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2019年8月19日

Society5.0時代に向け「ICT教育」を推進する文科省の本気度

「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策(最終まとめ)」を読む

6月25、文部科学省から「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策(最終まとめ)」という報告書が発表されました。その中にこんな一文がありました。「もはや学校の ICT 環境は、その導入が学習に効果的であるかどうかを議論する段階ではなく、鉛筆やノート等の文房具と同様に教育現場において不可欠なものとなっていることを強く認識する必要がある」。まさか、まだ「ICTの導入で効果は・・・」など云っている首長や議員、教育委員会や学校長、教員はいないと思いますが、いたとしたら、子どもたちの未来を背負う立場はもう担えないでしょう。

最終まとめまでの経緯

報告書の「はじめに」では、これまでの経緯を以下のようにまとめています。

今回の「先端技術活用推進方策」についての取組は、これから到来する Society 5.0 時代を見据え、文部科学省が昨年11月に公表した、学校教育の中核を担う教師を支え、その質を高めるツールとして先端技術を積極的に取り入れること等をまとめた「新時代の学びを支える先端技術のフル活用に向けて~柴山・学びの革新プラン~」がはじまり。その後、初等中等教育局に「学びの先端技術活用推進室」を新設して、子供の力を最大限引き出す学びを実現するために、ICTを基盤とした先端技術を効果的に活用するための具体的な方策について検討、3月には中間まとめを発表した。

文部科学省   photo by pixta

4月には、中央教育審議会に、Society 5.0 時代を見据え、義務教育9年間を見通した児童生徒の発達の段階に応じた学級担任制と教科担任制の在り方や習熟度別指導の在り方などの今後の指導体制の在り方、教育課程の在り方、児童生徒一人一人の能力、適性等に応じた指導の在り方、高等学校教育の在り方、教職員配置や教員免許制度の在り方などの初等中等教育全般の教育制度をはじめとした様々な方策に関する諮問(「新しい時代の初等中等教育の在り方について」)が行われ、検討がはじまっている。

202X 未来のイメージ(最終まとめ より)

そして今回、中間まとめの内容を更に深掘りし、新時代に求められる教育の在り方や、教育現場でICT環境を基盤とした先端技術や教育ビッグデータを活用する意義と課題について整理するとともに、今後の取組方策をまとめた。中央教育審議会の議論と併せて、報告書で示したICTを基盤とした先端技術と教育ビッグデータを効果的に活用していくための様々な取組を両輪として、新時代の学校、子供の学びを実現するための取組を加速していきたい、としています。

Society5.0の時代に求められる教育

内閣府Webサイトより

さてここでキーワードとなっているのは、「先端技術活用推進方策」の前提となっている「Society5.0」です。Society5.0とは、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)のことです。狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すもので、政府の第5期科学技術基本計画において我が国が目指すべき未来社会の姿として初めて提唱されました。

政府が提唱したビジョンというと、眉に唾をつけたくなってしまいますが、いま世界で、そして日本でも進行している「第4次産業改革」と結びつけて考えてみると、一気に現実味が増してきます。

photo by pixta

第4次産業革命とは、AI(人工知能)・ロボット・IoT・ビッグデータが牽引する技術革新です。例えばAIでは、チェスや囲碁、将棋といった人類の中でも特に知能が高い人たちが職業としている分野で既に、名人クラスを破っています。自動運転や自動翻訳、スマートフォンやスマートスピーカーでユーザーの要望に的確に答えてくれるのも、客からの電話の問合せやクレームに応えるのも、1秒間で株の売買を決断するのもAIの得意技です。そして教育界では、一人ひとりの子どもたちに最適な学習方法を提供する「アダプティブ・ラーニング」もAIの得意分野となっています。

報告書では、Society5.0の時代に求められる教育について、「AI等の技術革新が進んでいく新たな時代においては、人間ならではの強み、すなわち、高い志をもちつつ、技術革新と価値創造の源となる飛躍的な知の発見・創造など新たな社会を牽引する能力が求められる。また、そのような能力の前提として、文章の意味を正確に理解する読解力、計算力や数学的思考力などの基盤的な学力の確実な習得も必要である」としています。そしてそのためには、「①膨大な情報から何が重要かを主体的に判断し、自ら問いを立ててその解決を目指し、他者と協働しながら新たな価値を創造できる資質・能力の育成。② ①を前提として、これからの時代を生きていく上で基盤となる言語能力や情報活用能力、AI 活用の前提となる数学的思考力をはじめとした資質・能力の育成につながる教育が必要不可欠である。」と示しました。

photo by pixta

また、教育現場でICT環境を基盤とした先端技術・教育ビッグデータを活用することの意義については、「学校でICT環境を基盤とした先端技術や教育ビッグデータを活用することは、これまで得られなかった学びの効果が生まれるなど、学びを変革していく大きな可能性がある。」とし、具体的な効果として期待できるものとしては、「学びにおける時間・距離などの制約を取り払う」「個別に最適で効果的な学びや支援」「可視化が難しかった学びの知見の共有やこれまでにない知見の生成」「校務の効率化」などを提示しました。

