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2017年6月20日

柏市が市内全小学校でプログラミング授業を始められた理由

柏市が市内全小学校でプログラミング授業を始められた理由
~118学級3600人がプログラミング授業を体験~

2020年から、小学校でのプログラミング教育が必修化される。もちろんそんなことは知っている。ただ、どうやったらいいのか分からないだけだ。という教育委員会、学校関係者が多いことだろう。当然である。昨年春に政府が決定して、今年3月の次期学習指導要領で告示されたのだから、教育界の周期で言えば「寝耳に水」の状態だろう。

そんな中、昨年夏「市内全小学校の4年生にプログラミング教育を実施する」という計画を決定。本年度からすでに、活動を開始している自治体がある。千葉県柏市だ。プログラミング学習の授業を見学させて欲しいとお願いしたところ、承諾が得られたので、柏市立旭東小学校を訪ねた。

案内してくれたのは、柏市教育委員会学校教育課の副参事で学校企画を担当する佐和伸明さん。

柏市教育委員会の佐和伸明さん

柏市教育委員会の佐和伸明さん

開口一番、一番知りたかったことを訊ねた。「なぜ柏市は、今年から市内全小学校でプログラミング教育を始められたのですか」。柏市は人口約42万人の大都市。小学校は42校、4年生クラスは118学級、児童は約3600人いる。一口に全市の4年生といっても、規模が大きい。

「柏市にはプログラミング教育のDNAがあるんです」、と佐和さん。柏市では、1987年度に市内の田中北小学校等でプログラミング教育を開始し、10年間継続した歴史があるのだという。当初は、プログラミング言語のBASICを使いコードを直接入力していたという。その後、教育向けとして設計されたプログラミング言語のロゴを使用したと言うことだが、かなりハードルの高いチャレンジだったろうと推測する。

今でも、実際にそのチャレンジを体験している教員などもいて、DNAとして残っているのだという。

もう一つは数年前から取り組んでいる「情報活用能力を育てる事業」だ。小中学校全校にITアドバイザー(ICT支援員)を派遣し、情報活用能力・情報モラルの育成を目的とした授業を展開している。

小学1年:「はじめてのコンピュータ」 1時間
小学3年:「ローマ字入力」 1時間
小学4年:*「プログラミング」 2時間
小学5年:「プレゼン作成」 1時間
小学6年:「情報モラル(ネット被害)」 1時間
中学1年:*「ネットいじめ(傍観者)」 1時間
中学2年:「情報モラル(SNS)」 1時間

旭東小学校のPC教室

旭東小学校のPC教室

教育行政の現場を知らない人は、なんだ1時間、2時間程度か、などと軽視するかもしれないが、小中学校あわせて60校以上あることを考えれば、ITアドバイザーを雇って実施する予算確保やスケジュール調整の大変さは、関係者には理解できるだろう。

「全小中学校全学年一斉に情報教育がスタートできれば良かったのですが、予算的にも難しいので、少しずつ増やしてここまで来ました。今年度は中学1年の“傍観者”と“プログラミング”を開始しました。プログラミングは,スタートに適していると考えていた4年生があいていたことも後押しとなった要因の一つです」と佐和さん。

今回のプログラミング教育は、総合的学習の時間2時間で「Scratch(スクラッチ)」を利用して行うものだが、佐和さんが拘ったのは全42校の公平な実施だ。

「授業を実施しながら順次授業内容を熟成させていく」取り組みでは駄目なのだ。最初の1校から最後の1校まで、同一内容を同一のクオリティで提供しなければならない。そのために、授業内容が決まってから徹底的にITアドバイザーの研修を実施。キャラクターやつかみの違いはあっても、授業内容の均一性は確保した。

カリキュラムの実施にあたっては、ITアドバイザーと担当教師の役割分担が重要で、ここで担任にプログラミング教育の実施体験を実感させることが、更なるプログラミング教育の広がりに繋がっていくのだという。

ITアドバオザーと担任が協働で進める授業

ITアドバイザーと担任が協働で進める授業

PC教室で待っていると子どもたちが入ってきて、静かに席に着いた。挨拶や返事も元気が良いし、行儀も良い。

授業は、プログラミングが暮らしの至る所で使われていることを学んだ後、Scratchの基本操作の動画を視聴する。ITアドバイザー手作りのこの動画も、均一で公平な学びを担保するものだが、こちらは子どもたちの実態に合わせてバージョンアップしているという。

