2017年9月20日
次世代を担う“先生の卵”たちへ ICT活用スキル要りませんか?/iTeachers Academy
2020年からスタートする次期学習指導要領では、「情報活用能力」の育成が「言語能力」、「問題発見・解決能力」と同等に扱われており、21世紀を「生きる力」にとって欠かせないものだとしている。情報活用能力の育成のために、ICTの活用は必須の要素である。当然、学びの現場を預かる教員にとって、ICT活用能力はますます不可欠なスキルとなってきている。
ところが、教育現場にいる教師たちのICT活用能力(スキル)は、期待ほど向上していない。原因は幾つもある。予算不足によるICT環境整備の遅れ、自治体や教育委員会、学校長の理解、教員の多忙化、やる気、情報不足などなど。もっとも大きな原因は圧倒的なメンター(指導者)の不足にある。自らが授業でICTを有効活用でき、それを他の教員に指導できる教員が少ないのだ。
「世代交代が進めば・・・」という期待もあったが、実際にデジタルネイティブ世代の教員が現場に入ってきても、学校全体のICTスキルが自然に向上したという話は訊かない。デジタルネイティブだからといって、すぐさま学びの中でICTを活用できる訳ではないのだ。なぜなら彼ら自身が大学の教職課程で、ICTを活用した学びを経験しないまま教員になっているのだから。
「教育ICTを通じて“新しい学び”を提案する教育者チーム」を標榜する先生たちの集まり「iTeachers」は、発足以来4年間、ICT活用の事例や先生たちの活動を紹介する本の出版やイベントの開催、ICT活用の実践者が自らの実践をプレゼンテーション形式で紹介するYouTube番組「iTeachers TV」などを通じてICT教育の普及活動を展開してきた。
しかし、その活動だけでは2020年に間に合わない。その先にある生徒主体の学びを実現することができない、ということで「NPO法人 iTeachers Academy」を立ち上げた。教師を目指す学生や若手教師のための『次世代教員養成スクール』を始めることにした。
「iTeachers Academy」の事務局長を務める、教育ICTコンサルタントの小池幸司さんに話を伺った。
iTeachers Academyはなぜ必要なのか
iTeachersはこれまで、ICTを学びの現場で活用する小学校教諭から大学教授などのトップランナー、学校や塾のICT導入責任者などが集まった「任意団体」として活動してきた。しかし今年7月、「NPO法人 iTeachers Academy」を設立、新たなフィールドへと歩み始めた。
NPO法人を立ち上げた目的について小池さんは、「教職課程の学生さんや若手の先生たちがICT活用をベースとした“新しい学び”のスタイルを学ぶ場を提供しようと考えました。iTeachersを立ち上げて4年、教育現場のICT活用は思うように進んでいません。首都圏を中心とした私学では、1人1台のタブレット導入や授業支援アプリ、デジタル教材の活用などが浸透しはじめた感もありますが、公立では「黒板+一斉授業」という従来のスタイルのままという学校がほとんどです。ICT環境整備の遅れもあるでしょうが、教員養成のための仕組みづくりが追い付いていないというのが一番の原因です」と振り返る。
公立の学校には定期的な異動があり、ICT活用が芽吹いた頃に転勤となることもある。ICT活用の中心的な教師がいなくなると、即座に活動は停止する。ICT活用に積極的だった校長が異動になり、次に赴任した校長が「普通の学校に戻します」と宣言して、あっというまにアナログ授業に回帰した学校もある。
小池さんはこうした状況を「学校が変わっていくためには、根っこの部分が変わらないと駄目だと分かりました。授業力のあるベテランの先生が若手の先生たちを育てる仕組みが学校内にあると考えていたのですが、少なくともICT活用においては上手く機能していないようです。iTeachersのイベントやセミナーでトップランナーの実践事例を紹介したりしても、なかなかそこから拡がっていかないのです」と、現状の厳しさを語る。
そして、「そもそも新人の先生たちが、ICTを活用した授業のイメージをもって学校現場に出て行っていない。まずはここを変えないと、何も変わらないと思い至りました。教員1年目から担任を任されるケースも多く、右も左もわからない中で自らも経験がない学びに挑戦する余裕などありません。先生になる前の段階で、まずは自分自身が体験し、意識とスキルを身につけておくことが大切です。そこをiTeachersでやろうとメンバーで話し合いました。そして、教員養成に携わるなら、社会的にも大きな責任を負うことになりますから、任意団体ではなく、NPO法人を設立しようということになりました」と、NPO法人iTeachers Academy設立の経緯を話してくれた。
iTeachers Academyは何をするのか
教員志望の学生が大学でICT活用スキルを磨けない理由は、彼らを教える大学教員の大部分にICT活用の経験が無いからである。そこから、始めたらとても間に合わない。そこで、iTeachers Academyでは、3つの方向性を検討している。
1) 教員志望の学生や若手教員が学ぶ場(私塾)を開設する。
2) 大学の教員養成に必要な教材・カリキュラムを提供する。
3) 大学の教員養成を講師という立場で直接サポートする。
はじめに展開するのは、次世代教員養成スクール「iTeachers Academy」の開校。受講生は月1回程度のスクーリングを通じて、ICT活用をベースとした“新しい学び”を体験、実践レベルの演習を行っていく。さらに、オリジナル動画教材を用いたオンラインでの「eラーニング講座」を組み合わせることで、基礎的な内容から実践スキルまでを学ぶことができる。カリキュラムは9月スタートで翌6月までの10カ月を1年として運営。時間的な負担が少ないため、現役の大学生だけでなく、教員試験浪人中の人や若手教員も受講しやすいだろう。
