2021年12月9日
AI型教材Qubenaを活用した「個別最適化された学び」の実現へ/宮崎市教育委員会
AI型教材Qubenaを活用した「個別最適化された学び」の実現へ/宮崎市教育委員会
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昨年に続きコロナ禍の影響を大きく受けた2021年は、教育界にとってはGIGAスクール構想元年として、日本全国の公立小中学校のほぼ100%で1人1台情報端末と高速ネットワークが実現した画期的な年となった。GIGAスクール構想の目指すところは端末やネットワークの整備ではなく、それを活用して実現する「誰一人取り残すことのない、個別最適化された学び」の実現である。端末配備が完了して、さあこれからという自治体も多いだろうが、宮崎県宮崎市では教育委員会が主導して着実にその準備を進めてきた。AI型教材「Qubena(キュビナ)」を活用したその取り組みについて、宮崎市教育委員会(加藤裕邦 指導主事)、学校(宮崎市立⻘島小学校 黒木修志 校⻑)、教員(宮崎市立潮見小学校 黒木勇樹 教諭)に話を聞いた。
AI型教材Qubena導入までの経緯と導入後の取り組み
宮崎市では教育委員会を挙げて目指す宮崎市版「未来の教室」の実現に向けて、5つの取り組みを進めている。その最初に挙げられたのが「Qubenaの活用」だ。Qubenaは、児童生徒一人ひとりに個別最適化した問題をAIが自動出題してくれるアダプティブラーニング教材で、小学校1年生~中学3年生の主要5教科における学習指導要領単元をカバーしている。
同市のQubena導入は、昨年度の経済産業省「先端的ソフトウェア実証事業」への参加がきっかけだ。市の小中学校72校からモデル校6校を指定して、使用するEdTech教材候補を評価した。その中で、Qubenaが宮崎市の目指している方向に最も適しているという評価結果を得て、実証実験に参加した。
6校のモデル校以外の66校すべてにもトライアルという形でQubenaを体験してもらったうえで、本年4月から全72校の小学5年生~中学3年生での本格導入に至った。導入後の取り組みとして4月には、本年度から各校に1名設置した情報化推進リーダーの研修を行った。オンラインでCOMPASS(Qubena提供会社)の担当者と繋いで、Qubena導入の説明会を行い、各学校にリーダーが持ち帰って、降ろしていくという流れを作った。
5月にはQubena活用に係る説明会を、すべての小中学校をオンラインで繋いで行った。アカウント設定は、教員の時間がとれない、難しいという課題もあったのでICT支援員を対象として説明会(オンライン)を行い、各学校に派遣することで設定を進めた。すべてのことを教員に任せるのではなく、ICT支援員などを有効活用することが、ICT活用を円滑に運営する重要なポイントでもある。
8月からはオンライン学習におけるオンデマンドによるQubena活用研修を全小中学校対象に実施した。実際、新型コロナウイルスのまん延防止等重点措置が実施された9月には、子どもたちが家に帰ったあとQubenaで課題を出して、先生たちは学校で管理画面などを利用しながら進捗を管理したり、授業支援ツールでやり取りしながら授業を進めるということが実施できた。
Qubena活用の今後の展開について加藤主事は「Qubenaのより効果的な活用としては、個別最適な学びを具現化するというところに力を入れたい。また、Qubenaを活用することで、学力がどのように影響されるのか。Qubenaの活用と学力との相関の検証しながら確かな学力の向上に結びつけたい。Qubenaの活用による標準時数の削減では、本市で取り組んでいる『STEAM教育の推進』を含め、創出された時数の扱い方を検討していきたい。まだまだ取り組みの途中なので失敗もあるがこうしたことを目標に取り組んでいきたい」と力強く語った。
Qubena活用による「自由進度学習」にチャレンジ
昨年度からAI型教材活用モデル校として4年生以上でQubenaの活用をしてきた、宮崎市立青島小学校 黒木修志 校長は「多様な子供たちを誰一人取り残すことなく、子どもたち一人ひとりに公正に個別最適化され、資質・能力を一層確実に育成する教育の実現を目指している。Qubenaを活用して個別最適化された学びを深化したい。また、これからの時代に必要な情報化教育、最低限必要なITスキルもきちんと学ばせていきたい。Qubena等のEdTechの活用によって、子どもたちが自ら課題を見つけて解決する力、主体的に考えて想像力を発揮する力をつけ、STEAM学習につなげていきたい」とQubena導入の狙いと活用の思いについて語る。
