2024年8月20日
自治体・事業者パネルディスカッション/ダッシュボードによる教育データの集約・可視化の先に描くもの
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6月に開催されたオンラインイベント「学習者を中心としたデータ利活用のこれから」(主催:COMPASS)において、「ダッシュボードによる教育データの集約・可視化の先に描くもの」をテーマに、自治体と事業者によるパネルディスカッションが行われた。本記事ではその様子をレポートする。
登壇者は、渋谷区教育委員会事務局 教育政策課 教育ICT政策係長 竹澤悠人氏・教育指導課 指導主事 清水雄一氏。奈良市教育委員会事務局 教育DX推進課 教育ICT推進係長 米田力氏。「まなびポケット」を提供するNTTコミュニケーションズよりスマートエデュケーション推進室 担当部長 稲田友氏。AI型教材「キュビナ」を提供するCOMPASS 取締役CLOの木川俊哉氏が進行役を務めた。
ダッシュボードによる教育データの集約・可視化の先進的取り組み事例
はじめに、テーマである教育ダッシュボードに関する各登壇者の取り組みが紹介された。
COMPASSの取り組み
COMPASSでは、「学習者を中心としたデータ利活用の環境の実現」を掲げ、事業者やサービスの垣根を越えた横断的データ利活用のユースケースづくりに積極的に取り組んでいる。その一環として自治体の要望に応じたダッシュボードへのキュビナの学習データ連携を行っており、この日登壇した奈良市のダッシュボードや、NTTコミュニケーションズが提供する「まなびポケット」もその連携先となっている。
渋谷区の取り組み
渋谷区では、教育データ利活用の目的として「子ども一人ひとりの幸せ(Well-Being)の実現」を掲げ、教員向け・児童生徒向けの2つのダッシュボードを運用。教員向けでは、子どもたちの興味・関心や悩みを可視化し支援に繋げることを、児童生徒向けでは、子どもたちがお互いの良いところを見つけて認め合う相互承認と、自らの学習を振り返り次の取り組みに繋げていく自己調整力を育むことを目指している。
いずれも教員と子どもたちのコミュニケーションを代替するものではなく、あくまでも子どもとの1on1の時間をより濃くするためのものとして、データを取り扱っている。
奈良市の取り組み
奈良市では、「ゼロトラストセキュリティ」の指針の下に校務系・学習系のネットワークをクラウドに統合し、安全性と横断性の両面を実現するデータ利活用に取り組んでいる。
その一環として校務系と学習系の情報を掛け合わせた独自のダッシュボードの構築・運用を行っている。子どもたち向けの画面ではキュビナの学習状況を視覚的に可視化することで、自分の学習を振り返り、学びをデザインできるように設計するなど、データを活用することで自立的な学びを支援している。
NTTコミュニケーションズの取り組み
NTTコミュニケーションズが提供する「まなびポケット」は、学習eポータルの機能の一つとしてダッシュボードを提供。コンセプトは「学校現場が同じ目線に立ち、ワンチームになって考え、動く」「誰もが分かり易く、より深く生徒を見取り、次の一手を打てる」「自分の頑張りの効果が分かって、ずっと続けて利用される」の3つで、特に3つめの継続して利用されるという点に重きを置いている。
さらに子どもたち自身の自己調整学習を支援する「AARポータル」の開発も進めているという。
トークセッション
ダッシュボード環境構築の苦労 / 何を解決するためのダッシュボードにするか
木川(COMPASS):皆さんそれぞれとても魅力的なダッシュボードを作られているなと思ったのですが、構築にあたって大変だったのはどういった点でしたか。
竹澤(渋谷区):一番最初の段階が大変だったなと思います。何をどうすればいいのかわからないという状態でしたので、データ利活用を専門とする方にファシリテーターとして入ってもらい、ワークショップを実施しました。その中で目的の設定であったり、関係者間の合意形成を図れたりして、方向性を固めていく上での非常によいきっかけになったと思います。
稲田(NTT Com):どんなダッシュボードがよいか先生方に問いかけても、そもそも利用していないものへの要望って出てこないもので。日々の困りごとを起点にそれをデータ活用で解決できる可能性について目線合わせをしていく、その積み重ねを相当やらないと良いものは作れないんだなと感じました。もう1点は、いろいろなアプリとのデータ連携における調整です。各社との契約だったりシステム連携だったり、これは現在進行形で苦労しているところです。
