2019年8月27日
新学習指導要領が示すSociety5.0時代に向けた高校の英語教育とは
2018年、訪日外国人数が3000万人を越えました。はじめて1000万人を越えたのが2013年ですから、ここ数年の伸びは驚異的なものがあります。そして、今年はラグビーワールドカップ、来年には東京オリンピックを控え、日本はインバウンド(訪日旅行)に湧いています。東京や大阪はもちろん、日本人に知られていない地方の観光地に、突如大量の外国人観光客が押し寄せたりするのは、もはや珍しい光景ではありません。観光立国を目指す政府は、新たな目標として2020年で4000万人、2030年に6000万人を掲げています。
さあ、あなたも私も、外国人とコミュニケーション。英語が話せないと時代に乗り遅れます。英語を習いましょう。英語教室にインターネット、CD教材に英会話アプリ、Skypeで外国人Teacherとマンツーマン。ありとあらゆる英語学習が可能です。しかし、海外に行って帰る度に、誰でも話せるようになる英会話本や英会話学習CDセットを購入したり、スマホのアプリを契約したりしている私からすれば、学校の英語授業で話せるようになっていたらどれほど助かったことか。
学校で英語を学ぶ目的とは
私が初めて生の英語に出合ったのは、中学入学後初めての英語授業でした。ダンディーな杉原昭平先生が教室に入ってきて、15分間ほどずっと英語で何か話していました。後で聞いた日本語の解説では、Soccer(サッカー)の語源について話していたそうで、「“association football”(アソシエーションフットボール)の“association”の「soc(仲間)」に「c」を加え、略すときに習慣的に付け加える人を意味する「er」をつけた造語が“soccer”」だという話でした。私は杉原先生がコーチを務めるサッカー部に入部し、その後の人生で大きな意味をもつ存在となりました。あのとき、英語にも同じくらい興味を持っていたらなあ、と後悔先に立たずですが、英語を学ぶ意味が全く分かっていませんでした。
ところで、学校で英語を学ぶ目的は何でしょうか。20世紀の教育では、英語は入学試験のために学ぶものでした。中学で学ぶのは高校入試のため、高校で学ぶのは大学入試のため、大学で学ぶのは卒業して就職するためです。年間数十時間を、中高大で10年間学んでも、英語で道案内が出来たり、海外旅行で不自由しない人がどれほどいるでしょうか。それが20世紀の日本の英語教育でした。教育現場に「英語は学ぶものではなく、使うもの」という認識がありませんでした。21世紀になって小学校から英語を学ぶようになっても、この考えが変わらなければ、受験のための英語教育を使える英語教育に改革することはできません。
さて、ご存知の通り2020年度から大学入試が変わります。新入試の英語の試験では、「読む」「聞く」「書く」「話す」の4技能が評価されるようになります。「英語4技能」と呼ばれて教育界を騒がせています。大学入試で「英語4技能」を問うのは、高校で学んだ能力を問うためです。大学入試が「英語4技能」になるから高校で学ぶ、のではありません。新しい学習指導要領は、Society5.0を支える第4次産業革命、グローバル化が進展する社会で予測困難な時代を生き抜くために求められる「課題解決能力」や「情報活用能力」を育むことを目指すもの。英語は重要なツールのひとつなのです。
Society5.0を支える第4次産業革命の中心となるのは、「AI(人工知能)」「IoT(モノのインターネット)」「ロボット」「ビッグデータ」だといわれています。例えば、高齢者の交通事故の多発で注目されている、「自動運転」。自動車に取り付けられた数十のセンサー情報やカメラ情報、地図情報やGPS位置情報などから瞬時に判断して車の操作を決めるAI。ハンドル操作やブレーキ操作、動力のパワーや車の挙動を操作するロボット技術。コネクテッドカーと呼ばれ、常にインターネットと接続されて情報をやりとりし、ビッグデータとして情報を集積・分析したり発信したりする技術。自動運転は第4次産業革命の集約そのものですが、社会のあらゆる分野で、こうした変革が起こります。これらを支えているのはコンピュータであり、それを動かすプログラムです。もちろん、プログラムはすべて英語で記述されています。
