2019年10月16日
新学習指導要領が示す学びの改革「主体的・対話的で深い学び」とは
学習指導要領は10年毎に見直されることになっている。2020年の改定の次は2030年。5年後でさえ、世界がどう変わっているのか分からないのに、2030年の世界など想像できるはずもない。まして現在は、Society5.0に向かって社会の変革が進む第4次産業革命の時代。AI(人工知能)、IoT、ビッグデータ、ロボットなど、日進月歩の表現では追いつかない急速な“秒進分歩”の変化が、私たちの見えないところで進行している。小学校で2020年度に実施される新しい「学習指導要領」(中学2021年度、高校2022年度実施)は、2020年度から2029年度の10年間に学校で行う学習内容を定めるのもの。2030年の社会がどのようになっているのか、正確な予測が困難なのに、2030年以降の時代を生き抜く子どもたちに必要な学習指導内容がどのようなものなのかを具体的に定めることなどできるはずがない。「学習指導要領」の改訂にあたっては、中央教育審議会の委員たちも、文部科学省の担当者たちもさぞかし悩んだことだろう。しかし、「将来の予測が難しい社会の中でも、未来を作り出して行くために必要な資質・能力を確実に育む教育」、「未知の社会を生き抜く力を育む教育」という素晴らしい視点を示した。
「生き抜く力を育む」ための「主体的・対話的で深い学び」
文部科学省が示す新しい学習指導要領の解説でも「解き方があらかじめ定まった問題を効率的に解いたり、定められた手続を効率的にこなしたりすることにとどまらず、直面する様々な変化を柔軟に受け止め、感性を豊かに働かせながら、どのような未来を創っていくのか、どのように社会や人生をよりよいものにしていくのかを考え、主体的に学び続けて自ら能力を引き出し、自分なりに試行錯誤したり、多様な他者と協働したりして、新たな価値を生み出していくために必要な力を身に付け、子供たち一人一人が、予測できない変化に受け身で対処するのではなく、主体的に向き合って関わり合い、その過程を通して、自らの可能性を発揮し、よりよい社会と幸福な人生の創り手となっていけるようにすることが重要である。」としている。更に「生き抜く力を育む」という理念の具体化には、「生きて働く“知識・技能”の習得」、「未知の状況にも対応できる“思考力・判断力・表現力等”の育成」、「学びを人生や社会に活かそうとする“学びに向かう力・人間性”の育成」の3本の柱を偏りなく実現することだ、としている。
21世紀を「生き抜く力を育む」学習指導要領改訂の肝ともいえるのが、「主体的・対話的で深い学び」と情報活用能力(ICT活用能力)だ。中央教育審議会の審議のまとめや答申では、「アクティブ・ラーニング」という言葉を使用していたが、学習指導要領では使用されていない。概ね、「主体的・対話的で深い学び」に置き換えられている。これは、対話的学習と理解される「アクティブ・ラーニング」という言葉に「アダプティブ・ラーニング」的要素も含ませようとしたためと思われる。「アダプティブ・ラーニング」は「適応学習」と訳されているようだが、学習者一人ひとりの学習進行度や理解度、モチベーションなどに対応した「個別対応学習」という表現の方が分かり易いかも知れない。そして、この分野は、学習履歴や正誤データなどのビッグデータをAIで解析して個別対応を実施するといった、ICTを活用した学習方法が最も得意とする分野でもある。
学習指導要領が示す「主体的・対話的で深い学び」とは
ところで新学習指導要領で求められる「主体的・対話的で深い学び」とは、どのようなものか。
小学校学習指導要領の解説の「『主体的・対話的で深い学び』の実現に向けた授業改善の推進」では、「我が国の優れた教育実践に見られる普遍的な視点である『主体的・対話的で深い学び』の実現に向けた授業改善(アクティブ・ラーニングの視点に立った授業改善)を推進することが求められる。」とし、「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善を進めることを示した、としている。
またその際には、以下の6点に留意して取り組むことが重要だとしている。
ア.児童生徒に求められる資質・能力を育成することを目指した授業改善の取組は,既に小・中学校を中心に多くの実践が積み重ねられており、特に義務教育段階はこれまで地道に取り組まれ蓄積されてきた実践を否定し、全く異なる指導方法を導入しなければならないと捉える必要はないこと。
イ.授業の方法や技術の改善のみを意図するものではなく,児童生徒に目指す資質・能力を育むために「主体的な学び」、「対話的な学び」、「深い学び」の視点で、授業改善を進めるものであること。
