2017年8月21日
文科省が示すぎりぎり最低限の「学校におけるICT環境整備」最終まとめ
一言でいえば、「苦渋の決断」だったのだろうか。
7月10日、「学校におけるICT環境整備の在り方に関する有識者会議」の最終回の締めの挨拶で座長の堀田龍也 東北大学大学院情報科学研究科教授は「難しい会議だった」と総括した。「良い環境、良い機材で良い学びを創出する新しい学習活動を実現する」ための、「情報活用能力を身につけて、アクティブ・ラーニングを実現する」ための、理想的なICT環境整備から比べると、今回の結論はかなりハードルが低い。「ぎりぎり最低限を示したものだから、なんとか実現して欲しい」と、堀田座長は力を込めた。
また、会議の冒頭では、文部科学省 生涯学習政策局の有松育子 局長は「全国の自治体の理解を促し、ICT環境整備を推進する基準を示して欲しい」と、全国標準展開を視野に入れた基準作成を示唆していた。
2020年の新学習指導要領実施が近づき、学校におけるICT環境整備は崖っぷちの状況である。これまで国や自治体が実施してきた「モデル校」や「先進校」の取り組みを、小中学校全校に拡大するには時間も予算も間に合わない。かつて掲げていた「2020年1人1台情報端末」という目標も、すでに降ろしている。
今回の有識者会議が目指してきたのは、新学習指導要領に示された「情報活用能力の育成を図るため,各学校において,コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を活用するために必要な環境を整え,これらを適切に活用した学習活動の充実を図ること」、あわせて,各教科等の特質に応じて,「児童がコンピュータで文字を入力するなどの学習の基盤として必要となる情報手段の基本的な操作を習得するための学習活動」及び「児童がプログラミングを体験しながら,コンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力を身に付けるための学習活動」について、「各教科等の特質に応じて,計画的に実施することと」を実現するためのICT環境整備基準の作成である。
コンピュータやICTの活用、プログラミング、アクティブ・ラーニングなど新学習指導要領が示す課題に対応するための環境としては、委員たちも文部科学省の担当者たちも決して「充分だ」とは思っていないだろうが、2020年を目指した全国展開、全校実施を前提とした、これからの学習活動を支えるICT環境の「ぎりぎり最低限の基準」となった。
8月2日に発表された「最終まとめ」は概ね、これまでに文部科学省が示してきた「次期学習指導要領実施に向けた普通教室のICT環境整備」のStage3レベルになっている。
以下、最終まとめに記された「これからの学習活動を支えるICT機器等と設置の考え方」と「これからの学習活動を支えるICT機器等の機能」から抜粋して解説する。自治体、学校関係者には、是が非でも実現して欲しい。
~これからの学習活動を支えるICT機器等と設置の考え方・機能~
大型提示装置
<設置の考え方>
・普通教室(特別支援学級関係室等を含む) 及び特別教室への常設(小学校,中学校,義務教育学校,高等学校,中等教育学校及び特別支援学校(以下、全学校種)
<機能>
・学習者用コンピュータ又は指導者用コンピュータと有線又は無線で接続させることを前提として,大きく映す提示機能を有するものを標準的な考え方とする。
「編集部解説」
1台70万円~100万円(スクール・ニューディール当時の大型電子黒板の価格)もするような高額、多機能な電子黒板をばらまいて、ほとんど使われなかったという苦い過去を繰り返さないためか「大型提示装置」という表現を使っている。つまり、大型テレビでもプロジェクターでも、電子黒板でも、情報端末などを接続して映写出来れば良いということ。それをすべての普通教室、特別教室に常設する。ICT活用の本当の第1歩だ。電子黒板が得意としていた様々な機能は、授業支援システムやアプリでほとんど代替えが可能になっている。
実物投影装置
<設置の考え方>
・普通教室(特別支援学級関係室等を含む)及び特別教室への実物投影機(書画カメラ)の常設(小学校及び特別支援学校)
<機能>
・大型提示装置と接続して提示するためのカメラ機能を有するものを標準的な考え方とする。
「編集部解説」
紙を使ったアナログとICTの中間的役割として便利なツールだが、タブレットPCやスマートフォンで代用可能になってきている。
学習者用コンピュータ(児童生徒用)
<設置の考え方>
・授業展開に応じて必要な時に「1人1台環境」を可能とする環境の実現(全学校種)
・故障・不具合に備えた複数の予備用学習者用コンピュータの配備(全学校種)
<機能>
・ワープロソフトや表計算ソフト,プレゼンテーションソフトその他の教科横断的に活用できる学習用ソフトウェアが安定して動作する機能を有すること。
・授業運営に支障がないように短時間で起動する機能を有すること。
・安定した高速接続が可能な無線LANが利用できる機能を有すること。
・コンテンツの見やすさ,文字の判別のしやすさを踏まえた画面サイズを有すること。
・キーボード「機能」を有することが必要。※小学校中学年以上では,キーボードを必須とすることが適当
・観察等の際に写真撮影ができるよう「カメラ機能」があることが望ましい。
「編集部解説」
学習者用コンピュータについては、1人1台の完全実施は困難としながらも、「1人1台環境を可能とする環境」を求めている。具体的には「3クラスに1クラス分程度」を設置して、授業では1人1台環境を実現するように求めている。現場の現状としては、タブレットPC、2in1PC、ノートPCなどが利用されているがここではどれがいいとは云っていない。ただ、今後の課題として、堅牢で高価な端末を求めて予算が確保できないなら、不具合が生じることが予想される廉価な端末でも予備を用意して対応するとか、アメリカの教育市場で普及している、220ドル程度の学習者用コンピュータ(Chromebook)を検討するとか、発想の転換が必要だとしている。
