2020年3月11日
Monacaで実現できる、教師と生徒が一緒に学ぶプログラミングの授業/成城高等学校
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成城高等学校は、2019年度から「情報の科学」のプログラミング教材で、モバイルアプリ開発ツール「Monaca」を採用。プログラミングを教えた経験がない教師たちが、Monacaを選んだ理由とは?
統計とデータ分析は情報の授業で。数学科から情報科へ転身。
成城高等学校(東京都新宿区)は、2015年に創立130周年を迎えた伝統ある中高一貫の男子校。「授業第一主義」や「自学自習」など堅実な校風のもと、確かな学力、思いやりの心、逞しい体力を育てる教育観を重視している。生徒が希望した進路実現をめざすカリキュラム編成や、自己啓発を促す「エンパワーメント・プログラム」など、一人ひとりの生徒に向き合う教育を実践しているのが特徴だ。
そんな同校で、情報の授業が大きく変わり始めたのは2017年のこと。当時、数学を担当していた松原圭太教諭と小山治郎教諭が、情報科の免許を取得したことから始まる。2022年度から実施される学習指導要領では、数学科のカリキュラムで統計やデータ分析の要素が拡充されるが、同教諭らはこれらの分野を数学ではなく、情報の授業で教えられないかと考えたという。
これについて松原教諭は「私の個人的な考えですが、統計とデータ分析は数学と情報が重なる分野で、数学で学ぶよりも、コンピュータを使って情報の授業で学ぶ方が適切ではないかと考えました。当時は非常勤講師に『社会と情報』を担当してもらっていましたが、学習指導要領の改訂を見据えたとき、そう考えている自分たちが情報の授業をやればいいじゃないかと考えたのです」と経緯を述べる。
その後、情報の教員免許を取得した松原教諭と小山教諭は、2018年から情報の授業準備に着手。いずれ情報Iに移行することを踏まえて、履修科目も「社会と情報」から「情報の科学」に切り替えた。一方で、課題になったのは「情報の科学」で必修のプログラミング。松原教諭は過去にHTMLを少し、小山教諭はbasicを使った経験はあるというが、2人ともプログラミングの専門知識があるわけではなく、ましてや教えた経験もない。
そんなときに出会ったのが、HTML5とJavaScriptでモバイルアプリを開発できるツール「Monaca」だった。松原教諭は「生徒のプログラミングに対するモチベーションを上げるためには、スマホのゲームが作れると良いだろうと考え、Monacaに決めました。また本校は当時、コンピュータ教室の端末が更新前で、環境に厳しい制約がかかっていたため、新しくソフトフェアをインストールせずに、Chromeブラウザさえあれば使えるMonacaが魅力でした」と選択理由を語る。
教材をベースに授業を組み立て。生徒たちの反応も好評
こうした経緯で、2019年度から「情報の科学」の授業を開始した松原教諭と小山教諭。まずは「アルゴリズムとプログラム」の単元でMonacaを使用し、10時間のプログラミング学習に挑戦した。
学習のメインに位置づけたのは、Monacaを手掛けるアシアルが提供する教材『Monacaで学ぶ はじめてのプログラミング 〜モバイルアプリ入門編〜』だ。このテキストをベースに授業を組み立てるカリキュラムを構成した。松原教諭は「とにかく、この教材が非常によくできている」と絶賛。小山教諭も「50分の授業で1章を進められ、ステップアップしながら学べるのがちょうどいい」と話す。両教諭は、2019年6月からMonacaを用いた授業をスタートし、夏休み前には「関数」の単元まで終了。夏休みの宿題として、実行日の日付を平成の年号で取得するサンプルプログラムを改良して年号を令和に置き換える課題を出したという。
両教諭の話によると、Monacaは生徒たちの食いつきが良く、楽しみながら取り組めたと話す。生徒たちはコンピュータの経験も少なく、タイピングにも課題はあったが、「回数を重ねていくうちに、自分の作ったものがスクリーンの中で動く楽しさを味わえた」と松原教諭は語る。特に、最初の授業でMonacaが提供するサンプルゲーム「ブロック崩しゲーム」を取り上げたときは、生徒たちは大いに盛り上がったという。ボールの数の変数を変えただけで笑いが起こったり、ボールがバーをすり抜けてしまう現象にFPS(frames per second)の設定が影響するなど既習事項に絡めて学んだりすることもできた。こうした経験を通して生徒たちが、プログラミングを楽しいと感じられた点がよかったというのだ。
その後、生徒たちのMonacaに対する反応も好評だったことから、「データベース」と「情報システム」という単元でもMonacaを活用。前出のブロック崩しゲームにランキングをつけてクラス内マッチを行い、ひとつのクラスがオンラインでデータベースを共有できる体験をさせることにした。小山教諭は「Monacaの学習を通して、生徒たちの成長がよく見えました。生徒たちはデバッグに苦労していても、うまくいったときはとても嬉しそうに喜んでいました。今は黙々とコーディングができるようになってきましたね」と手応えを語ってくれた。
教師が完璧に教えられる必要はない。生徒から学んだっていい。
先に述べたように、松原教諭と小山教諭は、2人ともプログラミングを教えた経験もなく、過去に少し触ったことがある程度。そんな両教諭がMonacaを使ってプログラミングの授業を実施。そこに対する不安はなかったのか。率直な意見を聞いてみた。
松原教諭は、“教師だから教えなければならない”という発想を捨てるようにしたと述べた。「とある大学の先生の話で、“教師が教えず、生徒に教わってもいいじゃないか”という言葉を聞いて勇気をもらいました。生徒と一緒に少しずつ成長していけばいいんだって」(松原教諭)。実際、生徒たちはMonacaの教材を見ながら自分で課題を進め、自分でデバッグをし、課題を仕上げている。小山教諭も「教師と生徒が一緒に勉強するような感覚で授業を行っていた」という。「Monacaの教材は生徒が興味を持って取り組めるのがメリット。教材を読んでいると何だか動かしたくなるんです」と小山教諭。
一方で、昨今の高校のプログラミング言語といえば、「Python」がトレンドになっている。この点については、どのような意見を持っているか松原教諭に聞いた。
「本校の生徒たちはいろいろな進路に進むので、言語にこだわらず汎用性を重視してMonacaを選択しました。Pythonが将来必要となる生徒よりも、HTMLとCSS、JavaScriptという組み合わせを知っている生徒の方が、これからよりさまざまな場所で役立てられるのだろうと考えています。スマートフォンを持っている生徒も多く、こうした環境をいかしたいと考えました」(松原教諭)。
また両教諭は、Monacaを使ったプログラミング学習を振り返り、「よく考え、慎重に行動するようになった」(松原教諭)、「だんだん使いこなせるようになり、臆することなく挑戦するようになった」(小山教諭)と手応えを語ってくれた。高校1年生ともなれば、面白くないことには興味を示さないこともあるだろうが、Monacaのプログラミングはとても主体的に取り組めたようだ。
松原教諭は今後さらに、Monacaの活用を広げていくと同時に、生徒たちから何かを作りたいといえる授業を展開していきたいと話す。「文化祭の際に“学校の文化祭用スマホアプリを作りたい”といえる授業を目指したいですね。自分たちの身の回りの課題解決にプログラミングが使える、そんな着想を与えていきたいです」と抱負を語ってくれた。成城高等学校のプログラミング教育は2019年度が初年度。今後、どのように発展していくか期待したい。
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