2025年1月8日
「AIと教育」第2回:教育現場でのAI活用事例—効果的な導入と実践
【寄稿】
<はじめに>
AIは、教育現場において教員の業務負担を軽減するだけでなく、個々の生徒に合った学びを提供するためのツールとして注目されています。本稿では、教育現場でのAI活用の現状を具体的な活用事例を紹介しながら考察していきます。現場での効果的な導入方法と成功事例、さらには失敗から教訓を学んでいただければ幸いです。
教育現場におけるAIの注目度
近年、教育分野でのAI活用は急速に進展しています。ChatGPTなどの生成AIや個別最適化された学習体験を提供するAIシステムをはじめとする多様なツール・サービスが登場し、教育現場での活用が広がりつつあります。
例えば、ロンドンのデイビッド・ゲーム・カレッジでは2024年9月から一部の生徒のGCSE(General Certificate of Secondary Education:全国統一試験)勉強のサポートを人間の教師からChatGPTなどのAIツールに置き換える取り組みが開始されました(*1,2)
この取り組みはまだ始まったばかりであるものの、すべての生徒が自分自身のペースで学ぶことが可能になり、全体に合わせると学習のペースが早すぎる(あるいは遅すぎる)というようなことが無くなっていくことが期待されています。
日本国内でも2024年12月に文部科学省から学習指導要領の改訂について中央教育審議会に諮問されました(*3)。これは生成AIなどのデジタル技術の発展も背景に存在し、教育課程の見直しを求めるものです。この資料の中には「テクノロジーは変化に伴う困難だけでなく多様な個人の想いを具現化するチャンスも生み出す」と明記されており、日本国内の教育においてもAIの注目度が高まっているのがわかります。
国内外の教育現場でのAI活用事例
さて、それでは国内外でのAIの活用事例とその導入効果をいくつか紹介していきたいと思います。
英作文の添削
滋賀県立高校ではChatGPTを校務と授業、両方に活用しています(*4)。例えば、英語の教材作成では「CEFR(外国語の運用能力を評価するための国際基準)のA1レベルの文章に書き換えてください」というようなプロンプトを作ると英文ニュース記事を生徒のレベルに合わせて優しい表現にするように利用しているそうです。
さらに、同様に英語の授業では生徒たちは、「与えられたテーマについて、アイデアを出す」→「AIを使わずに英語で文章を書く(辞書は使用可)」→「AIからフィードバックをもらいながら修正する」といった手順で英作文を書いていくという英作文の学習を行っています。生徒一人ひとりが英作文を書いて、それを添削してもらい、書き直すという一連の流れが授業内でできてしまうスピード感のある学習はまさにAIが無ければ実現できない学習の在り方だと言えます。
復習用教材の自動生成
九州大学はいち早くラーニングアナリティクスセンターを基幹教育院内に設置した大学です。その成果の一つとして生徒ごとに適した教材を自動で作るAIシステムがあります。生徒が間違えた問題などのデータをAIが分析し、「この問題を間違えたから、遡ってこの問題を解くのが良いだろう」と推論してくれるシステムは世の中に多く存在しますが、九州大学のシステムはそれとは異なり、生徒の学習履歴と小テストの結果から復習に適した教材を作成してくれるシステムです。このシステムを利用した生徒と利用していなかった生徒の総まとめテストの正答率は10%以上の差が生じています(*5)。
自由記述文の採点効率化ツール
こちらは弊社で開発したAIツールの事例になります。とある大学で毎週行われるテストの自由記述問題の採点に非常に時間がかかるという課題をAIによって解決した事例です。
提出されたテストの回答をAIに「似た内容のグループごとにカテゴリ分けさせる」ことで、全体の回答傾向を瞬時に把握し、似ている文章ごとに採点を行うことで採点業務の効率化を実現しました。
AI活用教育のはじめ方
さまざまな活用事例を紹介させていただきましたが、具体的に自校に対してAIを導入していくにはどうすれば良いか悩む方も多いかもしれません。ここからはAI導入の具体的なステップを解説していきます。
教員・職員に対するAI教育
はじめのステップは職員研修となります。AIを活用するためには、教職員がAIツールの基本的な仕組みを理解し、それをどのように現場で活用するかを主体的に考えられるようになる必要があります。この研修時には、AIツールの基本的な仕組みや操作方法を学ぶとともに、教育現場での応用方法を実践的に体験することが重要です。
まず、AIの基礎知識について学ぶ場合、AIシステムの専門家による講義や実演がおすすめです。例えば、AIはデータ収集→学習→予測といったフローで作られますが、それを理論だけでなく実例を通して説明してくれる講師が望ましいでしょう。
そもそもAIが何ができて、何ができないかという本質的な理解を持ってツールの操作方法を学ぶことは、その理解を持たずに表面上の使い方だけをなぞる場合と比べると習得速度・活用レベルに大きな差が生じます。
