2021年3月29日
iPadの導入によって目指す京都府の学び /「子どもたちの創造を育む学び、GIGAスクールをリードする京都府」
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GIGAスクール構想で整備された端末が、学校現場に配備され、多くの自治体でこれから本格的な活用が始まろうとしている。子どもたちの学びのために、ICTをいかに活用していくか。この課題に直面している自治体も多いだろう。
そんななか、京都府教育委員会では、1人1台端末時代におけるICT活用のためには『教員のマインドチェンジ』が欠かせない、と教員研修に力を入れている。モノの導入に終わらず、現場で本格的なICT活用を進めていくために、整備段階から教員研修の重要性に着目し、取り組みを進めてきた。
京都府の自治体のうち、22市町(組合)教育委員会でiPadを約9万台導入し、小学校・中学校・高等学校・特別支援学校とトータルでICT環境整備を実現した京都府。その取り組みを紹介しよう。
新しい価値を生み出す、創造力豊かな子どもたちの育成をめざして
古き良き日本の伝統が残る街、京都。南北に長く世界中から観光客が訪れる魅力的な地域であるが、近年は出生率の低下が深刻化している。2015年の合計特殊出生率は全国ワースト2位と東京に次いで低く、京都府では「子育て環境日本一推進戦略」を策定し、さまざまな対策を講じている。
京都府教育委員会もこうした府政の方針を受けて「教育環境日本一プロジェクト」を立ち上げた。子育て環境日本一を実現するためには、教育環境の充実が必須であり、同プロジェクトでは、さまざまな教育課題に対して、ICTを活用しながら重点的・横断的な改善をめざす。京都府教育委員会では、「主体的に学び考える力」「多様な人とつながる力」「新たな価値を生み出す力」という3つの力の育成を重視しており、このような力を子どもたちや教員が育むためには、ICTの活用は欠かせないというのだ。
同教委 指導部学校教育課ICT教育推進室 総括指導主事 瀧本徹氏は、「変化の激しい社会でも前向きに受け止め、多様な人とつながりながら新しい価値を生み出せる、創造力豊かな子どもたちを育てていきたい。そのためには時代の変化に応じた学びの場が必要で、ICT活用は必須だと考えています。」と述べている。具体的には、「個別最適な学び」「協働的な学び」「データの分析・活用」「学びのつながりの保障」という4つの分野でICTを積極的に活用し、新しい学びを実現していく考えだ。
一方で、学校でのICT活用を進めていくためには、1人1台端末やネットワークなどICT環境整備が必要だ。しかし、教育行政では総務課が環境整備を担当し、学校教育課が実際の活用を進めるという分掌になっており、ICT環境を整備したものの、現場の教員の意向とは異なるため活用が進まない、といった事態も起きてしまう。
そのため京都府教育委員会では、GIGAスクール構想を含めたICT教育を推進するため、ICT教育推進室を2020年度に設置。京都府教育委員会の掲げる教育目標の実現のための横断的な組織づくりから着手し、府内の公立学校で着実にICT環境整備が進むよう、組織の体制を強化した。
iPadであれば、教員の活用を広げ、子どもたちの学びを変えていける
ICT活用の方針が決まると、今度はOS選定が始まる。具体的に何を重視してOSや機種を選ぶのかは各自治体によって異なるが、京都府教育委員会では総務省が提唱する「トリプルA(Active・Adaptive・Assistive)」を重視。さらに、「創造性」「多様性」「継続性」「研修」「保守・運用・管理」という5つのポイントにおいて、どのOSやメーカーが京都府の目指すところに適しているかを有識者会議の意見なども踏まえ検討するとともに、市町(組合)教育委員会向けの説明会も開催し検討を重ねた。
瀧本氏は今回の機種選択について、導入後に活用を推進するため「研修」も重視したという。ICT活用レベルを示す京都府の教員の指導力ステップイメージ(SAMRモデル)において、教員が「拡張(Augmentation)」から「修正(Modification)」へステップアップできるかどうか、これを実現しやすい機種であるかに注目したようだ。というのも、同氏は以前に、1人1台環境を実施していた高校で勤務経験があり、現場でICT活用を推進し、学びの質を高めていくためには、教員がこの壁を乗り越えられるかどうかが大きなポイントになってくるのを実感していたからだという。
