2024年2月20日
プログラミングの新指導実践:「人生力」を高める授業と入試対策の両立への挑戦/東京都立神代高校
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東京都立神代高校では、大学入学共通テストへの対策を盛り込んだ「情報Ⅰ」の指導のあり方を模索して、ベネッセのデジタル・情報活用力学習プログラム「Pスタディ」を活用した授業を実践した。従来通りプログラミング等の実習を充実させて実践的なスキルの習得を図るとともに、入試への対応力を育むための指導について、「情報Ⅰ」担当の稲垣俊介先生に話を聞いた。(2023 年11 月15 日取材)
取り組みの背景:生徒の学習意欲を引き出す1 学期の対話型演習
東京都立神代高校の「情報Ⅰ」を担当する稲垣俊介先生は、生徒が学習内容を「自分ごと」ととらえて学びを楽しめることを何より大切にしている。「情報Ⅰ」に対する関心や学習意欲は個人差が大きく、中にはパソコン操作などのスキルを習得するだけの授業と思っている生徒もいることが理由だ。教科への意識が低い状態のまま授業を進めると、「自分には無関係」などと思い違いする生徒が出る恐れもある。
そこで稲垣先生は、「情報Ⅰ」はこれからの人生をよりよく生きるために欠かせない力を育てる教科であると全ての生徒に理解してもらうために、1年生の1学期に約3か月間をかけて「30 歳のわたし」という演習を実施している。
この演習では、30 歳になった生徒が卒業生として同校を訪問し、目の前の高校生に向けて自身のキャリアを振り返ってプレゼンテーションするという設定で学習活動を進める。
生徒は、自分の将来を考えてプレゼンテーションの下書きの作成を進めるが、稲垣先生は完成に近づいたタイミングで、「現在のテクノロジーに基づく職業の説明になっていませんか?」「15 年後と今は全く違う社会のはずなので、それを反映した内容に修正してください」と指摘する。
「授業中にSociety5.0 に関連する動画も視聴し、生徒は社会やテクノロジーの変化について考えを深めていきます。そして、こうした時代の変化に対応していくためには、『情報Ⅰ』をしっかりと学ぶ必要があるという話をして、これから始まる学びの意義を理解してもらいます」(稲垣先生)
生徒は、社会の変化について科学的な視点で考えながら自分の将来設計を立て、プレゼンテーションを作成し、発表をする。その後、その将来像をポスターとして表現をしたり、目指す将来となるため、これからやらなければならないことを明確にする特性要因図を作成したりするという実習をする。これら一連の過程には、「情報社会の問題解決」や「コミュニケーションと情報デザイン」の学習要素も含まれており、生徒が「情報Ⅰ」の学びを様々な場面で活用できることが実感できる流れとしている。こうして「情報Ⅰ」に対する関心や学習意欲を高めたうえで、プログラミングの単元に入っていく。
大学入学共通テストに向けたプログラミング指導の見直し
例年、稲垣先生は前年度のカリキュラムを土台として年間指導計画を作成し、事前に全ての定期考査の問題を作成したうえで、独自の教材を用いて授業を進めてきた。だが、昨年度より大学入学共通テストへの対策を考慮して、指導の内容や方法の試行錯誤を続けている。稲垣先生は、東京都高等学校情報教育研究会において、大学入学共通テスト「情報Ⅰ」の分析を担当する立場でもある。
「これまでの教科情報には外部試験がなく、授業を通して学力が育っているかを確認する手段は、授業者である教員が作成した定期考査しかありませんでした。その点で『情報Ⅰ』が大学入学共通テストに含まれたことは、とても前向きに受け止めています。それをよい機会として、大学入学共通テストレベルに対応できる授業ができているかを確かめるため、これまでとは異なる指導を試したり、年度の途中にカリキュラムを修正したりしながら柔軟に進めています」(稲垣先生)
特に大きく見直したのが、「コンピュータとプログラミング」の領域だ。
「プログラミングは、生徒によって得意・不得意の差が大きく、以前から全体を底上げする指導が重要だと考えてきました。さらに、プログラミングの学習には実習が欠かせません。多くの実習を交えた授業を行いながらも、いかにペーパーテストに対応する学力を育むかを検討していく必要があると考えています」(稲垣先生)
今年度のプログラミング学習では、8学級を2グループに分けて、一方は従来と同じく稲垣先生が作成した教材を、もう一方は「Pスタディ」を用いた授業を展開(※)し、より効果的な授業のあり方を探った。
※ 更に2 学級ずつに分け、教師指導中心と生徒自習中心の合計4 グループ(各2 学級)で実施した。
自分だけの夢のアプリを創造しプログラミングの価値を実感させる
プログラミング学習の冒頭では、全学級共通で、2時間のオリエンテーションを実施した。これは生徒に、学習内容を「自分ごと」ととらえさせることが目的で、稲垣先生は各単元の最初に同様の活動を取り入れている。
同校では、プログラミング学習はやや取っつきにくいと感じる生徒が多く、学習意欲を失う恐れがある。そうした壁を乗り越えるためにも、プログラミングを理解すると、「自分の生活が便利になる」「自分の人生が豊かになる」といったイメージを持たせることを目指した。
