2021年6月14日
「学びを変える、ミライを創る」/御殿場西高等学校のICT教育
「学びを変える、ミライを創る」/御殿場西高等学校のICT教育
御殿場西高等学校 副校長 勝間田貴宏
【寄稿】
コロナ禍に揺れる中で、御殿場西高校(大塚勇介校長、生徒810人)は「GIGAスクール構想御殿場西モデル:GN-EdTech」をスタートさせた。2021年度新入生から1人1台端末としてChromeBookを持たせ、校内には無線LANを配備し、電子黒板も全教室に配備予定となっている。ICTとは無縁だった御殿場西高校が、コロナウイルスによる前代未聞の危機に直面し、大きな変化への挑戦に踏み切った。
ハード面での変化ももちろんだが、ソフト面での変化も著しい。授業支援アプリのMetaMoJi Classroomを導入し、教師と生徒が双方向にやりとりができるようになった。さらに、授業内外でのGoogle Workplace for Educationの活用も本格的になってきている。各クラスではGoogle Classroomを使用した課題配信や配布物のアップロードを行っている。また、Google Formを使ったアンケートやデータ分析を行い、これまでに何時間もかけて行っていたことを圧倒的な効率化を果たしている。また、個別最適な学びとしてスタディサプリとスタディサプリEnglishを活用したアダプティブラーニングを実践し、生徒一人ひとりの学力や学習到達度に合わせた、一人ひとりに適した学びのカタチを実践している。さらに、秋からは校務支援システムを試験的に導入し、これまでそれぞれの教師が別々に行っていた業務をデータ一元化することで、ヒューマンエラーをなくし、業務効率化によって働き方改革の推進も行っていく。昨年度の様に、休校措置を取ったとしても、生徒の学びを止めることなく、むしろこれまでにはできなかった、より質の高い学びを実践することが出来る。
「トーク&チョーク」といわれる教師からの一方通行の授業からの脱却の必要性については、以前から声が上がっていた。しかし、生徒が主体的に対話的に学習するアクティブ・ラーニングを実践するには、ハードとソフト両面での壁があり、変化への一歩を踏み出すまでには至らずに終わってしまっていた。そんな中、新型コロナの拡大に伴う昨年度の臨時休業措置は、学校の授業や在り方そのものを捉え直す機会となったのである。他校に先駆けていち早く始めたオンライン授業も、すべての生徒にインターネット環境が整っているわけではなかったため、一部の生徒のみとなってしまった。Google Classroomでの課題配信も、双方向型とは言えず、その場を凌ぐことしかできなかった。その時の悔しさや無念の想いが、御殿場西高校のICT化の原動力となったのである。「生徒の学びを止めない」「生徒の学びを支える」「遠隔でも生徒とつながる」などの強い思いを教師たちが抱き、学校ICT化は急速に進行している。1人1台Chromebookも、単なる情報検索ツールではなく、主体的で協働的な学びを両立させ、生徒の思考力、判断力、表現力を高めるツールとして、授業内での活用を進めている。
そんな御殿場西高校のICT活用授業のテーマは「生徒の主体的で協働的な学び」だが、Chromebookを持ったからといって、Googleのアプリを教師全員が使いこなし、理想的な授業をすぐに実践することは難しい。そこで、ICT教育のパイオニアであり、元公立小学校校長などを歴任した平井総一郎・情報通信総合研究所特別研究員をアドバイザーとしてお迎えし、ICT活用授業研修を年間で担当していただくことになったのである。3月と4月に実施した第1回教員研修では本校の教員に向けて、ICT活用授業の必要性と、実際にアプリを活用して授業を体験するなど、実践的な研修を行った。今後は、年間4回行う授業研修に加え、授業実践報告会を年度末に行う予定になっている。
さて、御殿場西高校では生徒のグローバルな視野を拡大し、世界を舞台に活躍することができる人財の育成に力を注いできた。オーストラリアには、系列校のカーディニア・インターナショナル・カレッジ(KIC)があり、25年間にわたって交換留学を実施している。
しかし、このコロナ禍の中では、海外留学はおろか海外修学旅行の実施もできない状況となり、生徒たちの国際理解の場を提供できない事態となっている。これまで当たり前に行っていたKICとの交流活動がことごとく中止となり、それをただただ耐えるしかないのかと悔しい日々が続いた。
