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2023年7月25日

中室教授に聞く・デジタル時代の教育データの扱い方/「Qubena-Action 2023」レポートPart2

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COMPASSは5月27日、“個別最適な学び”について考える教育関係者向けのオンラインイベント「Qubena-Action 2023」を開催した。

イベントレポートPart2の今回は、レポートPart1で紹介した門真市におけるQubena導入効果検証で連携した慶應義塾大学総合政策学部の中室牧子教授、またCOMPASSファウンダーの神野元基氏との「教育データの利活用」をテーマとしたトークセッションの様子を紹介する。聞き手は、COMPASS 取締役CLOの木川俊哉氏。

中室教授の専門は教育経済学。研究者として教育データの分析に関わりながら、デジタル庁のシニアエキスパートとして教育データの構築=教育データを分析に使うための法的・技術的な整備に取り組んでいる。現在は、学校現場の1人1台端末の利用で蓄積されるデータと学力調査の結果などを照らし合わせて分析し、子どもたちの学力や能力形成にプラスの影響を与える授業内での利活用方法を明らかにするような研究を行っているという。

‐効果検証のメリット・意義は何か

木川:
GIGAスクール構想によって1人1台端末が配布され、教育委員会や学校現場ではその教育効果というのが求められるフェーズになってきたと思います。前のセッションの門真市でのQubenaの検証では「個別最適な学び」に関する一定の効果を示すことができたと考えています。こうした効果検証のメリット、結果の意義というものをどうご覧になっていますか。

本トークセッションの前に発表された大阪府門真市のQubena導入効果発表より

中室:

中室牧子氏

授業の中での利活用について詳細なデータを取得し、学力との相関を見ることができた点が重要です。

GIGAスクール構想による一人一台端末が実現される以前は、私たち研究者がアクセスできるデータというのは非常に粒度の粗いものでした。例えば、学力調査やアンケート調査などは1年に1回しか実施されません。

場合によっては5年に1回の変化しか見れないデータもあります。このような粒度の粗さゆえ、分析の結果にはスピード感がなく、その知見を現場で生かしにくい、という問題がありました。そうした課題を一定程度解消することができたように感じます。

神野:

神野元基氏

学力テストの結果というのは全国の先生方の注目度の高いものなので、学力効果との関係性みたいなところが検証によって可視化されることは、現場の先生方も、教育委員会の方にとっても興味深いものになっていくんじゃないかなと思います。

一方で、決してその学力、学習テストみたいなものだけではない、多様な教育的価値観というものが先生方それぞれあって、非認知能力が大切だと強く思われている先生もいれば、学力が大切だと思われている先生もいる。だからこそ、効果検証という時に、何の軸で測れば、果たしてみんなが「そうだね」と言えるのか、非常に難しいというところは、学校現場の視点で感じるところです。

‐効果検証の課題は何か

木川:
効果検証の課題として、実際に何を分析の対象とするのか、そもそも定量的に測定可能なものなのか、そのあたりもすごく難しいところかなと思っていて、この辺り、中室先生が感じられている課題や、どういう風に検証をしていくのが良いのか、事例などお伺いしたいです。

中室:
一つはサンプルのサイズの問題です。門真市から提供を受けたデータはかなり大きいのですが、それでもまだ十分ではありません。また、もう一つの問題は、どの先生がどのクラスを教えてるのかという情報が得られないことです。

医療分野では、Personalized Medicine-「個別化医療」という考え方が広がってきています。同じ病気であっても、人によって効果のある治療や薬は異なっていますから、治療や投薬をテーラーメイドにしようという考え方です。これを実現するためには、人々の属性や治療歴ごとに細かく分けて分析する必要があります。ですから、サイズの大きいデータが必要になるのです。

医師による違いも重要です。医師によって専門や得意分野が異なっているからです。医療における個別化の研究は、どの医師がどの患者の治療を担当したかということが仔細にわかるデータになっていることが多いのです。

今後、医療と同様に、教育分野でも個別化の分析が始まっていきます。これを実現するためには、サイズの大きいデータ、教員のデータ、というこの2つは不可欠だと思います。

‐分析に必要なデータの量と質の問題

木川:
個別最適化のためには多様なデータが必要、ということは作業の工数が増えたり、検証のハードルが上がってしまうのではと思うのですが、ボトムラインというか、こういうデータを、これぐらいの規模で集めればいいといった目安はあるのでしょうか。

中室:
データの量と質の間にはトレードオフが生じる可能性がありますから、データが多ければ多いほどいいとは思いません。ただし、先ほど申し上げたようなサイズの大きいデータを収集するには、1自治体や1事業者で取り組むことには限界があることも事実ですから、自治体や事業者を越えてデータを収集できる仕組みを作ることは重要ではないでしょうか。ここは、文部科学省など、国の関与も必要とされるところだと思います。医療分野でもデータ利活用が進められていますので、その中で明らかになった課題などを見ながら進めていくことも重要だと思います。

‐どのようなデータを収集し、どのように活用していくべきか

木川:
今回は学習のログに注目しましたが、今後より細かい粒度で分析を進めていくために、児童生徒のどのようなデータを収集していくべきか、といったところは、いかがでしょうか。


