2014年7月22日
先生のための初級ICT教育講座 Vol.1「教育現場でiPadが選ばれる5つの理由」
《初級ICT教育講座》Vol.1
教育現場でiPadが選ばれる5つの理由
iOSコンソーシアム文教担当 野本竜哉
最近、学校へのタブレット導入事例が相次いでいる。特に今年度は導入ラッシュの様相で、私立学校だけでなく自治体レベルでの導入案件も出て来た。ただ、一口にタブレットと言っても、搭載するOSが異なる3大陣営(Windows、Android、iPad)で、使い勝手がかなり異なってくる。
その中で教育機関での導入事例が目立つのがiPadだ。当初私立学校での導入事例が多かったiPadだが、最近では公立学校での導入事例も増えてきた。しかも、一度本格導入した学校が他のOSのタブレットに途中で「乗り換えた」事例はほとんど存在しない。なぜ、教育現場ではiPadが強さを発揮しているのだろうか?
本稿では、筆者が多くのタブレット導入校を訪問し、利用状況を見てきて分かった「カタログでは分からない差異」からiPadの優位点を5つのポイントに分けて分析する。
1.電池の持ちの良さ
タブレットの電池の持ちの良さは当然ながら、使い方によって変わる。だが、一般的にWi-Fi経由でインターネットを利用する場合の連続駆動時間は、カタログを読むとどのモデルもだいたい9~11時間程度で大差が無いように見える。だが、iPadにはカタログデータに表れない圧倒的な有意点がある。
それは「スリープ状態だと殆ど電池が減らない」ことだ。スリープにしたまま1週間程度放置しても、バッテリー残量表示がせいぜい数%しか減らないのだ。
実は、タブレットを導入している学校の授業を見ると分かるが、タブレットを授業内で使っている時間は意外にも短い。先生の話に集中したり、紙のワークシートに取り組んでいたりする時、タブレットのカバーは閉じられている(=スリープ状態)。連続して利用する機会というのは授業中ではそれほど多くないのである。そのため、生徒に聞くと「数日間は充電なしで使える」という声が大半だ。
一方、WindowsやAndroidはスリープ状態の時でもある程度電池が減って行くのが実感できる。特にAndroidはスリープ状態でもバックグラウンドで通信を行うため、比較的新しいモデルでもいつの間にかバッテリー大幅に減っていたり、使おうとおもったら電源が切れているというシーンに遭遇することもよくある。(筆者はプライベートではiPadとAndroidを適宜使い分けている)
2.圧倒的に充実しているアプリ群
専用に設計されたアプリの数で、iPadは群を抜いて多い。もちろん、Windowsタブレットでは長い歴史の中でWindows向けに作られた(自作も含む)無数のソフトやフリーウェア等が使えるので、それらを入れると数は逆転する。
だが、重要なのは「専用に設計されている」という点だ。実は“マウス時代”に作られたアプリは、ボタンが小さかったり画面レイアウトが崩れたりして、必ずしもタッチ操作がしやすいとは限らない。使ってみると分かるが、「タブレットに最適化されている」かどうかが、操作性において雲泥の差なになるのだ。
その点、iPadはモデルによって差異が非常に少ない。旧型のiPad向けに作られたアプリでも、見た目を崩さず使えるよう配慮されてため、開発者はあまり最適化を意識しなくても、見栄えや操作性が高いアプリが作りやすい。これはアプリ完成後の検証作業を(機種ごとの見え方の違いをあまり意識せずに済むので)非常に簡単にしている。そのため凝ったデザインのアプリを作りやすいのだ。
事実、iPadには極めてデザインや演出に凝った高品質なアプリが世界中でリリースされており、教育系アプリの充実度や完成度については他の追随を許さないほどの差であると言っても過言ではないだろう。
もちろん、昨今ではWebブラウザー上で動作する「Webアプリ」が盛り上がっており、これらはiPad/Windows/Android 関係なくほぼ同じように使うことが出来る。Webアプリが増えれば増えるほど、OS毎の差分は小さくなっていくだろう。ただ、同じようにWebアプリが使えるのであれば、それに加えて通常のアプリが多数選べる方が引き続き優位とも言える。
多くの場合、Webアプリよりも通常のアプリの方が動作レスポンスなどが良いため、アプリ回りでのiPadの優位性は当面、揺るがないと言えるだろう。
3.セキュリティ面での安心感が強い
iPadはWindowsやAndroidと比べると「比較的セキュリティが強固」であると言われる。勿論、人間が作ったソフトウェアで動いている以上、セキュリティに万全は無い。しかし、iPadやiPhoneなど「iOS」向けに作られたアプリは、“原則としてAppleの審査を通さないと配布できない”という点において大きな安心感がある。また、アプリ開発者がiPad内にある個人情報等のデータを勝手に利用しにくい構造になっているのもポイントだ。
Androidはこうした審査やチェックが「後付け」であったり、公式ストアを経由せずにアプリを導入できるオプションがある。実際Androidでは、ユーザーの知らないところで文字入力履歴を海外に送信していた事例があった。Windowsについても世界中の開発者が様々なプログラムを自身のホームページ等を通して公開しているため、意図しないアプリを導入してしまうリスクがある。
ならば(生徒にとって良いか悪いかは別として)こうした外部アプリをインストール禁止にするという方法もあるだろう。ただ、Windowsタブレットの場合はあくまで「パソコン」。制限や設定には相応の知識が必要になる。Androidについては機種毎に設定方法やメニュー構成が異なるため、導入する学年毎に対応方法が微妙に異なる可能性がある。
