2022年8月29日
新価値を創造する力クリエイティブ・デジタルリテラシーとは/Adobe Education Forum 2022 未来をつくる教育のDX
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8月2日〜4日三夜連続で、Adobe Education Forum 2022が開催された。この先50年以上、未来の社会を生きるのは現在学校に通っている児童・生徒・学生たちの世代。課題を解決し、生き生きと活躍するための鍵となるのは「クリエイティブ・デジタルリテラシー」。
DAY2では学校現場でどのようなデジタルツールを駆使し、クリエイティブを形にしているのか、東京都内の高等学校3校の教諭らが事例紹介を行った。
自立を促す創作活動の実践事例
工学院大学附属中学校・高等学校 中川 千穂教諭
工学院大学附属中学校・高等学校 英語科 中川千穂教諭は、自立した学習者の育成を目標とし英語教育と人材育成に取り組む。中川教諭の英語授業はPBL(Project Based Learning)を取り入れる。暗記やドリル、講義中心ではなく生徒が考え自ら活動する授業だ。その取り組みは、6年ほど前に同校で考案された「工学院の思考コード」がベースにある。ブルームのタキソノミーという学習の分類体系とヴィゴツキーの「発達の最近接領域」を組み合わせたものだと中川教諭は説明する。
タキソノミーは上位から「創造する(Create)」「評価する(Evaluate)」「分析する(Analyze)」「応用する(Apply)」「理解する(Understand)」「記憶する(Remember)」といった分類体系になる。中川教諭は、その頂点にある「創造する」を重視。「創造」をPBLの課題にすればその下位にある調査や知識といった部分は生徒らが自ら実施していくようになると語る。1人ではできなくとも協力したらできる、実際に卒業して社会に出た時は、1人ではなく他者と共に働くということを重視していると映像教育の背景を語る。
◆より思考するプロジェクト型共同学習へ「映像教育」の始まり
6年前から始まった映像教育のきっかけは中学校の広島への研修旅行だ。調べ学習は、インターネットでできるが、ただつぎはぎに合わせてレポートを作るだけでなく、もっと平和について考えてほしかった。皆で取り組むプロジェクトにしたいと考え、チームで「平和についての映像」を制作することを課題とし、平和という形のないものを映像で表すために調査し考えまとめていくことになった。この取り組みの結果、 その後の映像制作の成果も含め、様々な国際的な映像祭での入賞へとつながっていった。
◆苦悩を経て、生徒は実際に非常に多くを学び成長した
もちろん「誰が仕事をしない」などチームで揉めごとが起こることも、「部屋に閉じこもってずっと映像制作をしている。もっと本当は英国数など教科の勉強をしてほしいのに」といった保護者からの要望が届くこともあった。
しかし生徒は実際には非常に多くのことを学んでいた。もちろん知識、技術という面でも多くを得たが、それだけでなく著作権、取材交渉、論理的な映像の組み立て、見る側の気持ちを慮ること、撮影して編集するまでの様々な日程などを自分たちで考えた。生徒らは悩みながらも友達と話し合って世の中の問題を映像で解決しようとした。テクノロジーの使用方法で悩んでも、多くのことは自分達で調べ、専門家に教えを請い、解決するようにもなっていった。
◆指導者の役割は創造機会や刺激を与えること、「生きる力」生涯学習者の礎を築くこと
中川教諭は、「生徒たちに創造機会を与えることが教員の大事な役目。生徒たちが、秘めている表現したいこと、将来社会に貢献したいこと、追求したいことを刺激するような役割でありたい」と語る。映像制作活動が社会で認められ、賞を取った生徒たちはその後、学習の成績も非常に伸びた。その背景を、生徒が自分で時間や感情をコントロールする術、人の力を借りる術、困難に出会った時に克服する術を上手く学んだからだろうと説明する。
まさにそれは「生きる力」で、将来の生涯学習者の礎だ。社会は急速に変化しており、卒業して勉強は終わりではなく、その後も人は一生学び続けねばならない。映像制作を通じて変化に対応できる基礎を築くことができたと振り返った。教諭自身も教員として変化する社会に対応し柔軟で学び続ける人でありたい、と締めくくった。
生徒たちの可能性を広げるクリエイティブな学び
千代田区立九段中等教育学校 須藤 祥代教諭
千代田区立九段中等教育学校 情報科の須藤 祥代教諭からは、高校1年「情報Ⅰ」の情報デザイン単元で行ったPBLの3つの授業「Webデザイン」「CM制作」「リーフレット」が紹介された。
◆Webデザイン
Webデザインの授業は8〜10時間で実施。ユーザー分析、企画書作成、Adobe XD、Dreamweaverなどのソフトウェアの使い方の軽いレクチャー、その後役割に応じて個々に制作をはじめる。コミュニケーションをとりながら班でWebサイトを完成し、制作物はクラス全体で相互評価という流れだ。コンテンツ制作ではデザイン思考を取り入れ、レビュー・統合テストを行い、班の中でもフィードバックをかける。毎回の授業で進捗状況の共有と振り返りも行った。
ライター、デザイナー、コーダー、プロジェクトマネージャーといった役割に分けることで主体的かつ対話的な学びを促した。オンラインで共有しながらタスクマネジメントを実施しスムーズにプロジェクトを進め、統合テストでは企画書との一致性を見ながらバグなどの問題点をリストアップし修正して最終的に完成させた。
◆CM制作
2つ目の授業事例は6時間で行ったCM制作だ。