米田(奈良市):稲田さんから出た各事業者との調整について、奈良市では最初からデータ提供やSSOなどの要件を契約書の仕様に組み込むことで対応しています。一方でアウトプット指標からアウトカム指標というようにいわれていますが、この「何のデータを何の指標として使うか」の選定というのが、まだまだ課題です。
木川(COMPASS):そもそもデータを統合するところが難しいとか、いろいろな課題がありますが、今お話しいただいたアウトカム、結局何を解決するものなのかというのを見つけていくことがとても重要だと思いますし、これから楽しみにしているところです。
ダッシュボード構築の効果 / コミュニケーションや主体性に繋がるサイクルに
木川(COMPASS):ダッシュボードを構築されて一定時間が経ってきたところで、当初の目的に対する実際の効果はいかがですか。
清水(渋谷区):狙い通りの効果を一定実感しています。教員向けのダッシュボードによって、子どもたちが自分からは言い出しにくい悩みや不安の早期発見に繋げられていたり、子ども向けのダッシュボードで登校後の調子や授業中の理解度がわかることで、声掛けに繋げられていたりします。そうして生まれた子どもたちと教員のコミュニケーションが、「次の授業が楽しみ」「明日も学校に行きたい」という思いに繋がるサイクルを目指しています。
米田(奈良市):「データを参照する」というのが根付いているかというとまだまだですが、ある中学校では3年生の子どもたちがダッシュボードを見ながら、受験勉強の計画をどう立てるかみたいなことを主体的にやっていて。その学校では1年生から「ダッシュボードがあって、見方はこうだよ」というのを伝えていくようになっていて、ちょっといいサイクルが回り始めているなと思います。
稲田(NTT Com):皆さんと比べると後発ということもあり、データを集約して子どもたち自身が自分らしく学ぶみたいなところまでは、まだ至っていないのが実態ですが、欠席連絡とか、心の健康観察とか、それぞれの機能によって先生の業務フローの改善に繋げられているといった価値は出せているのかなと。目的に向かって、まずはみんなが見てくれるような状況にやっとなりつつあるのかなと思います。
今後の取り組み予定 / より活用できるダッシュボードへのブラッシュアップ
木川(COMPASS):今後、どのような新しい取り組みを行っていくか教えてください。
稲田(NTT Com):ダッシュボードに表示するデータのピックアップや目的別の分析みたいなところを提供していきたいですね。やはり先生方は非常にお忙しいので、本当に必要な部分だけを見せられるようにして、何を見せないのかというのも結構重要なポイントなのかなと思ったりしています。
米田(奈良市):1つはデータを見るというのを日常化する、そのための導線だったり見せ方のブラッシュアップ。もう1点は経験の省力化というか、若手の先生が5年かけて見つける勘のようなものが、データを活用すれば1年でできるようになるかもしれない。そういう教員育成の観点でのデータ活用にも取り組んでいきたいところです。
竹澤(渋谷区):現状のデータの出し方は事実の羅列に近いところがあるので、まなびポケットさんのように、その事実から見える示唆みたいなものを出せる機能を開発していきたいです。あとは客観的なデータと主観的なデータを組み合わせて、客観的評価が低くても努力している子を認めてあげられたり、意欲を高められるようなところについても、模索していきたいと思っています。
省庁や業界団体に期待すること / データの横断性・ポータビリティ・標準化
木川(COMPASS):今後新たな取り組みを行うにあたって、省庁、校務支援・学習支援ツール、業界団体などに期待することはありますか。
稲田(NTT Com):奈良市さんのように、データの連携を調達仕様に事前に盛り込むというのは、すべての自治体でできるだけやっていただきたいという風に思います。あと、とにかくみんなが相互にデータを出し合っていかないといけないということです。一方で、そのデータを出す、受け取る、というところにコストが発生しているわけで、そういうサービスが市場の中で選ばれやすくなるような仕組みづくりも必要なのではと思っています。
