2025年2月27日
スクラッチで共通テスト「情報」プログラミング問題を解説
【寄稿】
初めての「情報」試験がスタート
2022年、高校で「情報Ⅰ」が必修化されました。デジタル技術を活用し、より快適で効率的な社会の実現を目指した教育改革の進展が背景にあります。この流れを受け、2025年1月の共通テストで新教科「情報」が初めて実施されました。
初めての「情報」の出題は、⼤学⼊試センターの公表する、問題作成方針の通り、日常的な事象を情報技術の活用で解決するというストーリーを中心に4つの大問で構成されていました。例えば、スーパーマーケットのレシートから情報を読み解き、ネットショッピングサイトやポイントカードなどのデータ連携のメリットを考察するものや、ある会計係がおつりの千円札の準備枚数をシミュレーションするものなどです。
プログラミング問題は読解力や思考力が重要
第3問は、プログラミングやアルゴリズムに関する出題で、工芸部の集中制作合宿での担当決めがテーマでした。特定のプログラミング言語の構文ではなくセンター独自の擬似言語が使われています。プログラミングの技術や知識というより、「情報を確実に読み取り理解する力」、効率よく処理するためにアルゴリズムを「思考する力」が問われていました。
初めてのプログラミング問題ということで、出題方法や難易度が気になる方も多いのではないでしょうか。
そこで、ビジュアルプログラミング言語の経験がある中学生や保護者の方にもわかりやすいようにスクラッチ(Scratch)を使って、どう思考すればよいのか解説していこうと思います。
◆なぜスクラッチで解説するのか
スクラッチは、直感的にブロックを組み合わせることでプログラミングができる、ビジュアルプログラミング言語で、誰でも無料で使用できます。さらには多くの小中学生に馴染みのあるツールでもあります。視覚的にわかりやすく、実際に手を動かしながら学べるため、理解を深め、思考力を鍛えるのに最適なツールだからです。
◆問題を解くために必要な知識
どの言語でも構いませんが、条件分岐、繰り返し、変数、配列(スクラッチではリスト)の基本的な理解が必要です。スクラッチを体系的に学んだことがある小学高学年以上の子ども達なら、ある程度は理解が可能です。
ただ、共通テストでは、特定のプログラミング言語ではなく、日本語混じりの「擬似言語」が用いられていますから、その読み方や使い方を事前に理解し、慣れる必要があります。ただ、本質ではないですし、慣れてしまえば問題がないため、このコラム内の動画ではスクラッチとの対比表を示し説明しています。
変数は、コンピュータプログラムで、数値、文字列、計算結果といったデータに名前をつけ再利用するための仕組みです。例えば、ゲームでは得点や体力などを変数として扱います。配列(リスト)も変数の1つですが、複数のデータを扱える点が異なります。
◆このコラムの活用方法
「第3問」は3つの問で構成されています。本文では一部の問いを中心に解説し、設問ごとの動画で詳細を解説します。動画で使用している説明用資料、スクラッチのプロジェクトファイルはダウンロード可能ですので実際に手を動かして自由に試してください。お手元に共通テストの問題があれば、学習後にぜひ挑戦してみてください。
次から概要とポイントを解説していきます。
【問1の概要】図や表を適切に読み、出題の前提を理解する
問1は、出題の前提となる情報を与えられた表や図から適切に読み取る問題です。
表1は、9つの工芸品それぞれの制作にかかる日数を示しています。工芸品1は、4日間、工芸品2は1日間かかるといった具合です。
図1は3人の部員が合宿中にいつ何を制作するのかを割り当てた表です。あらかじめ工芸品4までの割り当てが記されています。制作が終わると「空き」状態になり、最も早く空きになった部員が次の工芸品を担当します。複数の部員が同時に空いた場合は、部員番号が若い順に割り当てられるルールです。
問1は、「工芸品4はどの部員が何日目〜何日目まで制作するのか」、「工芸品5はどの部員が何日目〜何日目まで制作するのか」を、表と図から読み取る問題が出題されました。
解答
「工芸品4は部員2が2日目〜2日目まで制作」
「工芸品5は部員2が3日目〜5日目まで制作」
いずれも説明の文章、図や表を理解できれば決して難しい問題ではありません。
問1について詳細はこちらの動画を確認してください。
【問2の概要】誰が次に「空き」になるのかプログラムを完成する
問2ではいよいよアルゴリズムが出題されます。担当の割り当てを図2のような文面のメールで通知するために、次に一番早く「空き」になる部員を見つける方法を考えます。
◆配列に図1の割り当て表から読み取った「空き」日を入れる
まずは、「Akibi」という名前の配列に図1の割り当て表をもとに部員の次の「空き」日を代入します。配列は複数のデータを扱えるので、1番目には部員1の、2番目には部員2の、3番目には部員3の次の「空き」日を入れます。
