2024年2月5日
東京都が推進する都立学校の教育のデジタル化とは?「TOKYOスマート・スクール・プロジェクト」の取り組み/東京都教育委員会
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東京都では「TOKYOスマート・スクール・プロジェクト」として都立学校における教育のデジタル化を強力に推進している。その一環として、2022年度から全ての都立学校の教職員と児童生徒を対象に、ビジュアルコミュニケーションのオールインアプリ「Adobe Express」を導入している。「TOKYOスマート・スクール・プロジェクト」の全体像やアドビツールの活用について、東京都の取り組みを紹介する。
一人1台端末と教育のデジタル化がもたらす3つの恩恵
◆都立高校の一人1台端末の今
TOKYOスマート・スクール・プロジェクトでは、一人1台端末導入にあたり、東京都が3種類の端末を選定、学校ごとに端末を決定し、家庭負担で購入する形で進めている。2022年(令和4年)入学生から開始しており、現在は高校1・2年生が端末を保有している。
2021年度からMicrosoft 365のアカウントも配布しており、「高校の間に日常的にPCを使いこなせるようになってほしいという思いがあります」と東京都 教育庁 総務部 情報企画担当課長の江川徹氏は説明する。
◆教育のデジタル化がもたらす3つの恩恵
教育のデジタル化がもたらす恩恵について、自身の考えとした上で江川氏は3つのことを挙げる。1つ目に、何よりも子どもたちが端末の活用を通して圧倒的な情報量を活かした学びを行えること。授業中に教員が言ったその一言についても、生徒が自らWeb上などで調べることもできる。
2つ目に、生徒一人ひとりの個性や能力に合った学びが可能なこと。デジタルの活用により、進度が速い生徒は時間を有効に使って学びたいことを深めたり、基本の習得が必要な生徒は繰り返して学ぶことで、知識の確実な理解と定着を目指したり、個に応じた学びが展開できる。
3つ目に、生徒たちの成果物に大人と同レベルの品質を期待できるということ。実社会で使われているアプリを導入しているので、生徒たちが在学中にそれらを使えるようになるメリットは大きい。
一人1台端末を文具と同じように使えるようになってほしいとの思いは東京都も同じだと江川氏。自分の学びにおいてやりやすい形で端末やデジタルを使いこなしてほしい。そして、子どもたち自身が「自己決定できるようになること」が重要。「そのために必要な最低限のスキルをまずは身に付けさせてあげたい。あとは子どもたちに任せていけたら良いと思っています」と語る。
東京都が推進する教育のデジタル化
◆教育DXに「TOKYOスマート・スクール・プロジェクト」
「TOKYOスマート・スクール・プロジェクト」では、前述の一人1台端末の導入とアカウントの配布に加え、高速ネットワークに2Gbpsの専用回線を各都立学校に入れるなどICT環境を整備。さらに統合型校務支援システムを新たに導入し、教員の働き方改革の一環として採点分析システムに着手している。また、更なる推進に向けて、現在「教育ダッシュボード」の開発を進めている。
「今までも個々の教員の努力によって頑張って何とかしていることを、複数のシステムにまたがる様々なデータを一元可視化することで、教員を支援し、子どもたちの学力向上を担保し、子どもたちが安全で充実した学校生活を送れるように進化させたいと考えています」。こうした一連の構想が、東京都の掲げる「TOKYOスマート・スクール・プロジェクト」。「これまで紙媒体を介して時間や労力を要した教員間の情報共有に、デジタル化が必ず役立つと信じて取り組んでいる」と江川氏。
社会で価値をもつクリエイティブの力
東京都が示す教育DXのロードマップでは「知識習得型から価値創造、課題解決型の学びへ」と大きな転換が挙げられている。
「これからの社会を生きる子どもたちにとって必要な力です。普段からスマホで検索できる世の中で、単純にたくさんの知識があるだけでは大きな力にはなりません。その知識にどんな意味があり、どのように社会に役立てられるかを考えられること、また、そのことを説得力をもって人に伝えられることが重要。社会に出る前に、高校時代にこうした学びを体験してほしいと思っています」。
同プロジェクトには、先端技術について企業と連携して実証研究を実施し、新たな指導方法を展開することも挙げている。現在、モバイルアプリ開発、情報モラル、情報リテラシーのことについて複数社と協働して行っている中、アドビと力を入れているのが生徒たちによるAdobe Expressの活用。そのひとつに「Express作品展」がある。
「Express作品展」とは、Adobe Expressを使って都立高校の生徒が作成したデジタル作品(現在は主にポスター)を、学校の垣根を越えて鑑賞し合えるオンラインの展示会。「作品展そのものが目的というより、お互いの作品を見ることで『Adobe Express』でこんなことができるのかと良い刺激をし合い、さらに活用が進むと良いと思っています」。
