2022年2月28日
ICTで学びを保障する“合理的配慮”シリーズ第18回 音読と漢字の書き取りの宿題
ICTで学びを保障する“合理的配慮”シリーズ第18回
読み書きが苦手な子どもがタブレットを筆記用具にして学ぶ 〜宿題編〜
後半:音読と漢字の書き取りの宿題

1. 印刷物障害・手書き文字障害をなくす・減らす〜宿題編〜

学校においてどのような印刷物障害・手書き文字障害が生じているでしょうか。ここでは国語の「音読」と「漢字」の宿題をとりあげます。
紙の教科書を読むことが難しい子どもにとって「音読」の宿題は頭の痛い課題です。例えば,白地に黒のインクで書かれていると文字がチカチカして見にくい,教科書体等の特定の書体や小さめの文字が認識しにくい,行間が狭いと行を飛ばしてしまうといったことが起こります。読めない漢字が多ければ先に進むことができません。音読を嫌がる子どもが身近にいたら,その子どもはもしかして紙の教科書が読みにくいのかもしれない,そのように想像してみてください。
教科書については文部科学省が紙の教科書を読むことが難しい子どもに対して「音声教材」を提供するための仕組みを作っています。「音声教材」は学校で採用されている紙の教科書を文字の大きさを変更したり,音声で読み上げたり個人の読みやすさに対応可能な形式に加工したものです。「音声教材」は紙の教科書が読みにくい子ども(やその保護者)およびその子どもが通う学校・自治体が申請を行って提供を受けます。図1は音声教材の一つである「ペンでタッチすると読み上げる音声付き教科書(茨城大学)」です)。

図1 ペン型の音声教材(茨城大学)

例えば,ペン型の音声教材が手元にあったなら,音読の宿題をどのように調整できるでしょうか。文字のところをペンでタッチすればそこの部分の音声が再生されるので,文をタッチして音声を聞いたら,それを繰り返して言う(シャドーイング)をしてみるとよいでしょう。文字から音を思い起こすことが難しくて音読ができない場合でも,聞いたことを繰り返して口に出すことで文章がその子どもの中に入っていき,取り組むうちにスムーズに繰り返せるようになります。音読の宿題の目的は,子どもの中に文章を取り込んでいくことではないかと私は考えます。通常の音読とは少し違うやり方であっても,目的を達成できれば学びの保障になります。
次に,「漢字の書取り」の宿題について考えてみましょう。よくある漢字の書取りはマス目のあるノートに漢字を1行程度,繰り返し書くというものです。漢字を見て書き写しているのに間違えてしまう,そんな子どもにとって漢字を繰り返して書くことは,漢字を身につける上で有効に働かないばかりでなく,大きな苦痛を伴う活動になってしまいます。漢字の反復学習の目的は,ノートに漢字を手書きで繰り返し書くことで,漢字のインプットとアウトプットをスムーズにし自動化していくことであると考えられますが,読み書きが苦手な場合には,インプット・アウトプットがうまくいきませんので,目的が達成できません。

図2 漢字の宿題例
2019年にある小学校で漢字の宿題の前後にその漢字の書取りテストを実施するという調査を行いました(平林・髙橋,2020※)。図2はその小学校で普段から実施されていた漢字の書取りの宿題(ノートの半分だけ漢字を繰り返して書く宿題)です。この宿題の前後に漢字の書取りテストを実施しました。前後のテストの内容は同じです。

図3 漢字の宿題前後で実施した漢字の書取りテストの得点
宿題をやることによって漢字の書取りのテストの得点がどの程度変化するかを調べました。すると結果は図3のようになりました。宿題に取り組む前(プレテスト)の時点で漢字習得が十分と考えられる児童(90点以上)が34名中4名で12%,宿題によって漢字習得が促進された児童が34名中25名で74%,プレテスト・ポストテストともに著しく低い成績だった児童(70点未満)が34名中5名で15%でした。この5名の子どもたちは漢字を反復する宿題に取り組んでいても書取りの成績が向上していません。漢字が書けるようになることだけが宿題の目的とは言えませんし,その子にあった方法で学習すればどんな子でも漢字が習得できるというわけではありませんが,少なくとも漢字を繰り返し書く方法とは別の方法を試す必要があります。
※平林 ルミ・高橋 麻衣子(2020), 小学生の漢字学習の個別最適化に向けて(1), 日本教育心理学会総会発表論文集, 62巻, 第62回総会発表論文集, セッションID P156, p184,,
漢字を正しくインプットするために,漢字の筆順が表示されるアニメーション教材を使うことも一つの方法です。例えば,マイクロソフトが公開している「小学校で学習する文字の PowerPoint スライド(サイトから無料でダウンロード可能)」を使う方法があります。漢字が1文字ずつスライドになっており,スライドショーにすると,漢字の筆順通りにアニメーションで表示されます。アニメーションを見ることで文字の形を正しく捉えることができます(図4,上)。正しく書いて反復できない場合には,まず正しく見ることが大切です。このスライドは漢字のパーツを分解できるため,漢字の部首の部分の色を変え,色が変わった状態でスライドショーをして見ることができます。
この教材を活用して漢字の宿題を調整してみましょう。例えば,その日の宿題にする漢字のPowerPointスライドを一つのファイルにまとめ,子どもに渡します。スライドショーをする方法を教え,こんな宿題を提案してみましょう。
「今日の宿題はこの漢字スライドをスライドショーにして3回見よう。今回の漢字には今まで勉強した漢字の部首の中で,「まだれ」と「木」が隠れているから見つけてこよう。見つけたらそこの部分の色を好きな色に変えておいてね。」

マイクロソフトが公開している特別支援教育でのPowerPoint活用ページ

図4 漢字のパワーポイントスライドの活用例
文部科学省によるGIGAスクール構想の推進によって学校で子どもたちが1人1台タブレットPCを使う時代がやってきました。子どもの端末にファイルで宿題を配布することでこれまで紙と鉛筆ではうまく学ぶことができなかった子どもに別の学び方の選択肢が提供できます。紙と鉛筆だと学びにくい,そんな子どもがいたら,「タブレットを筆記用具の代わりにして学ぶ方法」と提案し,一緒に取り組んでみてください。
イラスト提供:Atelier Funipo
《執筆者プロフィール》
・平林ルミ(ひらばやしるみ)
学びプラネット合同会社代表。専門は特別支援教育,特に学習に困難のある人へのテクノロジーを用いた学習補償・環境調整,読み書き評価の開発,読み書きの指導法開発に従事。言語聴覚士,公認心理師,臨床発達心理士,特別支援教育士スーパーバイザー(SENSE-SV)。読み書きが苦手な子どもたちへのICT活用に関する情報をブログ「平林ルミのテクノロジーノートALT」で発信しながら子ども向けワークショップや教員研修を行っている。2020年9月より学びプラネット合同会社を開始。
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