2018年4月2日
文科省プログラミング教育戦略マネージャーが語る「2020年への本気度」
「未来の学びコンソーシアム」の目標はどのあたりか、という問いに躊躇無く「それは決まっています。2020年4月以降に、すべての小学校でプログラミング教育がスタートすることです。学習指導要領にも明記されていることです」と答えた。その人は、文部科学省 生涯学習政策局 プログラミング教育戦略マネージャー 「未来の学びコンソーシアム」プロジェクト推進本部 本部長代理 中川 哲(なかがわ さとし)氏。
プログラミング教育戦略マネージャーは、文部科学省、総務省、経済産業省が、プログラミング教育の普及・促進のため、教育・IT関連の企業・ベンチャーなどと共に昨年3月設立した「未来の学びコンソーシアム」の新体制を構築するに当たり、昨年末に一般に公募して新たに設置したポジション。ICT教育ニュースで掲載した公募の記事は、数日で1万3000件を超えるアクセス数を記録し、多くの注目を集めた。
応募して採用された中川氏は、元外資系IT企業役員で文教本部長などを歴任、東京大学 先端科学技術研究センター客員研究員、文部科学省の「中央教育審議会 情報ワーキンググループ」委員や「プログラミング教育に関する有識者会議」委員、総務省の「プログラミング教育推進会議」評価委員などを務める、まさに適任者といえる人である。
2020年まであと2年。新年度を迎えるに当たり、新たな取り組みを開始するということで、話を聞きに文部科学省に中川氏を訪ねた。
混迷する小学校のプログラミング教育の取り組みを「6つに分類」
日本の小学校におけるプログラミング教育は、昨年3月に告示された新学習指導要領で必修化が明記された。しかし、それ以前からプログラミングを活用した教育に取り組んできた教員は沢山いる。
パソコンクラブやロボットコンテストの参加はもちろんBASICなどのプログラミング言語に挑戦してきた学校もある。昨年必修化が決定したあとは、先進的に取り組んできた教師や教育委員会、プログラミングツール開発企業などが一体となって様々な取り組みが行われた。そういう先進組にしてみれば、新学習指導要領に示された内容は「その程度か」と思いながらも、自らの取り組みが指導要領に沿っているのか自信が持てないという状況でもある。
一方、これまでプログラミングなど聞いたこともやったことも無い教育現場の人たちにしてみたら、まさに「青天の霹靂」だった。いや、むしろ「青天の霹靂」ですら無いかもしれない。というのも、新学習指導要領では、英語の必修化、道徳の教科化という分かり易く大きな課題があるからだ。
小学校の校長や教師の頭の中は「1に道徳、2に英語、3,4がなくて5もない」と言われるくらい「プログラミングの必修化」に興味関心が無いと云われている。というよりも、どこから手を付けたらいいのかが分からないという状態なのかもしれない。
そこでプログラミング教育戦略マネージャーの中川氏と「未来の学びコンソーシアム」プロジェクトチームは、「学習指導要領」の内容をその程度かと感じる先進組と、何をやったら良いのか分からない現状組の溝を埋めて、小学校段階におけるプログラミング教育を分かり易くするため6つに分類整理して、3月8日に発表した。
□ 小学校段階のプログラミングに関する学習活動の分類
<教育課程内のプログラミング教育>
A:学習指導要領で例示されている単元等で実施するもの。
(算数5年・正多角形、理科6年・電気の利用、総合的な学習の時間・情報に関する探求的な学習)
B:学習指導要領に例示はされていないが、学習指導要領に示される各教科等の内容を指導する中で実施するもの。
C:各学校の裁量により実施するもの。
(A、B、D以外で、教育課程内で実施するもの)
D:クラブ活動など、特定の児童を対象として実施するもの。
<教育課程外のプログラミング教育>
E:学校を会場として実施するもの。
F:学校以外を会場として実施するもの。
この分類は、A・B・C・D・E・Fと階段状に登っていく6段階ではない。あくまで6つの分類である。先進組の人たちには自分がやっているプログラミング学習がどこに分類されるのかが把握でき、現状組は何から取り組まなくてはならないかが明確になる。
