2020年9月1日
「目標達成の科学」をオンラインで学ぶ。長崎大学の新たな教養課程「経験学習実践論」
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オンライン授業が当たり前の方法となって数ヶ月が経ちました。あらゆる教育機関が、どうすればこの新しい「教室」でもっと学習効果を高めることができるのか、試行錯誤しています。そうした中、新たなテクノロジーを活用した教育について、意欲的に取り組む機関の一つが国立大学法人 長崎大学です。同大学では、「Cisco Webex」ソリューションを介して外部講師を招くことによって、オンラインだからこそ可能となる優れた講義を提供しています。
行動科学から生まれた、成長するためのメソッド
オンラインでの講義が始まると、学生45人から「タンドリーチキンを作った」「友達の誕生日を祝った」「ボランティアに登録した」といった内容が次々と共有されてきました……
これらは、長崎大学における「経験学習実践論」の講義シーンで、学生達が日々の暮らしの中で達成したことの一つです。一日5分かけて発見し、さらに週一回、10分間かけて達成の理由や感情などを問い直します。一見、とてもシンプルな振り返りのようですが、実は行動科学や認知科学に深く裏付けされた「行動変容のメソッド」が隠されているのです。
他者から良質なフィードバックをもらうことは成長の近道ですが、そのためには失敗を恐れず、本音を打ち明けなければなりません。また、本音を打ち明けるためには高い自己肯定感が必要です。また、「自分は本当にそれができたのか?」と問い直すクリティカルシンキングも、先へ先へと挑戦していくためには不可欠でしょう。
自己肯定感を高め、優れた内省を可能にし、学生自らが主体的な学習、行動変容できるようにと新設されたこの講義は、静岡県三島市に拠点を置く、ネットマン 代表取締役/発明家 永谷研一氏によって生み出された「できたことノート」と「できたこと手帳」をもとに行われています。永谷氏はITを駆使した教育デザインの専門家として、企業や学校で1万5千人以上を支援しており、できたことノートの他にも「絶対に達成する技術」「科学的にラクして達成する技術」といった著書も執筆しています。
「私は10歳の頃『発明家』になりたいと思いました。その夢が叶ったのは、教育用ITシステムの特許を日米で取った41歳の頃です。でもその時、ほんとうに自分が在ろうとしていたのは『面白いものをつくって皆に喜んでもらうこと』だったと気付いたんです。自分の在りたい姿や価値観、信条を内省によって明確化できれば、人生に訪れる辛い事も乗り越えやすくなる。自分で自分の背中を押していけるようになる。それを伝えたくて、日々取り組んでおり、できたことノートもその一つです」
そんな永谷氏に大学での講義を依頼したのは、長崎大学 ICT基盤センター 教授の丹羽量久氏でした。
「もともと永谷さんとは情報コミュニケーション学会の研究仲間だったのですが、とても素晴らしい活動をされていて、ずっと長崎大学で講義してほしいと思っていました。しかし、三島市から長崎市に何度も来て頂くための予算はなかなか確保することができません。そこで、前半はオンライン、後半は対面授業という形式を取ることにしたのです」
オンライン講義といっても、当初は講義室に学生を集めて、永谷氏のオフィスと中継する想定でした。ところが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により、それを断念せざるを得ないことになります。
Cisco Webexソリューションを使い分けることで、効果的な講義を実践
長崎大学は、全国的に見ても早い段階の、4月8日から全講義の完全オンライン化をスタートさせました。LMS(学習管理システム)に教材をアップするオンデマンド型と、ビデオ通話によるリアルタイム型の2種類で講義を提供しています。
リアルタイム型の講義で活用されているのが、Cisco Webexソリューションです。長崎大学では、大規模なオンラインイベントに対応した「Cisco Webex Events(以下、Events)」と、ビデオ会議に最適化された「Cisco Webex Meetings(以下、Meetings)」、そしてプロジェクトにおける共同作業を効率化できる「Cisco Webex Teams(以下、Teams)」の3種類が主に使われています。