Society5.0では、社会全体のグローバル化も劇的に進展します。あらゆる産業で海外との連携が必要となり、インターネットなどを通して世界中から素材や部品(デジタルデータや情報を含む)を調達し、世界中に提供・販売するというビジネススモデルが進んでいます。日本の企業でも英語を公用語化したり、トップや役員を外国人が務める企業が増えています。外資系の企業はもちろんですが、日本企業においても英語でコミュニケーションができることが必須条件になりつつあります。特にIT関連の分野では外国人技術者が社員採用されたり派遣雇用されたりして、社内の多国籍化が進んでいます。外国人に求められる日本語能力は日常会話程度でも、日本人社員に求められる英語能力はビジネスレベルだったりします。
21世紀の社会における「英語能力」は、20世紀のようにIT技術者や商社勤務者に求められる専門的な能力ではなく、あらゆる分野・職種に求められる基礎能力なのです。
学習指導要領が示す英語を学ぶ意味
高等学校の学習指導要領の「改訂の趣旨」では、外国語科の改訂について「グローバル化が急速に進展する中で、外国語によるコミュニケーション能力は、これまでのように一部の業種や職種だけではなく、生涯にわたる様々な場面で必要とされることが想定され、その能力の向上が課題となっている。」と、生き抜くための外国語が必要だと指摘しています。
また、「高等学校の授業においては,依然として外国語によるコミュニケーション能力の育成を意識した取組、特に『話すこと』及び『書くこと』などの言語活動が適切に行われていないこと、『やり取り』や『即興性』を意識した言語活動が十分ではないこと、読んだことについて意見を述べ合うなど複数の領域を結び付けた言語活動が適切に行われていないことといった課題がある。」と指摘。
「外国語の目標として、外国語教育の特質に応じた『外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方』を働かせ、外国語による『聞くこと』、『読むこと』、『話すこと』及び『書くこと』の言語活動を通して情報や考えなどを的確に理解したり適切に表現したり伝え合ったりするコミュニケーションを図るために必要な『知識及び技能』、『思考力、判断力、表現力等』、『学びに向かう力、人間性等』の資質・能力を更に育成することを目指して改善を図った。」としています。
英語をどのように学ぶのか
では、英語はどう学ぶのでしょうか。前述した目標の下で、「統合的な言語活動を通して『聞くこと』、『読むこと』、『話すこと[やり取り]』、『話すこと[発表]』、『書くこと』の五つの領域を総合的に扱うことを一層重視する科目と、話すことと書くことによる発信能力の育成を強化する科目をそれぞれ新設し、外国語でコミュニケーションを図る資質・能力を育成するための言語活動を充実させることとした。」としています。
中学校における学習を踏まえた上で、五つの領域別の言語活動及び複数の領域を結び付けた統合的な言語活動を通して、五つの領域を総合的に扱うことを一層重視する必履修科目として「英語コミュニケーションⅠ」、更なる総合的な英語力の向上を図るための選択科目として「英語コミュニケーションⅡ」及び「英語コミュニケーションⅢ」を設定。
また、「話すこと」、「書くこと」を中心とした発信力の強化を図るため、特にスピーチ、プレゼンテーション、ディベート、ディスカッション、まとまりのある文章を書くことなどを扱う選択科目として「論理・表現Ⅰ」、「論理・表現Ⅱ」及び「論理・表現Ⅲ」を設定しました。これは、新しい学習指導要領では、英語でディスカッションして英語でプレゼンテーションできる能力を育成することを目指す、ということです。そしてもちろん、英語に関する各科目においては「生徒が英語に触れる機会を充実するとともに、授業を実際のコミュニケーションの場面とするため、授業は英語で行うことを基本とする。」としています。
英語でおこなわれる「ディスカッション」や「プレゼン」の授業風景を思い浮かべるとワクワクしますが、残念ながら、発信力の強化を図るための「論理・表現」が必修科目となっていないので、Society5.0時代が求める英語能力の育成にチャレンジできる高校生がどれくらいいるのかは学校次第ということになります。新しい学習指導要領が求める「外国語・英語」の授業を実現するためには多くの障壁が立ちはだかっているのでしょうが、学習指導要領が目指す「Society5.0時代に使える英語」を高校生に提供できるよう、教科担当だけでなく管理職の方々にも是非、高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説「外国語編・英語編」を一読して頂きたいものです。そしてもちろん、新しい英語教育にはICTの活用がが欠かせないことにも、注目して欲しいと思います。(編集長:山口時雄)
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