2021年11月17日
教育の特色とICT活用をめぐる対談/桐光学園中高×国立音楽大学附属中高
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文武両道で進学校の桐光学園中学校・高等学校。本物の音楽環境で感性と知性を育む国立音楽大学附属中学校・高等学校。私立で中高一貫校の環境が共通し、それぞれに教育の特色を色濃く有する両校によるオンライン対談。その対話から、コロナ時代、情報化時代を前進する両校の姿と、現在の教育環境を支えるICT活用のヒントが見えてきた。
自己も他者も大事にできる力
松浦:桐光学園中学校・高等学校では「他者との関わりの中で自己を高めていこう」「失敗を恐れず失敗から学んでいこう」「一生続けられる好きなことを見つけよう」の3つの柱をビジョンにしています。生徒にはできるだけ多くの経験を通して、授業以外の活動でも仲間と出会えたり、好きなことを見つけたりしてもらいたい。たとえば、本校の取り組みの1つである「大学訪問授業」は世界的に活躍する著名人や先生方などを招いて聴講できる機会です。登壇する方々は本当に楽しそうに話しをされます。その雰囲気に触れるだけでも、社会にはこんなに楽しいことがあるんだと肌で感じられるだろうと思います。学校で何か興味のきっかけを掴んで、社会へ出た時に経験を上手く活かせたり、対応できる力強さを身につけたりしてもらえたらと思っています。
五十嵐:私は国立音楽大学附属中学校/高等学校で育ち、この学校に生徒として教員として関わって40年以上になります。本校は昔から変わらない校風で自由・自主・自律が教育理念。音楽に関しては、将来、ソロで演奏する機会は限られており、演奏で仕事となると基本的にアンサンブルになります。たとえば、ピアノとバイオリン、大きな編成ではオーケストラなど。御校の「他者との関わりの中で自己を高めていこう」とまさに同じで、独りよがりではアンサンブルは成立しません。他者がどういう気持ちや息づかいで演奏するかを感じながら対話をします。ちょっとした感性でニュアンスや表現は変わるもの。協調性や調和を大切にしながら、自分はどうするかが重要です。他者を思いやり、自分も主張ができることを最も大事にしています。
松浦:表現の仕方は多少違っても考えはとても似ていますね。自分を幸せに、他者も幸せにできる力。今の子どもたちはいろいろな力が必要だと思います。私は日本史が専門で、知っていることを教えたいタイプ。でも最近は、「どうしてだと思う?」とできるだけ問いかけを入れます。考えてもらいたい。昔と今の授業スタイルはその辺りが変わってきたと感じます。
五十嵐:生徒に問いかけて考えを促すのは難しいですよね。私たちは今「音楽の言語化」をキーワードにしています。生徒同士で意見を交わすのに、最初は言葉が出てこなかったのが、続けていると言えるようになってきました。プレゼン能力は演奏する上でとても大切です。音楽を理論的に説明できないと、聞き手の理解度が落ちてしまいます。
松浦: これまでは1つの答えに対してどう解くか。今は、答えのない問いに対してどう答えを探していくか。私たち教員自身が突きつけられています。「何をどのように教えるか」の成功体験を積んだベテラン教員たちにとって容易ではないですが、今回のコロナ禍を見ても明らかに、これからは生徒と教員が従来の枠を越えて「何をどのように学ぶか」の感覚を持つことが大切だろうと思います。
五十嵐:本校でも自分がどう演奏したいのか、どう活動したいのかを大事にして、「考えること」の大切さを伝えています。
試行錯誤から得た気づき
松浦:今こうして五十嵐先生とオンラインで話していますが、2、30年前だったらあり得なかった(笑)。本校では2017年度に教員に端末を用意し始めて、生徒には2018年度からChromebookを導入し、2021年度から中学校・高校の全校生徒が1人1台所有になりました。双方向のオンライン授業をどのように進めていくか教職員で検討を進めていて、ワークショップなどを行っています。どう使うかを問われていると感じています。
五十嵐:本校は遅ればせながら、2021年度から教員に1人1台端末を導入して研修など進めています。2022年度から中学校・高校の新1年生に1人1台iPadを導入する予定です。松浦先生がおっしゃったように「どう使うか」が大事ですね。とにかくやってみようということで、今年9月の緊急事態宣言中に初めて双方向のオンライン授業を2週間行いました。若い教員は難なくできましたが、ある程度ベテランの教員は大変な様子でした。各家庭のネット環境など保護者から相談も寄せられましたし、生徒に対する端末の使い方のルール作りをどこまでしたらいいかも難しいですね。レッスンもオンラインで行いましたが、端末を通すと音質的にあまり良くなくて、生徒はきっとこういう音を出しているだろうという想像でアドバイスをすることもありました。しかし、先述した、音楽を理論的にとらえ、自分の考えを述べさせるのにオンラインはとても良いツールだと思いました。
