2019年3月20日
ICTで深化する“授業改善” 体育・技術・プログラミング/熊本市プロジェクト
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熊本市は、公立小中学校の教育ICT導入レベルが日本の政令指定都市20市中19番目という非常に低い水準にあった。そこで昨年秋、市長、教育委員会、学校などが一体となって教育のICT化を推進する一大プロジェクトをスタートした。
多くの携帯電話が採用しているLTE通信のタブレット端末を、3年間で2万3460台市内の小中学校に導入して、“授業改善” ~“教育改革”を目指すというもの。ICTが導入されるから始めるのではなく、熊本市の教育現場には“授業改善”に取り組んできた歴史と経験がある。そこに、ICTという新たなツールが加わったことで“授業改善”は一気に加速されることになった。タブレット導入から僅か半年、“授業改善”の歴史+ICTツールで始まった新次元の深化する“授業改善”の現場を訪ねてみた。
白山小学校 タブレットの動画撮影を活用した体育
「今日は、外でタブレットを使った授業やっていますよ」と、白山小学校の江口研一校長に案内されて校庭に出て驚いた。子どもたちが、音楽を流して踊っているのだ。担任の西 沙織先生の手にはスマートフォン、校庭には小さなブルートゥース・スピーカーが置かれている。その踊りも、遊び半分などではなくしっかりと揃っている。体をほぐすための準備運動のひとつとして取り入れているということだが、子どもたちの溢れる笑顔が体育の時間を楽しく始める心の準備運動のように感じられた。
ダンス~準備体操を終わっていよいよ本時のテーマ「Tag Rugby」がスタート。はじめにチームでボードを使って作戦を練ってからいよいよ対戦。5人チームの一人がタブレットで撮影する係を担う。
ホイッスルとともにゲーム開始。攻守交代して対戦。結果が出たところで、タブレットの動画で作戦通りに出来たかどうかを確認する。1回目が終わったところで先生から「パスが1回つかえるよ、使ったほうが効果的だよ」とアドバイス。パスを使う前提で作成会議、そして再度対戦~タブレットの動画で確認、という流れ。
白山小学校は、2017年度18年度熊本市教育委員会「教育の情報化 ICT活用」指定校、同じく2018年度「ICT活用」研究モデル校として、体育、保健、食育の3領域を中心に「進んで健康づくりに取り組む白山っ子の育成」をテーマに、授業作りと日常の取り組みにおけるICTの効果的な活用について研究を進めてきた。
ICT活用の視点としては3点を設定した。
1)一人一人の特性や実態に応じた手立てとしての活用
2)子どもの関心・意欲を高め、主体的・対話的な学びにするための手立てとしての活用
3)学びを定着させ、実践化につなげるための手立てとしての活用
体育を担当した西先生は、跳び箱やマット運動の授業においてタブレットの動画撮影を活用して取り組んできた。手本を見せてやってみる。
うまく出来たものと出来なかったものを比べてその違いを考えたり見つけたり話合ったりする。その場で撮ってその場ですぐ確認するから、子どもたちに直接理解を促すことが出来る。出来なかったことが出来るようになる感動も体験させることができる。
また、LTEで常にネット接続出来るので、体育館でも校庭でも、撮影した動画をサーバーに記録して後で視聴も出来る。動画を参考に、子どもたちの伸びや変化をチェックするのにも有効だという。
体育の授業でのタブレット活用について西先生は「体育でもタブレットを使うことで“主体的・対話的な学び”を生み出すことができるのではと感じています。しかし、体育では“体を動かす”というのもとても大切なことなので、思考と運動のバランスも考えながら利用する必要があります」と、体育に適した使い方が必要だと語った。
西先生は体育以外の活用として、「総合での調べ物やLTEでどこでも使えることを活かした野外活動での利用、算数の立体の展開図、ロイロノートやMetaMoJiを使った授業もいいですね。Googleアースは社会で使ったら、きっと子どもたちもビックリすると思います。見たことない角度から見られますからね。とにかくICTを活用するとこれまで見えなかったものが可視化できるということ、学びの場作りが出来るというのが特徴だと思います。いろいろ使ってみたいです」と、今後の可能性を示してくれた。
北部中学校 LTEタブレットで野外研究も修学旅行も学びが深化
北部中学校を訪問して廊下を歩いていると、脇にタブレットを抱えた何人もの生徒と遭遇した。この学校は1人1台ではなかったはずだけれど、と感じながら校長室に入る。
満面の笑みで迎えてくれた上野正直校長は、開口一番「まだまだ使い始めたばかりですが、ガンガン使っていますよ。先生方にも高いスキルを目指して勉強してもらっています。いずれ、熊本市のICT化の役に立てるよう、北部中の先生たちをファシリテーターにしようと考えています」と積極的にICT活用を進める考えを示した。
続けて「昨日もタブレット利用でトラブルがありました。昔で言えば、授業中に紙を丸めて飛ばして手紙を交換するようなものです。それを、ロイロノートを使ってやるんです。凄いですよね。私の考えは、とにかくICTを自由にオープンに使ってリテラシーを高めろというものです。生徒たちが自分たち自身の考えでアプリを選んだり使ったりして、失敗しながらでいいから学んでいって欲しいです。現場の先生方は大変ですが」と語った。
