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2019年10月21日

プログラミング学習の導入でScratchが一番使われている理由

~無料で手軽に利用できるScratch(スクラッチ)の特長とメリット~
ユーバー プログラミングスクール 代表 中村里香

小学校でのプログラミング教育必修化が目前に迫りました。目覚ましいスピードで進化する、コンピュータにより支えられる社会を生きるために、論理的に思考して課題を解決する「プログラミング的思考力」が全ての人に求められていることが背景にあります。子どもがプログラミング的思考力を学ぶツールとして注目される「Scratch(スクラッチ)」、その特長やメリット、実際に教室で教えていて感じる注意点などを説明します。

Scratch(スクラッチ)とは

Scratchは、マサチューセッツ工科大学(MIT) メディアラボのライフロング・キンダーガーテン・グループによって開発されたオープンソースのビジュアルプログラミング言語です。子ども向けにデザインされていて、世界中に数千万ものユーザーがいて多くの教育機関でも利用されています。40以上の言語に対応しており、日本語は、漢字の「日本語」とひらがなの「にほんご」があります。プログラムを作る、オンラインコミュニティで公開する、他の開発者のコードを参照する、リミックスするといった機能を持っています。

Scratchを使ったワークショップの様子

無料で手軽にスタートできる

Scratchは、誰でも無料で利用できるとても手軽なツールです。インターネットに接続できるパソコンなどの環境があればWebブラウザでURLにアクセスし、「作る」をクリックするだけというわずかなステップですぐに開発をスタートできます。*スクラッチのURLは文末を参照。

インターネットに接続しない環境の場合は、パソコンに無料のオフラインエディター(Scratch Desktop)を1つインストールするだけです。ソフトウェアの購入や、開発環境の構築といった手間、高度な知識も必要ありませんから、思い立ったらすぐに始められます。

直感的、挫折しにくいビジュアルプログラミング言語

Scratchでは、スプライト(オブジェクト)を選び、命令のブロックをマウスや指でドラッグし組み立ててプログラムを作ります。そして、その同じ画面上ですぐにプログラムを実行し結果を確認することができるのです。

画面の左側に並ぶ命令のブロックは、カテゴリごとに色分けされ、まとめられています。例えば「10歩うごかす(10ピクセル移動)」、「←15ど まわす(左に15度回転)」、「もし□なら でなければ」というように直感的で、大半の操作をマウスのみで行えるため、小さな子どもでも、まずは作って動かしてみるということが可能です。

スクラッチの開発画面

文字ベースのプログラミング言語の場合、1文字でも誤りがあると構文エラー等で止まってしまいます。初学者や子どもにとって、エラーを取り除く作業の連続は挫折の原因になるものです。Scratchは、たとえ間違ったブロックを組み立てたとしても、エラーが表示されることはなく、多くの場合は間違ったなりの動きを即座にアウトプットとして返してくれます。意図した動きと実行結果とを比べ試行錯誤がしやすいことも初学者に優しい特長です。

基本を学ぶには十分な機能を備え、高度なことにも挑戦できる

リストや再帰的なカスタムブロックを使ったマインスイーパーの例

とても手軽で直感的、子どもや初学者に優しいScratchですが、座標、ループ、条件分岐、変数、リスト、演算などプログラミングの基礎を学ぶには十分な機能を標準で備えています。Scratchを使って基本的な項目を体系的にしっかり学べば、文字ベースの言語へと進む際にもいきる基礎的なアルゴリズムを習得できます。

また、熱意と意欲があれば、非常に高度な作品を作り上げることも可能であるのは、Scratchのオンラインコミュニティを見ればわかります。世界中のユーザーによる完成度の高い多くの作品に出会えるでしょう。作者への敬意と感謝をもってコードを参照し、そこから学ぶこともできるのです。

創造性を刺激するマルチメディア機能

Scratchにはキャラクターや背景のグラフィック、BGMや効果音などの音源がライブラリーとして用意されていて作品に利用できるようになっています。またペイントツールでオリジナルの絵を描くことも、写真や画像、音源ファイルをアップロードして利用することもでき、マイクから録音した音にエフェクトをかけて活用する機能まで備わっています。