指導者用コンピュータ(教員用)
<設置の考え方>
授業における教員による教材の提示等を行うために,普通教室(特別支援学級関係室等を含む)及び特別教室で活用することを想定(授業を担任する教員それぞれに1台分)。
<機能>
・指導者用デジタル教科書等を活用する場合には,安定して動作することに配慮することが必要。
・「教育情報セキュリティ対策推進チーム」の検討を踏まえたセキュリティ対策を講じていること。
・その他の機能に関する基本的な考え方は,学習者用コンピュータ(児童生徒用)に準じること。
「編集部解説」
教師1人1台授業用端末は当たり前だろう。使い慣れたWindows PCに拘らず、タブレットPCやスマートフォンなどの活用もすれば、より多様な授業が可能になる。
充電保管庫
<設置の考え方>
学習者用コンピュータの充電・保管のために活用することを想定(全学校種)
<機能>
・電源容量に配慮すること。
「編集部解説」
BYOD(自前デバイスの持ち込み)による1人1台環境を実現すれば不要になる設備だが、3クラスに1クラス分を前提とした整備では必須の備品である。持ち運んでの利用も考えられるので、可動式も検討が必要。1人1台を見据える場合には、管理・運用やセキュリティ確保などのためMDM(モバイルデバイスの管理ツール)等の検討も必要だろう。
ネットワーク
<設置の考え方>
普通教室(特別支援学級関係室等を含む)及び特別教室における無線LAN環境の整備
(全学校種)
特別教室(コンピュータ教室)における,有線LAN環境の整備(全学校種)
<機能>
・外部ネットワーク等への接続のための通信回線は,大容量のデータのダウンロードや集中アクセスにおいても通信速度またはネットワークの通信量が確保されることが必要。
・校内LAN(有線及び無線)は,学級で児童生徒全員が1人1台の学習者用コンピュータを使い調べ学習等のインターネット検索をしても安定的に稼働する環境を確保することが必要。
・「教育情報セキュリティ対策推進チーム」の検討を踏まえたセキュリティ対策を講じていること。
「編集部解説」
初期投資が莫大な割に、自治体担当者にとっても教師にとっても、ICT関連設備でもっとも分かりにくいのが無線LANであろう。導入後のトラブルも一番多い。何故か、「見えない」というのがその原因だが、基礎的な知識に欠けている面も大きい。もちろん性能不足、設備不良ということ多々ある。業務用の無線LANを手掛けた事の無い、近くの電気店などに依頼した場合に起こりがちだ。
無線LANはICT活用環境で最低限必要な設備ではあるが、最終まとめでは「調達時における学校のICT環境の整備状況によっては,LTE等の移動通信システムの活用が適当な場合も考えられる」とセルラー方式の検討も提示している。
いわゆる「学習用ツール」
<設置の考え方>
ワープロソフトや表計算ソフト,プレゼンテーションソフトなどをはじめとする各教科等の学習活動に共通で必要なソフトウェア(いわゆる「学習用ツール」)の整備(全学校種)
<機能>
・学習者用コンピュータにおいて,支障なく稼働すること。
「編集部解説」
いわゆる「学習用ツール」というのがどうもMicrosoftのOfficeを前提とした表現なのが「ぎりぎり最低限」とも違う気がする。ICT活用を目指すなら、授業支援システムやプレゼンテーションアプリ、ビジュアルプログラミング言語等を前提にして欲しいところだ。デバイス選定で「MicrosoftのOfficeが使えること」を条件とした場合、かなり絞られてしまう。
学習用サーバ
<設置の考え方>
・各学校1台分のサーバの設置(全学校種)
<機能>
・授業運営に支障がないよう,安全で安定的な品質の通信を確保できること。
・「教育情報セキュリティ対策推進チーム」の検討を踏まえたセキュリティ対策を講じていること。
「編集部解説」
セキュリティ、管理・運用のしやすさ、ポートフォリオの構築などICT活用環境を考えると、教育委員会による一元管理(クラウドの活用)を行うことが望ましい。最終まとめでは、「約77%の学校が学習用サーバを学校に設置している現状を踏まえ,当面,各学校1台分のサーバの設置を前提とする」としている。いずれにしても、パスワードを書いた紙をデスクに貼っておいたり、大切な情報は自分が持っているのが一番安全と思っているような教職員の意識改革が何より大切だろう。
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最終まとめは最後に「今後の課題」として、「今後、新学習指導要領で求められているICTの特性・強みを生かした主体的・対話的で深い学び等の機会を確実に確保する観点から,学校におけるICT環境整備を加速化させるためにも、「教育ICT環境整備指針」を策定するにあたっては,学校におけるICT環境整備のあるべき姿の提示はもとより,調達する教育委員会の担当者に対しても適切な情報を提供することが可能となるよう、世界的な教育市場の動向等も参考にしつつ、サポート体制も含めた学習者用コンピュータその他のICT機器等の効率的な調達の在り方等について、更に検証を行い、学校用ICT機器等の低価格化に向けた具体的な検討を行う必要がある」と、基準では無く、価格の「ぎりぎり最低限」が必要だと締めくくった。
少ない予算で最大限のICT活用効果を。それが何よりの課題なのである。
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