「情報デザイン」に「Adobe Express」でアプローチ
◆「情報デザイン」の取り組みとして
Adobe Expressは「情報Ⅰ」の重要要素である「情報デザイン」の学びの充実にも期待が高い。
実際に「情報Ⅰ」の授業でもAdobe Expressを活用し、「Express作品展」にも参加した三鷹中等教育学校の能城茂雄指導教諭に話を聞いた。
◆表現の入り口に「Adobe Express」、情報を伝える実践に「Express作品展」
三鷹中等教育学校 4年生(高校1年生)の「情報Ⅰ」を担当する能城教諭は、「情報デザイン」について、理論的に学ぶことはもちろん生徒たちが実際に活用できる力が重要だと語る。「教科書や様々なツールを使って授業を行いますが、生徒が取り組んだものを成果物として目に見える形にすることでモチベーションが向上し、その経験が学校生活の中で今後活きてくるのではないかと、『Express作品展』に参加することにしました」と経緯を話す。
同校では一人1台端末にSurface Laptop Go2を選定。また、「Adobe Creative Cloud」も導入しており、全校生徒(約960人)が活用できる環境にある。
「生徒たちにはもちろん『Creative Cloud』に含まれるPhotoshop、Ilustrator、Premiere Proなどに触れてほしいが、まず表現活動の入り口の敷居を下げるために、誰でも直感的に簡単に利用できる『Adobe Express』から始めることにしました。クリエイティブ制作の楽しさを授業の中で経験させ、さらに本格的に表現したいとなった時、生徒たちがいつでも『Creative Cloud』のツールを使えるという流れも意識しました」と能城先生は話す。
やりたいことが素早く、かつクオリティ高く具現化できるツールを、初等中等教育の中で生徒が使える機会を設定することが、生徒の自ら学ぶ力、表現する力を伸ばすという信念が根底にある。
◆アートではない「情報デザイン」
同校では「部活動紹介」をテーマに「Express作品展」に取り組んだ。生徒の主体的な学びを引き出すために、自分が所属し思い入れのある部活動を周囲に紹介することがよりモチベーションアップに繋がるのではないかと考えたという。「情報デザイン」はアートではなく、人に分かりやすく伝えるために、どのように情報を整理してどう表現するかが重要。
「Adobe Express」はテンプレートや素材などが豊富に用意されているので、情報をデザインする選択肢のインスピレーションにもなる。授業では基本となる使い方だけをレクチャー、チュートリアル動画やサイトを調べて生徒たちが自ら試行錯誤する時間を多めに取るようにしたという。
教員側のメリットも大きい。「情報Ⅰ」の内容は多岐に渡るため、「情報デザイン」の単元に多くの時間はかけられない。しかし、社会で広く利用されている「Adobe Express」であれば、参考になる素材は豊富にあり、教材作成も短時間で可能になる。「全てを教員がしないといけないとなると負荷がかかりますが、先人や周りの教員仲間、クリエイターが作った素材を再利用できることはとても有効だと思います」。
この先の展望を尋ねると、生徒がデジタルを活用して学校生活を豊かにすることをしたいという能城教諭。有効なツールを生徒に体験させる、本物に触れさせることを今後も続けたいという。
「デジタルを活用した新しい学びの形」を探りたい
第1回目の「Express作品展」は2023年に行われ応募作品は約200点を数えた。実際に作品を鑑賞した江川氏は、「生徒の訴えたいことがストレートに伝わってきて良かった」と率直な感想を語る。
しかし、こうしたデジタルの活用は、文化祭のポスターなどを手書きで描くような従来からある学校の文化や伝統などを決して否定するものではないと強調する江川氏。デジタルでもアナログでもバランスを大切に、表現方法やオリジナリティを磨いていくことが学びの前提。活動の内容に相応しいと判断する方法を学校の方針をもとに決定してほしいという。第2回目の「Express作品展」が間もなくオープンになる。
ICT環境整備が進んできたからこそ、授業スタイルや授業デザインが変わらなくてはいけないと思うと江川氏。「一見すると教室で教員が何も教えていないように見えるが、よく見るとチャットで指示を出していたり、成果物を見せ合っていたりするなど、一人ひとりの子どもの学びを邪魔せずによい学びを共有し合うことができるのではないか」。40人相手であっても個性にあった授業、つまり、生徒を誰一人取り残さず、学ぶ速度を我慢させることもない、「デジタルを活用した新しい学びの形」を今後も探っていきたいという。
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