子ども達が協働制作したScratchによるアニメーション作品

拡張機能のペンを使えば、オブジェクトの移動の軌跡で複雑な図形を描くことも可能です。他にもクローンやスタンプなど子どもの創造性を刺激して創作意欲を喚起する機能が充実しています。

例えば町探検や学校紹介などの発表でScratchを使ったクイズ形式のスライドショーを制作したり、好きな物語の場面をScratchで表現したりといった創造的な協働作業にも非常に適しています。

教科学習での活用

ペンで描く正十二角形の例

教科学習としては、小学5年生の算数における正多角形の描画が教育指導要領の中で紹介されています。Scratchのペンの機能で移動と回転を繰り返し、図形を描くことで、子どもは正多角形の性質を発見し、理解をより深めることができるでしょう。規則性を発見しScratchを使って、手書きでは困難な正十二角形や正三十六角形も描画し確認することが可能になります。

文部科学省のWebサイト「小学校プログラミング教育に関する研修教材」では、正多角形描画を始めいくつかの解説PDFや動画も公開されています。*文科省のURLは文末を参照。

デファクトスタンダードで学ぶメリット

Scratchは、世界中150以上の国と地域にユーザーがおり、日本でも学校を始め、企業のワークショップやスクールなどで盛んに利用されています。2020年度用の算数や理科の小学校教科書を見てもScratch や Scratchベースの言語が多く掲載されています。

子どものプログラミング学習環境としては、現時点Scratchがデファクトと言ってもよい状況でしょう。ユーザーの多い言語は情報が豊富で更新が活発です。日本だけでなく世界中に多くのユーザーが存在することから、グローバルな視点に立ってもScratchで学ぶことはメリットになります。

子どものやる気を高め、効果的な学びのための準備

楽しみながら課題解決に向けて思考し創造するScratchを用いた学びはとても有益です。ただ、子どもの力量や熱量は、非常に個人差が大きいもので、全ての子どもがスクラッチキャット1つだけのまっさらの画面からアイデアを形にできるとは限りません。集中できる時間も限られています。課題をあきらめて、音を再生しランダムに反復する何だか動くものを作って終わってしまうということも往々にしてあるものです。

導入としては楽しむことはとても良いのですが、次のステップに進み、課題解決のツールとして活用するには少し工夫が必要です。子どもの学習段階に応じ、やる気や集中を削ぐ事柄への配慮が大切になります。例えばキーボード入力にまだ不慣れな小さな子どもが文字列を容易に扱えるように、先生があらかじめ変数に使用する文字列を入れて準備しておけば、子どもはキーボード入力というストレスから解放されて課題解決のための思考や制作に集中しやすくなります。Scratchには、標準のブロック以外にカスタムブロックを作る機能があります。学習の目当てに子どもがフォーカスしやすいように、このカスタムブロックを活用して教材の準備をすることも非常に効果的です。必要に応じた準備と、子どもに与える裁量とのバランスがとても大切なのです。

Scratch で始めよう!

Scratchは世界中の意欲的な開発者に支えられて日々進化しています。まずは、Scratchのサイトを訪れて「作る」をクリックし一歩を踏み出しませんか?小さな作品を1つ作ったり、チュートリアルを参照したり、世界中のユーザーの作品を動かしてみたり、コードを参照したりしてみてください。とても簡単に始められる敷居の低さと、高度な機能、アイデア次第で拡大する利用範囲を実感いただけると思います。

<著者プロフィール>

ユーバー 代表取締役 中村里香

子どもも保護者も続けやすい、楽しく手軽なプログラミング教育実現のため、2017年4月ユーバー株式会社を設立。環境に左右されず全ての子どもに広く等しく楽しい教育を届けることを信念に、子ども向けプログラミング教室の運営、教材ライセンスの販売、通信教育向けプログラミング教材開発、プログラミング講師育成を手がける。
著書「遊びながら楽しく学ぶ!小学生のScratchプログラミング(ナツメ社)」

関連URL

ScratchのWebサイト

文部科学省「小学校プログラミング教育に関する研修教材」

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