2022年9月22日
「一歩先の“個別最適な学び”とは」工藤校長×神野校長/Qubena Action2022報告Ⅱ
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COMPASSは8月20日、「Qubena Action2022 来年度プロダクト発表会」を開催、同社の学習eポータル+AI型教材「Qubena(キュビナ)」を、来年度に大幅アップデートすると発表。あわせて、導入校の教員による座談会やトークセッションを実施した。
今回は、「スペシャルトークセッション ~一歩先の“個別最適な学び”とは~」と題し、横浜創英中学・高等学校の工藤勇一校長(元・千代田区立麹町小学校中学校校長)とCOMPASSの創業者であり、現在は東明館中学校・高等学校の校長を務める神野元基氏の対談を紹介する。進行はCOMPASS取締役で麹町中学校でのQubena活用に精通した木川俊哉未来教育ユニット長が務めた。
「一歩先の“個別最適な学び”」のために学校が目指すべきすがたとは
-木川
工藤先生、神野さんよろしくお願いいたします。本日のテーマは「一歩先の“個別最適な学び”のために学校が目指すべきすがたとは」です。神野さんは、Qubenaの生みの親ですし、工藤校長はいち早く麹町中学校にQubenaを取り入れて、生徒の学びのあり方や、先生方の関わり方を大きく変化させました。まず工藤校長に「一歩先の“個別最適な学び”とは何か」というところをお伺いしたいんですが、個別最適な学びと、協働的な学びをどのように作っていけばいいのでしょうか。
―工藤
「個別最適な学び」と「協働的な学び」について、切り分けてイメージされている方も多いかもしれないですが、僕は「個別最適な学び」と「協働的な学び」が同時に進行してるような学習イメージを持っています。そのきっかけとなったのが麹町中学校での取り組みで。Qubenaを使い始めたのは、僕が麹町中学で6年間校長をしていた最後の2年間です。AI型の教材が入るというので、COMPASSさんの協力も仰ぎながら、5人の数学の先生たちにどんなふうに使うかを相談させて決めていきました。そこで彼らが僕に言い出したのは、本当突拍子もないことだったんです。
「もう教えるのやめようと思うんです」って言うんですよ。
当初は2学級を習熟の差に応じて3クラスに分けて、習熟の遅れている2クラスにQubenaを入れようと考えていました。しかし、あまりにも習熟の差が激しいので、Qubenaを副教材的に使うのはあまりにも非効率だとなったんです。
つまり授業をやって、その足りないものを補うのではあまりにも非効率だから、全く個別にやったらどうかっていう話になったわけです。個別にというか、自分の進みたいところからやったらどうかと。その時点で、先生たちの発想は、生徒たちが黙々と一人で教材に取り組んでいる姿ではなくて、自然発生的にそこに協働的な学びが生まれるんじゃないか、みたいなざっくりとしたイメージがあったと思うんです。まさにそれが嵌まったんですね。
麹町中のスタイルでは、みんなバラバラのことやってるんだけど、バラバラに単独で孤独になってるわけでは全くなくて、常に相談しあったり、先生を呼んだり、本当に臨機応変に変化するわけです。
時には先生を呼んで、数人のグループでミニ授業が始まったり、ホワイトボードを使ったたり。それはその子どもたちのニーズに応じても常に変化するんです。僕らは、江戸時代の寺子屋みたいだねって言っていました。
だから数学の授業では、「個別最適な学び」を行いながら、常に「協働的な学び」を自分たちの意思でやっているっていう授業スタイルだったんです。これは驚きでしたね。
―神野
そもそも私がQubenaを作ったときは、実は、子どもたちが黙々と一人でやっていくスタイルの教材として想定していたんですよね。
Qubenaをやっていれば、進捗もAIが最適化する。その子が間違えたときにすぐわからないところに戻る。連続して正解してるようであればどんどん進捗を早めるのように、その教材で完結させるような思想で作ったんです。しかし、麹町中に持っていった際に麹町中の数学の先生方が、「いやこの教材ってこうやって使うんじゃないの」みたいに解釈して、結果わたしたちが考えていた「個別最適な学び」よりも、より高次な「個別最適な学び」が生まれてたんだなって教えられました。
