2020年10月1日
デバイス統一で授業が進化 辞書アプリ『DONGRI』活用/修道
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歴史ある伝統校ながら、新しいものにも積極的に
教育現場でのICT活用が発展する事例を俯瞰すると、大きく分けて二つの傾向が見て取れる。一つは、取り組みたい教育活動や抱える課題に対応するため、最適なソフトやデバイスを導入するパターンだ。明確な利用目的があり、「必要なものをピンポイントで」という発想である。
もう一つは、基本インフラを含む全体的なデジタル移行を進めることで、その過程の中から活用方法を見出すアプローチだ。生徒1人1台のデバイス所有など、環境整備から入るケースがこれに当たる。もちろん、どちらが正しいというものではないが、広島県の修道中学校・修道高等学校が取り組んだICT化は、後者のケースだ。
同校はかつての広島藩藩校『講学所』にルーツを持つ、県内でも屈指の伝統校。同時に、生徒の自治を重んじる自由な校風も定評がある。そのような気概が学校運営にも表れているのだろう、同校の藏下一成教頭はこう言って笑う。「歴史のある学校ですが、昔から『新しいもの』を取り入れることには積極的でしたね」。ICTの活用もその一つだ。
「教員の業務軽減や働き方改革という点からも、紙媒体から脱却しようという動きは早くからありました。加えて、このデジタル時代です。生徒たちが日常的にデジタルツールに慣れ親しむことで、彼らの基礎リテラシーを上げたいという狙いもありました」(藏下教頭)。2018年にWindowsのPCを一斉導入、生徒1人1台の端末環境を整備するのと同時に、さまざまな資料や教材などのペーパーレス化へと大きく舵を切った。
多岐にわたるデジタルデバイスを一元化したい
デジタル化・ペーパーレス化を進めたツールの一つが「辞書」だ。ただ、デジタルの辞書といえばまっさきに電子辞書が思い浮かび、特に珍しく感じないかもしれない。同校でも、以前から電子辞書は活用していた。
しかし、社会であらゆるものがデジタル化され始めると、それはそれで不便な側面も生まれる。例えば電子辞書、デジカメ、スマホ、PC、タブレット……別々のデバイスを用途に応じて使い分けざるを得ず、ICT化を進めたことがかえって煩雑さを招くパターンだ。それをふまえて藏下教頭は言う。「1人1台の端末環境を整えようとしたのには、デジタルの機能やツールをできるだけここに集約させたいという考えもありました」。
そこで導入したのが、辞書アプリの『DONGRI』(イースト株式会社)だ。DONGRIは、サブスクリプション型の辞書。国語、漢和、英和、和英……必要な辞書を、Web版ではブラウザで、アプリ版ではダウンロードして利用する。つまり、DONGRIそのものが辞書なのではなく、何種類もの辞書を持ち運びできる本棚と考えると分かりやすいだろう。マルチデバイス対応で、アプリさえインストールしておけば学校でも自宅でも兼用できるため、藏下教頭の言う「集約したい」という狙いにもマッチしていた。
意味を調べるだけで終わらせない
一方で、単に辞書をデジタル化することだけが目的だったのではない。藏下教頭は「生徒たちが受動的に知識を与えられるのではなく、自ら知識や情報を『取りに行く』。そんな学校にしたいのです」と語るが、DONGRIはそこにも活用された。
中学校国語科の土肥新一郎教諭は、「辞書を使って言葉の意味を調べる」という行為を、学びの深化に繋げようと工夫している。例えば新しい単元に入る際の授業では、生徒たちと一緒に分からない語句をリストアップしながら意味を調べるが、そこで終わらせず、単語のネット検索を促す。
「分かりやすく『動物園』で例えてみます。まずDONGRIで動物園の意味を調べ、次は画像を含めて検索してみるんです。すると、動物園がどんなところなのかビジュアルでも認識できます。また、地図では近隣の動物園が表示されますから、実際に動物園がどこにあるのか知ることができます。こうして、些細なところから学びを広げていくことを大切にしています」(土肥教諭)。
これも、1人1台の端末環境を整備し、「集約」ができていた影響だろう。土肥教諭も「端末が統一されているから、語句の意味を調べる→検索するという自然な流れが作りやすいんです。分かれている状態では、どうしても限界がありました」と語る。
「辞書機能が特定の端末に集約・一元化されているだけで、かなり授業が進めやすくなる」と述べるのは、英語科の森元雅貴教諭だ。
「生徒と同じ画面を共有し、同時に見られるので非常に助かります。以前は授業内で辞書を活用しても、生徒がどこを見ているのか把握できなかったですから。指示と違う語句を見ていたり、同じ語句でも他の意味を示す部分を見ていたりすることってありますからね。他にも、辞書(の画面)に書き込みを入れながら指導したり、コロナ休校期間中は、DONGRIで語句を調べる画面を投影した録画授業をYoutubeで配信したり。いずれも小さなことですが、紙の辞書や電子辞書を用いていたころにはできないことでした」。
辞書というツールが持つ可能性の進化
一般的に、教育ICTを導入する際は、具体的な目的があったほうがうまくいきやすいと言われる。ICTは目的ではなく手段だからだ。しかし同校のように、全体の環境・インフラ整備を行う視点から入るパターンでも、環境さえ整備しておけば「何かが生まれる」ことは往々にしてある。DONGRI活用も、初めからこのような利活用を想定して導入したわけではない。
土肥教諭は「一つの事柄についてだけでなく、それに付随したものやその周辺の事項まで知ることができて、『楽しい』との声が聞かれる」、森元教諭は「自主的に情報収集する習慣は身についてきた」(森元教諭)とICT活用が生徒にもたらした効果を語る。
“辞書”とは本来、語句の意味を調べるためのものだ。それ以上でも以下でもなかった。しかしICTと紐づくことで、このような新しい活用も生まれる。ICT教育の「可能性」や「広がり」を感じさせてくれる、良い事例ではないだろうか。
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