2018年1月25日
石神井特別支援学校で実証、「よくわかる」プログラミング学習の3ステップ
小学校におけるプログラミング学習をどう始めるか。確固たる方法は、まだ確立されていない。今のところ、学年や習熟度に応じて、「アンプラグド」~「ビジュアル・プログラミング言語」~「ロボット・プログラミング」と進化するのが適切では無いかという意見が多い。しかし、プログラミング初心者にとって最初の一歩となる、「プログラミングとは何か」を実感できる学びの実現は難しいように思う。アンプラグドでは出力がアナログだし、それ以外ではコンピューターが処理してくれる部分が圧倒的に多いからだと思う。
昨年末に取材した、東京都立石神井特別支援学校で、面白い試みをしていたので紹介したい。
東京都立石神井特別支援学校では、総務省の「若年層に対するプログラミング教育の普及推進」事業の「障害のある児童生徒を対象としたプログラミング教育実証事業」の一環として、エンベックスエデュケーションと協働でプログラミング学習に取り組んできた。
中学部2年の職業・家庭(情報)の授業で、エンベックスエデュケーションが開発したプログラミングツール「カメレオン」を使って、プログラミングを体験するもの。「一人一人が可能性を充分に拡げ、地域に根ざした生活の中で、自立的な社会参加をめざす」という、学校の教育目標に沿った重要な学びの場である。
自分の好きなハンバーガーをプログラミングしよう
この日の授業は、いくつかのパーツを組み合わせて自分好みのハンバーガーをイメージし、プログラミングで実現するというもの。
TVモニター画面に自分の考えたハンバーガーの画像が映し出されるプログラミングを、下記の3段階のステップで行う。
1) 出来上がりの完成形を「もの」を使って具体的にビジュアル化する。
2) 「もの」でビジュアル化したイメージを「色の記号」に変換する。
3) 「色の記号」を使ってプログラミングを行い、イメージを実現する。
使うツールは、「箱」~「ワークシート+シール」~「ボール+カメレオン」。
作業の意味合いは、「イメージの確定」~「記号(コード)化」~「プログラミング」~「実行」といったところか。
□ 体を使って段ボール箱でハンバーガー作り
授業がはじまるとはじめに、海老沢 穣先生がこれまでのふりかえりで「“計画を立てる”~“命令をする”~“その通りに動く”。このことをなんて言うんだっけ?」と問いかけると、子どもたちから「プログラミング~」という声が上がった。
それから、これまでの授業で体験した、「駅間を走る電車」や「ソフトクリーム」、「ケーキ」を作ったプログラミングをふりかえり、色のボールの命令でプログラミングが実行されることを確認。いよいよ「ハンバーガー」のプログラミングに挑戦する。
イスに座った子どもたちの前に、ハンバーガーの材料となるパンやパテ、トマト、チーズ、レタス、ベーコン、目玉焼きといった具材の絵が描かれた段ボール箱が並べられた。そこで海老沢先生が、「みんな、どんなハンバーガーが食べたいのかな。ボリュームたっぷりハンバーガーかな、それともヘルシーハンバーガーかな。上下のパンの間に好きな具材を挟むんだよ」と、具体的に作りたいハンバーガーをイメージさせる。
そして、順番に前に出て、テーブルの上に箱を積み上げて自分の食べたいハンバーガーを作る。
□ ワークシートで具材を「色」に置き換える
自分の作りたいハンバーガーのイメージが決まったところで、箱で積み上げたハンバーガーのイメージを、カメレオンのプログラミングを想定して「もの(具材)」を「色(記号・コード)」に置き換える。
パン=白、パテ=紫、トマト=赤、チーズ=黄、レタス=緑、ベーコン=ピンク、目玉焼き=青というカードを、ワークシートの①~⑧に順番に貼り付けていく。
学習指導案の「教員の注意点」には、「①は必ずパンにし、終わりもパンにするよう注意点を伝える」、「必ずしも8個の具材を使わなくても良いと伝える」、「カードの両面テープの剥離紙が剥がせない生徒は教員が手伝い、ハンバーガーを設計する方に重点を置く」などといった細かな気遣いが記されている。
□ 色のボールを使ってハンバーガーをプログラミング