ここで3番に入れるべき値が出題されましたが、こちらは図を読み取れば部員3の次の空き日は「4」日目であることがわかります。
◆配列から一番早く「空き」になる部員を探す方法を思考する
配列「Akibi」のデータを見て、次に「空き」になる部員を判断します。
「Akibi = [5, 3, 4]」の場合、2番目のデータ「3」が最も小さいため、部員2が次の担当だとわかります。次に、これをプログラムで処理する方法を考えます。
まずは、配列「Akibi」の1番目と2番目の値を比較し、早く「空き」になる方の部員の番号を変数「tantou」に代入しておきます。
こうして値の比較と代入を最後の部員まで繰り返すことで、一番早く「空き」になる部員を決定します。
◆スクラッチで考える
スクラッチを使って考えていきましょう。
変数「buinsu」に部員の総数(3)を代入、
変数「tantou」に1を代入(初期値として部員1を担当候補とする)、
変数「buin」に2を代入(比較対象の部員番号)します。
次に、配列「Akibi」の「buin」番目(最初は2番目なので「3」)と「Akibi」の「tantou」番目(最初は1番目なので「5」)を比較して、「Akibi」の「buin」番目の方が小さい時は「tantou」に「buin」を代入します。
「3」の方が小さいので、「tantou」には「2」(早く空きになる方の部員番号)が代入されます。
続きを考えていきます。『「buin」を1ずつ変える」』とは、変数「buin」を1増やすという意味合いで、『「buin」>「buinsu」まで繰り返す』とは、条件に合わない(偽)の間は挟んだブロックを繰り返すという意味合いです。
つまり、「buin」を1ずつ増やしながら、最後の部員になるまで比較と代入の条件部分を繰り返すことで最も早く「空き」になる担当を決めるのです。
「擬似言語」による穴埋め問題として、『もし□ならば』「tantou」に「buin」を代入するという構文が提示されました。□に入る条件を選ぶ問題です。
選択肢は次の通りです。
「buin<tantou」、「buin>tantou」
「Akibi[buin]< Akibi[tantou]」、「Akibi[buin]>Akibi[tantou]」
解答 「Akibi[buin]< Akibi[tantou]」
スクラッチで考えたとおり、この条件が正解です。
問2では、続いて部員数が5名になった場合に代入が行われる回数が問われます。詳細と続きはこちらの動画を確認してください。
【問3の概要】工芸品の担当と期間の一覧をプログラムで完成する
問3では、すべての工芸品の担当者と制作期間を決定するアルゴリズムを考えます。文字数の都合で詳しくは説明できませんが、プログラムを完成させる流れやポイントについては、以下の動画をご覧ください。
小中学生が実際に挑戦!共通テストの問題は解けるのか?
スクラッチの学習経験を持つ小中学生に、動画と教材で学習をしてもらいました。その後、親子や講師と一緒に共通テストにも挑戦したところ、アルゴリズムの理解度も高く、擬似言語の構文にも戸惑うことなく、正解率はおおむね7〜8割に達していました。
実際に問題に取り組んだ小学6年生からは、「大学のテストなので難しいのかなと思っていたけれど、問1は意外と簡単でした。特に問2が少し複雑でしたが、じっくり動画を見てスクラッチでも試しながら、出題の定義をメモして整理すると、解けるようになりました」と、前向きな感想が聞かれました。
最後に
初めての「情報」問題は、身の回りの事柄を情報技術で解決する内容が多く見られました。親しみやすいテーマですが、比較的長い文章、図や表などの情報をしっかり読み解き整理する力が必要です。特にプログラミング問題は、特定の言語の知識や技能を問うのではなく、読解力や理解力、思考する力が試されていました。これらの力は、大人も子どもも現代社会を生きるすべての人に求められる基本的な力でしょう。
スクラッチのような小中学生向けの言語を用いることで、楽しみながら思考力を鍛えることが可能です。より多くの方に教材がお役に立てますと嬉しく思います。
◆執筆者
ユーバー株式会社 代表 中村里香
楽しく手軽で続けやすいプログラミング教育の実現を目指し、2017年4月にユーバー株式会社を設立。すべての子どもが環境に左右されず、等しく楽しい教育を受けられることを信念に、プログラミング教室の運営、クラウド型学習サービスの提供、通信教育企業向け教材開発協力、教材開発/効果測定、プログラミング講師の育成支援などを手がける。また、子どもたちが実際にプログラミングに触れる機会を増やすため、体験イベントやワークショップの企画・開催も行っている。
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