠松教諭は課題を認識、ICTの活用で問題解決の糸口を模索している。

東京学芸大学鈴木直樹研究室は5日、愛知教育大学、北海道教育大学札幌校とネットで結んだオンライン授業研究会、「未来の体育を創造する!ICT機器を体育・保健体育科の指導で活用しよう」を開催した。

東京学芸大学の鈴木直樹准教授

東京学芸大学の鈴木直樹准教授

研究会の冒頭、「体育におけるICT活用の考え方」と題して講演した東京学芸大学の鈴木直樹准教授は、「ICT機器を教具と考えて便利な学習手段として使っていてはいけない、ICT機器をコミュニケション手段と考え、学びを深める相互作用の新たな形態を生み出さなければならない」と述べ、教師の基礎能力にICTに加えることで体育におけるアクティブ・ラーニングの実現が可能だと語った。

東京学芸大学附属小金井小学校の笠松具晃教諭

附属小金井小学校の笠松具晃教諭

東京学芸大学附属小金井小学校の笠松具晃教諭による授業提案「ICTを評価に活用した授業実践」は、4年生のネット型ゲーム「ソフトバレーボール」で、ICT機器の活用を試みるというもの。

教師用PC(Windows)1台と児童8チームに各1台ずつのタブレットPC(iPad mini)、それをWi-Fiルーターによって体育館内だけで利用できるネットワークを構築し、「体育実践学習システム」というアプリを活用して授業を進める。

教師用PCとWi-Fiルータ

教師用PCとWi-Fiルータ

このアプリは、東京学芸大学と東京書籍、日本ナレッジの協同制作によるもので、「ビデオアプリ(録画)」と「作戦ボードアプリ(ボード&録音)」で構成され、タブレットPCで子どもたちが撮影した動画を瞬時に教師用PCに集約し、教師用PCからは共有したい動画やコンテンツをタブレットPCに配信することが出来る。

授業でははじめに、前時で成績の良かったチームの動画を配信、チーム毎にそのチームのどこが他のチームと違うのか、何をしているのかを分析した。

動画が写しだれたタブレットを指差しながら、子どもたちから「○○にボール回るとヤバイ」とか「○○と○○がコンビだ」とか「後ろから声かけてる」などの声が飛び交う。

参考動画を観て意見を出し合う子どもたち

参考動画を観て意見を出し合う子どもたち

動画を観た気づきとして「チームのメンバーが声を掛け合っていること」、「誰が何処に打つかなどの作戦があるようだ」ということが発表され、今回の授業の課題が「作戦を考え、その実践のために必要な声掛けをしよう」であることが共有された。

チーム毎の作戦会議の後、ゲームスタート。
各チーム1名がタブレットを持って動画撮影の準備をする。

「体育実践学習システム」の利用において、三つの条件があるという。

二階から撮影する児童

二階から撮影する児童

第一は、「何を、どこで撮るのか」という課題意識をもつこと。戦術理解の深まりとともに撮影場所、撮影方法も移り変わり、子どもの思考の変容を捉えることができるのではないかという。

たしかに、子どもたちはコートを移動しながら撮影ポイントを模索していたし、体育館の二階から撮影している児童もいた。これは、自分のチームだけではなく対戦チームも併せて画角に入れたいということからだとか。

コメントを入れながら撮影する児童

コメントを入れながら撮影する児童

第二に、撮影中に撮影者がコメントを入れること。ゲームを見て気づいたことを撮影と同時に音声を録音する。これは、従来記述で記録されていた学習カード代わりに「学習の履歴」として残していく。ゲームを見て語ることは4年生にとって難しい作業だが、客観的な視点に立って自分の意見を言うこと自体に意味のある行為であり、学習の成果でもある。

撮影担当はチーム内で交代して行われたが、積極的に解説音声を録音している子どもは、ゲーム全体とここの動き関連づけて捉えようとする姿勢がうかがわれた。動画の撮影は1回(1カット)10秒までと設定されており、撮影のタイミングを考えなければならないようになっている。

音声を入れながら作戦ボードに書き込む

音声を入れながら作戦ボードに書き込む

第三は、チームの振り返りの際の「作戦ボード機能」の使用だ。このアプリには録音機能が付いており、作戦ボードを利用して話し合うことでチームの課題がメンバーで共有できるだけでなく、記録された図と録音された音声が、授業間の子どもの思考の空白を埋め、そのチームの次時のゲームに大きな変化をもたらすという。

これらICT機器によって残された「学習履歴」は、授業中に目が届かなかった場所で起きた子どもたちの変容に気づくチャンスを教師に提供する。そして、毎時間後の教師の評価作業は、記述によりフィルタリングされたものではなく「子どものリアルな現実」を記録した動画と音声によって行うことができるという。

全員参加の研究協議会

全員参加の研究協議会

笠松教諭は、正しく「指導と評価の一体化」した実践が、ICT機器の活用によって身近になったと言って過言ではない、としている。

動画を利用した体育の授業記録は、普段子どもの授業風景を見ることの出来ない保護者に対して「ネット授業参観」や「パーソナルポートフォリオ」などの提供を可能にするかもしれない。

提案授業後は、愛知教育大学、北海道教育大学札幌校と結び、全員参加の研究協議会や、「ICTの様々な活用法に触れよう」と題した活用事例の紹介が行われ、盛況だった。

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