「単に黒板とチョークがタブレットに置き変わる、ICTで双方向の授業ができるようになる、といった発想ではSAMRモデルの『修正』には辿り着きません。本当にICT活用のレベルを高めていくためには、子どもたちが自ら課題を見つけて、伝えたいことを表現する授業に変えていく必要があり、そのためには何が必要か。教員が自分の授業を変えていくマインドチェンジが必要であり、授業を変えていける端末であることが大切だと考えました。」(瀧本氏)。
とはいえ、実際に選ばれた端末を使うのは現場の教員であるため、京都府教育委員会の意向だけで機種選択を進めるのはリスクもある。そのため、京都府教育委員会はGIGAスクール構想を府全体のプロジェクトと捉え、各市町(組合)教育委員会に対して現場の意見を聴くヒアリングを実施。そうした現場の意見も踏まえて、それぞれのOSの良さを話し合いながら、子どもたちの将来の姿を見つめ、その教育を実現するために、どのOSがいいのか議論を重ねたという。
こうしたプロセスを経て、京都府教育委員会はiPadを推奨端末として打ち出し京都府モデルを示し、各市町(組合)教育委員会が入札に活用できる共同仕様書を作成。直感的な操作性、教育アプリやアクセシビリティの充実、映像の扱いやすさ、校外での使い勝手など、さまざまな点を考慮し、iPadを使って子どもたちの学びを変えていく第一歩を踏み出した。
最終的に22自治体がiPadを選択し、加えて、iPadの導入や運用にノウハウを持ち、充実した教員研修プログラムを提供するSB C&S株式会社(以下、株式会社省略)と「京都府立高等学校におけるICT環境の整備に関わる協定書」を締結し、GIGAスクール事業全般にわたるコンサルティングアドバイザーとして、京都府が目指す教育の実現の支援を受けることとした。
モノの導入に終わらない、府と市町で連携しながら“活用”を重視した取り組みへ
このようにGIGAスクール構想を進めてきた京都府であるが、ここに至るまでに多くの課題があった。
iPadを推奨端末として共同仕様書を作成したものの、それを使うかどうかは、各市町(組合)教育委員会に委ねられる。京都府としては、小学校・中学校・高等学校と統一されたOS環境をめざしていたが、各市町(組合)教育委員会にそれを強く求めることはできない。そのため、京都府はGIGAスクール構想の取り組み当初から、各市町(組合)教育委員会に対して説明会を多く開催し、理解を求める場を設けた。
「各自治体はGIGAスクール構想について、端末に関する情報が不足し、端末選定に苦労している状況でした。一方で、自治体がOSを選ぶとなると、価格やアプリを重視したり、今の授業イメージで端末を選んでしまう傾向もありました。そもそもGIGAスクール構想で京都府が何をめざし、どのようにICTを活用していくのか。モノの整備が大事なのではなく、活用が大事であるという話をしました。」(瀧本氏)。
GIGAスクール構想においては、どの端末を選んだか、その話に終始しがちである。しかし京都府は、導入後の活用が大切であると、各市町(組合)教育委員会の担当者にも説明してきた。京都府がめざす教育と、ICT活用の方策など、重要なポイントを整理し、それに対して各市町(組合)の教育委員会が何をすべきかを共に考える。今後の活用をスムーズに進めていくうえでも、府と市町で連携を築けるように取り組んだことの意義は大きい。
自分たちが学び続け、今が変わるチャンスだと教員が思える研修
GIGAスクール構想の整備段階から、教員研修を重視してきた京都府。実際にどのような研修を実施しているのだろうか。
同室 指導主事 佐藤英樹氏は、「多くの教員にとってiPadを文房具として使うことは、むずかしいことではありません。しかし、個別最適化された学びや学習データの活用といった新しい学びに到達するためには、教員が自分の授業を変えていく発想が必要で、それを叶える研修が必要だと考えました」と話す。佐藤氏も瀧本氏同様、以前に1人1台端末環境の学校で勤務経験があり、この壁を乗り越えるむずかしさを実感しているという。
