2022年12月16日
貫き続ける女子校としての存在意義、「西遠式ICT教育」で進化した協同学習/静岡県西遠女子学園(後編)
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女子らしい主体的な学習意欲を妨げない
同校の強みである協同学習を象徴するのが、課題探究だ。加えてユニークなのが、学園祭そのものが課題探究の素材になっていることである。
一般的に学園祭と言えば、クラスごとにお化け屋敷や迷路を作るなど、レクリエーション的な題材が好まれがちだ。しかし同校では、各クラスがテーマを設定し、約半年かけてこれを研究していく。その発表の場が学園祭なのだ。テーマは多様で、絶滅危惧種の研究、お茶と食事のマリアージュといった地元(静岡)らしいテーマもあれば、教室内にダイオウイカやモアイ像などの巨大制作物を完成させ、来場者を驚かせるというものもあった。
さらにコロナ禍の2020年度は、インターネット上に再現。続いて2021年度は、オンラインとオフラインの融合を目指し、教室からクラスの発表を実況配信するなどの試みも見られた。学校に集まれない中でも、Chromebook を使って資料を遠隔共同編集したと言う。
自身も同校の卒業生だという大庭知世校長は、こんなエピソードを紹介する。公立中学から入学した生徒が、「女子校に入学したら、初めて『まじめに頑張ることはカッコいいんだ』と思えた」と語ったというものだ。中学までは、まじめにやろうとすると男子にからかわれることも多くて、積極的になれないことがあったその生徒は、女子校で大きく成長したという。
「当校は生徒同士の繋がりをとても大事にしていますので、異性の目を気にせず自分らしさをどんどん発揮してもらいたいと思っています。これができるのは男女別学の強みの一つだと考えています」
授業の質、コミュニケーションの質が向上
このような女子校らしさ、同校らしさは、授業にも色濃く表れている。独自の理科授業「教養理科」は、生活の中で役立つ理科を協働的に学ぶことが特長だ。例えば再生可能エネルギーや海面上昇などの環境問題をテーマに、グループで協力して調べ学習を行いプレゼンテーションするが、ここでもICTや Chromebook はフル稼働だ。
生徒の提出した課題に対する教員からのフィードバックやメッセージの頻度も格段に増え、コミュニケーションも密になった。
「特にICTとの相性がいいのは英語ではないか」と述べるのは、杉田利通教頭だ。「例えばスピーキングのパフォーマンステストだと、以前は一人ずつ対応するしかありませんでした。これだけで1〜2時間かかるうえ、他の生徒はその間自習するしかありません。しかし、発話を録画して提出してもらえば、こうした問題は一気に改善します。自分の発話にAIが字幕をつけてくれるので、発音が悪ければうまく変換されませんから、改善ツールとしても最適ですね」。
他にも、国語では作品の作者調べを行ったり、気になるニュースを調べて紹介し合ったりなど、自ら知識を「取りに行く」学びを大切にしている。物理では、完全に反転授業を実施しており、「解説動画なら途中で止めたり繰り返し視聴したり、自分のペースで進められて分かりやすい」と生徒からも好評だ。
汎用スキルの修得を重視し、学習管理を Chromebook で
学習履歴の可視化も、以前よりはるかに効率化した。以前の同校では、独自の「生活ノート」に生徒が記入することで、家庭での学習時間や目標の達成度を管理していた。しかし、Chromebook の導入と共にこれをデジタルに移行し、Google Workspace のスプレッドシート(表計算アプリ)で一元化した。
市場には、学習管理に特化した便利なアプリも出回っているが、あえてこの形を選んでいると言う。アプリに依存した使い方をしていると、そのアプリの操作スキルしか身に付かないためだ。「スプレッドシートなどのオフィスソフトの使用を習慣化することで、汎用的なスキルが習得しやすいと思います。デバイスやソフト、アプリケーションが変わっても対応できるという考えです」(岡本理事長)。
さらに、中学校での終礼も Chromebook を用いて生徒主体で進行するようになった。Google Classroom を併用しながら、連絡事項や1日の振り返りなどをクラウド上で共有する。担任は補足やサポートをする程度だ。

従来、教育におけるICTとは「手段」だ。それ自体が目的ではない。ICTと Chromebook の導入により「できること」が飛躍的に増えたという同校。女子校であり続けることへの理念と、Chromebook の活用で生徒の特性に合わせた教育でより主体的な学習を実現したのが「西遠式ICT教育」だと言えそうだ。
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