2017年10月27日
絶対必要な21世紀を生き抜く「プレゼン能力」はICT活用で“磨く”
グローバル化が叫ばれて久しいが、日本人が欧米人に比べて特に劣る能力の一つに「プレゼンテーション(プレゼン)能力」があげられる。それは仕方の無いことだ。我々、昭和育ちの世代も、平成育ちも学校で「プレゼン」なんて教わっていないのだ。しかし、21世紀を生き抜く者にとって、「プレゼン」は欠かせない能力となる。その学びに、ICTが効くのである。
「プレゼン能力」がなくても生き抜ける国
20世紀から最近まで、日本国内のビジネス活動に置いて「プレゼン能力」がことさら求められることは無かった。民間企業の企画コンペでは、綺麗で格好いい絵コンテ(映像の構成図)やパース(完成予想図)、分厚い企画書や予算を掛けた動画などの出来映えが勝敗を決し、官公庁や自治体の入札では中身より最低価格が決め手になる。20世紀には「バックマージン」や「リベート」、「袖の下」などの不正行為が横行したこともある。
日本では、物事を決するのは、なんだかよく分からないいろいろな事であり、「プレゼン能力」がなくても生き抜ける国だった。
しかし、日本企業が海外に進出して活動を行い、外資系の企業が日本の経済を動かし、株を買い、会社を買うようになると、日本的なやり方が通用しなくなってきた。近年では「コンプライアンス(法令遵守)」や「ディスクロージャー(情報公開)」など欧米の考え方が日本でも定着しつつあり、「コンセプト(概念)」や「エビデンス(根拠)」などといった用語も一般的になってきた。
もしあなたが学校や企業の管理職で、「コンプライアンス」、「ディスクロージャー」、「コンセプト」、「エビデンス」の用語を聞いたことも使ったこともないとしたら、現代社会におけるガラパゴスの住人と云うことになるが、大丈夫だろうか。
つまり、企業内でも商取引でも「見栄えや形ばかりの提案」から「論理的なプレゼンテーション」が求められる時代になってきたのである。
プレゼンテーションとは何か
私は、ICT教育ニュースの編集長になる前もなってからも「メディアトレーナー」という仕事をしている。企業のトップや広報担当者、医師や大学教授、自治体や団体の職員など、テレビや各種媒体からインタビューを受けたり、人前でプレゼンテーションする人たちのトレーニングを行う仕事である。
プレゼンの肝は、「誰に」「何を」「どう伝えるか」が明確になっていることである。「誰に」とはプレゼンの訴求対象(情報を伝えたい人)のことであり、「何を」は伝えたいメッセージ、「どう伝えるか」は表現方法や演出である。
前段で「論理的なプレゼンテーション」と記したが、良いプレゼンと云えば、ヘッドセットのマイクで大げさな身振り手振りを交えたものや、素晴らしい動きのパワーポイントや音楽で圧倒する「見せるプレゼンテーション」を想像していないだろうか。
確かに、「どう伝えるか」の見せ方の部分でパフォーマンスが効果的なこともあるのだが、プレゼンとはそのパフォーマンスのことではない。
プレゼンとは、「情報発信者が情報受信者に提案や情報を伝達し行動を起こさせるきかっけを創出するもの」である。ビジネスシーンでは多くの場合、「課題解決のための手段や方法を提案する」ものである。何より、中身が論理的に構築されていなければならない。プレゼンとは、「発想・課題の抽出~情報収集・論理的思考~表現」という一連の作業なのである。
プレゼンはどのような場面で使われるのか。自ら何かを提案したい時、上司に課題を提示されたとき。教育現場であれば、教材や機材の購入、設備の改善など予算の獲得の場面がひとつ。ICT教育の現場では、機材不足・環境未整備の原因に予算不足を挙げることが多い。しかし、実際にICT機器や通信環境を導入した自治体や教育機関の関係者に訊くと、決裁者に対してお願いするだけでなく、しっかりとしたプレゼンを行っているという。
まず始めにICT機器導入が必要な背景。ICT導入によってどのような授業を行うのか。それによって得られる成果は何か。管理や運用に問題は無いか。論理的な検討・検証を行い、エビデンスを収集し論理的に構成してコンセプトを明確にする。中身は“論理的”に、表現は“情熱的”に行うのだという。そもそも論理的なプレゼンをまとめるためには、かなりの情熱や使命感は必要だろうけれど、相手に行動を起こさせるのは決して論理的なエビデンスの積み重ねだけだはないだろう。人を動かすプレゼンには、時としてパッション(情熱)が必須条件になることもあるのだ。
ICTを活用したプレゼンテーション教育
学校教育でプレゼンといえば、「課題の提示」~「調べ学習」~「まとめ」~「発表」というのが想定される。これは、小中高どの段階でもどの科目でも行われていることだろう。アナログ環境だと、「課題の提示」=プリント配布か板書。「調べ学習」=図書か資料プリント。「まとめ」=まとめシートかホワイトボード。「発表」=シートの提出か板書、といったところだろう。
これがICT環境だと、「課題の提示」=生徒用端末に一斉配信。「調べ学習」=インターネット。「まとめ」=ロイロノート・スクールなどのプレゼンアプリ。「発表」=プロジェクターや大型テレビに映写、または、生徒用端末にそれぞれ表示、となる。
例えば、インターネットを使った「調べ学習」では、分かり易いレベルから高難度の資料まであらゆる情報にアクセスすることができる。日本だけで無く海外のWebサイトを自動翻訳して活用することも出来る。選択肢が増える分、必要な情報を選別する能力が自然に養われることになる。プレゼンアプリを利用すれば、動画も画像も手書き素材も活用することが出来る。「発表」では、端末から大型提示装置に送るだけで表示できるから、時間も手間も掛からない。プレゼンアプリのカードが発表通りの順番で並んでいるから、多少不慣れでも大丈夫。学びの幅の広さと奥行き、表現の多彩さはアナログとは比較できないものとなる。
またプレゼンツールを利用した発表のまとめ活動では、表現する内容のカード構成や展開を考察したり、メッセージの明確化などを行うことで自然に論理的な思考が磨かれることになる。
このような活動を通じて子どもたちは、「情報収集能力」や「思考力・判断力」、「表現力」などを身につけていく。アナログよりも効率的なのではなく、効果的な学びを実現することが出来る。
プレゼン能力はICTを活用した学びの中で、効果的に身に付けることが出来るが、「プレゼン能力の向上」を目標に積極的に取り組んでいるが、パナソニック教育財団第42回特別研究指定校の茨城県古河市上大野小学校だ。ここでは、「プレゼンテーション力の向上で21世紀型学力を身に付ける学習活動に関する研究~ICT活用で伝える力,思考力・判断力・表現力を育む教育活動~」と題した研究を行っている。
こうした取組は、「恥ずかしい」「自信が無い」「どうしていいか分からない」と、人前で自分の意見・考えを表現できなかった20世紀の子どもたちとは次元の異なる、21世紀を生き抜く力を持った子どもたちを育んでくれると信じている。
上大野小学校では、11月20日に公開授業研究会を予定している。是非参加して体感しみて欲しい。(編集長:山口時雄)
□古河市立上大野小、「プレゼン力向上」の第2回公開授業研究会 11月20日
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