2020年1月14日
GIGAスクール構想とは(1) 1人1台学習者用端末の標準仕様をチェックする
GIGAスクール構想とは、Society 5.0 時代に生きる子供たちの未来を見据え、児童生徒向けの1人1台学習用端末と、高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備する構想で、2019年12 月 13 日に閣議決定された2019年度補正予算案に2318億円が盛り込まれました。GIGAスクール構想のGIGAとは通信速度で使うギガビットではなく、Global and Innovation Gateway for Allの略。誰一人取り残すことなく子供たち一人ひとりに個別最適化され、創造性を育む教育ICT環境の実現に向けた施策です。平たく言うと児童生徒に1人1台の学習者用端末と、クラス全員が一度にアクセスしても利用できる通信環境を整備するものです。「2020年1人1台」を目指して進めてきた地方交付税での予算措置などが目に見える効果を上げてこないことを受け、ICT教育後進国脱却のため、総理の鶴の一声で実施される緊急措置です。1人1台では、1台4万5000円限度に補助を実施し、2022年度までにすべての小中学校で3クラスに1クラス分の学習者用端末を整備します。ここで乗り遅れた自治体は、本当にガラパゴスと化し、そこに住む児童生徒の未来に大きな影響を及ぼすことが想像されます。
今回は、GIGAスクール構想の一翼を担う「1人1台学習者用端末」のスペックを確認します。2019年12月20日に文科省が公開した「GIGAスクール構想の実現標準仕様書」に沿って紹介します。このなかで文科省も「この標準仕様書はあくまでモデルである。各自治体におかれては、ICT 活用教育アドバイザーも活用しつつ、このモデル例を参考に各学校での ICT 活用を想定して独自に仕様書を作成し、安価で簡便な調達と持続可能な学校 ICT 環境の運用を実現していただきたい。」としているのであくまで参考です。また標準仕様書は、適切な通信ネットワークとパブリッククラウドに基づくクラウドコンピューティングを基本としたもの。そのため、クラウドコンピューティングを利用した動画や音声データのやりとりがスムーズに可能になるよう、併せて通信ネットワークの整備も必ず行う必要がある。クラウドコンピューティングの利用に当たっては、「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン(文部科学省 令和元年 12 月改訂版)」を踏まえ、クラウドコンピューティング利用を前提として、自治体ごとに学校における情報セキュリティポリシーの改訂を行うことが望ましいとしています。
まず標準仕様書で推奨されているOSはマイクロソフトの「Windows」、Googleの「Chromebook」、アップルの「iPadOS」の3種類。
各自治体での端末の選定基準、仕様の策定には下記の注意点が必要だとしています。
①新学習指導要領におけるICTを活用した学習活動を具体的に想定すること。
②ICTを活用した学習活動を踏まえ優先的に整備すべきICT機器等と機能について具体的に整理すること。
③必要とされるICT機器等及びその機能の整理に当たっては、限られた予算を効果的かつ効率的に活用すること。
④学習者用コンピュータは先端技術を取り入れた高価・高性能な機種である必要はなく、むしろ不要な機能をすべて削除した安価なものを時代に合わせて更新していくこと。
⑤従来の端末に集中したオンプレミス型よりも、適切な通信ネットワークとパブリッククラウドによるクラウドコンピューティングを基本とすること。
⑥調達に当たっては、サプライチェーン・リスクに対応するなど、サイバーセキュリティ上の悪影響を軽減するための措置を必要とすること。
具体的に言うと「使い方を想定して選定する」「必要最低限の機能を有した廉価なモデル」「クラウド利用を前提にする」「信頼できるメーカー、業者で購入する」といったところ。
<h3>3機種の具体的な仕様例</h3>
① Microsoft Windows 端末
OS:Microsoft Windows 10 Pro
CPU :Intel Celeron 同等以上2016年8月以降に製品化されたもの
ストレージ:64GB 以上
メモリ:4GB 以上
画面:9~14 インチ(可能であれば 11~13 インチが望ましい)タッチパネル対応
無線:IEEE 802.11 a/b/g/n/ac 以上
LTE 通信:LTE 通信に対応していること(本体内蔵または外付けドングルを使用)形状 デタッチャブル型またはコンバーチブル型
キーボード:Bluetooth 接続でない日本語 JIS キーボード
カメラ機能:インカメラ・アウトカメラ
音声接続端子:マイク・ヘッドフォン端子×1 以上
外部接続端子:USB3.0 以上×1以上
バッテリ:8時間以上
重さ:1.5kg 未満
② Google Chrome OS 端末
OS :Google Chrome OS CPU Intel Celeron 同等以上2016年8月以降に製品化されたもの
ストレージ: 32GB 以上 メモリ 4GB 以上 8
画面:9~14 インチ(可能であれば 11~13 インチが望まし い)タッチパネル対応
