1. トップ
  2. ズームイン
  3. ICTを活用した地学分野の学習教材の開発 ~Excel+Google Mapで宇宙の大きさを実感~

2025年3月24日

ICTを活用した地学分野の学習教材の開発 ~Excel+Google Mapで宇宙の大きさを実感~

【寄稿】

東京学芸大学附属国際中等教育学校
窪田 悠

1.実践の背景

新学習指導要領では、「主体的・対話的で深い学び(アクティブラーニング)」の視点を取り入れた授業改善が求められている。中学校の理科の授業においては、自然科学に関する疑問や課題に対して、予想を基にした実験計画の立案、得られた結果のまとめ、考察、振り返りを行っていくこの一連の流れを通して、主体的で対話的な深い学びの実践に、各教員が努めているところである。

上記のような探究ベースの「問題解決型」の授業が各教科、各分野(理科は主に物理・化学・生物・地学に分けられる)で行われている一方、理科の地学分野においては、地質や気象といったスケールの大きい学習内容がゆえ、実験や観察を行いにくい側面がある。こうした背景から地学分野の授業は教員が一方的に知識を教える、受動的な「知識習得型」の授業になってしまうことが多い。少し古いデータになるが、独立行政法人科学技術振興機構が2013年に実施した「中学校理科教育実態調査」によると、地学分野の指導について、「苦手」「やや苦手」と回答した教員は半数近くにものぼった。他分野はいずれも苦手と感じる教員が半数を下回っていることから、地学の指導を苦手にしている教員が多い傾向は顕著である。これは実験や観察を行いにくいといった地学分野の側面が表れた結果であると考える。また地学分野と同様に、「情報通信」技術を使った授業を苦手とする教員が多いことも、調査よりわかっている。GIGAスクール構想の推進により1人1台のPCが子どもの手に渡った今、ICT機器を活用する力は、教員に必要不可欠な資質であると考える。

地学に関するもう1つの問題として、高等学校における「地学」「地学基礎」の履修率の低さが挙げられる。吉田・高木(2019)によると、「物理基礎」の履修率は58%前後、「化学基礎」と「生物基礎」の履修率は80%を超える一方、「地学基礎」の履修率は26%前後にとどまっている。応用科目にあたる「地学」の履修率に至っては、1%前後で推移している。つまり75%の生徒は高等学校で地学を学習しないため、中学校で地学の学習を終えていることになる。中等教育の理科教員としてできることは、1人でも多くの中学生が上級学校で学ぶ専門的かつ複雑な学習内容に触れ、ひいては地学に興味をもってもらうことだと考える。

以上のような観点から本実践では、①「知識習得型」ではない「問題解決型」の地学分野の学習方法の提案、②GIGAスクール構想を意識したICT機器の利活用、という2点に着眼点を置いた、授業実践を行った。

2.実践の内容

本実践では平成29年度告示「学習指導要領解説」の理科編における学習内容「地球と宇宙」(イ)太陽系と恒星 ㋑惑星と恒星、について取り扱った。この単元では主に系内惑星の分類について学習していくが、多くの教員は「地球型惑星」と「木星型惑星」という名称と、その分類方法、特徴を教員が一方的に述べて終わってしまうことが多いと考える。今回は単に知識を習得するだけではなく、ICT機器を用いることで生徒が主体的に分類できる工夫や教材の開発を行った。

Photo by PIXTA

以下の表1は、主な太陽系内の天体の特徴について、まとめたものである。この数値等を見て惑星の分類を行うことは、比較的困難である。そこで「直径」や「太陽からの距離」という数値について、Excelを用いて同心円状のグラフを作成することで、わかりにくいデータを可視化、比較しやすくし、分類に対する思考の一助とした。生徒はExcelデータに惑星に関する諸量を入力し、そこから得られたグラフを見ながら主体的に考察、分類していく流れである。以下にその教材の開発手順を示す。

表1 主な太陽系内の天体の特徴

天体名 地球を1としたときの直径 地球を1としたときの質量 密度

(g/cm3

太陽と地球の距離を1としたときの太陽からの距離 公転周期

(年)

大気の

主な成分

表面の

平均温度

(℃)

※太陽
水星 0.38 0.06 5.43 0.39 0.24 ほぼない 170
金星 0.95 0.82 5.24 0.72 0.62 二酸化炭素 460
地球 1.00 1.00 5.51 1.00 1.00 窒素、酸素 15
火星 0.53 0.11 3.93 1.52 1.88 二酸化炭素 -50
木星 11.21 317.83 1.33 5.20 11.86 水素、ヘリウム -145
土星 9.45 95.16 0.69 9.55 29.46 水素、ヘリウム -195
天王星 4.01 14.54 1.27 19.22 84.02 水素、ヘリウム -200
海王星 3.88 17.15 1.64 30.11 164.77 水素、ヘリウム -220
※冥王星 0.19 0.002 1.80 39.54 247.80 窒素、メタン -230
※月 0.27 0.012 3.34 1.00 ほぼない -30

①Excelへの入力フォーマットの作成
まず数値を入力するだけでグラフを作成できる、フォーマットの作成を行った。ここでは「同心円状のグラフ」のみのフォーマットの作成方法のみ記し、作成が比較的容易な「棒グラフ」及び「折れ線グラフ」については割愛する。

