2017年7月7日
前原小、理科×プログラミング「人の体のつくりとはたらき」授業公開
2020年から必修化される小学校でのプログラミング教育について、次期学習指導要領では、「情報活用能力の育成を図るため」、「各教科等の特質に応じて」実施するとされ、教科の授業の中にプログラミングを取り入れるという方向性が提示された。
こうした背景から、「教科学習×プログラミング」の有効な実践事例の創出、ノウハウの蓄積と共有を目的に、小金井市立前原小学校、東京学芸大学加藤直樹研究室、アーテック、CA Tech Kidsの4者が連携し、小学校の理科の授業におけるプログラミングの効果的な活用・学習に関する共同研究を開始。6月30日、その第1回目となる前原小での公開研究授業を訪ねてみた。
授業は6年生の理科「人の体のつくりとはたらき」。この日は単元のまとめとして、心拍センサーを活用し学んだことを改めて振り返るという。コンピュータ基板「Studuino(スタディーノ)」を使って、そこに心拍センサーを取り付け、ノートPCで脈拍を測ってプログラミングをすることで、体のつくりについて理解を深めるという内容。
教壇に立ったのは松田校長。「人の体」の授業にどうプログラミングを取り入れるのか。遠方から参加した熱心な他校の校長や教員などをはじめ、理科室は、6年生の児童と、その生徒数を上回る実に多くの教育関係者で埋め尽くされた。
前回までの学びを踏まえ、まずは今日の脈拍数の平均値を測り画用紙に記入してみる。1人1台のノートPCに各々がUSB接続でセンサーなど機材を取り付けていく。計測の結果、生徒の脈拍数の平均値は75、80など。ちなみに松田校長は128。高い。
「ヤバイよね(笑)」と校長は自身の数値から、100以上は「ひん脈」と言われることを解説。ひん脈は血液を多く流して体に酸素を送ろうとしている状態。自律神経の乱れなど様々な原因から、酸素が欲しいけど必要な分を体に与えられない場合、どんどん脈拍を多くして血液を流して酸素を送ろうとする。こうした数値の情報から見えるのがバイタルサインで、まさに体の状態を知らせるサインであることを生徒は学ぶ。
そして、このバイタルサインをプログラミングすることがこの日のメイン。脈拍の平均値を使い、ひん脈の100を超えたら、光を光らせる、音を鳴らすなど、スプライト(動く図形)を動作させるプログラムを作っていく。
ここでグループ分け。「自分でできる」、「友だちと確認しながらやってみたい」、「全然わからない・不調」という3つから自分に合ったグループを生徒自身に選ばせ、早く終わった人はできていない人をフォローしてあげることを告げ、20分間の実践に入った。
しばらくすると、「自分でできる」グループからネコの鳴き声が上がり始め、ほどなくして他のグループからも「ミャー」と聞こえてきた。スプライトを勢いよくグルグル回す生徒もいた。
さらに実践後、この時間だけ呼ばれたらしい同校の安西教諭が、心拍センサーをつけ校長の質問に全て「いいえ」で答えることに。「アメリカ人ですか?」「いいえ」。すると「ブー」とブザー音が鳴る。「彼女いますか?」「いいえ」。「ブーー ブーー」。笑いが巻き起こる。子どもたちがプログラミングしたものと同じ仕組みを使って心拍数を利用したミニ実験だ。
ひとしきり盛り上がった授業の最後は、「schoolTakt」を使って学んだことを振り返り感想をまとめる。「ここ大事だよ」と松田校長。生徒はタイピングして感想を打ち込む。書き終えた生徒は画面上で他の生徒の感想を読むこともでき、「いいね」ボタンを押すなどリアクションができる。“書きっぱなし”で終わるアナログではできないことだ。
「人の体とつながって気持ちがわかるなんてびっくりした」「人間の血液のことやプログラミングで平均の脈拍数が分かった」など感想はさまざま。振り返りの中身は、今後さらに深いコメントができる授業を目指したいと松田校長。
この共同研究は、2017年5月~2018年3月まで前原小の6年生を対象に実施される。前原小は授業構想と計画の策定、実践。小金井市と地域連携協定を結んでいる東京学芸大(加藤研究室)は授業計画と主にセンサーを活用したプログラミングの授業への取り入れ方等の検討のほか、研究室の大学院生が非常勤講師として前原小で1年間理科の授業を担当。アーテックはコンピュータ基板「Studuino」や各種機材の無償貸与のほか、汎用的な教材の開発の検討など。CA Tech Kidsは同研究全体のコーディネイトとプロセス・結果の周知、小学校のプログラミング教育の普及推進を担当する。
いきなり今回の授業を他校ですることは困難だろう。今回は様々な協力があって成立している。しかしこうした実践・研究を重ね、徐々に汎用化させ、どこの学校でも取り入れることができる教材や指導案を形づくり広げていきたいとした4者。
松田校長はこの日の授業展開について、1つの提案として「はじめに見通しをつけ、作業の説明をし、あとはやってもらう」デザインにしたと説明。道筋をつけて進行し、あとは一緒に楽しんだり応援したりする。少なくとも20分は実践時間を設け、最後に振り返るというスタイルだ。
ICT機器の活用には周到な事前準備がいる。しかし、ICTやプログラミングを取り入れることで、今回で言えば、普段は目にできない体の中で起きている動きを、具体として可視化できるところに、子どもたちは新鮮な驚きや発見を見いだせる。単なる知識ではなく、生活に役立つより生きた学びになり得るのが魅力だ。
準備は大変でも端末を1人1台用意しているのは、教員が教えるためにではなく、子どもが学ぶためのツールだから。「だって、子どもたち可愛いじゃないですか」と校長から笑みがこぼれた。
教員も生徒もまずは簡単でいいのでプログラミングを体験してみること。教育委員会も学校の積極的な動きに注目する。松田校長は「学校は、地域の企業や関係団体などとの出会いの中で、ネットワークを大切に、校長が主導となって取り組むことが大事」とした。
実践事例の1つが示された今回の公開研究授業。見学者はそれぞれの立場から、考え、ヒントを得て、持ち帰るものがあったことだろう。プログラミングを教科学習のための手段としていかに効果的に取り入れられるか、次回の実践は「電気の性質とその利用」を9月に予定している。
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