同校がいま高学年で試行的に取り組んでいるのが、Qubena活用チャレンジとしての「自由進度学習」だ。個別最適化された学びとして、年計の時数にとらわれない子どもたちに適した学びで、時数を削減するというもの。
やり慣れた一斉授業ではないので躊躇するところもあったが、まず「導入」「展開」「終末」の展開を決め、子どもたちに今日の学びのめあてをきちんと立てさせる。見通しが持てるように授業の冒頭で、45分の指導内容を10分程度にまとめてレッスンする。次に、教科書、ドリル、Qubena等を用いながら自分に合った方法で学習を進める。そして最後には振り返りをさせる。
実際にやってみると、6時間の時数予定を4時間ですべて終わらせることができた。
「自由進度学習を進める上でのポイントは、学級経営にも必要な「学び合い」の要素に担任も力を入れること、ティームティーチングにおける役割分担だという。出来たことを褒めるだけではなくて、一生懸命考えていることを賞賛することも行っている。
更に進んでいくと、できる子できない子の差が出てくるが、ここから学び合いがスタートする。必要な事をまとめないといけないプリントをやっている子、Qubenaを進める子、分からないことを聞いている子。教室がざわざわした感じで授業がすすめられる。
単元全体における個別指導でのQubenaの活用について黒木校長は「まだ始めたばかりで今後どのように進めたら良いかかから検討する必要がある。Qubenaを活用して自由進度学習を進めるにあたりどの教科のどの単元で利用するか見極めないといけない。教材研究がとても大事。余剰時数は今のところ算数で2時間浮いた分は、算数の応用部分を強化するということでマネジメントしているが、『STEAM学習』に回すなど時数を有効に活用しようと考えている」と、Qubena活用で浮いた時数の利用まで見据えている。
Qubenaの活用で「“今”の学習がわからない」をなくす
宮崎市立潮見小学校では、昨年度から高学年を中心にQubenaの活用を進めている。
黒木教諭はQubena導入前、課題として感じていたのが高学年になって問題の内容が複雑になってくると生じる「“今”の学習がわからない」現象だ。一方、理解が進んで早く終わった児童は他の児童の学びを手伝ったりしてもらっていたが、自分のためにできることは無いのか。先の勉強、応用力を付けるために何かこちらから手立てをたてることは出来ないのか考えてみた。
Qubena導入後、子どもたちの取り組みをみると、それぞれが解いている問題が異なる。下学年の定着が不十分な児童に対しては復習が1年生から出来るようになったので児童は一体どこで躓いているのかが明確に分かるようになった。また、どの学年のどこから復習したらいいのか、AIが自動的に判断して問題を出してくれるので教師がどのから分からないのかなのかを調べるより早い。
学習意欲ということでは、子どもたちもどんどんやってみようという気持ちに変化してきた。正答率や学習時間も変化が現れて、宿題で出す範囲以外の所を解いてくる児童も増えてきた。理解が進んでいる児童への手立ても、早く終わった児童が自分のペースで次の学習に進むことが可能になった。児童がそれぞれ自分のペースで学習を進められるようになった。
便利な面もあるが、5教科のQubenaの問題を十分に使えているのか、またどの場面で使うのが一番効果的なのか、子どもたちへの声掛け、慣れが生じてくるドリル学習で教師がどのように子どもたちにアプローチを行えばいいのか、考える必要がある。
「いろいろ課題もあるが、自分たちで学習する姿が見られるようになってきた印象を受けている。子どもたち同士で教え合いをする場面も見られた。『わからない』『できない』から『一緒にやろう』、『ここ教えて』へ、お互いに協力しながら問題解決に向かうような姿も沢山見られるようになってきた。今後もどのような効果的な使い方が出来るのか探りながら日々子どもたちと向き合っていきたい」と黒木教諭は今後の展望を語った。
宮崎市ではいま、確立されたビジョンの下、QubenaをはじめとしたICTツールを活用したGIGAスクール構想における「誰一人取り残すことのない、個別最適化された学び」が着実に定着し始めているようだ。
□ 本記事の内容を発表した講演会のレポートページ(詳細な内容を紹介している)
□ 事例共有会ほか、株式会社COMPASS開催のイベント情報
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