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2022年1月24日

情報活用能力を育む授業とデジタル・情報活用検定「Pプラス ジュニア」/鹿児島大教育学部附属小学校

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鹿児島大学教育学部附属小学校では、GIGAスクール構想に伴い2021年度より、児童1人に1台ずつのタブレット端末を配布、クラウドツールと併せて活用している。児童は、家庭学習では自分なりに考えを深め、授業ではほかの児童の多様な考えに触れることで、連続性・発展性のある学びに繋げている。学校と家庭との境目のない学習によってどのような力を育もうとしているのか、そして、ICTの活用によって、どのような授業のあり方を目指しているのか。同校の取り組みをもとに、これからの時代を生きる子どもたちに必要な「情報活用能力」について考える。

家庭学習と授業を境目なく接続した学び

児童が送信した家庭学習用の問題の答え

見学したのは、三宅倖平教諭が担当する6年生の算数。立方体の体積の求め方について学ぶ授業だ。児童は、前日、授業支援ツールを通じて三宅教諭から送られてきた家庭学習用の問題に取り組み、解き方を書き込んだ解答を返信した上で授業に臨む。三宅教諭は、授業の前に児童の答えから理解度や疑問点を把握し、当日の授業を進めていく。

タブレット端末を手に、自分が話をしたい相手に声をかける

授業は家庭学習用の問題の確認からスタートした。タブレット端末に投稿された全員の解き方を見た児童は、たどり着いた答えは同じでも、求め方が人によって異なることに気がつく。なぜこんな解き方が可能なのだろうか? この解き方は正しいのだろうか? タブレット端末を見て、自分との考えと異なる考えをもった相手を探し、話し合いを始める。新たな解き方が見つかり、クラス全員で確認するたびに、児童から歓声と「ほかにも解き方がある!」と声が上がる。1つの問題をみんなで考えることでたくさんの解き方が浮かび上がり、その1つひとつについて「なぜこのような式になったのだろうか」と考えた。

わかった気にならないように「ズレ」を感じさせる

家庭学習と授業を境目なく接続した学びの目的について、三宅教諭は「児童が個別に考えたことを土台に、授業では最も大切なことを話し合いの中で焦点化させるため」と説明する。

「話し合いをさせる際に私が留意しているのは、児童に、自分が考えと他者の考えとの『ズレ』に気づかせることです。同じ立方体の体積の求め方でも、自分は気がつかなかった解き方がある。この考えの『ズレ』を確認しやすくするために、I C Tを使った家庭学習に取り組ませています」

家庭学習では自分1人で考え、授業はみんなとの話し合いを中心にした時間とすることで「ズレ」を見つけやすくする。このような授業の流れに至るまでには試行錯誤があったと三宅教諭は振り返る。

三宅教諭は、家庭の学びと学校の学びの境目をなくした状態を「学びのシームレス化」と捉えている

「以前は、タブレット端末を使って家庭学習を解く際に、ずっと児童同士の通信を許可していました。わからないときに友達にすぐに相談できるというメリットはありましたが、一方、同じような解き方でみんなが納得してしまう状態になったのです。ある児童は『わからない時にすぐにほかの人の解き方を参考にできるのはいいけれど、わかった気になって、頭の中でさっと流れちゃう感じがしてしまう』と言いました。そこで、家庭学習に関しては,児童間で自由に通信を行うことを基本としながらも通信機能を使うのかどうかについては,子どもが判断できるようにするなどの工夫を行いました。

ICTを活用して、磨き合い、高め合う価値に気づかせる

自分の考えと「ずれ」のある相手と話し合うことで、自分の考えはさらに深まる

では、三宅教諭はなぜ「ズレ」の発見を重視するのか。それは学校教育目標「夢や目標をもち、共にみがき高め合う子どもの育成」を授業の中で実現するためだ。

「あえて乱暴な言い方をすると、Society5.0社会では立方体の体積を求められるようになったかどうかによって、人の生き方が大きく変わることはないでしょう。なぜなら、立体の体積を素早く求めることは機械がやってくれ、人が行うことがほとんどなくなると考えるからです。しかし、自分の考えを相手に分かりやすく説明し、他者の考えを聞いたり,取り入れたりしながら,さらに新しい考えを創り出す力が身についているかによって、人の生き方は大きく変わると考えます。なぜなら、こうした営みは、機械に不得意なことであり、機械と共存していく人間にますます求められる力だと考えるからです。学校教育目標にある『共にみがき高め合う』を実現するために、各教科等の授業で何ができるのかを深く考えることが私たち教師には求められていると思います」

考えの「ズレ」に注目し、磨き合い、高め合う学びは、ICTの活用によって促進が可能だ。児童は、タブレット端末を通してクラスの33人の考え方がすぐに確認でき、自分が話を聞くべき相手を判断することができる。33人の解答は、自信がある場合は黄色、自信がない場合は白色と児童自ら色分けしており、他者の意見を聞く中で自分の解答に自信が持てた場合は色を変更することもできる。

ICT環境の整備が急速に進み、「ICTの活用のしかた」に教師の関心が向けられる中、三宅教諭の学校では、ICT活用の目的は「各教科等で育む資質・能力を育成したり、情報活用能力を育成したりするための学習活動を一層充実させること」であり、ICTは授業改善のための一手段であることを校内で再確認した。

「授業で児童に、『どうしてこの解答になったの?』などと尋ねると、『○○君の考えを聞いたから』と答えることがよくあります。そんな時は私は、『そうか! ○○君の考えを聞いたから考えが深まったんだね』と言葉にして、ほかの人の考えを聞くことの価値を子どもが確認できるような関りを意識しています。学び合うことの価値を実感すれば、児童たちの話し合いはますます活性化しますし、その時に、学び合いをスムーズに進められるICTの価値を子ども自身が実感すると考えます。」

