2018年7月17日
文科省が目指すSociety5.0に向けた人材育成「社会が変わる、学びが変わる」
Society5.0。いま、社会が大きく変わろうとしています。AI(人工知能)、IoT、ロボット、ビッグデータなどによる第4次産業革命が急速に進んでいます。自動車は自動運転に、外科手術はロボットに、顧客の電話対応はAIが行うような時代です。あなたの手の中のスマートフォンは、90年代のデスクトップパソコンの数百倍、数千倍の性能です。こんな時代に20世紀と同じ教育でいいんでしょうか。
社会が変わる、学びが変わる
今年6月、文部科学省は『Society 5.0に向けた人材育成に係る大臣懇談会』のまとめとして、「Society 5.0に向けた人材育成~社会が変わる、学びが変わる~」を発表しました。
Society5.0とは、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)のこと。狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すもので、第5期科学技術基本計画において我が国が目指すべき未来社会の姿として初めて提唱されました。
内閣府のWebサイトでは、「Society 5.0で実現する社会は、IoT(Internet of Things)で全ての人とモノがつながり、様々な知識や情報が共有され、今までにない新たな価値を生み出すことで、これらの課題や困難を克服します。また、人工知能(AI)により、必要な情報が必要な時に提供されるようになり、ロボットや自動走行車などの技術で、少子高齢化、地方の過疎化、貧富の格差などの課題が克服されます。社会の変革(イノベーション)を通じて、これまでの閉塞感を打破し、希望の持てる社会、世代を超えて互いに尊重し合あえる社会、一人一人が快適で活躍できる社会となります。」と、解説されています。
このSociety 5.0という新たな社会で、共通して求められる力は何なのか、社会を牽引していくためにどのような人材が必要か等について、社会像を具体的に描きながら議論したまとめが今回の報告書です。
社会が変われば働き方も変わる、働き方が変われば求められる能力も当然変わってきます。
報告書では、こうした社会の変化に対応する上で我が国の課題を指摘しています。
1)Society 5.0 実現の鍵となる AI とその基礎となる数学や情報科学等に関する研究開発と教育が、米国や中国等に比して立ち遅れている。
2)アメリカの大学では情報科学を学ぶ学生が増え続けているが、我が国では情報科学や AI に関する高度な知識・技術を持つ人材の数が極めて限定的で、多くの学生は十分な情報科学のトレーニングを受けていない。
3)GoogleやAmazon、Facebook等米国の“データの巨人”たちと対峙するには、我が国のトップ企業であっても、データ、技術、人材のすべてにおいて文字通り桁違いの力の差がある。
Society5.0に向かう社会において日本は圧倒的に人材不足であり、ボトルネックになりつつあるということです。
こうした課題の解決に向けて報告書では、「技術の発達を背景として、Society 5.0 における学校は、一斉一律の授業スタイルの限界から抜け出し、読解力等の基盤的学力を確実に習得させつつ、個人の進度や能力、関心に応じた学びの場となることが可能となる。また、同一学年での学習に加えて、学習履歴や学習到達度、学習課題に応じた異年齢・異学年集団での協働学習も広げていくことができるだろう」といしています。
AI等と共存していく社会の中で「人間の強み」を発揮し、AI等を使いこなしていくためには「文章や情報を正確に読み解き対話する力」や「科学的に思考・吟味し活用する力」、「価値を見つけ生み出す感性と力、好奇心・探求力」が共通して求められるとし、このような力を育むためにも
・学校がこれまでの一斉一律の授業のみならず、個人の進度や能力等に応じた学びの場となること
・同一学年集団の学習に加えて、異年齢・異学年集団での協働学習が拡大していくこと
など、「学びの在り方の変革」を打ち出しています。
これはまさに、「ICTを活用した学び改革」そのものでもあるわけです。
取り組むべき政策の方向性としては
(1)公正に個別最適化された学びの実現
(2)基盤的な学力や情報活用能力の習得