ここでいよいよ「カメレオン」が登場。カメレオンは、ボールの色を読みとってプログラムを実行する装置。エンベックスエデュケーションが今回の実証事業のために開発・製作したオリジナルのプログラミング教材だ。透明な直径10㎝の器の下に設置した色センサーがボールの色を読みとり、RaspberryPiとScratchで処理してディスプレイ画面に表示する、という仕組み。それらがすべて露出しているため、入力~処理~出力の流れがとても分かり易い。
子どもたちは順番にカメレオンの前に立って、自分が作ったワークシートと見比べて具材に一致する色のボールを選び、器に入れる。ボールを入れる度にパン、パテ、トマト、レタスなどと画面に積み上がっていき、そのたびに子どもたちは歓声を上げる。自分のハンバーガーが出来上がって表示されると、飛び跳ねたり、踊ったり、ガッツポーズやメンターとハイタッチしたりとそれぞれの方法でプログラミングを達成した喜びを表現した。
海老沢先生によれば、子どもたちは普段の学びの中から「確かめてから実行する」ことに慣れており、細かな指示を出さなくても手本を見たり型紙を使ったりして自分で確認して行うことが出来るという。特別支援学校における、社会で生きる力を育てようとする成果の現れではないかと感じられた。
カメレオン開発は試行錯誤の連続
エンベックスエデュケーションで『カメレオン』とプログラミング授業の開発に取り組んできた人材育成本部 研修事業部の荒木順子シニアトレーナーは「今回の総務省の事業に応募したのは、弊社の教材開発・研修のノウハウと、関連会社ラルゴKIDSの発達達障がいのある子ども向けの運動療育プログラムをうまく組み合わせたモデルを作るというチャレンジだったんです。提案時に5回の授業の内容は決まっていましたが実際に始まってみると生徒の反応に合わせて修正することが多かったです」と同社のシーズと現場教育のマッチングに苦労したと語る。
使用するのが障がいのある子どもたちということで、楽しくプログラミングを学んで欲しいという思いと「子どもたちの実態や特性への配慮」を忘れずに開発に取り組んだという。入力装置にボールを使うアイディアは当初からあったが、大きくて重いボールを使ったり、筒の中にボールを積み上げていく方法は、「負担」や「安全性」を考えて排除されたという。
幼い子どもたちが遊ぶ「ボールプール」を見て、色の種類の多さ、大きさ、柔らかさから『カメレオン』に採用した。事業がスタートしてからも試行錯誤は続いた。海老沢先生や中田智寛先生も加わって、修正や改善を重ねたという。
プログラムの「繰り返し」処理にオレンジ色のピンポン玉を使うことにより、「処理」と「繰り返し記号」の違いをボールの大きさで分かりやすくしたり、子供たちから「パンを具の間にはさみたい」という要望を実現するため、新しくグレーのボールを追加準備してプログラムに対応させたりもした。
今回の実証事業はこれで終了したが、荒木さんは「『カメレオン』を使ってみたいと言ってくださる学校があれば、貸し出しを検討したい。機能や使いやすさの面ではまだまだ改善の余地があると思うので、より多くの実証を通して『カメレオン』も成長させたい。」
と今後の展開に意欲を示した。
海老沢先生はこれまでにも、中田先生とともに、ICTの活用やプログラミングに取り組んできた。「WeDo2.0」、「ビスケット」、「ドローン」、「Creatubbles」、「アニメーション制作」などなど先生たちも子どもたちもチャレンジしている。
「カメレオン」の今後の活用について海老沢先生は「子どもたちには体を使った体験がとてもわかりやすく、アンプラグドから始める今回のやり方はいいなと思いました。国語や算数など普段の学びに活用できるか研究してみたいです。プログラミングの経験を通して、子どもたちが見本や手本通りでなく、自分で考えたものを形に出来るようになって欲しいですね」と、これまでも取り組んできた「子どもたちの表現力」育成への思いを語ってくれた。
今回の石神井特別支援学校での取組は、障がいのある子ども向けだけでなく、広くプログラミングを始めようとする教育現場の参考になるものだと感じられた。3月には、総務省の「障害のある児童生徒を対象としたプログラミング教育実証事業」の発表会も予定されているので是非参考にして欲しい。
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