2024年4月11日
小学校でのつまずきも高校で取り戻す! 「すらら」で生徒間の学力差に対応/埼玉県立幸手桜高等学校
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既存教育システムと現実の生徒との狭間で
「ある意味でこの子たちには、日本の教育システムの課題が顕在化しているのかもしれません」。そう語るのは、埼玉県立幸手桜高校の大庭彰信教諭(数学科)だ。
同校はもともと商業高校だったが、2013年、同じ幸手市内の普通科高校と再編・統合。両校の特色を活かしつつ、総合学科の「幸手桜高校」として再スタートを切った。そうした背景もあって生徒の学力層は幅広く、大学を目指す生徒がいる一方で、小中学校の学習につまずいたままの生徒もいる。
年齢主義が採用され、勉強に積み残しがあっても自動的に進級するのが日本の義務教育の仕組みだ。同校には義務教育課程での積み残しのある生徒は少なくない。大庭教諭が指摘するのもまさにそこだ。「つまずきを取り戻してあげたいんです」――その言葉に、教育者としての思いをにじませる。
学習の積み残しは、高卒就職にも影響を与える
ひとことで「勉強が苦手」と言っても、その程度や内容は一人ひとり異なる。計算の基礎がおぼつかない生徒や、初歩的な英単語が正しく書けない生徒もいる。同校でもそれは同様だ。
同校の学力分布を「義務教育の内容から学び直しが必要なのが9割、高校生の水準にあるのが1割」と分析する大庭教諭。ベネッセの学習アセスメント「GTZ(学習到達ゾーン)」に照らすと、基礎養成レベルに分類される「D(D1~D3)」が多くを占め、上位1割が四年制大学挑戦レベルの「C(C1~C3)」以上といった様態だ。
卒業後の進路は、おおむね就職6:進学4の割合。しかし就職志望だからと言って、学力が不要なわけではない。やはり生徒のためを思えばこそ、高校在学中に何としても積み残しを取り戻しておく必要があった。
幅広い学力層の一斉授業の課題とは
このような広い学力分布について、大庭教諭は問題意識を込めあえてこう形容する。「小3から高3までが同じ学校で勉強しているようなものです」。学力差がある生徒たちが同じ環境で学ばなければいけないというのは、時には生徒の学習を妨げることさえある。
例えば、基礎学力定着を目的に取り組んでいた朝学のプリント演習では、どの生徒も同じ内容(レベル)で実施せざるを得なかった。そのため、同じ問題で「難しすぎる」と感じる生徒と「簡単すぎる」と感じる生徒が混在する状況に。現有学力別に作問したほうが良いのは誰もが分かっていたが、マンパワーの問題から現実的には不可能だった。
また、定期テスト前には教員を総動員して補習にも取り組んだが、それでも手が足りない。誰かが質問すればそこに時間を取られるため、質問したい他の生徒を待たせる形となる。「4時間の補習をしても、個人単位では実質1時間くらいしか勉強できていないような実態がありました」と大庭教諭。与えられた環境の中で最善は尽くしていたが、効率の悪さが目立っており、個別最適化をいかに持ち込むかが最大の課題であったと言えるだろう。
AI教材「すらら」導入、タブレット学習も心理的に取り組みやすい効果
そんなときに出会ったのが「すらら」だ。生徒の理解度に応じて演習問題を出題し、誤答の原因なども自動で分析・判断、再出題もしてくれるAI教材である。記述式問題にも対応しており、教員側が一括して学習管理を行うことや、テスト結果から個別カリキュラムを作ることも可能だ。
大庭教諭は言う。「以前にテレビで、アメリカの学校がタブレットのAI教材で成果を出している様子を見たことがあり、ずっと興味があったんです。その後に教材展で『すらら』を見つけ、『これは私たちが求めていたものにかなり近いのではないか!?』と感じました」。「タブレットで学習する」というスタンスも、勉強に苦手意識を持つ生徒たちの心理的障壁を下げる意味で効果的だった。
朝学習で「すらら」活用。カギは「楽しく取り組ませる」こと
そして2023年6月に「すらら」を導入、さっそく朝学に持ち込む。最初に学力診断テストを実施し、それをもとに配信される問題を朝学で解いていくやり方だ。
生徒の反応は上々で、教員側の業務量的な問題も一気に改善され手ごたえを得ていたが、一方で別の問題も見えてきた。「すらら」の学習効果を実感できていたがゆえに、最初は「徹底的にやらせようとしてしまった」と大庭教諭は明かす。「あまりに教員がうるさく縛りすぎると、せっかく楽しく取り組めていた生徒もまた勉強に忌避感を抱いてしまいます。現在はこのあたりを試行錯誤中ですね」。
「勉強している」感覚がなく、学びに対する姿勢が大きく変化
それでも、着実に成果は現れ始めている。GTZのD3だった生徒は1学期の時点で105/198名だったが、「すらら」導入後の2学期開始時には89/198名まで激減。特に英語の伸びが顕著だった。全体的にも、プリントで朝学をしていたころと比べ、明らかに「勉強に向かう姿勢」が前向きになったそうだ。
「すらら」(株式会社すららネット)の担当者は「レクチャー機能があるため、潜在的に力のあった生徒が『勉強すること』に慣れてきたのではないか」と分析している。大庭教諭も「学習に取り組んだらポイントがもらえるなどのゲーム性は、本来は子ども向けなのかもしれません。しかし、まさにその子ども時代に勉強につまずきを覚えた生徒たちには、かえって良かったと思います」と語る。総じて、良い意味で「勉強している」感覚があまりないのだろうと口を揃えた。
「個別対応できないのであれば、端末を1人1台持たせる意味がない」と大庭教諭。現在は教員が課題を配信する形を取っているが、今後は生徒が自分で課題を選んで取り組むような主体性を引き出していくことが目標だ。
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