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2025年2月20日

「現在の学生がAIを学ぶ意義」第2回:〜AI時代に取り残されないエンジニアとなるために〜

【寄稿】

[はじめに]
前回は現役の学生の皆様に向けて、AIを学ぶ必要性について幅広くお話ししました。現在、就職活動の段階で既に「AIが使えるかどうか」によって差が生じており、この知識の有無が将来のキャリアに大きく影響を与えています。しかし、知らないリスクは、身近に迫っていても気づきにくいものです。だからこそ、意識的に情報を集め、AIの重要性を理解することが求められます。

今回は、特に情報分野を学び、将来エンジニアを目指す学生の皆様に向けて、AIを学ぶ意義についてお話しします。

IT技術を学んでいると、家族や友人、アルバイト先でパソコン関連のトラブルを相談された経験があるのではないでしょうか。プログラマーだからといって必ずしもIT全般に精通しているわけではありませんが、現代社会では、ITに詳しい人は当然のように幅広い知識を持っていると見なされがちです。

同様に、AIが一般化する時代では、システム開発を依頼する顧客がエンジニアにAIの知識があることを前提とする可能性が高くなります。これから多くのAIを組み込んだアプリケーションが世に出回ることを踏まえると、AIの知識不足はエンジニアとしての信頼性にも影響を及ぼすでしょう。そこで、今回はAI時代に求められるエンジニア像について詳しく解説します。

Photo by PIXTA

1.国内アプリケーション市場の動向

現在、AI市場は急速に拡大しており、特に生成AI市場は著しい成長を遂げています。日本電子情報技術産業協会 (JEITA) が2023年に発表した調査によれば、日本国内の生成AI市場は年平均47.2%という高成長を続け、2023年には1188億円だった市場規模が、2030年には1兆7774億円に達すると予測されています。特に、生成AI関連アプリケーションが市場全体の9割を占めており、今後も生成AIを組み込んだアプリ需要が増加するでしょう(※1)。

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さらに、2024年6月21日に開催されたIDC Directions Japanの「AI Everywhere がもたらすデジタルビジネスの加速」に関する講演では、同社シニアリサーチアナリストの太田早紀氏が「国内ア プリケーション市場は今後さらに拡大し、特に生成AIを組み込んだアプリケーションへの需要が増大することは疑いの余地がない」と述べています(※2)。

一方、経済産業省が2018年に発表した「2025年の崖」とIPAの「DX動向2024」(※3)によれば、 2023年度時点でレガシーシステムの刷新が進んでいる企業は58.0%にとどまっており、依然として多くの企業がレガシーシステムを抱えています。2025年を迎えた今、レガシーシステムのリプレース需要がさらに高まり、AIや自動化技術を活用したモダナイゼーションも並行して進むと考えられます。

このように、今後は生成AIを筆頭に、AIを組み込んだアプリケーション開発の需要が確実に増加するため、エンジニアにはAIに関する知識が必須となるでしょう。

2.超高齢化社会による人材不足

日本では少子高齢化が進行しており、「2025年問題」が話題となっています。超高齢化社会の到来により、2030年には多くの企業が人材不足に直面し、全国で約650万人の人材が不足する予想です(※4)。国内のアプリケーション市場が拡大する中、企業にとって、限られた人材で効率的に開発を進める方法を模索することが求められています。

そんな中、エンジニアの業務を効率化するツールとして、AIの活用が進んでいます。2024年11月、GitHub Japanが発表したデータによると、GitHub Copilotを活用することでエンジニアのプログラミング作業が最大55%短縮できることが示されました(※5)。実際、多くの企業がこの技術を取り入れ始めており、プログラミングのやり方そのものが変わりつつある状況です。海外では、こうしたAI活用がすでに進んでおり、例えばAmazonは社内のJavaアプリの更新にAIを活用し、4500年分の工数を削減したと報告しています(※6)。こうした事例を見ると、「AIによるソフトウェア開発」は単なる一時的な流行ではなく、今後の主流になる可能性が高い。

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AI活用が進む一方で、日本におけるAIスキルの習得状況は、他国と比較して遅れているのが現状です。Deloitte Insightsの「アジアパシフィックにおける生成AI」調査レポートによると、生成AIに対して積極的なアクションを起こしている日本の学生やビジネスパーソンの割合は、調査対象国の中で最も低く、アジアパシフィック平均を大きく下回っています(※7)。ここでいう「アクション」とは、生成AIの基本について調べる、プログラミングスキルを磨く、生成AIに関して他者と協働する、正式な学習を行うといった取り組みです。この結果から、日本ではAI技術を活用するためのスキルを持つ人材が不足していると言わざるを得ません。