そんな中で、生徒たちの学びを止めることなく、むしろこのコロナ禍でできることを増やしたいという思いから誕生したのが「GoKICプロジェクト」である。本校とKICをオンライン会議アプリZoomでつなぎ、オンライン留学を行うというものだ。それぞれの生徒たちは、英語と日本語を互いに学び、同時に日本とオーストラリアの文化を比較することができる。北半球と南半球で遠く離れた生徒たちが、1対1あるいはグループで対話をし、英語力の向上そのものだけでなく、とても積極的に参加している光景に教師も驚きを隠せない。
実践中の生徒からは「オーストラリアがこんなにも近くに感じられて、自分の思いがZoomを通して相手に伝わる感覚があります。英語で対話する能力が伸びていくのを感じられる」などの声が上がっている。今までにない英語学習の形に非常に大きな刺激を受けている。
本年度は、このGoKICプロジェクトをさらに拡大し、日本とオーストラリアの文化の違いをさらに感じることが出来る「バーチャルホームステイプログラム」を実施している。各家庭の協力の下、家族やペットの紹介、自宅のバーチャルツアー、食文化の紹介など、これまでの英語学習にプラスして文化交流体験も行っている。
こうした社会情勢の中で、できない理由を探せば幾らでもある。しかし、生徒の学びをとめないために、「できる」を前提とした発想が新たな変革のチャンスにつながるのだと実感している。
御殿場西高校のICT化は、授業や留学、海外研修の分野の他にも可能性を広げている。「SDGs(持続可能な発展目標)」という言葉が日本社会でもようやく身近な存在となってきており、大手企業がSDGsへの取り組みを掲げ、多彩な実践をしているのをテレビや新聞などで毎日のように目にするようになった。御殿場西高校でもSDGs教育の推進を昨年度から図り、本年度からより本格的なSDGsへの取り組みがスタートした。
まずは、SDGs委員会を発足したことが第1ステップとなった。教員の分掌であるSDGs教育委員会が主導で進めていくという案もあったが、それでは生徒たちの「当事者意識」を高めることにはつながらないのではということで、生徒主導が大前提となった。生徒たちが対話を通して決めた目標に対し、生徒、教師、事務員、保護者といったように影響の輪を広げていく。
SDGs委員会には各クラスから2人ずつ参加し、学年を超えたグループが作られ、それぞれ担当する月が割り当てられる。下級生は上級生から学び、上級生はリーダーシップを発揮することになる。それぞれのグループが担当する月のターゲット定め、各クラスでSDGs委員会を中心に話し合う。クラス単位でできることを模索し、小さなことからのスタートを各クラスで実践していくのである。月末には各クラスで実践した取り組み事例をランキング形式でまとめ、「SDGs新聞」として発行するという仕組みである。
この活動を支えるものとしてICTの活用が大きな役割を担う。クラスのGoogle Classroomに月のターゲットの告知が動画で配信され、生徒の端末へと直接届けられる。各クラスでの取り組みはSDGs委員会のGoogle Classroom上にアップロードされる。そして月末になると、SDGs新聞が配信される。このようにICTの活用が、生徒主導の取り組みを支え、一人ひとりの当事者意識を高めることにつながっている。
このSDGsの取り組みを、今後は学校内から学校外の連携へとつなげていきたい。御殿場市や地域企業と連携した取り組みは既にスタートしており、他の高校や小・中学校との関わり、国内大学などの高等教育機関との連携につなげていきたい。更に、海外修学旅行をフィールドワークとしたSDGs探究学習を実施し、海外教育機関との連携へと拡大していくことも検討がスタートしている。こうした取り組みを通し、生徒たちの当事者意識を高めるとともに、国際社会の帰属意識や、他国との繋がりを感じながら、自分の将来のビジョンをグローバルに広げてもらいたい。高校卒業後は、国内の大学だけでなく、海外大学への進学にチャレンジしたり、あるいはグローバルビジネスにチャレンジする生徒が出てくるかもしれない。これが本校の「ICT×グローバル×SDGs」という3つの実践である。こうした「Think Globally, Act Locally」な社会課題の解決を通して、生徒のさまざまな能力や資質の向上へとつなげていきたい。コロナ禍という前代未聞の危機がもたらしたのは、必ずしもすべてがマイナスということではなく、変革へのチャンスを与えてくれたと言える。そして、この変革の歩みは今後さらに早まっていくことになるだろう。
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