丹羽氏は、このCisco Webexソリューションの活用について次のように語ります。
「通常の講義・演習ではEventsを、手軽に誰かと話したいときはMeetingsを、学生同士で話し合いをさせたいときはTeamsを、というように使い分けています。アプリごとの切り替えもスムースで、まさに『かゆいところに手が届く』ツールです」
また、経済学部で情報処理教育を担当する、長崎大学 経済学部 企業行動・意思決定 講師の鈴木斉氏は、Cisco製品の特徴をこう話します。
「長崎大学ではいくつかのビデオ通話システムが推奨されているのですが、その中でもEventsは帯域の最適化に特に優れていると感じます。大勢の学生が受講しても、使用帯域が少なくて済むのです。学生が使う回線は高品質とは限りませんから、安定した教育を提供する上で助かっています」
永谷氏による経験学習実践論でも、EventsやTeamsが使われています。静岡県三島市のオフィスから、長崎市に住む45人それぞれの家に向けて講義がおこなわれているのです。
ただ一方的に喋るのではなく、「どう感じるか、チャット欄に書いてもらえますか」と呼びかけたり、本講義で活用しているLMSの”Cラーニング”のURLを共有してアンケートをとったり、Teamsでグループごとに分かれて学生同士ディスカッションしたりと、インタラクティブな講義が展開されます。
ITツールを駆使した教育に早期から取り組んでいる永谷氏にとっては、こうした工夫はお手の物です。遠隔授業セミナーを実施した際は、全国の教員に向けて、「テクニカルサポートができるアシスタントを参加させるべき」といった具体的なアドバイスをしていました。
そんな永谷氏は、Cisco Webexソリューションを次のように評価します。
「いくつものビデオ通話ツールを使っていますが、Cisco Webexは音声と映像の圧縮技術が一番良いと思います。遅延が少なく画質が綺麗で、画面越しではなく『そこにいる感じ』がします。良い意味で、遠隔授業っぽくない講義が提供できているのではないでしょうか」
アナログとデジタルの融合によって、インストラクショナルデザインを変革していく
Cisco Webexソリューションを活用した講義のオンライン化について、丹羽氏はこんな効果があったと説明します。
「『学生の反応がよくなった』と他の先生方も口を揃えて言います。チャットや拍手、顔文字を使ったリアクションなどを求めると、対面よりも学生が講義に反応してくれるのです。また、一人が疑問に思ったことに対して、その答えを参加している全員に情報共有しやすいと感じます。その場で疑問をすぐに解決できるのは、リアルタイム講義ならではのメリットですね」
オンライン講義における学生からの意見でも、「操作が分かりやすい」「どこでも受けられて便利」「アンケート調査がやりやすい」「画⾯共有のスライドが⾒やすく、⾳声も聞き取りやすい」「周りを気にせず、チャットなどで発⾔できる」といった内容が寄せられ、学生、先生の両者にとってCisco Webexソリューションが好影響を与えています。
さらに丹羽氏は、今後の活用を次のように構想します。
「2020年7月時点での長崎大学は、少人数制の講義や実験、実習などにおいて対面授業が再開されつつある状況です。しかし、全科目をオンラインで提供するという方針は変わっていません。特に新生活を長崎で始めたばかりの1年生にとっては、ずっと部屋にこもっているストレスは大きいでしょう。カウンセリングを担当する部署に、ワンタッチでビデオ通話がおこなえるデバイス『Cisco Webex DX80』を導入することを計画しています」
アフターコロナの世界を見据えた、長期的な視野での教育のあり方について、永谷氏はこのように話します。
「インストラクショナルデザイン(教育方法の設計)が、がらりと変わっていくように思います。今後は、アナログな対面式と、デジタルな遠隔授業のハイブリッドになるのではないでしょうか。何十人といる教室だけではなく、独りの部屋でオンラインの教室に参加することによって、『みんなと違う自分でもいい』という適切な価値観が磨かれればと思います」
長崎大学はテクノロジーの活用によって、”行動変容のメソッド”という優れた講義の提供を可能にしました。今後は対面とオンライン、両方の利点を組み合わせることによって、さらに教育を進化させていくことでしょう。
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