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2023年9月11日

「誰一人取り残さない」学びの実現へ、一歩一歩積み上げる「Qubena」活用/長浜市教育委員会

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日本全国の小中学校のほとんどで、1人1台端末や教室等のWi-Fi環境が整備されてきた。しかし、そうした環境をGIGAスクール構想以前から積極的に整備してきた自治体は一部ではないだろうか。多くの自治体では、GIGAスクール構想以降に整備された1人1台端末や通信環境の中で、何をどう行って、学習指導要領が目指す新しい時代の学びを実現していくのか、試行錯誤を重ねていることだろう。そんな自治体のひとつ、滋賀県長浜市における教育委員会と学校のAI型教材「Qubena(キュビナ)」を活用した挑戦を紹介する。

長浜城と長浜市街(Photo by PIXTA)

GIGAスクール構想で始動した「長浜市の目指す教育」とICTのベストミックス

滋賀県長浜市は、琵琶湖の北部に位置する人口約11万人の市。歴史遺産が多く、度々大河ドラマに人物や地名が登場する有名な地域でもある。学校数は(小中学校・義務教育学校)35校、児童生徒数は約9,000人だ。

成田 健 室長

長浜市教育委員会事務局 教育改革推進室の成田 健 室長は、長浜市のICT活用の取り組みについて「多くの自治体同様、GIGAスクール構想を受けて1人1台の端末環境を整備しました。目指しているのは、従来から長浜市が大切にしてきた『子どもが主語』の授業づくりや『誰一人取り残さない長浜の教育の実現』と、そこにICTを入れていくベストミックスです」と語る。

長浜市では現在、個別最適な学びを実現するためのツールとして学習eポータル+AI型教材「Qubena(キュビナ)」を採用している。同市では学力向上が喫緊の課題となっており、「Qubena」の活用による課題解決に取り組んでいる。

一歩一歩積み上げてきたICT活用と「Qubena」の導入・活用

[長浜市教育委員会事務局 教育改革推進室 沢村 志穂 主幹の報告]より

長浜市では、2021年度からこれまで、4段階でICT活用に取り組んできた。


第1段階は、2021年度のEdTech導入補助金を活用した実証事業。第2段階は2022年度に行った市内6校によるモデル校事業。第3段階は、そのモデル校事業後の導入拡大。第4段階は、2023年度に入ってからの取り組みとなる。

【第1段階 補助金活用による実証事業】

沢村 志穂 主幹

第1段階として2021年度に行った実証事業では、多くのデジタルドリルの候補から、「Qubena」のAIにより児童生徒一人ひとりのつまずきに応じた出題がされる点や、学びの状況が可視化される点、効率的な復習ができる点などを評価し、経済産業省のEdTech導入補助金を活用した各学校1学年でのトライアルという形での導入を決めた。

帰りの会や朝の会の前後の帯時間を中心に「Qubena」の利用をスタート。各校の取り組み事例を教育改革推進室で発行するICT啓発紙で紹介するなどして、理解を広げる取り組みを行った。

また、その後の導入拡大を検討する材料として、検証テストを実施。「Qubena」の問題配信機能「ワークブック」を5日間使用した後の学力の伸びについて、事前事後のペーパーテストの結果を元に検証した。

<学校ごとの正答数の結果>

取り組み前後の検証テストの平均正答数を比較すると、小学校・義務教育学校前期課程(以下「小学校」と表記)においては、検証実施校全体で0.4問(4%)増加。学校別でも1校を除き「Qubena」取り組み後の増加が見られた。中学校・義務教育学校後期課程(以下「中学校」と表記)においては、検証実施校全体で1.4問(14%)増加し、学校別でも全ての学校で増加が見られた。

<前述の結果を、市内全体で学力層別に分析した資料>

四分位分析の結果、取り組み前と取り組み後で、黄色や青で示されている低位層が減少、中位層・上位層が増加した。

この検証を通し、同市の狙いであった基礎基本の定着と低位層への効果への寄与、学力向上に対する一定の成果があることを確認できた。

<児童生徒への意識調査の結果>

合わせて行った意識調査では、「紙の問題集やプリントよりわかりやすい」、「紙の問題集やプリントより『Qubena』を使って学習したい」と、利用に肯定的な回答を多く確認できた。また、楽しい、今までできなかった問題ができるようになる、といった理由とともに「これからも『Qubena』を使って学習したい」という回答を約7割の児童生徒から得ることができた。

【第2段階 モデル校事業】

2021年度の実証を経て、同市では2022年度も引き続き検証を行っていくことを決め、第2段階として、中学校5校、小学校1校の計6校を対象としたモデル校事業を行った。

モデル校事業の目的は、学校での使用に加えて、夏休み中の家庭学習に利用シーンを拡大すること。また、学校内で一斉に使用した際の通信負荷調査を行い、導入拡大時の通信環境の整備も視野に入れた。

夏休み中の端末持ち帰りと、検証テストの実施を条件としたうえで、具体的な活用方法は各モデル校に委ね、取り組み内容や良かった点、また、課題となる点を挙げてもらうようにした。日常時は、授業内での「ワークブック」活用や、朝の会や帰りの会の前後の帯時間のほか、夏休みの活用を見据えた家庭学習での持ち帰りや、コロナ禍の長期欠席児童への学力保障のための活用も見られた。