また、学校に先端技術を導入することで、「教師がAI等の機械に代替されるのではないか」との意見に対しては、「知識・技能と思考力・判断力・表現力等を関連付け、教育の専門家たる教師が見取りながら効果的に学ぶことや、学校や学級という集団のメリットを生かし、教師の発問等を通じて何が重要かを主体的に考えたり、地域や民間企業・NPO 等をはじめとした多様な主体との関わり合いの中で課題の解決や新たな価値の創造に挑んだりすることは、いかに先端技術が進展しても人が人からしか学び得ないことである。このような、人が人から直接学ぶことができる希少性から、教師はこれまで以上に重要性が増すと考えられる。」と、教師の重要性を確認しています。

新しい学びを支える「基盤となるICT環境の整備」

「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策(最終まとめ)」における、「基盤となる ICT環境の整備」の項のはじめには、「先端技術や教育データの活用には、大前提として ICTの基盤が整っている必要があり、現在の学校現場においては、ICTの活用は必須のものとなりつつある」とした上で、OECD の国際教員指導環境調査(TALIS)2018で、日本の中学校教員のICT活用の割合が17.9%と参加国(48カ国・地域)中で2番目に少ない(参加国平均は 51.3%)ことが明らかになるなど、日本のICT活用状況は世界から大きく後塵を拝しており、危機的な状況だと指摘しています。

とにかくいま、教育に関わるすべての人が認識しなければならないのは、「日本のICT活用教育は危機的状況にある」ということであり、「つべこべ言わずに実行する」レベルだということです。何が何でも、ICT環境は整備しなければならないのです。

文科省では、地方自治体のICT環境整備が進まない理由として、必要な機器の整備コストが高いこと、そもそもどのような整備を行うべきか判断がつかないことなどを理由として挙げています。機器が高くて購入する予算もないし、何をどうしていいかも分からないということのようです。

そこで文科省では、予算の障壁でなかなかな進まない1人1台を目指す学習用のコンピュータなどについていくつかの指針や方策を示しました。

photo by pixta

はじめに、「学習者用コンピュータは先端技術を取り入れた高価・高性能な機種である必要はなく、むしろ安価で一般に普及しているものを時代に合わせて更新していくことが望ましく、また、総コストも下げられる。」とした上で、「適切な通信ネットワークとパブリッククラウドに基づくクラウドコンピューティングが極めて有力な選択肢となる。世界の教育端末市場では、クラウドベースで安価な端末を提供するGoogle Chromebookが2018年には世界の35%、アメリカの総購入数の60%を占めている」と、具体的な端末名まで示して、日本の教育市場における廉価端末の販売・導入を促しています。

また、「更なるコストダウンに向けて、地方自治体が大量に一括調達を行うことが効果的であることから、『全国 ICT 教育首長協議会』等と連携し、複数地方自治体による一括調達等の方策も積極的に検討していくべきである。」としています。

報告書ではこうした認識を踏まえ、大型提示装置や学習者用コンピュータ関連をより安価に広く展開するため、分かりやすく具体的なモデルの一例を示しました。

photo by pixta

大型提示装置では、「50インチから80インチ程度で安価なプロジェクターで十分機能は果たせるものが多いが、装置の落下等に対する子供の安全性と、教師が手軽に使える容易さが求められる」と、視認性と利便性を求めています。

学習者用コンピュータでは、ノート型でもタブレット型でも良いとしながら、キーボードについて、小学校の中学年でハードウェアのキーボードが必須だとしています。

この他、通信ネットワーク、ソフトウェア、教育クラウド、等についてモデルを示しています。

報告書のまとめでは、「AI などの技術革新が進む Society 5.0という新たな時代に対応するためには、不断の取組として、学校教育も変化していかなければならない。そのためには、ICTを基盤とした先端技術やそこから得られる教育ビッグデータを効果的に活用することで、子供の力を最大限引き出し、公正に個別最適化された学びを実現させていくことが求められる。」と締めくくっています。

みなさん、学校のICT環境整備、ICT活用教育で、Society5.0を意識していますか。
残り少ない夏休みですが、是非「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策(最終まとめ)」を読んでみてください。ICT活用の決意を期待します。(編集長:山口時雄)

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新時代の学びを支える先端技術活用推進方策(最終まとめ)

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