情報活用能力は、現代を納得しながら生きるための力

新しい学習指導要領では、情報活用能力(情報モラルを含む)は、言語能力、問題発見・解決能力などと並び、学習の基盤となる資質・能力として位置づけられている。三宅教諭は、情報活用能力を「多様な人間がともに納得しながら生きていく為に有効に働く能力」だと考える。これからの社会はますます予測困難な社会になっていくが、それでも社会をつくるのは人間であることは変わらない。多様な人間がともに納得しながらよりよい社会をつくる当事者として、これからの児童・生徒にはさまざまな人・場所から様々な情報を集め、分析し、自分の考えを形成し、周囲に伝えていく力が求められるからだ。

「そうした力を育む実体験は、小学生も可能です。例えば、遠足に行って何をして遊ぶのかを決める時、一部の子どもの声だけで決めるのではなく、タブレット端末でチャットを通して全員に意見を聞くことで、多くの人の考えを取り入れ,みんなが納得した遊びを選択できるようになります。情報活用能力を発揮することで、自他ともに納得しながらよりよい学校・学級になることを児童が実感できる場面はいくつもあると思います」

各学級やクラブ活動単位でチャットを立ち上げ、児童同士がやりとりをするなど、児童の要望をくみ取りながら様々な場面でのICT利用を進める同校は、21年度10月、「情報活用力」を測定するデジタル・情報活用検定「Pプラス ジュニア」を初めて受検した。「Pプラス ジュニア」は、コンピューティング(プログラミング)、情報モラル・セキュリティ、情報デザイン(情報活用)の3領域の到達レベルを診断する。同校は、コンピューティング領域において、特に「手順の組み立て」「条件分岐」といった分野の力が全国平均と比べて秀でていることが明らかになった。同校では、月に数回、朝の活動「ロジックタイム」を設定し、全学年の児童がパズルやタブレット端末を使いながらプログラミングを体験する機会をつくってきたが、「Pプラス ジュニア」の受検は、そうした活動の成果を検証する初めての機会にもなったと三宅教諭は語る。
「取り組みの結果が可視化されることで、根拠を持って指導できるようになり、新しい取り組みの提案・検討もしやすくなります。ICTをこれから推進していこうとする学校において、『Pプラス ジュニア』のような検定は、ICT推進の指針となると思います」

児童用結果帳票は、各領域受検ごとに確認できる。領域ごとの到達度は金銀銅のメダル方式で表示。さらに、各領域内の項目別の成績を棒グラフで示し、どこができなかったかひと目でわかるようになっており、児童自身で結果をもとに振り返ることができる。

学年、クラス別の結果、各児童の結果について、領域別、領域内の出題項目別の評価を表示。学校、学年、クラス別等の全体の施策・指導による成果確認に活用できる。また、児童別の成績の詳細がわかるため、児童について個別にできたところ・できなかったところについて細かなフィードバックに活用可能だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

情報活用能力を発揮することが学校の学びを変える

「Pプラス ジュニア」で児童が受検した問題と結果を見たことを契機に、三宅教諭は「今後は、情報モラルの指導について改善していきたいと思うようになった」と振り返る。
「例えば、これまでは『インターネット上で知り合った人とは、会ってはだめ』というのは当たり前の指導でした。しかし、これからの社会においては,実際に会うことで、実は世界が大きく開かれるかもしれません。リスクだけに注目して可能性に目を向けさせない指導は、子どもたちの可能性を広げる教育とは言えないのではないでしょうか。これからは、リスクを教え、『もしも、インターネットで知り合った人と初めて会うときは、その人の家で会う?それとも駅で会う?』などと尋ね,『人がいっぱいいるところの方が危険が少ないね』などと、これからの社会のあり方を考えながら、取るべき行動を判断させる情報モラル教育が必要になってくるのではないでしょうか。そういった今後の指導の示唆を『Pプラス ジュニア』から得たように思います」

情報活用能力を育成することで、児童生徒はICTを、学びための、そして自他ともに納得しながら生きていくためのツールとして使うことができるようになる。そして、情報活用能力が育まれてきた児童生徒には、ICTの活用の主体をどんどん委ねていきたいと三宅教諭は語る。

三宅倖平教諭

「本校の児童は、ICTをどんな場面で使いたいか、私たち教師に積極的に提案してきます。それは、ICTに限らず、日々の学校生活で、すべての教師が子どもたちの言葉に耳を傾け、こちらの想定を超える提案にも『ダメ!』と頭ごなしに否定するのではなく、まず,『どうしてそうしたいと思ったの』と考えを受け止めているからだと考えます。だから、ICTの活用においても、児童は自分たちの希望を臆せず教師に伝えることができるのです」

将来、もっとICTの活用が進んだとき、「どこで学ぶのか」「何を学ぶのか」を子どもたちが話し合い、実行していくような学校になるのではないかと三宅教諭は考える。
「今年度から、毎週木曜日の『総合的な学習の時間』の探究クラブという時間では、児童が話し合って『水族館に魚を調べに行こう』『鹿児島大学の先生にお話を聞きに行こう』などと、自分たちに必要な学びを考え、取り組んでいます。I C Tを活用することで児童の学びは場所や時間を超えていきますし、そうした学びの実現はもう目の前に迫っているのではないでしょうか」

関連URL

「Pプラス ジュニア」

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