オリエンテーションでは、生徒一人ひとりが自分の理想とするスマートフォンのアプリを考えて発表し合う活動を展開した。生徒は、「こんなアプリがあったらうれしい」という視点で考えを深め、アプリのメイン画面のデザインや機能の紹介、そのアプリがほしい理由などをワークシートに記入。グループでの話し合いを経て、1 人45 秒間で全体に向けてプレゼンテーションを行った。
稲垣先生は、オリエンテーションの最後に、「授業でプログラミングの基本を学べば、プログラミングの専門書を理解できるレベルになり、そうなれば自分がほしいアプリを開発できます」と伝え、生徒たちのプログラミング学習に対する目的意識を高めた。
「Pスタディ」を使った、効果的な指導の検討
「Pスタディ」を活用した4学級のうち、2学級は稲垣先生がていねいに内容を説明し、他の2学級は自学形式で質問に答えるという異なる指導法を行った。
「どちらの授業でも特別な準備は必要なく、基本的に『Pスタディ』の教材をそのまま使って進行しました。授業準備に時間がかからないため、授業を面白くするためのプラスアルファの情報や生徒に見せたい実物などを用意する余力が生まれやすいと感じました」(稲垣先生)
「Pスタディ」を用いた2つの指導法を行い、見えてきたことがあった。稲垣先生が教材に沿って説明した学級では、生徒の興味を引く話をして学習意欲を高めやすかったほか、理解できていない生徒が多いと感じた箇所では説明をし直せるといったよさがあった。一方で、わからない箇所がある生徒が質問しづらい、理解の早い生徒が全体に合わせる必要がある、といった課題もあった。
また、自学形式の学級では、生徒が教え合いながら理解を深めていく姿が見られたほか、机間指導している先生に質問しやすい、理解の早い生徒はどんどん先に進めるといった利点があった。その半面、何を質問すればよいかがわからずに手が止まってしまう生徒も見られた。
「2つの指導法の併用がよいという結論に至りました。難しい内容は教員が関連トピックなどを交えてわかりやすく説明し、実習では、得意な生徒は自由に先に進め、苦手な生徒には個別にフォローを入れられる教員の適度なかかわりを持つ自学形式がよさそうです」(稲垣先生)
授業ごとのリフレクションで生徒の理解を深化させる
さらに全学級共通で、授業で学んだ内容を定着させるために、毎授業の最後に、宿題として振り返りのフォームへの入力を求めている。フォームには、「アルゴリズムとは何でしょうか?」「順次処理について説明しましょう」など、授業のポイントを説明させる問いを設けており、本的には「Pスタディ」を見返せば対応できる内容としている。さらに、授業で学んだことや感想についてまとめるリフレクションの記入も重視している。
「生徒には、『〇〇が面白かった』といった感想でもよいと話しています。学習時に抱いた思いや感情を交えて学んだことをまとめると記憶として残りやすいと考えています。毎回、リフレクションの分量が多い生徒ほど、定期考査の点数が高いという結果も出ています」(稲垣先生)
他教科の学習時間を確保できるように、スマートフォンで送信できるフォームを活用しているが、一旦、紙に記入してから転記する生徒が少なくなかった。そのため、同じ内容のプリントを作成し、二次元バーコードからフォームにアクセスできるように配慮している。
実習の楽しさで育てる入試対応力 稲垣先生の「情報Ⅰ」授業の挑戦
学入学共通テストを意識した試行的な授業の実践を通じ、今後の指導の方向性は固まりつつある。
プログラミング学習の完了後に、大学入学センターが公開している、令和7年度大学入学共通テスト試作問題「情報Ⅰ」第3問(プログラミング分野)の問題を解かせたところ、いずれの学級も5割程度を正解した。
「『Pスタディ』をしっかりと学べば、一定の対策にはなると考えています。こうした『情報Ⅰ』の学習を土台として、3年生で『大学入学共通テスト』を想定した実習問題でペーパーテストに慣れることができると、さらに効果的な対策となるでしょう」(稲垣先生)
今後、稲垣先生は、各領域において大学入学共通テストを想定した指導を取り入れつつ、従来通りプログラミングをはじめとした実習を充実させていく方針だ。
「以前、私は化学を教えていたことがあるのですが、『入試対策だけをしたいから実験は必要ない』と考える生徒もいました。しかし、実験を通じた様々な化学反応を目の当たりにして、自分の感情が動く経験をすることで、一見、単純な文字列である化学式に面白さを感じて理解は深まります。『情報Ⅰ』の実習にも同様の意義があると思っています」(稲垣先生)
プログラミングをはじめとした実習が充実した学習活動を楽しむ中で、入試に対応できる学力も同時に育まれていく。そうした授業を理想に掲げ、これからも稲垣先生の試
行錯誤は続く。
「あくまでも個人的な考えですが、『入試のために授業をしているわけではない』『入試の対策さえできればいい』という両極端の考え方は、どちらも生徒にとっては不十分と感じます。授業を通して、生徒が人生をよりよくできる力を身につけながら、しっかりと入試でも結果を出せるようにすることを、これからの情報担当の教員は目指すべきではないでしょうか」(稲垣先生)
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