2017年8月7日
~EdTech最前線~「あるよ」と出てくる100以上のレッスンコース/ AI英会話アプリ「テラトーク」
~EdTech最前線~
「あるよ」と出てくる100以上のレッスンコース/ AI英会話アプリ「テラトーク」
型破りな検事が主役のドラマで、通信販売好きの主人公が通販番組を観ながら一杯やるバーのカウンター。なにか食べたいものを思いついてマスターに「○○なんて・・・」と訊ねると、マスターが振り返って「あるよ」と言う。取材中に、あの名場面を思い浮かべてしまった。
取材対象は、AI英会話アプリ「テラトーク」を開発したジョイズの代表取締役 柿原祥之さん。私が「英語がもう少しだけでもできたらいいのになあ、と思うことが度々あります。会社が日本橋の近くで外国人の旅行者が多いのですが、スマホを見つめながら困っている姿をよくみかけます。そんな時“May I help you”と訊ねてあげたいんですが、その後が続かないんです。その先の会話に少しでも自信があったら声が掛けられるんですけどね」と話すと。
「ありますよ」と柿原さん。「“道案内コース”があります」。
続けて「記者さんみたいなお仕事だったら、“報道記者”とか“記者会見でのカメラマン”とか“政治家のプレスインタビューでのジャーナリスト”、“アナウンサー/リポーター”なんてコースもありますよ」と柿原さん。因みに“アナウンサー/リポーター”は、最難関のコースだとか。
「テラトーク」の大きな特徴の一つが、シチュエーション別のレッスンにある。ビジネスシーや旅行といった定番コースから、駅員、美容師、客室乗務員、銀行員、ホテルの受付、コンシェルジュ、販売員などの職業別コースの他、メジャーリーガーやサッカー選手、ハリウッド映画スターなどという普通の人々には無縁なコースまで100以上が設定されている。
そして、多くのコースで培われたノウハウは、オーダーメイドも可能にしている。最近では、女子高校の英検面接対策用の夏休みコースやサッカースクールのコーチ用、大学や留学支援団体のスポーツで海外留学する学生・生徒に対する「留学支援用プログラム」の開発も行っている。
「テラトーク」の特徴をまとめると「多彩で融通が利く」ということ。そんな「テラトーク」を開発した柿原さんに英語との関わりや起業について話を訊いた。
中学生時代英語は苦手だった
中学時代の柿原さんは、英語が一番苦手だったという。
そんな柿原さんが英語の母国イギリスに興味を持ったのは、2002年日韓ワールドカップ。新潟で行われた、イングランドVSデンマーク戦を観戦。「サポーターの応援が迫力あるなあ、と思いました。あわせて、イギリスもいいなあって」と柿原さん。思えば、大好きな理科に登場する“ニュートン”“マックスウェル”“ダーウィン”もイギリス人。英語圏への留学と言えば、米・豪・加が一般的で検討もしていたが、この頃父親が時々出張していたこともあり、一気にイギリス留学へ傾いたという。
それから3年、高校2年の夏にイギリスの高校に入学する。その頃の英語の能力は英検2級か準2級レベル。授業についていくのは簡単だったし、学校では困らなかったという。しかし、日常会話には困った。授業の内容は予想できるが、友だちとの会話で交わされる軽口の内容は予想ができないし、訛りもある。
使える英語を身につけるため、柿原さんは一つのことを決意する。それは、英語を訳して日本語にしないこと。つまり「和訳」をやめること。分からない英語は英和辞典ではなく、英語の「類語辞典」で調べること。イギリスでの生活を始めてすぐに、和訳していたのでは英語は話せないと悟ったという。
類語辞典では、易しい語句から難しいものまで整理されて掲載されている。その仕組みは「テラトーク」にも活かされているという。
高校に2年通い大学に入学した。大学には在学中に1年間休学して、学位に関係のある企業で働くというプロジェクトがあった。経済学部なら証券会社や銀行に、半年+半年とか。柿原さんは専門が物理だったのでシーメンスや国立研究所を受験したが、縁あって気象庁で1年間働くことになった。2007年8月から1年間。20歳の時だった。
起業向かって
気象庁での柿原さんの仕事は、気象データの解析と可視化。仕事内容はITだが、サイエンス的な資質が必要になるという。専門家から話を訊いて、膨大な情報を処理しなければならない。