夏休み中は、課題として「ワークブック」を作成・配信する学校もあれば、「問題一覧」で取り組む範囲を指定する学校もあった。教員向けの管理画面「Qubenaマネージャー」上で一人ひとりの学習状況を確認できるので、長期休業中でも電話やオンラインでの呼びかけ、中学校では部活の際の声掛けなど、必要な支援を行うことができたという。

<「Qubena」モデル校事業のテスト調査結果>

中学校5校の夏休み前と後の2回のテスト結果を四分位で学年ごとにまとめた。
中学校1、2年生では、A層の伸びがとても大きく全体的な学力の底上げが確認できた。3年生では、ほぼ横ばいの結果となったが、受験対策教材との兼ね合いで「Qubena」の使用を各生徒に任せた学校も多く、取り組み量が少なかったことが背景にあると分析している。ただし、3年生においても、平均回答数が多い学校では伸びが見られたことから、「Qubena」に取り組んだだけ効果があると考えることのできる結果となった。

【第3段階 導入学年の拡大】

このような結果を受けて、2022年10月からは第3段階として、市内全校で小学校3年生以上の7学年での「Qubena」導入を決定。通信環境の改善についても補正予算で対応し、工事完了までは、端末持ち帰りでの家庭学習の活用を中心に進めることとした。

導入を拡大したことで、学校ごと、また教員ごとの活用状況の格差という新たな課題が出てきた。そこでCOMPASSから毎月届く活用レポートの各校への共有、学校訪問時のヒアリング、「ミニオンライン研修」と称して、継続的に研修機会を作るなどの取り組みを行った。その結果、少しずつ市内全体の回答数の平均が上がり、定着が見られた。

児童生徒の反応としても、「Qubena」の特性である自分のペースで個別最適に学べる点や、回答後すぐに正誤の判定がわかるという点について、小中学校問わず肯定的な回答を多く確認できるようになった。

【第4段階 導入継続】

第4段階となる2023年度は、前年度に続き7学年での導入継続となった。通信環境の工事も終了し、学校での使用でも様々な使い方ができる準備が整ったため、ステップ2として、授業内の活用事例を増やし、共有していくことを次の目標としている。保護者向けの啓発動画の作成や、学校からの依頼に応じ、「Qubena」の紹介をする出張教室を行うといった活動も進めているところだ。


授業外の利用から授業内の利用へとステップアップを進める今年度、その先の展望について沢村主幹は「反転授業や、自由進度学習についての事例を研究して、市内のどこかの学校で先進的な取り組みをしてもらい、それをモデルとして全市に展開していきたい。そんな進め方が、本市の形に合っているのかなと現状考えています」と、一歩一歩でも、より深化した「Qubena」活用を想定している。

保護者とも連携しながら進めた速水小学校の「Qubena」活用

[教育改革推進室 横尾 俊美 ICT推進員の報告]より

横尾 俊美 ICT推進員

横尾先生は昨年度まで3年間、長浜市立速水小学校で校長として「Qubena」の活用を進めてきた。同校では国語科や算数科の学力テストの点数に課題を抱え、「Qubena」導入以前から職員全員で学校改革に取り組んでいた。

算数博士を目指す取り組み「目指せマスマスターシステム」を通して、児童の主体的に学ぼうとする意欲が芽生えたころ、GIGAスクール構想で1人1台情報端末が実現し、導入されたのが「Qubena」だった。

まずは先行導入学年の6年生で活用に取り組み、その効果と成果を共有すると、「Qubena」は教員たちに大好評となった。回答の正誤がすぐわかるスッキリ感、間違えても何度でも気楽に取り組め、自分に合った復習問題が用意されるという点も楽しみとなって、生き生きと、進んで取り組む子どもたちの姿を目にすることができた。

教員も毎日のプリント作成、回収、採点に加え、授業後に児童を残してフォローすることから解放され、時間を有効に利用できるようになった。

他学年にも導入したいと希望がでたとき、市教委からモデル校募集の話が来た。モデル校に選定され、3年生以上が授業や家庭学習で「Qubena」に取り組むことになった。

PTAと相談して、児童全員が土曜日に45分間、タブレットによるオンライン学習に取り組む活動「速水っこ土曜スペシャル」がスタートした。従来の紙プリントでの学習に対し「Qubena」は教員の負担が少なく、子どもたちも自由に進んで学習できるので、自主的・主体的な学習の推進に大きく役立った。

「土曜スペシャル」の活動が進む中で、PTA役員から「保護者がタブレットや『Qubena』の使い方がわからなければ子どもたちの支援ができない。保護者にも、タブレットや『Qubena』の学習の仕方について知るための時間を取ってもらえないだろうか」という提案があった。

「学習参観」での親子タブレット教室

そこで、PTA総会前の学習参観の時間に、各教室で親子タブレット教室を開催した。まず、親子で情報モラルやタブレット学習について学び、続いて「Qubena」学習などのオンライン学習を体験した。タブレットを囲み、親子で仲良く学習に取り組む姿は、微笑ましく心温まる時間になった。速水小学校では、組織的な学力向上の取り組みで、成績が驚くほど上昇したという。

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長浜市の「Qubena」活用は、まだまだ発展途上だと教育委員会も学校も教師も認識している。利用が拡大すればするほど、学校間格差や教師間格差が目立ってくる。しかし、一気に解決する魔法のような手段はない。地道にコツコツと一歩ずつ凸凹を埋め、授業でも積極的に「Qubena」が活用出来るような環境を整えていく覚悟が見えている。

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長浜市

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