2019年3月22日
プログラミングで「速さ」を実感しよう ~Scratchを使った算数授業~
【投稿】
大阪市立放出小学校 大吉 慎太郎
本単元を指導するに当たって、実感を持って理解するということを大切にした。しかし、「速さ」は文章の中では数値でしか表現できず、数値上の優劣は判断できても実感を伴った理解は得られにくい。そのため、デジタル教科書を用いることになるが、現在のところ、デジタル教科書では全ての問題へのコンテンツが用意されているわけではない。そこで、ビジュアル型プログラミング言語「Scratch」を使って表現する活動を取り入れた。その活動によって、視覚的に確認するだけでなく、簡単なプログラミングを児童自身が体験することでプログラミング的思考の育成を行った。
本来の目的を見失わないように
単元の導入では、数値の情報から3人のうち「速い」のは誰かを予想し、比べる方法を考える。第5学年の学習を想起させ、単位量あたりの考えを用いることで比べることができ、公倍数を用いて比べる場合よりも素早く問題が解けることを学習した。その際には、「Scratch」自体の操作は「スタート」と「リセット」の簡単な操作にとどめた。「どれが速いか」を予想するだけでも児童は興味津々。スタートボタンを押し、予想したキャラクター(スプライト)が速く動いている様子を確認すると教室では大盛り上がりであった。この時間は「スタート」と「リセット」の二つの操作であったが何度も繰り返し、すっかりプログラミングに夢中であった。
2時間目にはビジュアル言語の中の数値を入力した。予めブロックを重ねて置き、その中の「数値だけを入力する」活動である。ここで、計算の間違い、入力のミスなどから、友だちと結果が異なる児童が出てきた。なぜ、違う結果になったのか。そこに至るまでの過程を自分で辿り、ミスを発見し、修正する。プログラミングの良さである「やり直しの容易さ」が発揮された時間であった。
そして、その次には離しておいたブロックを「並べ替え、プログラムを組む」というように、単元内の学習とともに徐々に「Scratch」の操作にも慣れ習熟を重ねる指導した。このようなスモールステップの活動は、プログラミングの習熟のみに時間をかけてしまうことで、本来の目的である「算数科の目標を達成する」ことを疎かにしないようにするためである。
本時では、前時までの「移動の速さ」ではなく「作業の速さ」を求める問題であった。問題文の中に「作業の速さ」を求める上で必要のない情報、数値が提示されている。そのため、問題を解くために必要な情報は何かを判断できるように指導し、答えを導いた。その上で、プログラミングで確かめるためには、どの情報が必要であるのかをそれぞれが判断し、また、作業終了の条件を同じにしなければならないなど、教科書の問題以上の思考も必要であった。それらを加味して、児童は各々のタブレットに入力していた。
自ら学びに向かう姿勢を
また、今回の単元を通したプログラミング授業では、プログラミング以外の副次的な効果を得られた。例えば、プログラミングを使って、どっちが速いかを友だち同士で問題を出し合うと、必死に計算する姿が見られた。
これが単に「問題を20問解きましょう」であったなら、ここまで積極的に計算に取り組目なかったと思われる。「問題を20問解きましょう」ではなく、目的を持つことで「結果的に20問以上の問題を解いていました」という状態になった。
・計算結果をプログラミングで検証という「計算→プログラミング」。
・プログラミングを見て、計算でも確かめてみようという「プログラミング→計算」。
どちらにも利用できた点がよかった。
「教科の中にプログラミング」を
本授業の中でテーマとしていた「教科の目標を達成するためのプログラミング」という点では非常に意義のある実践であった。従来の授業であれば、「速さ」「道のり」「時間」を求めるための立式と計算が主な内容となり、数値でしか比較することができない。しかし、プログラミングを使用した授業では「速さ」「道のり」「時間」を実際に目で確認して、比較することができる。まさに実感を伴った理解につながった。
授業後の参観者へのアンケートでも「速さの違いが視覚的にすぐにわかるのでイメージしやすかった」というような、数値だけでない視覚面での理解を助けることを評価してもらえる意見が多かった。しかし、「プログラミングであるかといわれると違うと思う」「プログラミング的思考が培えたかどうかは疑問」「Scratchを利用した検証実験のように感じた」というような感想も見られた。それらの意見に見られる「これはプログラミング教育なのか」、という考えについては「目指すべき方向の違い」と「国の方向性が定まっていない」ことによるものと考えられる。
プログラミングはツールであり、教科の目標を達成するための1つの教具である。今回であれば、速さを理解するためにプログラミングという教具を使ったにすぎず、そこでプログラミングのスキル自体が向上することを目的とはしていない。一方、「これはプログラミング教育なのか」という意見の参観者は、「プログラミングで何かを生み出す」ということに価値を置いていて、授業の中でもプログラミングのスキル向上を中心に考えている。「何かの作品を作ること」をプログラミングと捉えている側からすれば物足りない感があったと思われる。しかし、式を立てる事=アルゴリズムを考える事であり、その部分では非常に重要な学習を自然と行うことができた。
現在のところ、プログラミング教育に対するスタンスも曖昧なものになっており、方向性が見えていない。そのため、「教科の中のプログラミング」なのか「プログラミングの習得」なのか、これから探っていく必要がある問題である。今回の授業においては「教科の中のプログラミング」という意味合いの授業であったため、児童がプログラミングの作成に試行錯誤する場面は多くはなかったが、「教科の中のプログラミング」という狙いとしては成果のあった取り組みであった。
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