中室:

正答率というデータは、学力テストの代わりに用いることができるという意味で重要ですが、学習ログの正答率にも学力テストにも両方共通する問題として、どのような問題に正答(あるいは誤答)したのかということがわからないという問題があります。今後は、単純に正答したか誤答したかということを越えて、その問題の中身も分析の対象にしていく必要があるでしょう。

データ利活用における課題として、医療分野でも動揺に議論されてきた、データ利活用に当たっての個人情報の取得と管理については、きちんと議論を積み重ねていくことが重要です。子供本人や保護者の個人情報が漏洩することのないように、セキュリティの高い状態で管理をするということは当然のこととして、差別やスティグマにつながるような誤った利用がされないかについて監視することなども重要です。

私たちのような大学や研究機関の研究者に第三者提供しつつ分析する場合には、個人を特定できるような情報は全て削除され、同じ児童を識別できるようなIDが降られた形のデータとして提供されるのが普通です。しかし、これはそう簡単ではありません。例えば、同一自治体の中に同姓同名の子どもはたくさんいますし、保護者の婚姻関係が変わることで就学期に姓がかわるというケースもあるでしょうから、同一個人の経年変化がわかるようなデータの構築はかなり骨が折れる作業になることもあります。こうした作業のノウハウも自治体間で共有していくような仕組みづくりも必要になってきます。

‐今後注目したい教育データは

木川:
教員の違いによる差や、毎日の出欠、学習態度、家庭環境、健康状態など、様々なデータがある中で、どのデータをどこまでどういうふうに活用していくべきかみたいなところも現場ですごく悩まれるポイントなのかと思いますが、分析対象として注目されているデータはありますか。

中室:
将来的には、学習アプリから得られるデータ以外に、電子教科書のデータを分析することも行ってみたいです。また、教員の指導法に関する分析も行ってみたいですね。子供たちの能力を伸ばせる先生が、どのような場面でICTを活用しているのかに関心があります。

木川:
なるほど。やはり先生の技術というか、授業の運び方は影響度の大きなところですよね。例えばデジタル教材と教科書との行き来がどれくらい行われているのかみたいなことを可視化できれば、一定の示唆を得ることができるのでは、というお話ですね。

中室:
教育経済学においては、教員の質が重要であるという研究は枚挙に暇がありません。しかし、「教員の質がどのような要因によって予測できるのか」ということを明らかにしようとした過去の研究の最大の問題は、教員の学歴や経歴など、いわゆる「履歴書」的な属性に焦点を当てていたところです。しかし、教員の質の重要な部分は、やはり「どのような指導をしているか」にあります。そういう分析が進んでこなかったのは、やはり実際に教員が教室の中でどのような指導をしているかのデータが取れなかったからだと思います。今後はそうしたデータも取得できるようになるのではないでしょうか。

‐教育データ利活用のこれから

木川:
この辺り、学校の先生の育成みたいな観点になるのかなというふうに思ったんですけれど、神野さん、実際に学校現場にいらっしゃって活用のイメージなどはありますか。

神野:
そうですね、もちろん様々なところで活用できるんだろうなと思いつつ、正直今、校長という立場で学校現場に立っていると、例えば子ども同士のトラブルであったり、保護者の皆さんからのご意見であったり、そうした学力以外のところにマインドシェアをとらわれる部分が結構あります。

その観点からすると、優秀な教員という考え方にしてみても、学力を上げる手前に、学校を安定化させるというか、様々な保護者生徒、それぞれの方々にちゃんと納得してもらいながら進められる、というところを求めて、それがきっちりできたうえで、学力というところにみんなでフォーカス・・・というような学校現場の力学もあって。

学力だけではない、当然のことながら、子どもたちの安全だったり、そういったところを見ていくというところが、学校現場のすごく大きい役割の一つだと思っているので、そのうえで、データの選び方とか、目的とか、何をどう評価するのかというところが大切なのかなと。「誰一人取り残さない」といった言葉に対して、どのようにこのデータ利活用のテーマを当てていけば、広めやすいというか、使いやすいデータになるのかなというのも考えます。

中室:
私も学校の目的は学力を上げることだけではないと思います。一方、学力に関する研究が多いのは、やはり学力が測りやすいからなのでしょう。

これまで学力以外のデータは計測が難しく、あまり分析に利用されてきませんでしたが、最近では出欠席などのデータもリアルタイムで把握できるようになってきていますから、子供たちの行動面に焦点を当てた分析も可能になってくると思います。そうすれば、不登校などの課題についても分析が進み、どのような政策対応が望ましいかといった議論につなげることができます。

木川:
そうですね、その辺りは今後かなり注目されていくところだと思うので、我々も、効果検証をはじめ、データ利活用というところをしっかりと進めていきたいです。

今回様々な視点でお話いただきましたけれども、COMPASSとしては、子供たちの主体的な学びというものを最大限引き出していくようなプロダクトっていうものを作っていきたいというふうに改めて考えさせられました。

中室さん、神野さん、本日はありがとうございました。

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