北部中学での授業取材は、甲斐 任(かい あたる)先生の2年生の技術。ロイロノートを使って「サクラソウを観察し、栽培レポートを制作しよう!」。はじめに甲斐先生から、班ごとに育てているサクラソウの現状分析。なぜ生育にバラツキがあるのかをグループで考える。
中庭に出ると各班のプランターが並べられていた。生徒たちは早速液体肥料を作って散布し、生育状況を観察して記録する。写真を撮影して書き込んだり、動画を撮影してロイロノートに取り込んだり、野外でもLTEで常時接続されているので、素材のやり取りも簡単にできる。
ちなみに、使用している種は生徒が数年に亘って掛け合わせたりしてきたもので、“白”はピンクに比べて育ちにくい特徴があるなど、蓄積データの解析から分かってきた。
北部中学では、小中連携モデル校としての研究を進める中でICTの活用に取り組んできた。昨年12月の修学旅行では、LTEタブレットが大活躍だったという。事前学習では、調べ学習から編集~まとめまでタブレットで行ったため、毎年厚く重たいと不評だった“修学旅行のしおり”を無くすことが出来た。
京都での班別の自主研究では、Googleマップで場所や経路を検索したり、GPSで居場所を確認したり、今日の学びをその日にロイロノートにまとめられるので、例年だと帰ってから何週間もかかった研究報告書がすぐに提出されたという。LTEタブレットの活用で、たしかに学びは深化している。
最後に甲斐先生は、これからICTに取り組む先生たちへのメッセージとして「不安があると思います。でも使ってみることです。授業の中で写真一枚でもいい、使ってみる。生徒たちが自分で考え、教え合い学び合いが深まり、協働して学ぶ姿にすぐ出会えるようになります」と語ってくれた。
桜木小学校 遠回りだが最短かもしれないプログラミング
桜木小学校の古閑敏之先生は、両手に模造紙や教材を抱えながら、取材班を4年2組の教室に案内してくれた。授業開始の挨拶の後、古閑先生は黒板に模造紙を貼る。そこには「moveForward()」と「turnLeft()」いくつも並んでいる。「これはなんて書いてあるのかな」と先生、すると子どもたちは「ムーブ・フォワード」、「ターン・レフト」と大合唱。
本時は、この「moveForward」と「turnLeft()」という2つの命令(コマンド)だけを組み合わせてコース上の2地点を通過する「最短の道順を考えよう」というもの。いわゆる、PCを使わない、アンプラグド・プログラミングだ。
「では、みんなMetaMoJiを開いて」と先生の指示。いよいよプログラミングのスタート。1人1台のタブレットにMetaMoJiで作成されたコースの図と黒板に貼られたのと同じコマンドを並べる表が表示される。子どもたちは表の中に順番に、「moveForward()」「turnLeft()」を並べて、自分なりの「最短の道順」のプログラミングを作成する。
出来たところで、自分は命令を読み上げ、サクラボット(学校のシンボルキャラクター)の操作をパートナーにやってもらい正しいルートを通るかどうかを確認する。
そして古閑先生から「ではアプリを開いて」という指示が出される。
アプリを開いてコマンド表示を見ると、そこには「moveForward」が表示されている。はじめに、アンプラグドでコマンドの意味を理解してから、プログラミングアプリに挑戦する。なるほど、こういうアプローチもあるのかと感心させられる授業だった。
桜木小学校は、2017年度から熊本市の教育の情報化研究指定校、ICT活用モデル校として「ICTを活用して学力を伸ばす」取組を続けてきた。子どもたちに付けたい「聞く力、伝える力、読解力」、これらの力は、「伝え合い、学び合う」授業を積み重ねていくことで伸びていくものと思われ、目の前にいる子どもたちをみとり、どのような手立てが必要なのかを研究してきたという。
こうした、ICTを活用した“授業改善”について古閑先生は、「視覚的に分かり易い教材が提示できるので、導入学習の意欲を高めたり、振り返りで理解を深めたりすることに効果が大きいです。アナログでは大変なことが簡単にでき、時間の短縮になるため、子どもたちが考える時間を確保することが出来ます」と語り、先生が研究テーマとしてきた「デジタル鑑賞ツール」の見本として、バベルの塔の教材を見せてくれた。それはまさに、デジタルだからこそ作成できるコンテンツとなっていた。
今回熊本市が導入したLTE方式のタブレットについて古閑先生は「LTEでは通信が途切れたり、大人数で使って回線が滞るということもありません。充電さえ気をつけておけばどこでも持ち運べるので、体育や家庭科、修学旅行でも活用しています。教師、子ども、みんなが常につながっている状態で、これが当たり前になると、快適さに気付かなくなってしまいます」と、利用が日常化していると語ってくれた。
今回取材に訪れた学校は、いずれも研究校、モデル校として先行してICT活用に取り組んでいる学校だが、僅か6カ月間程度でそれぞれ成果を挙げることが出来た。それは、各校、各教員の積極的な挑戦によるものだが、その基盤としては熊本市が永年に亘って行ってきたきた“授業改善”への取組を忘れることはできない。ICTを活用した“授業改善”のモデルケースとしてモデル校から市全体へ、そして全国へ拡大していくことが期待されている。
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