ウ.各教科等において通常行われている学習活動(言語活動、観察・実験、問題解決的な学習など)の質を向上させることを主眼とするものであること。
エ.1回1回の授業で全ての学びが実現されるものではなく、単元や題材など内容や時間のまとまりの中で、学習を見通し振り返る場面をどこに設定するか、グループなどで対話する場面をどこに設定するか、児童生徒が考える場面と教師が教える場面をどのように組み立てるかを考え、実現を図っていくものであること。
オ.深い学びの鍵として「見方・考え方」を働かせることが重要になること。各教科等の「見方・考え方」は、「どのような視点で物事を捉え、どのような考え方で思考していくのか」というその教科等ならではの物事を捉える視点や考え方である。各教科等を学ぶ本質的な意義の中核をなすものであり、教科等の学習と社会をつなぐものであることから、児童生徒が学習や人生において「見方・考え方」を自在に働かせることができるようにすることにこそ、教師の専門性が発揮されることが求められること。
カ、基礎的・基本的な知識及び技能の習得に課題がある場合には,その確実な習得を図ることを重視すること。
「全く異なる指導方法を導入しなければならないと捉える必要はない」などと言われてしまうと、「これまでのやり方でいいのか」と思ってしまいそうだが、このあとの「各学校におけるカリキュラム・マネジメントの推進」まで読み進むと、かなり大胆な変革が求められていることが分かる。
各学校においては、「教科等の目標や内容を見通し、特に学習の基盤となる資質・能力(言語能力、情報活用能力、問題発見・解決能力等)や現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力の育成のためには、教科等横断的な学習を充実することや、『主体的・対話的で深い学び』の実現に向けた授業改善を、単元や題材など内容や時間のまとまりを見通して行うことが求められる。これらの取組の実現のためには、学校全体として、児童生徒や学校、地域の実態を適切に把握し、教育内容や時間の配分、必要な人的・物的体制の確保、教育課程の実施状況に基づく改善などを通して、教育活動の質を向上させ、学習の効果の最大化を図るカリキュラム・マネジメントに努めることが求められる。」と示されている。これまでの「教科」や「単元」や「学校の枠」を取り払って「主体的・対話的で深い学び」を実践せよ、ということだと受け止められる。
「主体的・対話的で深い学び」を育む授業
とはいえ、これまでの「アクティブ・ラーニング」が具体的にどのような学びを実践するのか定義されていないのと同様に「主体的・対話的で深い学び」も具体的な内容は定義されていない。そこで、教育現場の素人ではあるが「主体的・対話的で深い学び」の手法を具体的に想像してみることにした。新学習指導要領が求める「未知の状況にも対応できる“思考力・判断力・表現力等”の育成」に紐付けられるものだとすれば、概ね下記のような授業内容が典型だと推測される。
学習のめあて(課題の提示)~調べ学習(情報収集)~個別学習・思考(情報処理)~グループ学習(情報発信+協働学習)~グループまとめ(コンセンサスの醸成・思考の深化)~発表・プレゼンテーション(情報発信)~感想・意見交換(評価)~再検討。これは、一般社会で利用されている「PDCAサイクル」と同様の流れだ。「PDCAサイクル」というのは、Plan(計画)・Do(実行)・Check(評価)・Action(改善)を繰り返すことによって業務改善を推進する手法。しかし、「主体的・対話的で深い学び」で目指すのは「業務改善能力」ではなく「課題解決能力」の育成だ。答の決まっていない課題、経験したことのない未知の事象にも対応できる「課題解決能力」。課題を見つけ出し、チームで協働して解決する力の育成だ。もちろん、この「主体的・対話的で深い学び」は小学校で始まり、中学~高校と発展・深化して行く。そして、高校の新学習指導要領では、「主体的・対話的で深い学び」は英語でも求められている。日本の高校の授業で、高校生たちが英語でディスカッションし、英語でプレゼンテーションし合う姿を想像するとワクワクしてくる。
もちろん、学習指導要領が示すとおり「主体的・対話的で深い学び」は、ひとつの定型で行われるのではなく、遍く、そして細部に亘って実践されるものだろう。そのあたりは是非、教育現場での実践を期待したい。こんなことをしている、こういうやり方があるという先生方のレポートをお待ちしています。(編集長:山口時雄)
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