2025年12月16日
「OR × AI」が教育現場にもたらす新しい学び ──グリッド主催「OR勉強会」から見える“最適化リテラシー”の必然性──
【寄稿】
グリッド 総務部広報チーム 親泊敦子
産業界で急速に存在感を増す「OR(Operations Research:オペレーションズ・リサーチ)」とAI。その活用領域は、エネルギー、製造、物流、都市設計など多岐にわたるが、いま教育分野でも注目が集まりつつある。
12月4日にグリッドが開催した「OR勉強会」では、最適化技術の基礎から、AIとの融合がもたらす未来の教育・人材育成像まで、最新の知見が共有された。
ORは、複雑な現実世界を数理モデルで描き、最良の選択肢=最適解を導く学問である。産業界においてはDX・AIと併せて活用される重要な技術であり、「最適化リテラシー」を持つ人材が国際競争力を左右し始めている。教育においても、この流れは無視できない。
産業を支える「最適化思考」は、教育にも必須の素養へ
勉強会ではまず、世界的な最適化ソルバーを提供するGurobi Japanの乾伸雄氏が登壇。
同社のソルバーは、洋菓子メーカーの生産計画から米NFLの試合スケジュール作成、さらには金融・エネルギー・都市交通まで、40以上の産業で利用されているという。
乾氏は OR と AI の違いを「AIは予測、ORは制約を守って正解を導く技術」と説明し、両者を組み合わせて使う未来を提示した。
こうした説明は、まさに教育現場にも通じる。
生徒に「正しい試行錯誤の仕方」「限られた条件下で最善を考える力」を育てることは、ICT教育においても重要なテーマだ。

最適化はその“思考モデル”そのものであり、STEAM教育・探究学習とも高い親和性を持つ。産業で必要とされるスキルは、いつか教育にも求められる。最適化思考の学びを、どの段階で、どのように取り入れるべきか。乾氏の講演は、その問いを投げかけている。
海外エネルギー業界で進むAI活用は、“教育DX”のヒントでもある
続いて登壇した東北電力の出馬弘昭氏は、海外のエネルギー企業がAIや最適化を経営判断にまで統合している現状を紹介した。
イタリアのEnelは、送電網を高精細画像で解析し、高度な保全活動の最適化を実施。ドバイ電気水道局は、業務全体を「AIネイティブ」化する大改革を進めている。米国では電力会社とスタートアップが協業し、資本計画や電力需要の最適化に取り組む。
数百万件のデータから最適解を導くこれらのプロジェクトは、“AIとデータを使って問題解決を行うスキル”が、将来の働き手にとって不可欠であることを示している。教育現場でも、AIに答えを求めるのではなく、「AIを使いこなし、制約条件の中で意思決定できる人材」を育てることが問われている。最適化はその核にある。
グリッドが描く「社会をデザインできる人材」像
勉強会後半では、グリッドCTO/技術共創室 室長の梅田龍介氏が、同社が目指す未来像を語った。
グリッドは、最適化を「個別企業の課題解決」にとどめず、産業横断で社会全体を設計するための技術へと発展させようとしている。
人口減少、熟練者の退職、インフラ老朽化——。こうした複雑な課題を前に、日本の産業は新たな思考転換を迫られている。
梅田氏が示したキーワードは「越境知」。

電力の知見を航空に応用するなど、分野を横断して課題に向き合う力だ。この「越境知」は、まさに教育のキーワードでもある。教科横断型の学習、PBL、探究活動において、最適化は「問題の構造化」「制約と目標の整理」「最善解の探索」という明確な思考プロセスを提供する。社会が求める人材像は、「AIで自動化された世界を理解し、その仕組みを設計できる人」へと変わりつつある。最適化を学ぶことは、これからの学習者にとって、「世界をどう見るか」の基礎を身につけることでもある。
OR学会が示す「学びの広がり」──スポーツ・文化・教育まで
日本OR学会の山上伸会長の講演も、ICT教育に重要なヒントを含んでいる。
世界食糧計画(WFP)の物流最適化、パリ五輪自転車競技の作戦立案、チリ政府の検査戦略、美術館の展示配置、学習アプリの個別最適化——。
これらはすべて「最適化の考え方が学習の現場につながりうる」ことを示している。
例えば、
• Khan AcademyやZ会のアダプティブラーニングは学習の“最適化”
• 美術館の展示最適化は“デザイン思考”と接続
• 五輪競技の作戦立案は“データで判断する力”を象徴
• 物流最適化は“社会科・地理・経済”と高い親和性を持つ

ORは、教科をまたいだ「横断的学び」を可能にする概念なのだ。
山上氏は、「成功する組織は競争しない。競争を避ける戦略を考えるのがアナリティクスだ」と締めくくった。意思決定を「数理で説明できる力」を身につけることは、学習者にとって人生の武器となるだろう。
教育現場にとっての示唆:「最適化リテラシー」は新しい基礎教養へ
勉強会を通じて明らかになったのは、最適化が産業界で必須の基盤技術になると同時に、教育現場でも「次の教養」として位置づけられ始めているということだ。
• データから課題を発見する力
• 制約条件の中で最善を考える力
• AIを補完しながら意思決定する力
• 分野を越境して問題を捉える力
これらは、未来のICT人材・STEAM人材に不可欠なスキルである。
最適化は決して高度な専門家だけのものではない。
企業研修・学校教育・自治体の学習施策など、教育のあらゆる場で最適化思考を取り入れる意義は大きい。これからの学習者が、AI社会の中で自らの役割を設計し、創造的に生きるための土台となるからだ。
まとめ
最適化とAIは、産業の現場だけでなく教育の未来にも深く結びつき始めている。本勉強会で示された知見は、「どのような人材を育てるべきか」を考えるうえでも大きな示唆を与えてくれる。
教育と産業がともに進化していく時代において、ORという共通言語が、両者をつなぐ架け橋になるだろう。
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