「eラーニング講座」は、3~4分の短い動画10回分を1講座(1単位)として、規定の単位を取得することが卒業要件となる。講座内容は、「ICT導入の基礎知識」や「タブレット活用法」、「小学校向けプログラミング教育」などのICT実践スキルから、「学校改革」「プレゼンテーション」「アクティブラーニング」といった幅広い単元を計画。主に小中学校の教員に必要なスキルや意識(心構え)を習得できる内容にするという。
かなり間口を広げて行くようだが、講師はiTeachers のメンバーだけで大丈夫かと小池さんに訊くと、「最初のうちは、iTeachersメンバーが中心になるでしょうが、アカデミー講師は徐々に広げていく予定です。現在200名以上いるNPO法人の会員の9割が現役の先生です。中にはICT活用の実践的なスキルがあって、iTeachers Academyに協力したい、自らも後進を育てたいとお考えの先生は少なくないと思います。実際、YouTube番組“iTeachers TV”には忙しい合間を縫って現役の先生たちに出演して頂いてますが、誰かの役に立ちたい、自らのスキルやノウハウを残したいという気持ちをお持ちの先生は多いです。これまでの教育現場では、ノウハウは背中を見て学ぶもの、だったかもしれませんが、それらを論理的・体系的にまとめて映像教材として残すことは、日本の教育にとっての大きな財産になるのではないでしょうか」と講師育成のビジョンを示した。
具体的には、現役教師のための認定講習を行う計画だという。ICT活用スキルを磨きたい教員に対して、1日4~5時間の講習で実践的な活用ノウハウをレクチャー。受講者には認定教員の資格を発行する。さらに指導者になりたい教員には、「メンター教員講習」を実施。こちらは数日間の講習に加えて認定試験を通過してはじめて「メンター教員」としてのライセンスが与えられる。メンター教員の認定者はiTeachers Academyの講師として授業を受け持つばかりでなく、ICT活用をベースとした“新しい学び”のノウハウを学校や地域で広めていく役割も期待される。
こうした、人材育成、教材制作を通してノウハウ積み上げていき、大学の教職課程用に教材やカリキュラムを提供したり、大学の講座そのものを講師として引き受けたりしていく、というのがiTeachers Academyの構想である。
ICT教育を学びたい学生も、学びたい先生も、教えたい先生も集まれ!
次世代教員養成スクール「iTeachers Academy」の正式開校は、2018年9月を予定している。来年春までにはオンライン教材の制作を完了。4月から0期生を募集して、実際に運用を進めていき、9月には正式に1期生の授業をスタートさせる。
対象となる受講生ついて小池さんは、「教職課程の大学生、大学院生のほか、着任から3年くらいまでの若手の先生も対象にしたいと考えています。そして、教員採用試験浪人中の“リトライ組”の方にもぜひ受講して欲しいですね。教員採用試験の倍率は全国平均で4.6倍ほどですから、予備校や学習塾などでアルバイトしながら再チャレンジするという方も多いと思います。そういう方にとってiTeachers Academyの“修了証”がプラスαのメリットになれば嬉しいですし、そうならなければ『教員養成スクール』としての存在価値はないと考えています」と、iTeachers Academyで鍛えられたスキルと経験が、目指すべき教員に近づくための強力な武器になることを強調した。
最後に現状の課題として小池さんは、「まだ、教職課程の学生さんに充分認知されていないのが課題です。現在NPO法人として、入会金や年会費無料で会員を受け付けています。教員採用試験に向けて不安を抱えている学生のみなさん、多忙な日々に追われ目標が見えなくなっている先生方、まずはiTeachers Academyに参加して情報に触れてみてください。きっとワクワクできる“学びのカタチ”が見つかるはずです」と呼びかけている。
iTeachers Academyは10月9日(月・祝)に設立記念イベント「次世代教員養成フォーラム2017」を開催する。会員登録を済ませて、参加してみてはどうだろうか。自ら動かなければ、なにもはじまらないのだから。
関連URL
最新ニュース
- CFC、「能登半島地震で被災した子どもの学び実態調査」の結果を発表(2024年11月22日)
- 親が選ぶ子どもに通わせたいプログラミング教育の条件とは? =「プロリア プログラミング」調べ=(2024年11月22日)
- ザクティ、長野県池田工業高校の遠隔臨場体験でウェアラブルカメラが活躍(2024年11月22日)
- 北九州市立大学、高校生向けテクノロジ・イノベーション教育事業「GEEKKイニシアチブ」を開始(2024年11月22日)
- ICT CONNECT21、水曜サロン 安藤昇氏「生成AIで変わる教育の未来」12月4日開催(2024年11月22日)
- 朝日出版社、デジタル・文法指導セミナー「CNN Workbook Seminar 2024」大阪・福岡で開催(2024年11月22日)
- 「未来の学習コンテンツEXPO 2024(冬期)」12月25日開催 企業の協賛案内を開始(2024年11月22日)
- キャスタリア、「ケニアの教育とICTの未来を考える特別セミナー」を開催(2024年11月22日)
- Mulabo!、小学5・6年生対象「親子でプログラミングを体験しよう!」12月横浜で開催(2024年11月22日)
- 教育プラットフォーム「Classi」、「学習トレーニング」機能内に動画を搭載(2024年11月22日)