米田(奈良市):事業者の皆さんには、「データポータビリティ」の観点というのを持っていただけると嬉しいですね。契約の切れ目がデータの切れ目、子どもたちや先生のこれまでのデータが契約が切れたら使えません、みたいなことも正直あって。データを出すことが当たり前の前提になってくると、そこを含めた費用だったり仕様の部分も、もっとまとまってくるのかなと。あとはデータの標準化というのもすごく重要だと思っています。
竹澤(渋谷区):選択肢が広がっている一方で、校務系でも学習系でも、選んだプラットフォームによってできることが限られてしまう、というのは避けてもらいたいです。囲い込みではなく、垣根を越えた連携が前提になって、柔軟に要望に応えてもらえるようになるとありがたいと思っているところです。
木川(COMPASS):今後の拡張性やその持続性を考えると、柔軟に組み合わせられるような仕組みにしておくということはとても重要ですね。
ダッシュボード構築の始め方 / まずは目的を明確にすることから
木川(COMPASS):参加者より「ダッシュボード構築はどこから始めたらいいか」と、質問をいただいています。
竹澤(渋谷区):まずは目的を明確にすることが大切です。その目的を踏まえて、どんなデータを使いたいのか、今使っているシステムを活用するのか、新たに構築するのかなど方向性を定めてスタートするのがよいかと。あと最初から完璧に整えるのではなくて、スモールステップで先生の課題感の強いものからデータ化して、利活用のハードルを下げていくようなこともやって良いかと思います。
木川(COMPASS):そうですね。ダッシュボード構築が目的ではないですよね。確かにダッシュボードの目的は何なのかというところを明確にすることですね。
米田(奈良市):我々を含めてまだまだユースケースを探っている段階なので、まずはダッシュボード活用の先行自治体の事例を模倣することも大切かなと。自分たちがやりたいと思うところと似た事例はないか探すことから始める。あと、手持ちのデータの確認ですね。やりたいことに対して、どんなデータがあって、どんなワークフローに落とし込めそうか、まずは自治体として持っているデータを確認することが必要です。
稲田(NTT Com):まず何か確実なところからやるとなると、今やっている業務をデジタル化していく、または、もう既にデジタルでやっているものを集約して手間を減らす、みたいなところからスタートしてもいいんじゃないかなと思います。ダッシュボード作成のために新たな業務を追加するというのは最悪ですよね。
木川(COMPASS):自分たちの課題を小さく解決する。まず身近な課題を解決する、というところからスタートするというのがいいですね。
これからダッシュボードを構築する自治体へ向けたメッセージ
木川(COMPASS):最後に、ダッシュボード構築を検討中の皆さんにメッセージをお願いします。
米田(奈良市):ダッシュボードを作ること自体を目的化するのではなく、まずは現在の業務の改善とか、紙の調査をGoogleフォームに変えてみるとか、学校に対してそういったことから進めていく中で、自然とデータが集まってきて、必要な仕組みが見えてきて・・・とダッシュボード構築に繋がっていくのではないかと思います。一緒に頑張っていきましょう。
清水(渋谷区):何のために、というところがすごく大事かなと思います。渋谷区では、子どもたち一人ひとりのWell-Beingのために今後も取り組みを続けていきたいと思っております。生活場面、学習場面で「Good Next」を繰り返すことで次の授業が楽しみ、明日も学校に行きたいという子どもたちが増えてくるといいなと思います。
稲田(NTT Com):私も「何のために」という目的をとにかく問う、ということがすごく重要で、それが最終的な学校現場の支援や子どもたちとの対話だったりに生きてくる背骨のようなものになると思っています。一方で、体制面の課題をお持ちの自治体もあるかと思いますので、その場合は我々のようなパッケージサービスのご利用も一つの手として検討いただけるといいのではと思います。
木川(COMPASS):教育データの利活用とは、子どもたちの健やかな成長、学びをより豊かで効果的なものにするための不可欠な要素だと思います。皆さま本日はありがとうございました。
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