(3)大学等における文理分断からの脱却
の3つの方向性を掲げました。
報告書では、それぞれの方向性について「Society 5.0 に向けたリーディング・プロジェクト」として、具体的な施策を提示しています。
成長段階に応じたSociety 5.0に向けた人材育成
報告書の第2章では、「新たな時代に向けて取り組むべき政策の方向性」についてまとめています。そこでは、次世代の子供たちが未来を生き抜く力を身に付けることができるように必要な環境を整えることは、我々大人世代の責務であり、Society 5.0 の姿をしっかりと見据えつつ、着実に新学習指導要領の理念を実現することが求められている、としています。
また、Society 5.0 における教育を見据えた条件整備も欠かせないものであり、AI やビッグデータ等の先端技術が、教育の質の向上に劇的なインパクトを与えることを見据え、ICT 環境や新たな教育ニーズに対応できる学校施設など次世代の教育インフラを充実していく必要があると、ICT環境の整備や利活用の必要性に言及しています。
報告書ではこうした状況を踏まえ、今後取り組むべき教育政策の方向性について、子供の成長段階に応じて幼児期から社会人になるまで整理、指摘しています。ここでは小・中学校、高等学校について一部を紹介します。
小・中学校時代では、「Society 5.0 を迎え、社会の構造が劇的に変化し、必要とされる知識も急激に変化し続けることが予想される中、義務教育に求められるのは、常に流行の最先端の知識を追いかけることではなく、むしろ、学びの基盤を固めることであると考えられる。」とした上で、「経済格差や情報格差等が拡大し弱者を生むことがないよう、子供一人一人の個別のニーズに丁寧に対応し、すべての子供が Society 5.0 時代に求められる基礎的な力を確実に習得できるようにすることが引き続き重要となる。」と指摘しています。
また、学校や学びの在り方に関しては、「○○だけ」構造からの脱却が求められるとして、「『教職員だけ』による学校経営から、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカー、部活動指導員等の専門スタッフと協働した『チーム学校』へ。『教師だけ』が指導に携わる学校から、教師とは異なる知見を持つ各種団体や民間事業者をはじめとした様々な地域住民等とも連携・協働し、『開かれた教育課程』を実現する学校へ。『同一内容だけ』児童生徒に教える教育から、『個々人の特性』に応じた教育へ。『紙だけ』で指導や運営が行われる学校から、ICT など先端技術も活用した学校へ。『学校だけ』しか教育の場として認められなかった時代から、フリースクールや地域未来塾等『学校以外の場』での教育機会が確保される時代へ、それぞれ転換が求められる。」と、学校だけでなく社会全体で義務教育を支えていく必要性を示しています。
現状の高等学校は、その多くが大学進学を目標に教育課程を進めていて、社会に出て役立つ能力や人生の選択に影響を与えるような教育が行われていません。報告書では高等学校時代について「今こそ、高等学校は、生徒一人一人が、Society 5.0 における自らの将来の姿を考え、そしてその姿を実現するために必要な学びが能動的にできる場へと転換することが求められている。」と指摘。
学校だけで教師だけが一方的に教えるような教育活動から、多様な選択肢の中で、自分自身の答えを生徒が自ら見いだすことができるような学習が中心となる場へと転換し、生徒一人一人の興味や関心に沿って、学校だけにとどまらず、地域社会、企業、NPO、高等教育機関といった多様な学びの場を活用し、異なる年齢や背景を持つ相手とコミュニケーションしながら「社会に開かれた教育課程」による学びを進めていく必要がある、としています。
今回の報告書は、現状に厳しく切り込んでいて、現場の関係者には耳の痛いこともあるかもしれませんが、ここで紹介しきれないくらい広く、深いビジョンがまとめられています。是非読んでください。この内容は、文科省が示す理想論ではなく、文科省ですらここまで認識しているという最低限だと受け止めて、みなさんの胸の中に留めて活動に活かして頂きたいものです。(編集長:山口時雄)
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