気象庁で出合った直属の上司が、その後の柿原さんに大きな影響を与えた。その人は、元学生起業家であり、設立した会社を売却して気象庁のIT部門を担当していた。凄腕のエンジニアであり有能なビジネスマンだ。ITを活用してビジネスを興す。起業家の目標として多大な影響を受けたという。
大学卒業が近づいた柿原さんは、迷っていた。キャリアをどうするか。ひとまず日本でスタートさせるか。イギリスの永住権を取得するか。両方で就活をやってみることにした。日本では、春休みで帰ってきて就活をやった。ソニーから内定をもらったので入社することにした。音の技術や知財のポートフォリオ、技術渉外などもやってみたかった。
2010年にソニー入社。海外向けのカーオーディオやカーナビ、スマートフォンとの連携技術などを担当した。ソニーには4年半在籍した。後半の2年間、新規事業部門を担当しているうちに、自分で起業しようという気持ちが湧いてきた。昔からいつかは起業という思いがあったのだ。
一人で起業 創っては壊し、創っては壊しの繰り返し
起業といえば、志のある仲間が同じ目標に向かってスタートするというのも多いが、柿原さんは一人ではじめた。何をやるか決まっていなかったので、とにかく覚悟を示すために起業したのだ。いくつかプランはあったが、一番思いが強いのは英語だった。2012~13年ころ、深層学習が出てきて音声の分野でも技術革新が進んだ。「自分なら技術と経営を同じレベルで取り組める」。そう考えた柿原さんは、自分の技術を確認すると共に、論文を読み漁った。
音声だけのコンセプトのプロトタイプは、1カ月かけて自分で作った。プログラミングも自分でやった。創っては壊し、創っては壊しの繰り返し。そのプロトタイプとビジネスプランで資金を集め、フリーランスの技術者に手伝ってもらいながらアプリ化を進めた。
合成音声で会話している気分になるか。
シナリオを与えてチャットボットが対応できるか。
ストーリーはこれでいいのか。
アプリ化は本当に大変だったという。改善とコース作りのオペレーションを繰り返した。
資金集めで半年かかったが、創業から1年半で製品化。2014年10月創業、2016年2月に製品化が実現、「テラトーク」が誕生した。
もともとビジネスマンを対象にした英語学習アプリとして設計したが、AIをベースにした仕組みが思いのほか柔軟な対応力があり、学校でも使えることが分かった。オーダーにも応えられる。
ワールドワイドな展開は考えないのかと訊くと。「あるよ」ではなく、「もうやってます」という答え。Android版のアプリは既に世界展開を開始、サウジアラビアとブラジルは特にシェアが高いという。イギリスでも留学者用の英語サポートとして、入学準備などへの活用を計画している。英語でも独自の進化があるので別の対応が必要だという。渡英時に苦労した訛りについては、米、英、豪に対応している。
直近では国内の学校、企業向けに注力するが、ワールドワイド展開は「絶対本格的に取り組む」と、力強く宣言した。2020年に向かって、増大する外国人旅行者に対して「自動翻訳装置」の開発で対応しようという分野もあるが、柿原さんは最低限の意思疎通とおもてなしの気持ちで、翻訳マシーンとは違うコミュニケーションを多くに人に体験して欲しいと考えている。そのために「テラトーク」のボランティア向けや土産店向けも検討中だという。
自覚はないが パソコン小僧だった
少年時代はさぞかし「パソコン小僧」だったんでしょうね、と訊ねると。「そんなことはないですよ」という答え。ただし、少しずつ思い出してもらうと、「そうですね、僕の通っていた松戸市立馬橋小学校がパソコン重点校で1988年にはPC教室を設置していて、僕たちの頃はPCは1人1台でした。まだWindowsとかではなく、ロゴライターとかやってましたね。家にもPCがあり、ダイヤルアップでインターネットやったり、タイピングの練習などをしていました。中学生の頃は、友だちとWebサイトを作ったり、音楽の打ち込みなんかもやっていました」と、かなりの「パソコン小僧」振りである。
「思い返すと結構恵まれた環境だったんですね」と柿原さんは振り返る。柿原さんの同級生には、エンジニアになっておる人が多いというが、恵まれたPC環境のお陰かもしれない。20数年前に柿原さんが享受できた特別な環境が、どの学校でも普通に児童生徒が享受できるようにするのが教育関係者の重大な責務なのではないだろうか。
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