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2026年9月14日

「こんな教材があったら」を118個に 見る。動かす。考える。 授業の失敗から生まれた理科シミュレーション教材「理科Sim」

【寄稿】吉田彰歳(中学理科教師)

北海道北見市立常呂中学校で理科を教えている吉田彰歳(よしだあきとし)と申します。

「説明したのに、伝わっていない。」理科の授業をしていると、そんな感覚が残ることがあります。凸レンズの学習も、その一つでした。黒板に光の道筋を描き、教科書の図を使って説明する。それでも、生徒の表情を見ると、物体を動かしたときの像の変化を、一続きのものとして捉え切れていないことがありました。

授業後に考えたのは、「もっと説明すること」ではありませんでした。まず見る。自分で動かす。そして、変化の理由を考える。そんな学び方ができれば、理解のしかたも変わるのではないかと思ったのです。

「見る。動かす。考える。」この三つを、生徒自身の手に渡せる教材がほしい。
この思いが、理科Simをつくる出発点になりました。

図1 凸レンズのシミュレーション。授業で「うまく伝わらなかった」経験が、教材づくりの出発点になりました。

同じ「伝わりにくさ」は、ほかの単元にもあります。月の満ち欠けでは、宇宙から見た位置関係と地球から見える月の形が結び付かない。呼吸では、肺そのものが筋肉で膨らんだり縮んだりしているように捉えてしまう。静止画では捉えにくい変化を、まず見えるようにする。次に自分で動かす。そこから理由を考える。

そうした授業の「困った」を、一つずつ教材に変えていきました。気付けば、理科Simは118個になりました。現在、光、音、力、化学、気象、天体、生物など、中学校理科を中心に公開しています。すべてWebブラウザ上で動き、無料で利用できます。

図2 理科Simのトップ画面。分野やキーワードから、118個のシミュレーションを選んで利用できます。

「見る」から、「動かす・考える」へ

理科Simで大切にしているのは、ただ「見る」だけで終わらせないことです。見る。動かす。考える。この三つがつながることで、生徒自身の学びが始まると考えています。

凸レンズなら、まず像のでき方を見る。次に物体を近づけたり遠ざけたりして、自分で動かす。すると、像の位置、大きさ、向きが変わります。「なぜこう変わるのだろう」と考える材料が、その場で生まれます。

月の満ち欠けでは、宇宙から見た位置関係と地球から見える形を同時に見ます。月を自分で動かしながら、「半月になる場所はどこか」「満月のときはどう並ぶのか」を考えます。見ることと動かすことが、考えることにつながります。

図3 月の満ち欠けのシミュレーション。位置関係を動かしながら、地球から見える月の形を確かめられます。

肺のシミュレーションでは、横隔膜を上下させると、胸腔の大きさと肺の膨らみ方が変化します。変化を見て、横隔膜を動かし、「なぜ肺が膨らむのか」を考える。図を覚えるのではなく、動きのつながりとして理解できるようにしています。

理科Simで生み出したいのは、「正解した」で終わる学びではありません。見て気付き、動かして確かめ、考えて理解する。その先に、「なぜ?」「もう一回試したい」が続く教材にしたいと思っています。

図4 肺のシミュレーション。横隔膜を動かし、胸腔の大きさと肺の膨らみ方の関係を確認できます。

実験を置き換えず、実験を支える

もちろん、シミュレーションが便利だからといって、実際の観察や実験を置き換えたいとは考えていません。本物の器具に触れる。思った通りにならない。予想と違う結果が出る。その理由を考える。こうした経験は、理科の学習に欠かせません。

だからこそ、理科Simが力を発揮するのは実験の前後です。実験前には、結果を予想するために。実験後には、「なぜこの結果になったのか」を条件を変えながら確かめるために使えます。

実際には動かせない地球や月を動かす。一瞬で終わる変化を何度も見直す。体の内部で起きている変化を可視化する。シミュレーションだからできることがあります。実験、教科書、教師の説明、そしてシミュレーション。それぞれのよさを、学ぶ内容に応じて組み合わせたいと考えています。

生成AIで、授業のアイデアを形に

こうした教材づくりを可能にした大きな力が、生成AIです。私は専門のプログラマーではありません。以前なら、「こんな教材がほしい」と思っても、自分でWeb教材として形にするのは簡単ではありませんでした。生成AIによって、授業中のアイデアを、実際に動く教材へ変えられるようになりました。

ただし、AIに任せれば教材が完成するわけではありません。光の進み方は正しいか。肺の動きは誤解を生まないか。何度も動かし、確かめ、修正します。最後に「授業で使える」と判断するのは教師です。私にとって生成AIは、教材を自動でつくるものではなく、「教師のアイデアを形にする共同作業者」です。

50分の授業で、すぐ使える教材に

もう一つ大切にしているのが、授業ですぐ使えることです。内容が正しくても、操作に時間がかかれば、生徒が考える時間が減ってしまいます。Chromebookでボタンが画面からはみ出さないか。文字は見やすいか。迷わず操作できるか。使いやすさも、教材の一部です。

そのため、理科Simは利用登録もアプリのインストールも不要にしました。Webブラウザで開けば、すぐに使えます。

授業の「困った」を、次の「見る・動かす・考える」へ

理科Simを公開したのは、自分の学校だけで使うのではなく、同じような授業上の悩みをもつ先生方にも使ってもらいたいと思ったからです。「この現象をもっと分かりやすく見せたい」「生徒に自分で確かめさせたい」。そんなときに、一つでも役立つ教材があればうれしく思います。家庭で、生徒がもう一度動かして確かめることもできます。

振り返ると、理科Simの出発点には、授業でうまく伝えられなかったという失敗がありました。その失敗が、「もっと見えるようにできないか」「自分で動かせないか」「そこから考えられないか」という問いに変わり、118個の教材につながりました。

生成AIがあったから、教材を形にできるようになりました。けれど、出発点にあったのはAIではありません。目の前の生徒に、どうすれば「見る・動かす・考える」を渡せるのか。その問いです。

見ることで、気付く。
動かすことで、確かめる。
考えることで、理解が深まる。

これからも、授業の失敗や「困った」を出発点に、生徒が「見る・動かす・考える」教材を、一つずつつくり、磨き続けていきたいと思います。

【理科Sim】
中学校理科を中心とした操作型シミュレーション教材
無料・登録不要・インストール不要
開発者:北海道北見市立常呂中学校 吉田 彰歳

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