基礎知識を学んだ後は実践的なツールの使用方法の研修を行います。ここでは、ChatGPTを活用した授業設計や、生徒の成績データからの学習プランの作成などを実践的に学び、教職員が実務の中でAIを活用する体験ができる場を設けることが重要です。
そして、最後にAIを使う上で避けては通れない著作権や法律、AI倫理についての研修を行います。これらは自身がAIを活用する際に必要となるだけでなく、今後生徒がAIを適切に、安全に利用するための指導にも必要になる知識です。
小規模な試験運用
教職員の研修が完了した後は小規模な試験運用を行うことが効果的です。一部の生徒・クラスや特定の科目でAIを導入し、その成果を観察することで実際の効果や課題を明確にすることが可能です。
試験運用を行う際はその対象となる生徒を明確にし、具体的な目標を設定しましょう。例えば「理科の補習クラスでAIチューターシステムを導入し、参加生徒の平均点を10%向上させる」といったものです。ここでのポイントは目標が測定可能であること。できるだけ定量的な計測が可能な目標を設定しましょう。
また、試験運用期間中は生徒からのフィードバックも積極的に集めてください。ツールやシステムの使いやすさや、学習サポートに対する満足度を調査することで導入範囲の拡大を行う際に役立ちます。
最終的に試験運用が完了した後はデータを分析して導入効果を評価します。生徒の学習成果だけでなく、教職員の業務効率化にどれだけ寄与したかも数値化することで次のステップに進めるための判断材料とします。この際、気をつけないといけないのは無意識のバイアスです。AIに関する過度な期待、あるいは逆に過度な心配を持つ人はまだまだ多いです。そのバイアスがかかった評価を避けるためにも定量的な評価は非常に重要となります。
導入後の改善施策
本格導入を行った後も、その効果を定期的に収集し、PDCAサイクルを実践することが重要です。特に、生徒の成績データや教職員の業務負荷を定期的に分析し、その結果を基に運用方法を柔軟に調整することが成功の鍵です。
AIに限らず、ICTの導入に際しては最初の導入よりも運用の方が圧倒的に重要です。運用段階での定期的な見直しが、新たな教育目標や生徒のニーズに応じた柔軟な対応を可能にします。
昨今のAI技術は日進月歩で進化していっているため、継続的なモニタリングと教職員向けの研修の実施を行って学校全体でAI教育の推進に取り組むことが最終的には重要なポイントとなるでしょう。
まとめ
AIは教育現場において教職員の業務効率化だけでなく、教育の在り方を変えてしまう可能性を秘めています。多岐にわたる分野で活用が進む中、効果的に導入をしていくためには教職員の教育をはじめとした計画的なプロセスと一度導入してからも改善のプロセスを繰り返していく姿勢が重要となります。専門家のサポートも受けながら是非、導入を検討してみてください。
最終回となる次回は未来の教育を支えるAIリテラシーの重要性と教育方法についてお伝えします。
*1 教師の代わりにChatGPTなどのAIツールを使用…「生徒は自分のペースで学習することができる」 | Business Insider Japan
https://www.businessinsider.jp/post-292025
*2 Revolutionary AI-powered GCSE Programme – Latest News – David Game College | Independent (Private) A Level & GCSE Sixth Form College in London
https://www.davidgamecollege.com/news-events-media/latest-news/item/853/revolutionary-ai-powered-gcse-programme
*3 中央教育審議会(第140回) 配付資料:文部科学省
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/gijiroku/1415607_00026.html
*4 「ChatGPTの授業活用」で生徒の学びはこう変わる!教師が意識すべき3つの問い 英作文と総合探究の事例に見る「生成AIの利点」 | 東洋経済education×ICT
https://toyokeizai.net/articles/-/739516
*5 データとAIがもたらす教育革命 学びを変えるラーニングアナリティクス(日経BP 緒方広明、江口悦弘)より
◆執筆者
株式会社dott
代表取締役 浅井 渉
会津大学でコンピュータサイエンスを学んだ後、エンジニアとしてキャリアをスタート。その後、ディレクター、経営参画を経て株式会社dottを設立。設立2年目からAIシステムの提案・開発を開始。ビジネスのニーズに合わせたシステム提案、またクライアントと共にビジネス自体の設計・進行を主に担当する。IT系専門学校で非常勤講師も兼任しながら、民間企業、自治体、学校機関などでの講演・セミナー活動も積極的に実施。愛猫と二人暮らし。
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