松浦:本校では端末を初めて導入する際、Chromebookの販売代理店でもあるNTTラーニングシステムズに相談しました。生徒の端末の使い方や使う時間など何かと制限したほうが良いのではないかと学校内で危惧する意見もありましたが、利便性がありながら使う場面や機能を制限することで結局使わなくなってしまうケースや、悪さをしたとしても意味がないと生徒自身に知ってもらうことも大切ではないかといった言葉などを同社からいただき知見を参考にしました。中学生は端末を持たせてまだ1年目なので多少注意が必要かもしれませんが、高校生はもう4年目。教員とお互いの信頼関係もできておりトラブルはほぼありません。たぶん生徒のほうが賢いのだと思います(笑)。
五十嵐:おっしゃるとおり生徒自身に使い方を覚えてもらったり、やってはいけないことを理解してもらったりしないと意味がないですね。
コロナ禍で一層浸透したICT活用
松浦:本校のICT活用は、まず1学年の授業でしっかりと使うことから始めて徐々に活用を広げていきました。最初は慣れることから。はじめは違和感を持った教員もいたと思いますが、Google Workspaceを一度使い始めると「これいいよね」の声が多々出てきて、特にClassroomの便利さを知った教員が多かったようです。「小テスト」もGoogleフォームで実施するようになりました。
2020年のコロナの際にはClassroomで課題の提出や返却、希望する生徒とはオンラインで保護者面談なども行いました。コロナの影響で休校になったことがICTの浸透を決定的にしたように思います。生徒への対応は電話では限界があり、ClassroomやMeetを活用しました。
「スクールアンケート」も紙からGoogleフォームに置き換えたことで時間を大きく節約でき、空いた時間は授業準備など他のことに有効活用できるようになりました。多数ある「講習」も今までは紙ベース。生徒の手書きを教員がパソコンに打ち込む作業ではミスやトラブルもありましたが、それもGoogleフォームにしたことでデータの回収や分類が一気にでき、教員の負担も軽くなっています。
「大学訪問授業」にはZoomも活用。本校独自の「TOKO SDGs」には情報共有やアウトプットにJamboardが役立っています。「TOKO SDGs」は生徒が200名ほど参加していますが、コロナ禍で集まることが難しい中、1人1台端末により活動の継続が可能になりました。お互いどんどん意見を出し合って、その意見からまた自分の考えを発言できて活動がより活発になっています。
私は日本史の授業でこれまでひたすら説明に徹していました。しかしICT導入後、板書用のノートを事前に配信した上で授業をするようにしたことで時間に余裕ができました。その時間を使って、たとえば先日は歴史上の人物の実在の有無について論争されている動画を生徒に見せました。それだけでも生徒の興味関心が変わってくるんですね。ICT活用は時間的にも空間的にも制限を越え、お互いが充実した時間を得られる。新しい形の指導に、本当の意味で生徒のためになっているなと実感しています。
生徒を一個人として尊重する
五十嵐: 前述のとおり、本校では今年9月の緊急事態宣言中に初めて双方向のオンライン授業を実施しました。次に何かあった際にはひとまず活用できそうだといった段階です。
桐光学園さんが行っている「スクールアンケート」は本校でも1時間ほど要しているため、ICTに置き換えることで空いた時間を他の学びに使えるなと勉強になりました。ICTの活用法はまだまだ無限大にあるのでしょう。松浦先生がおっしゃったように生徒たちのほうが賢いかもしれません。きっと生徒たちに教えてもらうこともしながら発展するのだろうなと、そんな気がしています。
私は、生徒には基本的に一人の人間として接しようといつも心がけています。一個人として尊重すると、生徒も教員を尊重してくれるようになる。その関係性ができると生徒は相談に来てくれますし、こちらも適切な指導やアドバイスができます。
また、生徒たちには自律してほしいと願っています。その指針の概念の1つが“アンサンブル”で、他者との調和と自身の役割を認識して行動に移す力を育成したい。ラグビーワールドカップで言われた“ワンチーム”のように、チームで何か成し遂げる力が求められているように思います。本校の特長は音楽のマンツーマン指導が週1回あること。生徒は我々大人と関わる時間の中で音楽はもちろんマナーや作法、礼儀なども体得しています。一方で、生徒は大人数のクラスでの姿とレッスンでの姿が異なることがあります。クラスではしゃいだ一面があっても、レッスンでは真面目だといったように、担任の教員とレッスンの教員とでは見えている生徒の姿が全く違っていたりします。生徒を多角的に理解して個性をさらに伸ばしてあげるためにも、そうした情報を教員同士が上手く共有できるシステムをICTで作れたら、生徒と教員の信頼関係も今よりさらに増すのではないかと考えています。
教育の根幹を共有して
松浦:同じ一人の人間として正面から向き合う。五十嵐先生の言葉に学ばせていただくことが多いです。御校は既にオンライン授業に挑戦されていて、その実践が自信に繋がっている。ICT活用についてぜひまたお話を聞かせていただきたいなと思いました。
五十嵐:私も大変共感しました。本校は音楽が母体ですが、音楽をする意味は何なのかといつも問われている気がしていました。音楽も1つのツールとしてある程度極めていく中で、生徒には社会に対応する力を身につけてもらいたいと望んでいます。松浦先生と同じ方向を目指していることが確認できて嬉しかったです。ありがとうございました。
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