2015年12月3日
DiTT/デジタル教科書の課題「著作権問題」で議論
デジタル教科書教材協議会(DiTT)は1日、シンポジウム「デジタル教科書の位置づけはどうなる?~著作権について」を東京・千代田区の紀尾井フォーラムで開催した。
シンポジウムでは、ベネッセコーポレーション コンプライアンス部 小林圭一郎著作権担当部長、柏市立柏第二小学校 佐和伸明教頭、光村図書出版 馬場泰郎取締役、ユアサハラ法律特許事務所 山田卓弁護士が参加し、DiTTの中村伊知哉専務理事、石戸奈々子事務局長とともにパネルディスカッションを行った。
文部科学省では「『デジタル教科書』の位置づけに関する検討会議」でデジタル教科書導入に関する検討を進めており、また、文化庁では著作権に関する法制度の基盤整備についての話し合いがもたれている。ただ、著作権者やサービス提供者、指導者(教員)や学習者等の様々な立場の人たちが関わることになる著作権に関する問題は、それぞれに捉え方が異なり、また利用する場面や状況ごとに生じる課題が違うなど、ひとつの視点からでは全体像をつかみにくく、容易に理解できないのが現状だ。
現在、検定教科書における著作物の掲載、複製や改変については、著作者への許諾申請といった手続きを省き、補償金を支払うなどの条件付きで無断利用が認められており、また、出典を明示することで複製して試験問題などへの利用も可能となっているという。教科書の著作物としては文字(文章)や絵画、写真や図版などが挙げられるが、デジタル化により音声や動画などさらにその対象が広がり複雑になる。そこでディスカッションの前に、教材制作会社、教育現場、教科書会社それぞれの視点による、プレゼンテーションが行われた。
初めに、ベネッセコーポレーション 小林部長が、教材出版社で許諾申請の仕組みづくりに携わる立場から、業務やデジタル化への課題について説明した。
コンプライアンス部では、グループ会社が制作する教材の著作権に係る業務を一括して行っており、1年間に扱う件数は3万数千件にのぼるという。たとえば検定教科書では自由に掲載できていた図版も、教材への2次利用の際には教科書会社、著作権者それぞれへ許諾申請を行わなくてはならない。また入試問題であれば、教育委員会と著作者両方への許諾申請が欠かせない。ただ、著作権者不明のものは裁定制度を利用して文化庁に補償金を支払うケースもある。
制約が多い2次利用だが、デジタル化によりさらに課題が生じるという。デジタル教材の利点でもある利用者ごとにコンテンツを細分化して提供するようになると、個々の利用者は少なくなる。しかし、現行の著作権の申請・支払いはそうした小ロット利用に合わないと、小林部長。こうした問題を解決するために、包括型のルールづくりなど料金規定の見直しや法改正なども必要なのではないかと、期待を込めて語った。
次に柏市立柏第二小学校 佐和教頭が、デジタル教科書を使う立場から、指導者用デジタル教科書も取り組み次第で利用が進むようになったと情報化推進に関する体験談を語った。また、教職員へのアンケート結果によると著作権が問題となり利用したいコンテンツを使用することができずあきらめるといったケースも多数生じており、そうしたことからも、著作権を意識せずデジタル教科書を使えるような環境が整えば、利用はさらに進むだろうと述べた。
光村図書出版 馬場取締役は検定教科書を制作・提供する立場から、著作権に関する課題について語った。まず言葉の定義として、教員が電子黒板などに投影して利用する「指導者用」デジタル教科書と、タブレット端末によって児童生徒が一人ひとり使用する「学習者用」デジタル教科書の2つがあり、文科省で議論されているのは主に「学習者用」であり、一般にデジタル教科書といえばこちらを指すと解説した。
そのうえで著作物利用の法的扱いの相違について、紙の(検定)教科書では特例が認められているが、デジタル教科書は一般の教材と同等だと述べ、その処理の特徴として、(1)学校での使用を想定し利用許諾を得ること、(2)期間を設けて利用許諾を得ること、(3)著作権以外の様々な権利処理があること、(4)様々な種類の媒体や配信方法があることなどを列挙した。たとえば(4)では、コンテンツの入ったメディアをインストールする際、直接個々のPCなのか、学校のサーバなのか、または校外にある教育委員会のサーバへ落して学校へ配信なのかといった「著作物利用費用」の発生の違いにより、かかる費用も異なると説明した。
さらに著作物の使用許可期間について、デジタル教科書に書き加えた履歴が残る、いわゆるデジタルポートフォリオの活用は学習者にとって役立つものだが、教科書利用の期間が過ぎてしまうと、データから教科書部分が消えてしまうことになると、ひとつの課題例を挙げた。
ディスカッションでは、山田弁護士が、著作者の権利には著作権と著作者人格権があるといった基本的な部分を改めて説明し、利用者の利便性向上のためにも、デジタル教科書を補償金での扱いである特例を認められるようにするべきと、方向性を示した。
権利者はどんなことを主張しているのかという問いに対して、丁寧に説明すれば許可は下りるとし、ただ双方が納得のいく支払い方のルールが明確ではなく、今は料金規定の過渡期にあるとの考えを示した。さらに、教科書だけでなくその周辺の教材の権利に関しての議論が進められ、さまざまな発言があった。
最後にそれぞれから課題等についての発言があった。教科書は権利者としての相手が団体としてまとまっていないことが多く、そこが問題(小林部長)。学校で著作権教育を行う際、以前は図版等を無断で使ってはいけないという教え方だったものが、今はどうやったら許可が取れるかというような変化があり、学校関係者も積極的に関わっていきたい(佐和教頭)。著作権処理をしているときに大切にしていることは、“自分の写真や文章がどう扱われると嫌か”を考えることで、そうすれば誠意が伝わり理解を得られることが多い(馬場取締役)。
DiTT中村専務理事は、著作権は利害の生じるものなので調整は容易ではないが、懸念するのはこれがネックとなりデジタル化が進まないのではないかということだとし、今回分かりにくい点が明確になり、論点を共有することができた、と議論による成果を語った。
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