1時間目にPhotoshopやPremiere Proの軽いレクチャー。後は自分が実現したい機能を各自で調べて作り始めた。AuditionやAfter Effectsなども生徒がインターネットで使い方を調べながら活用する。ユーザー分析を行ってテーマを決める。効率よく行うためにグループ全員で絵コンテを作り、その後CM制作に入った。
素材収集は、1人1台PCを活用して撮影や録音を行い、素材加工や動画の編集は、スペックの高いパソコン室の端末を活用するなど、機器やアプリケーションの使い分けを生徒自身で考え行っていた。作品は学校の公式のCMとして総務部が採用し外部からも好評だ。
◆リーフレット
3つ目の授業事例は4時間で行ったリーフレット制作だ。
リーフレットの制作では、XDを活用し共同編集を行った。配色設計をしてから、個々のページ割り振りや役割分担を相談し、進め方も含め班で相談をしながら完成した。
広報を担う総務部からはリーフレットが生徒目線で作られていること、授業の成果が受験生やその保護者に伝わることなど感謝されている。
◆学び方を学ぶ姿勢とクリエイティビティを発揮できる環境で広がる生徒の可能性
生徒は学校だけでなく自宅でも主体的にクリエイティブに学んでいる。背景に1人1台貸与のSurface Pro 7 LTモデルがある。かつてSurface Proは共用端末として配備され、貸し出し頻度が高くデバイスが不足していた 。現在はCreative Cloud 教育機関向け 共有デバイスライセンスがインストールされており動画制作にも活用できる。中高の生徒全員に導入できたことが契機となり時間や場所を超えた学びの連続性が生まれ主体的に学習に取り組む機会が増え、生徒らは主体的に、ホームルームや部活動でも創造活動をしている。Acrobatはソフトウェアを意識せずに使いやすいという理由で受験勉強にも活用されている。教員も議事録のメモ、オンライン授業や講演会の動画データ制作、リスニングテストの音声調整などアドビ製品の利用が多岐にわたる。
学び方を学ぶ姿勢を身につけ、クリエイティビティを発揮できる環境があれば、使い方を全て教えるよりも活用が拡大する。そして生徒の可能性が広がっていくように感じると須藤教諭は語る。
創造的な学びのためにPC教室と、1人1台端末の活用について
東京都立三鷹中等教育学校 能城 茂雄教諭
東京都立三鷹中等教育学校 能城 茂雄教諭からは1人1台端末とコンピュータ教室の活用が紹介された。
◆1人1台端末で変化するコンピュータ教室の利用形態
同校はGIGAスクールに 先駆け、2017年に東京都教育委員会からICTパイロット指定校の認定を受け生徒1人1台PCのモデル校として実証実験に参加。その後2年間、Society5.0に向けた学習方法研究校指定、現在はTOKYOデジタルリーディングハイスクール事業(TOKYO教育DX推進校)として、生徒と全教職員が1人1台PCを活用した学びの効果を検証している。中高一貫校ということで、2つのコンピュータ教室もある。以前は、コンピュータ教室は予約の取り合いという状況だった。その後1人1台PCの導入で、コンピュータ教室でなくてもできることはコンピュータ教室以外で、逆にコンピュータ教室でなければならないことはコンピュータ教室でというように生徒たちの利用形態が変化した。
◆1人1台PCの問題点と再びコンピュータ教室のメリットに着目した生徒たち
当初、中高校生に貸与するPCには堅牢性が重視された。しかしスペックが十分でないという点で、日常的に使う道具のはずなのに快適ではないという問題が見えてきた。生徒が社会に出た時に、その学びの経験は生きるのかと大きな疑問も生まれた。
そして再びコンピュータ教室のメリットに生徒たちが気付くことになった。貸与PCは、文房具としてクリエイティブな活動を行うには非力だ。しかしコンピュータ教室にあるデスクトップPCは、CPU、メモリ、ストレージ、ディスプレイ、ネットワーク全てが高性能で生徒らにとってメリットが大きい。
◆新学習指導要領から実習環境整備の重要性を考える
世の中では「情報Ⅰ」が大学入学共通テストに出るということで、新しい学びが注目されている。全ての高校生がプログラミングを学ぶことになり学習指導要領にも「APIを使う」「サーバーのLibraryを使う」といった様々な点が列挙された。これらを学習するのに、快適とは言えないタブレットPCで本当によいのか。GIGAスクール構想からの経験を踏まえ、実習環境の整備を考えた。
◆メディアラボの取り組み
「このような活動に、やはりクリエイティブな環境が必要なのではないか」と理想となるモデルを考えた。アドビ、インテルが能城教諭の考えに賛同し共同研究という形でメディアラボの開設が実現する。具体的には動画制作などのクリエイティブな活動を、高校生が自ら創造的主体的に行える環境を用意した。メディアラボが設置されてしばらく経つが、当時の最新CPU、潤沢なメモリ、4Kモニター、10Gのネットワークは2022年現在も現役のコンピュータ教室と考えて十分に最前線で、プロのクリエイターも使えるものだ。
環境だけでなく、アドビエバンジェリストによる集中講座も実施。コロナ禍にも関わらず、多くの生徒がプロクリエイターによる講座に非常に満足を得た。講座に出られなかった生徒教員らからも、「メディアラボを使って自分はこんなことがしてみたい」という多くの声が届いた。部活紹介のPV制作、インターネット上のバーチャル文化祭など、自分たちがやりたいことをCreative Cloudで表現しようという気持ちが生徒らに生まれた。
個別最適な学びのためには、1人1台のPCが必要だ。その上で、中高校生がクリエイティブな活動をする時には、コンピュータ室でなければ実現できないクリエイティブな環境を生徒に自由に使わせることで、生徒は様々な活動を自ら行うようになるのだ。
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