無線:IEEE 802.11 a/b/g/n/ac 以上
LTE 通信:LTE 通信に対応していること (本体内蔵または外付けドングルを使用)
キーボード:Bluetooth 接続でない日本語 JIS キーボード
カメラ機能:インカメラ・アウトカメラ
音声接続端子:マイク・ヘッドフォン端子×1 以上
外部接続端子:USB3.0 以上×1以上
バッテリ:8時間以上
重さ:1.5kg 未満
③ iPadOS 端末 OS:iPadOS
ストレージ:32GB 以上
画面:10.2~12.9 インチ
無線:IEEE 802.11 a/b/g/n/ac 以上
LTE 通信:LTE 通信に対応していること(本体内蔵または外付けドングルを使用)
キーボード:Bluetooth 接続でない日本語 JIS キーボード
カメラ機能:インカメラ・アウトカメラ
スタンド:利用時に端末を自立させるためのスタンドを端末台数分用意すること(キーボードがスタンドになる場合は別途準備する必要はない)
音声接続端子:マイク・ヘッドフォン端子×1 以上(マイク・ヘッドフォン端子がコネクタと共用になっている場合は分配アダプタで対応)
外部接続端子:Lightning コネクタ又は、USB Type-C コネクタ×1以上
重さ:1.5kg 未満
いくつか気になる点をチェックします。
まずキーボードですが、「Bluetooth 接続でない日本語 JIS キーボード」としています。
「Bluetooth 接続ではない」のは、複数端末が教室内でキーボードをBluetoothで接続をした場合に、ペアリングが解除されたり、混線したりすることを避けるためです。具体的な接続方法としてはUSB接続や、Smart Connector による接続、元々キーボードを取り外さないノート型・コンパーチブル型の端末を導入するといった方法があります。また日本語 JIS キーボードを指定しているのは、「キーボード入力で原文を入力」→「スペースキーを押して目的の漢字・カタカナが出るまで変換」→「returnキーで確定」という、日本語独特の入力プロセスがしやすいためと思われます。しかし、児童生徒にキーボード入力を指導する際の児童生徒・教師の情報活用能力や負担感を鑑みてUSキーボードに変更しても良いとしています。
新学習指導用要領では、「タイピング」も重要な情報活用能力のひとつと位置づけていますから、キーボードの使えない学習者用端末は考えられない事になります。現状タブレットのみで活用している学校では、標準以下の環境となりますので早急な対応が必要です。
「LTE 通信に対応していること」という項目があります。内蔵していなくても外付けで良いとされています。しかし、家庭学習や校外学習での通信方法を検討した結果、LTE 通信機能について、不要であれば削除しても構わない(削除することでより安価な端末を整備できる可能性がある)。としています。また、LTE 通信を利用する場合、今回の標準仕様書例に認証カード(SIM等)の調達、通信利用にかかる費用は含まないため、必要な場合は自治体が自前で別途調達を行うことになります。
さて、それでは3種のOSから、どれを選んだら良いのでしょうか。コンピュータといえば、ソフトウェアやアプリケーションを一杯詰め込んで、それが多いほど、そして処理速度が速く、大容量のデータ保存ができるほど便利で価値のある端末だという時代がありました。いまでもそのような使い方をしている人は多いことでしょう。しかし、教育現場で期待される端末は、学習に使うのに必要充分な処理能力と不自由しない通信能力で、そして何より廉価であることです。文科省も標準仕様書の中で「学校のICT環境構築に当たっては、端末、ソフトウェア、通信ネットワークなどをそれぞれ別個に考えるのではなく、複合的に勘案して、全てがストレスなく稼働するかを見極めることが重要である。特に、学習用ツールについては、具体的な学習場面における ICT 利活用についてどのようなツールを用いて実現するか検討し、その方法が実現可能な端末の決定を行うことが重要である。」としています。また、「1つの機能あたり1つの有償ソフトウェアを必ず購入しなくてもよい。例えば、教育機関向けの無償のライセンスで複数の機能が実現できる場合や、無償で公開されているWebサイトで実現可能な機能などもある。」としています。この前提としては、クラウドの活用を念頭に置いています。いわゆる何でも出来る高価なコンピュータを利用するのではなく、ネットでのクラウド利用を前提とした端末ということです。
個人的には、小学校低学年iPad、中高年Chromebook、中学Windows PCという流れが浮かびますが、ひとまず、Google Chrome OSを搭載した「Chromebook」を基準として、充分か不足かで検討してみてはいかがでしょうか。合わせて、全国の自治体における学校のICT環境整備の加速とその効果的な活用を一層促進するため、文科省が検討している、都道府県ごとにエリアをカバーした「ICT 活用教育ア ドバイザー」を活用するのもよいでしょう。(編集長:山口時雄)
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