中川氏は、2020年4月の「学習指導要領」実施時点では、すべての小学校が、A・Bについては確実に実施できるように支援したいとしている。いや、「しなければいけないんです。学習指導要領に明記されているんですから」と力を込める。
学習指導要領の総則、第3 教育課程の実施と学習評価「1主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善」に下記の記述がある。
(3)第2の2の(1)に示す情報活用能力の育成を図るため、各学校において、コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を活用するために必要な環境を整え、これらを適切に活用した学習活動の充実を図ること。(中略)
あわせて、各教科等の特質に応じて,次の学習活動を計画的に実施すること。
ア)児童がコンピュータで文字を入力するなどの学習の基盤として必要となる情報手段の基本的な操作を習得するための学習活動
イ)児童がプログラミングを体験しながら、コンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力を身に付けるための学習活動
つまりここでは、「ICTの活用」、「コンピュータの利用」、「プログラミング体験」が明記されている。あくまで「プログラミング体験」で「論理的思考力を身に付ける」学習であり、プログラミングそのものを学ぶのではないことがポイント。コードをテキストで打ち込むプログラミングを想像している教師もいるということだが、これが分かれば現状組のハードルはだいぶ下がるだろう。
どの学校でもA・Bに取り組めるコンテンツの提供を目指して
では、プログラミング学習A・Bをどのように行えばいいのか。具体的な事例はあるのか。そこが足りていないのが、プログラミング教育を足踏み状態にしている大きな原因である。
そこでプロジェクトチームは、総務省、経済産業省と連携して「未来の学びコンソーシアム」のポータルサイト(ホームページ)を、3月30日に「小学校を中心としたプログラミング教育ポータル 」としてリニューアル。プログラミング教育情報の収集と提供、人的支援のマッチング機能を備えた“プログラミング教育のハブ”にしようと計画している。
世の中には多くの事例が溢れているが、ひとまず、どの学校でも取り組める「小学校段階のプログラミング学習」のA・Bの好事例を数多く収集して、より分かり易く、使い易いコンテンツとして6つに分類して提供する。
今年7月のポータルサイトのバージョンアップを目指して、事例数を積み上げるのはもちろん、機能の充実も図っていく。
例えば、全国の先進的な自治体や教育委員会、NPO法人などに直接聞き取り調査を行って、プログラミング教育実現のための体制作りや運営方法などの事例を紹介する。学校におけるICT整備環境や優良事例を紹介する。3省やコンソーシアムが主催・共催・後援するイベント情報を提供する。
マッチングのサポートも行う。教員研修を実施したい自治体や教育委員会と研修を提供したい会社や団体。プログラミング活用授業や教材を試してみたい学校と、新製品の実証テストやデータ収集をしたい企業。中川氏をはじめとした民間企業出身者と文部科学省のスタッフや教科調査官が、官民双方の視点からマッチングもコンテンツ検証も行えるから、質に対するレベルも担保できるという。
「未来の学びコンソーシアム」ポータルサイトのコンテンツが充実して、すべての小学校でA・Bを実施する体制が整えば、CDEFへと拡がっていき日本のプログラミング教育の裾野が広がっていく。そうすれば、21世紀を生き抜く生活者としての基本的な素養も身につくし、社会を変革したり産業界を支えていく人材も育っていくことだろう。
最後に中川氏にプロジェクトとして取り組む2年間の意気込みを訊ねると、「2020年にどの小学校の先生も、プログラミング教育に取り組めるようにサポートするために私たちがいるのです。全力でやります」と力強く語ってくれた。
ICT教育ニュースも、「未来の学びコンソーシアム」賛同者の1人として、プログラミング教育推進の一翼を担う決意でいる。*賛同者の申込は、こちらから。
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