そのため京都府教育委員会では、ICT環境整備の段階から、導入後の研修に関しても予算化し、教員のICT活用をサポートできる体制を整えている。研修には数ある企業の中から、SB C&Sが提案する研修計画を採用している。
「企業から提案いただいた研修内容の大半は、タブレットを日常の文房具として使いましょう、というレベルで終わっていました。しかし、SB C&Sが講師を務める研修は、教員の心をいかに変えるか、視点をどのように変えるか、という部分にもフォーカスしており、教員がどうすれば自分の授業を変えていけるか、自ら省察する機会を与えていただける内容だったのが良いと思いました。」と語っている。
こうして京都府では、2020年度に小学校と中学校対象のリーダー研修と、文部科学省実証研究指定校の高校対象のリーダー研修を実施。市町(組合)教育委員会、文科省実証研究指定校の高校からリーダーとなる教員を選出してもらい、その地域や学校でICT活用を広げていける人材を育成している。リーダー研修は全5回で、1回目はマインドチェンジと基本操作の研修、2回目は普及する役割を意識するための研修、3回目以降はオンラインで実施し、動画を制作して発表するなど、クリエイティブ性を追求する内容になっている。
小学校、中学校対象のリーダー研修を担当した、同室 指導主事 白石拓光氏は研修内容について、多くの教員に『自分ごと』として捉えてもらったと手応えを語る。「一般的に“研修に行く”といえば、なにかを教えてもらう受け身状態になってしまうことが多いのですが、この研修は、自分たちが学び続け、今が変わるチャンスだと思えるようなものでした。アンケートでも“もっと研修を受けたい”、 “ICTのメリットを改めて感じた”、と前向きなコメントが多く、研修の時間が終わってからも、交流を継続したいという意見も多くありました」(白石氏)。
京都府ではリーダーに選ばれた教員が、仲間をつくり、モチベーションを維持できるよう、Microsoft Teamsでグループをつくって、コミュニケーションや意見交流を行いつながりを持っている。さらに、京都府と市町との関係もよりスムーズに築けるよう、Teamsのアカウントを教員と生徒合わせて約20万件分作成し、クラウドをベースにしたコミュニケーションも構築を始めている。
1人1台端末時代の新しい学びをどのように作っていくか。京都府のように整備段階から、組織づくり、意識づくりを重視して進めた自治体は少ない。ここからどのようなイノベーションが生まれるのか。これからの取り組みが楽しみだ。
導入後のiPad活用に必要な“現実”を伝え、めざす教育の実現に向けて共に歩む
コンサルティングアドバイザーとして、京都府のマインドチェンジ研修の講師として登壇したSB C&S エデュケーションICT推進室 室長 古泉 学氏はこれからの時代に必要な企業のあり方を下記のように述べている。
京都府様は先ず『子どもたちにどうあって欲しいか、そのために教員がどうあるべきか』という本来の最も大切な目標を設定し、それを実現するために自身がそれぞれの立場で何ができるのか?という目線に立って『自分ごと』で考え続けていることが最もこの大きなプロジェクトを成功させる鍵です。
その目標実現のためにiPadはなにに活かせるのかというきっかけを私達は研修や様々な情報提供を通じて作ることが最大の役目であると考えています。
GIGAスクールにおいては、企業はあまりに『簡単にできる、すぐできる』という話をし過ぎたと感じています。私達は、導入後を想定し人と運用の役割を明示して、きちんとシステム=インフラが役割を持った人と連動して動く環境でしか、活用に集中できる環境の構築はできないという現実を、京都府様に時間をかけてお伝えし、ご信頼をいただきました。その環境の上でこそ初めて活用に集中できる環境が整備されるのだと思います。
京都府様と一緒に企業と自治体という垣根を超えて子どもたちの想像力を育む学校つくりを今後もサポートさせていただきたいと思います。
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