まず図1のように、Excel上に角度(°)とラジアンを入力する。角度からラジアンへの変換は、関数“RADIAN”を使った。

図1

Lの列には角度(°)を入力し、Mの列にはラジアンを入力する。
【セルL3(5°)のとき、セルM3に=RADIAN(L3)と入力すると、0.087266というラジアンの値が出てくる。】

 

 

 

次に図2のように、各列に“cosθ”と“sinθ”といった三角関数を入力する。“θ”には先ほど得られたラジアンを代入する。中心点は0としておく。

図2

Nの列には(惑星の数値)×cosθ+中心点を入力する。
Oの列には(惑星の数値)×sinθ+中心点を入力する。
【セルA3に水星の直径(0.38)、セルA1に中心点(0)を入力したものとすると、セルN3に=$A$3*COS(M3)+$A$1と入力すると、x軸の値0.996195という値が出てくる。入力した関数の“cos”の部分を“sin”に変換すると、セルO3のように、0.087156というY軸の値が出てくる。】

最後に得られたx軸とy軸の値を選択し、グラフの散布図を作成すると、図3のようなグラフが得られる。

図3

x軸とy軸の値を選択し、上部タブの「挿入」→「散布図」を選択すると、円状のグラフができる。このグラフの式は以下の通りである。
式 x=a×cosθ+p
y=a×sinθ+q
aは入力した数値(ここではセルB2の水星の直径0.38)が、(p,q)は中心点(ここではセルB3とC3の0,0)が入る。

 

 

以上のような流れでグラフを複数作成し、それらを重ね合わせることで複数個の同心円が描かれたグラフを作成することができる。図4の赤で囲われている部分に数値を入力するだけで自動的に円グラフが作成され、生徒は惑星の「直径」や「太陽からの距離」といったデータを視覚的に比較することができる。

図4 同心円状のグラフを重ね合わせたもの
赤で囲われた数値の入力セルの色とグラフの色をリンクさせている。
また軸の値を設定することで、円を4分の1にして見やすくした。

②主体的で対話的な深い学びを促すグラフに対する工夫
①で同心円状のグラフを作成したが、この数値だけではあまり実感がわきにくい。そこでグラフの背面にgoogleマップを埋め込むことで、距離感を伴った実感を促す工夫を行った。図5は中心点に太陽を置いたときの、各惑星の太陽からの距離を示したグラフである。1天文単位を1としたとき、東京(太陽)から見ると、灰色の線で描かれた地球の公転軌道は同じ千代田区内の距離にあることがわかる。同様に緑色の線で描かれた木星はオリンピックスタジアム、紺色の線で描かれた土星は品川区、青色の線で描かれた海王星にもなると多摩市まで離れることになり、実感を伴った距離感を感じることができる。また、背景のgoogleマップを自分の生活区域に設定することで、さらに実感を伴った深い学びの実践ができると考える。

図5 中心(太陽)を東京に合わせたときの、各惑星の太陽からの距離
(1天文単位を1とし、Excelで作成したグラフとgoogleマップをかけ合わせた)

3.実践の検証と今後の展望

上記2で作成したExcelとGoogle Mapを用いて、下記の要領で授業を行った。

○授業の展開(50分授業×2回)
①【復習】系内惑星についての既習事項の確認
②【疑問】系内惑星をどう分類するか、冥王星はなぜ惑星から外れてしまったのか
③【予想】自分なりの系内惑星の分類(曜日に関係するもので分類する…など)
④【検証】グループごとに表1から、Excelを用いてデータを処理
⑤【議論】グループごとに様々なグラフを用いて、系内惑星の分類に関する考察等
⑥【発表】グループで考えた系内惑星の分類を発表
⑦【まとめ】教員の補足を含む

○教育的効果があったと考えられる点
・「惑星についての理解が深まったか」というアンケートを生徒に実施したところ、ほとんどの生徒から肯定的な回答を得ることができた。
・半数以上が「密度」と「直径」といった複数のグラフから、「地球型」と「木星型」惑星に分類できた。また教科書に記載がない「天王星型」惑星と分類する生徒もいた。
・こちらが予想していなかった、大気を構成する物質(水素やヘリウム)や表面平均温度から分類した生徒も見受けられた。
・木星の衛星の数や金星の表面温度に関する考察を自分で調べている生徒がいた。
・背景に作成した「太陽からの距離」のグラフとgoogleマップを背景に合わせたものでは、生徒が学校近辺の地図を作成し、距離感を身近に実感させることができた。
全体を通して生徒自らが課題意識をもって学習に取り組む様子が多々見受けられた。ICT機器を用いてデータを処理する力、データを読み取って考える力など、今後の社会で求められる要素を培える授業が展開できたと考える。また本授業では体調不良等によって自宅からオンラインで授業に参加した生徒もいたが、そういった生徒にも対応することができた。

また今回作成したExcelデータは、他の教科や他の分野にも転用して活用できると考える。例えば地震のゆれの広がりの分布、原子の大きさの比較など、「距離」や「大きさ」というものを比較する場面において、本実践で作成した教材は有効ではないかと考える。今後は他分野への応用も考えながら本教材をさらに発展させていきたいと考える。

自律的な学習者への第一歩に 自己効力感の向上 活用事例多数紹介 すらら 活用事例のご紹介
株式会社TENTO

アーカイブ

  • ICT要員派遣はおまかせ! ICTまるごとサポート 詳細はこちら
  • 事例紹介作って掲載します。 ICT教育ニュースの楽々 事例作成サービス
S