こうした背景もあり、IT業界では海外のエンジニアの採用が進んでいます。ヒューマンリソシアの調査によると、2023年時点で情報通信業に従事する海外人材は8.5万人に達し、過去10年間で3倍に増加しました(※8)。コロナ禍以降、テレワークの普及で働き場所に制約がなくなり、AIによる翻訳能力が向上したことで、今後ますます海外人材の活用が進むと考えられます。

海外のエンジニアが次々と日本の就職市場に参入する中、日本のエンジニアもAI技術を習得し、競争力を維持する必要があります。これからIT業界を目指す学生にとって、AIスキルの習得は急務です。

3.AIを組み込んだ開発で求められるスキル

生成AIを組み込んだシステム開発には、従来のソフトウェア開発スキルに加え、AI特有の知識と実践経験が必要です。従来のルールベースのプログラムとは異なり、生成AIは確率的に出力を生成するため、結果にばらつきが生じます。そのため、信頼性の高いシステムとして統合する技術が求められます。

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まずは、ディープラーニングやニューラルネットワークの基礎理論を理解し、どのように出力が生成されるかを学ぶことが重要です。これには数学や統計学の知識も必要であり、単にアルゴリズムの動作を理解するだけでなく、実際のデータを用いた実験を通じて挙動を把握する必要があります。

また、生成AIの活用に留まらず、モデルの開発も含めたシステム全体の構築においては、データの収集・整備、前処理、モデル構築、評価といった一連のプロセスを知る必要があり、それぞれの段階で多くの試行錯誤が伴います。

例えば、画像認識のプロジェクトでは、数万枚に及ぶ画像データを用いてモデルのトレーニングを実施します。画像データの準備自体が大変である上に、最適なパラメータを見つけるために何度も実験を繰り返して、実用に耐えるモデルを完成させます。弊社で取り組んだ食べ物の完食率をAIで算出するプロジェクトでは、レンゲとスプーンを識別するAIモデルの作成にあたり、学習用画像を2万枚用意し、その画像に対して行ったラベリング作業の結果、付与したラベルの数は20万を超えました。

このように、AI開発ではノウハウの蓄積が不可欠であり、学んだ知識を実践に移し、効果を出すシステムを作り上げるには多くの時間と努力が必要です。

4.AI時代に取り残されないエンジニアとなるために

近年の生成AI技術は飛躍的に進化し、従来の補助的な役割を超えて、メインコンテンツの生成まで可能となりつつあります。完全にAIがエンジニアを代替する未来はまだ先かもしれませんが、既にAIと協働してプログラムを作成できるエンジニアは、大きな競争優位性を持っています。

海外では先進的なAI技術の導入が急速に進み、多くのエンジニアが最新のAIスキルセットを習得しています。国内のエンジニアも遅れを取らないよう、AI技術を駆使し、創造性と生産性を向上させるスキルを磨くことが重要です。

エンジニアにとって、これまで経験したことのない変革の時代が迫っています。AI時代に取り残されないために、今こそAI技術を積極的に学び、実践していきましょう。

※1:調査統計ガイドブック2024-2025
※2:生成AIで企業アプリはどう変わる?社員が身に付けないとヤバいスキルとは
※3:DX動向2024
※4:労働市場の未来推計 2030
※5:GitHub、日本は生成AIプロジェクトで世界7位
※6:4500年かかるはずだったJavaのバージョンアップを生成AIで実現した話
※7:アジアパシフィックにおける生成AI
※8:[ITエンジニア編]日本で働く海外人材レポート

◆執筆者
株式会社dott
AI教育事業部部長 市川 英将
専門学校でプログラミングを学びエンジニアとしてキャリアを開始。その後、教員として情報技術を指導し、教員時代終盤は学科長として教育改革を推進。現在の会社に転職後、AI関連のプロジェクトを経験し、AI STUDIOの開発を開始。教員時代欲しいと感じていた、「教育者にとって使いやすく、活きた知識と技術が教えられる教材」を目指し、最新のAI技術を教育現場に届けるべく尽力中。

関連URL

AI STUDIO

dott

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