それはどういうことかというと、最終的に麹町中では、Qubenaで勉強したい子はQubenaで勉強すればいいし、教材で勉強したい子は教材で勉強したらいいし、その先生の授業を受けたい子は先生の授業を受けたらいいというように、ある単元を学ぶ際の学び方も自分たちで選べるようになったということです。
その形が、いわゆる「個別最適な学び」というものの本当の姿なんだろうなと思うんですよ。
そこで工藤校長に質問をさせていただくと、なぜそんな解釈を麹町中学校はできたのかな、というところなんです。
―工藤
麹町中でQubenaを使い始めた頃、最初は200人ぐらい入る大部屋に机をずらーっと1列に並べてやっていたんです。はじめは、神野さんがおっしゃったように、みんな黙々とやっていたんですが、1年経ったころ、グループごとに固まって勉強し始めたんです。雑談しながら気楽に学ぶ雰囲気に変わっていたんです。ああいうふうに変われた理由っていうのは、子どもたち自身、やっぱり勉強っていうのを自分で学びたくなる仕組みが欲しいんですよね。自然に自ずとモチベーションが湧いていく仕組みが欲しい。その仕組みづくりができたんだなと。
ちょうどQubenaを導入したころ、麹町中では定期テストをなくして、宿題をゼロにしたっていうタイミングなんです。1年前に宿題をゼロにして、定期テストをなくしたんです。Qubenaを使うようになって、教材も自由だからQubenaを使ってる子もいれば、教科書を使ってる子もいれば、塾の問題集持ってきてもいいとか、YouTubeでもいいとか自由に学ぶようにしたわけです。特に塾に通ってる子なんかは、塾の問題集を持ってきて、その問題を友だちに聞いたり、それから先生を呼んで勉強する。自分一人で学ぶより、非常に効率的だってことが彼ら自身わかってくるわけです。わからない問題は人に聞けばいい、アクション起こせばわかるようになるっていう、そういうモチベーションができましたね。
そして定期テストをなくして単元テストの結果を成績に反映することに決めました。かつ、1回きりの結果ではなく、本人が希望すれば2回、受けられるようにしました。はじめは1回目と2回目で点数のいい方を採用するようにしたんですが、点数が上がれば儲けものといった感じでみんな全然勉強せずに2回目を受けに来る。そこで、2回目を受けた時は1回目に対して成績が上がっても落ちても2回目の結果を採用する、としたら、いきなり子どもたちがPDCAを回し始めたんです。当然ですよね。2回目で落ちたくないから、成績上げたいから、わからないところに注目しますよ。わからないところができるようになれば必ず成績が上がるってことを体験した子どもたちは、自分が勉強し始めてわからない問題が出たら、人に聞いたり調べなきゃ、と能動的になる。そこら中で学び合いが起こる、と。Qubenaを使った数学の授業でもそれが起きていたんですね。
これは、中1よりも中2、中2よりも中3がすごく激しくて、それは当たり前ですよね。中3になったら高校受験があり、内申書に直結するので、それこそわからない問題がわかるようになること、再テストの成績を上げたい、っていうモチベーションが上がるわけです。
Qubenaを使うことによって、麹町中の生徒や先生たちにいろいろ教えてもらったなあと思ってます。
―木川
ありがとうございます。おそらく自由に自分たちで学びを選べるってなったときに多くの先生方が一番不安に思うのが、ついてこられない子がいるんじゃないか、置いてきぼりになっちゃう子いるんじゃないかということです。そういう不安に対してどのように考えていけばいいのかというところを、お教えいただけないでしょうか。
―神野
「置いてきぼりの子が生まれる」というのは逆だと思っていて。そもそもいままでの一斉指導の中で置いていかれていた子たちがいて、その子たちが「個別最適な学び」になることで、個々のペースで進んでいくんだから置いていかれることがなくなるってことなんですよね。
