2020年3月5日
EdTech最前線/子どもの未来は子ども自身が実現する「Go SOZO」
「学び」といっても様々な「学び」がある。学校で学ぶ、親から学ぶ、友人から学ぶ、自分で学ぶ。子どもの成長に寄り添うことで学ぶことがあるのなら、それは「子どもから学ぶ」といってもいいだろう。子どもを見つめたり、子どもに背中を押されたりしながら自分の進む道を切り拓いていく。そんな起業家を見つけた。
好きなことはトコトンやる田舎の少年
彼の苗字は「小助川(こすけがわ)」という。秋田県に多い苗字で、彼の故郷は、由利本荘市の「小助川」が60軒も集まった集落だという。「小助川」を画像でググってみると、今回の主役小助川将さんと並んで、小助川晴大さんという少年が自信たっぷりの表情で腕を組んで掲載されている。孫正義育英財団の3期生に選抜された、将さんの長男だ。小学生が財団生に選ばれるのは大変で、世界レベルの成果を上げた者だけが支援を受けることが出来るという。どのような少年か興味は尽きないが、今回の主役は、もちろん父の方である。
小助川将さんは、「田んぼと畑しかない田舎」だったという由利本荘市で生まれ育った。実家は、公務員との兼業農家だったが、田んぼや畑の手伝いはとにかく嫌で「やりたいことだけやっていたい」という思いが強かったという。1980年代生まれの子どもなら誰でも夢中になったテレビゲームには、もちろん嵌まっていた。ブラウン管に毛布を掛けて光が漏れ出さないようにして、ドラクエや三国志を夜遅くまでやっていた。嫌いなことはやりたくないが、好きなことはトコトンやる少年だった。
秋田県の名門、秋田高校に入学すると一人暮らしをはじめた。これといってやりたいこともなく、本人曰く「ろくでもない生活をしていた」という。ただ、ファッショには興味があった。友だちから希望を訊いて、預かった金を握って夜行バスで単身東京へ。裏原宿ファッションを買い集めて帰郷、いくらか上乗せして販売する。商売とかビジネスといった感覚はまったくなく、ただ好きなことやりたいことやっていただけだという。
大学選びにも特別こだわりはなく、弟が持っていた本に「慶大生はもてる」と書いてあったのを信じて慶応大学商学部に入学した。嫌いなことはやりたくなく、好きなことはトコトンやるという性格は大学生になってもそのままで「クラブ」に嵌まった。華やかで、賑やかで、人が沢山集まって楽しいのがいい、と週3回ペースで通った。通うだけでは物足りず、イベントサークルに入って自分で企画・開催するようにもなった。好きなことに使うエネルギーはいくらでも湧いてきた。楽しい日々が続いたが、大学3年の時、転機が訪れる。
稲盛京セラ会長の講演で衝撃!起業家を目指す
京セラの創業者である稲盛和夫氏の講演を聴いて衝撃を受けた。「商売とは、人のため社会のためにやるもの。役に立ったらお金になる」。これまで大学の授業でマーケティングなどを学んだが、なんのために役立つのかさっぱり分からなかった。まさに目からうろこだった。ビジネスをやりたい、起業したいという思いが湧いてきた。いても立ってもいられず、大前研一氏のビジネススクールに通うことを決めた。学費が足りず、学生ローンで借金までした。
起業したい、という思いはあるが何をしたいかは分からない。ビジネスの基本を学んだり、俯瞰して見たいという思いからコンサル会社のインターンに参加した。卒業後はそのままその会社に入社。経営もビジネスも実戦は分からない。専門用語は単語の意味さえ分からない。そんな社会人スタートだったが、5年の間に、ITバブルが弾けたり、M&Aブームになったり社会が大きく変動する中で、不動産投資で失敗した有名会社のBS改善や財務再建に取り組んだり、洋品メーカーの新規事業開発に参画するなど実戦経験を積んでリクルートに転職。3年半の間、ネットビジネスなどの新規事業立ち上げに取り組んだ。
ネットビジネスをやるならインターネット事業に特化した会社でやってみたいという思いから、今度はグリーに転職、事業企画や複数プロダクトの責任者になった。そんな時、長女が不登校にになった。原因を探っていくうちに、日本の教育現場の課題が浮かび上がってきた。21世紀だというのに、言われたことの出来る子を育てる教育。学校には期待できないと感じたという。そこで、妻と話合った。子どもたちのために何をすればいいのか。子どもたちにどう生きてもらいたいか。
話し合いの結果、「未来は誰もわからない。だから、子ども自身がやりたいことを見つけ、自分で歩めるようになってほしい」と決めた。それに向けて、親の大きな役割は2つ、「1. 子どもが興味を持つことを探す手伝いをすること」「2. やりたいことを見つけたら、それをサポートすること」。その中で、具体的に「プログラミングを体験させてみよう」ということになり、渋谷にあったLITALICOワンダーの体験会に家族4人で行ってみた。そこで見たのは、一人ひとりが異なったことに夢中で取り組んでいる姿だった。子どもたちの学年もまちまちで、先生がレクチャーをして、手本を見せてそれをやらせるといった、他の習い事では当たり前の光景は見られなかった。彼の娘と息子も、ガラス張りの外から見ている親など気にせず夢中で取り組んでいた。「これはいいな」と思ったという。子どもたちのプログラミング体験をきっかけに彼の中に芽生えた「教育」に関する関心はずっと疼いていた。