さて、Scratchの使い方が分かったところでいよいよプログラミングをはじめる。最初のミッションは、ネコのキャラクターを動かすこと。「前に進む」「壁にぶつかったら方向を変える」「ずーっと○○する」「足を交互に動かす」など、少しずつ要素を増やして、「ネコが歩いて左右の壁にぶつかって方向を変える」という動きを繰り返すプログラムを完成させる。

kashiwa-4ここで、動きの速さを調整する技(パラメーター)があることを学ぶ。ITアドバイザーから「数値は大きくても100以内でね」と指示されるが、「99すげ~」と誰かが言うと「120いった~」「990、なんだこれ~」と加熱する。もはや、「ネコが歩いて左右の壁にぶつかって方向を変える」というミッションの動きでは無いことはすぐに実感される。

プログラミングの良さは、実際あり得ないこと、リミッターをはずした状態までチャレンジしても元に戻せることだ。子どもたちの大多数はプログラミングは初めてであってもゲームのプレーヤー経験は豊富だ。プログラミング=ゲームを作る。という関連性を理解させると、自ずとプログラミングとして成立する範囲を把握することができる。つまり、遊べないゲームではプログラミングは成立しないのだということを知る。ここで1時間目は終了。

ワークシートを見せ合って確認

ワークシートを見せ合って確認

2時間目はいよいよゲーム作りだ。マウスポンターでネズミを動かし、左右に動いているネコを避けてチーズをゲットするゲーム。成功すれば「ジャジャーン」の画面。失敗すれば「ガーン」の画面になるというもの。

はじめにワークシートで、プログラムを要素分解して命令を文章化してみる。隣の子と比べて検証する。この間、担任は子どもたちのワークシートをチェックして、適切な指示に対して花まるを与えたりして評価する。

ゲームのプログラミング画面

ゲームのプログラミング画面

ワークシートが完成すると、プログラミングの開始。「ネズミとチーズのキャラクターの追加」「ネズミを動かす」「チーズにタッチしてゴールする」「背景を選んで設定する」「背景をリセットする」などをプログラミングすると、ゲームの完成だ。

ここから更なるゲームの進化、難易度を上げるための要素が加わる。ネコの動きの速度アップと動きの複雑化だ。ここでも、トライアンドエラーを繰り返しながら、自分がやって楽しい難易度に調整していく。もちろんゲームとして成立しない動きが楽しくて仕方ないのは子どもたちの特性である。

「楽しい」「もっとやりたい」と子どもたち

「楽しい」「もっとやりたい」と子どもたち

そして授業の最後。子どもたちに「もっとやりたい?」と質問すると「やりた~い」という答え。担任教師はおもわず「次の授業でやりましょう」と約束してしまった。

今年度の実施で、120人の教師と約3600人の児童がプログラミングを体験する。来年も同数が、その翌年も。と、柏市の小学校のプログラミング体験者は増加し続ける。

柏市のプログラミング教育は、これからの時代を生き抜く子どもたちにとって「時代を超えて普遍的に求められる資質・能力として“プログラミング的思考”を育てる必要があり、“プログラミング的思考”はもはや情報リテラシーの1つである」というコンセプトで取り組んでいる。

プログラミング教育のこれからを熱く語る佐和さん

プログラミング教育のこれからを熱く語る佐和さん

今回の市内全校プログラミング学習は1学期ですべて終了させる計画だ。その理由について佐和さんは、「公平性の担保がひとつです。同じ4年生でも1学期と3学期では理解力の差があるので、授業内容が異なってしまいます。それと、プログラミング教育の進化に夏休みを利用したいのです」と、学校だけで終わらないプランを語った。

それは、学校の授業でプログラミングに興味を持った子どもたちが、この授業以外でプログラミングに触れる機会の拡大策である。校内ではクラブ活動への導入、校外では生涯学習課や市内のCoder Dojo、地元企業などと連携した「夏休みプログラミング教室」の実施。もちろん教職員向けのプログラミング研修も計画している。

そして、その先には「プログラミングコンテスト」や「柏市教育フォーラム」の開催と、佐和さんのプログラミング教育普及活動計画はどんどん拡がっていく。

ここまで読み進んできた教育委員会、学校関係者は「うちでは無理だな」と思うことだろう。当然だ。柏市には過去にプログラミング教育にチャレンジしたDNAと情報教育を積み上げてきた歴史があるのだ。だからといって真似できないわけではない。可能なところから始めれば良いのだ。

柏市のICT教育戦略は、できるところから積み上げる、でやってきた。現在のICT環境は、小中学校全普通教室プロジェクター常設と教師の端末活用まで。最初から全普通教室Wi-Fiや1人1台情報端末などは目指していない。これからようやく児童生徒に情報端末を持たせたレベルへ進化を目指す。

こうした取り組みは、いずれ開催される「柏市教育フォーラム」で披露されることになるだろう。機会があれば、是非参加して参考にしてほしいものだ。

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