一方iPadの場合は、後述する保守ツールで「App Store」を非表示にしてしまうだけで、アプリ導入禁止の対応が可能だ。セキュリティを確保するために必要な知識の敷居が低いと言う点でも、iPadは初心者にとって心強い。
ただし、最初に記載した通りセキュリティに万全はない。iPadの設定を行うコンピュータ(Macなど)がウィルスに感染し、そこからiPadの設定を変更してしまうような事例も報告されているし、少し前にはiOSに脆弱性が見つかったケースもある。あくまで「他者と比較して」より簡単に安全性を得られる、という意味合いだ。
4.実はトータルコストを考えると安い
iPadは他のタブレットと比べると本体が高価だ。特に8型のWindowsタブレットや、少し前のAndroidタブレットより数万円割高なことも多いし、値引きもほとんど行われていない。そのため、どうしても導入時のコストから躊躇するケースが多い。だが、実は「学校で3年程度使った場合」のトータルコストで考えると決して高くはない。
なぜなら、ソフトウェアやライセンス関連の「維持費」があまりかからないからだ。例えば、Officeアプリを別途ライセンス契約したり、3で示したセキュリティを確保するためにウィルス対策ソフトを導入したり、保守管理用のツールを別途購入したり、といった具合に、生徒に使ってもらうためにはある程度の「付加コスト」がかかる場合がある。
一方、iPadはワープロ、表計算、プレゼンテーションソフト(OfficeでいうWord,Excel,PowerPoint 相当)が昨年秋以降、無料配布されている。またiPadにわざわざウィルス対策アプリを入れている学校を今のところ、筆者は知らない。iPad保守管理用のツールもAppleが無償で配布している。(ただしMac版のみ)
また、辞書やデジタル教科書、教育系アプリなどの一部有料アプリには、20本以上購入すると半額になる「Volume Purchase Program(通称:VPP)」が適用出来るものもある。このサービスはAppleが教育機関限定で提供しており、学校によっては数百万円のコストダウンを実現した事例がある。
さらに、iPadはOSのバージョンアップを比較的長く提供している。AndroidやWindowsが2年、3年程度で古いバージョンからのOSのアップグレードを補償しない(Androidの場合はそもそもバージョンアップ自体が出来ない)ケースがままあるが、iPadについては2011年春に発売されたiPad2(登場当初はiOS4)に、この2014年秋に登場する4世代先の「iOS8」がインストール可能なことがアナウンスされている。しかもアップグレードはこれまで無料で行われている。
OSのアップグレードは時に動作不安定などの問題点を引き起こすこともあるので必須ではないが、少なくとも登場から3年以上は「最新のOSで利用出来る」という事例がすでに示されている安心感はある。(もちろん、これが今後も約束される補償はないが…)
5.同一アプリや設定の一括投入が容易に行える
iPadの導入校の多くがセットで利用しているのが、Apple社が提供しているiPad保守ツール「Apple Configurator」だ。これはMacで動作する無料のソフトで、USBで接続されたiPad、iPhoneやiPod TouchなどiOSを搭載機器に一括で同じ設定を投入出来る便利なツールだ。
Wi-Fiのパスワード投入、ユーザーがアプリを勝手に入れないようにする機能制限や、教師側が事前にインストールしておきたいアプリの一括投入などが一気に行える。使い方を覚えるまでは少々戸惑う部分があるが、慣れてしまえば快適そのもの。今まで手作業でやっていたのは何だったんだろう、と思うこと請け合いだ。
また、「Apple Configurator 」を使うとWindowsでいう「システムの復元」のようなことも可能。時々iPadを改修し、内部のバックアップをとっておけばその時点までの情報に復元することもできる。この仕組みを使って、共用のiPadを貸出から戻ってくる度に初期化するという運用が行われている学校もある。復元はUSBでMacとiPadを接続して数クリックという手軽さだ。
同様のことが出来るツールがWindowsやAndroidに無い訳ではない。MDM(Mobile Device Management)というツールの中に近い機能が網羅されているケースもあるが、こうしたツールはほとんどが有料で、かつツールやタブレットによって出来ること、出来ないことがバラバラだ。導入するならば、よく調べる必要があるだろう。
このように、全体的にiPadは利用者、管理者双方にとって、充電、セキュリティ、保守などの面で「比較的、手がかからない」という点で大きなメリットがあると言える。勿論、これはあくまで「現時点」の話。Windowsタブレットは自治体レベルで大規模導入する事例も増えており、特に「管理」や「活用」のためのノウハウは今後、急速に蓄積されて行くことだろう。
ただ、筆者はiPadだけが絶対的な強さを示す状況は望んでいない。業務用コンピュータはWindows、プライベートの端末はAndroidとiPadの複数台持ちであり、常に色々なデバイスを比較検証しているので、それぞれに良さがあることは充分認識している。WindowsやAndroidが学校現場で「これは!」と唸る事例を見せてくれることに大いに期待したい。
野本竜哉
一般社団法人iOSコンソーシアム文教担当。
「企業と教育者を繋げる」をモットーにイベント/講演/メディア寄稿を実施中。
iPad等のタブレットを始めとした持続可能な教育のICT化の方策を日々追求している。
nomoto@ios.or.jp
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