―工藤
僕も全く同感ですね。「個別最適な学び」になってから、置いてかれる子がいなくなるということしか見たことはないですね。もしそうなっていないQubenaの使い方をしているのであれば、ドリル的にほったらかしにしてる、子どもたちの主体性が失われている状態じゃないかと思います。
麹町中でも、1年生の姿っていうのは本当にひどいものでしたよね。小学生時代に学び尽くして、でも成果が上がらなかった、そうして学びたくなくなってしまった子どもたちが集まってくるんです。先生たちが悩んだのは、そうした子どもたちは勉強しなさいと注意をすればやるんですよね。でも我々が麹町中で取り組んでいたのは、子どもたちの主体性を取り戻すためのリハビリ。注意してやらせる、というやり方にしてしまったら、この子は絶対にまた文句を言いながらやる、勉強やってほしいならやってやるぜ、みたいな感じの子になっちゃうんですよ。そんな子どもを育てたいわけじゃないんです。
自ら学びはじめるのを待ち続けたら、一人また一人、とどんどん変わりはじめました。勉強しろって言わない我慢って大変だったんですけど。そして、最後の一人は、7カ月間勉強しなかった。子どもはすべて生まれてくるときは主体的な生きもので、それがいつの間にか、やらされることが増えていくうちにその主体性を失ってしまうんですよね。そうした状態で入学してきたその子が、8カ月目に勉強を始めて、Qubenaを使って1か月半で1年の内容全部終えたんですよね。
―神野
その話でいえば、「個別最適な学び」や「協働的な学び」という言葉の前に、学習指導要領でいえば「対話的で主体的で深い学び」、例えばOECDラーニング・コンパスが示している、子供たちのウェルビーイングのために自立、相互承認、創造する力といったものが必要、という話だったりする。子供たちのためにどんな教育をするかというところが一番大事な目標ですよね。
そもそもQubenaや「個別最適な学び」を実践しようとした麹町中学校は、既にこの主体的な学びってすごい大切だよねということを、学校全体としてものすごく深く考えていて、学校のあり方というものを見直そうという動きがあったのかなと思うんです。子供の学びってどうあるべきなんだということを真剣に考えている先生方だからこそ、7カ月も待てたりするんですよね。
そんな学校現場をやっぱり私も作りたいなと、すごく強く思います。
―木川
質問が一つ来ていまして、工藤校長が今の立場ではなくて例えば現場の先生といった立場だとして、何を最初に取り組まれるのかなというところでヒントを頂きたいということですが。
―工藤
例えば数学だったら、麹町中学の数学の教員が当時5人ぐらいいて、みんなで相談をして決めていたんですけど、なぜ彼らが決められたかというと、最上位の目標が合意できているからなんですよ。
つまり、学力を上げるということが、見た目の学力を上げるってことではなくて、子どもの主体性を育てるということを第1番目に彼らが挙げたので、そのための手段として何がいいかということをずっと議論してきたんです。数学だけじゃなくて、全教科で常にそれを考えていたんです。
結果としてめちゃくちゃ素晴らしい合唱コンクールの合唱が聞きたいわけではなく、子どもが誰一人取り残されることなく、本当に主体的に楽しむ音楽を作るにはどうしたらいいかとかですね。それを一つひとつの教科が悩んでたんです。
―木川
ありがとうございました。ここに集まった先生方、教育委員会の方々、たくさんいらっしゃいますが、皆さん同じ思いを持っていらっしゃるのかなというふうに思います。働く場所ですとか、立場とか、それぞれ異なりますが、子どもたちの未来のために、また明日から頑張っていきたいなというふうに思います。
工藤先生、神野さん本当に今日はありがとうございました。
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Qubena Action 2022 報告1(座談会)はこちら
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