子どもに背中を押されて起業 エデュテイメント・テーマパークを目指して
思い切って教育関係のキャリアへ転換しようと活動していると、なんとエージェント経由でLITALICOから誘いの声が掛かった。入社してみて改めてLITALICOのコンセプトに感銘を受けた。あくまで子どもが主役であること。子どもたちには、とにかく好きなことをやらせる。そのためには動機が大事だ。動機がないのに無理矢理やらせることはせず、自らやりたくなるように仕向けて行く。
メンターが、その子の興味は何か、なにが好きなのかリサーチする。何種類か提示して、その中から選ばせる。子どもの意志で決定する。だから子どもたちは夢中になる。そして、その日子どもが何に取り組み、どのような様子だったかを保護者に教えてくれる。「徹底的に子どもを中心に捉えた体験設計に、凄いな」と、親目線で感心したという。LITALICOでは、ITものづくり教育のLITALICOワンダー事業やHRを担当していたが、教室での子どもたちの姿を見ていて、もっと首都圏以外の子どもたちも好きなこと出会え、思い切り取り組める「テーマパーク」がやってみたくなった。社内での新規起業を目指したが、自身の覚悟が足りず、実現させることはできなかった。
この思いは、ずっと心の中でくすぶっていて、ならば、自分で起業して作ろう。手始めにテーマパーク創業資金を得るため、先輩とともにビジネスのプロ人材のパラレルワークを支援する会社を設立した。その年、2018年11月、タイで開催された小中学生のための世界的ロボット競技大会「WRO2018国際大会」に日本代表として参加していた長男が「オープンカテゴリー」部門で8位入賞という快挙を達成した。同行していた彼はその盛り上がりに感動し、「やっぱり子ども向けテーマパークがやりたい」と思うとともに、テーマパークまで行かなくてもひとまずイベントなら始められるかもしれないと感じて帰国した。
帰国後、息子の晴大さんは翌年2月の孫正義育英財団の選考会を目指して動画や本で勉強を始めた。孫さんの動画を一緒に見ていたら「人生一度きり」「自分の山を決めろ」「遠回りするな」と行ったことばが聞こえてきて、自分に言われているような気がした。息子が、孫さんの前でプレゼンしたいと、目標に向かってまっしぐらに努力する姿をみて、おれもと思った。「一緒に伴走していたつもりが、背中を押されていて、一層やらなきゃという気持ちになった」という。
晴大さんは、見事に第3期の財団生に合格。父は、2019年6月「一人ひとりがビジョンに向けて進める世界を創る」というミッションを掲げて「GoVisions」を設立。そして、「子どもの興味と未来の可能性が広がるエデュテイメント・イベント~GO SOZO~」を開催する事にした。エデュテイメントとは、エデュケーション+エンターテインメントからの造語。ICTだけじゃない、STEM系だけじゃない、プログラミングもロボットも、クイズもゲームも、探求も仕事体験も、子どもが自発的に自分で考えて行動してアウトプットする体験ができる場を提供するもの。2020年2月に開催された第2回GO SOZOには30社以上の企業・団体が出展、事前申込みは1万名を超え抽選へ。当日は、4000名を超える親子が来場して「エデュテイメント」を体験した。
孫正義育英財団提供のプレゼン発表会に登壇した晴大さんは、「好きなことの追求+挑戦する心+高い志」を持って歩んできたロボット・プログラミングやWRO世界大会、財団生選抜の経緯を語るとともに、現時点の自らの志「1.WROオープンカテゴリー小学生部門世界1位を取ること。なぜなら同じ挑戦をしている人を、応援したいから。2.留学したい。今は、東南アジアへ行きたい。発展する社会を学びたい!3. 起業したい。色んなひとが笑顔で溢れる世界にしたい!」と発表した。
自信を持って自分の道を突き進む息子を見て、父小助川さんは「好きなことだけ夢中にやるというのは、私の性格と同じです。息子はロボットやモノづくりが好きで、大会に出たいというので、じゃあやってみようとなりました。一般的に保護者は、学校の成績がどうだとか、中学受験はどうするのかとなりがちです。言われたことやりなさい、周りの家族がやっていることをしようというのが多いのでは。子どものやりたいに蓋をするようなことをせずに、子どもの“好奇心”に寄り添って欲しいです。子どもの未来は、子ども自身が自分のやりたいことを見つけて実現すればいい。そのために親の力が必要だったら手伝ってあげればいい。学校に行く必要があれば行って学べばいい。学校以外に、良い選択肢があるならそれでも良い。 今の教育システムは過去の時代に作られたもの、という認識を持ってほしい。これを受けて育った今の大人の「常識・当たり前」は、未来では通用しません。 子どもたちは、未来を生きます。主人公は子どもたち!親ではありません。 子どもの「やりたい」「好奇心」が、未来を創る」と、21世紀に相応しい学びの形を示してくれた。
単発のイベント「第2回GO SOZO」を成功させた小助川さんが次に目指すのは、期間限定のエデュテイメント・テーマパーク「Go SOZO World」。その先には「子どもの“やりたい”を実現する」常設のテーマパークが待っている。
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