2017年2月9日
~現場の先生に知って欲しい~ 御厩課長が語る「総務省がICT教育に熱心な理由」
実証事業の成果と課題
実証には現在、世界17カ国112校(海外日本人学校等を含む)、児童生徒8498名、教員994名の約9500名が参加。17社のコンテンツやポータル画面の活用状況を踏まえ、システムの改善を繰り返してきた。その成果は、標準化する形で今年3月末に取りまとめ、公開される予定だ。(これまでの進捗状況は、文末の関連URLを参照)
学校現場でのこれまでの活用状況について御厩課長は、「“アクティブ”、 “アダプティブ”、“アシスティブ”の、トリプルAの側面からクラウドが有効に活用されてきた」と説明する。
アクティブ(主体的・協働的で深い学び)の面では、協働学習ツールの活用が多くの学校に広がった。3年前の事業開始時には、ドリルなど個別学習での利用がほとんどだったが、児童生徒や教員がシステムに慣れるにつれ、授業や校外学習でも使ってみようと、協働学習ツールの利用が広がっていったという。現在、最も利用数が多いコンテンツは、協働学習ツールの「スクールタクト」。アクティブ・ラーニングの定着・発展に向け、協働学習ツールを使った実践が積み重ねられている。
アダプティブ(個に応じた最適な学び)の面では、自動出題・自動採点などAIを活用したドリルの活用や、習熟度の見える化などが進められた。現場での利用ログを追いかけてみると、朝利用(ドリル学習)から昼利用(授業・校外学習)、夜利用(家庭学習)へと進化していくこともわかったという。このように、児童生徒や教員の利用ログを分析・活用できるのも、マルチOS、マルチ端末での利用が可能な「クラウドシステム」ならではの大きなメリットであろう。
アシスティブ(学習・教育のサポート)の面でも、「クラウドシステム」のメリットを最大限に活用。低価格の端末でもスマートフォンでも、学校外の環境でも利用できるこのシステムは、家庭や経済面で困難を抱える子供たちや、不登校の児童生徒などへの支援にも活用されている。へき地の学校や海外日本人学校でも、都会の子供たちと同じ最先端のサービスを円滑に利用できているという。「さまざまな教育格差を是正する上でも、クラウドの活用が有効だと手応えを感じています」と語る。
クラウドは、教員にとってもアシスティブなシステムだ。ICT活用で有名な松田 孝校長が「何もない」と嘆いていた小金井市立前原小学校が、1年足らずで総務大臣が視察するようなICT先進校へと成長を遂げたのも、クラウド活用のおかげではないか、と御厩課長は推察する。「自校内にサーバーを新たに構築するようなやり方では、このようなロケットスタートは切れなかったのではないでしょうか」。
これらトリプルAの効果的な活用・整備事例(キラー事例)については、ガイドブックにわかりやすくまとめ、4月に刊行して全国の学校現場に横展開していくという。
これだけ大規模な実証事業では、もちろん課題も見えてくる。たとえば、ビッグデータの活用だ。「今回の実証では、ドリル成績などの学習履歴を、個人にフィードバックする形を中心にデータの活用が進められました。学校・自治体あるいは国の単位でのビッグデータ活用がこれからの課題です。来年度より、スマートスクール実証事業として、学習系と校務系の情報とを組み合わせたデータ活用を、文部科学省と連携して3年計画で進める予定です。学級・学校経営でのデータ活用の前提として、セキュリティの確保や個人情報の取り扱いについても整理していきたいと考えています」という。
そして一番の課題、それは「教育クラウドプラットフォーム」を活用する基盤となる、ICT環境の整備だろう。当然だが、クラウドに繋がるためには、インターネットに接続されていなければならない。「Wi-Fi整備など、うちの学校ではとても無理だ」と思うかもしれないが、有線LANの教室到達率は8割を超えているという。前原小学校でも、この基盤を活かしてAP(アクセスポイント)を設置した。御厩課長は、「ますは、ハイテクではなく、あるテクですよ。ある物を使ってやってみる。それで円滑に動かないなら、整備が必要です。ICT環境整備には、地方財政措置が講じられていますし、普通教室以外に防災目的でWi-Fiを整備する場合には、総務省の補助金等も活用できます」と解説してくれた。
プログラミング教育と未来
昨年、プログラミング普及事業の視察で小金井市立前原小学校を訪問した高市総務大臣は、子供たちがプログラミングを学ぶことの意義について、「“IoT”や“AI”など新しいサービスや製品が社会を変えようとしている。そんな時代を生きる子供たちには、プログラミングを学ぶことでサービスの『供給者』に育って欲しいという期待があるが、同時に、良き『利用者』となってニーズを生み出したり、評価したりできるようになって欲しい」と、プログラミング教育が、未来を生き抜く子供たちすべてにとって必要だと強調した。
プログラミング教育をはじめとするSTEM教育が、すべての子供に必要であることは、世界の共通認識になっている。御厩課長は、「A(Art)も重要ですね。子供たちの創造性豊かな表現に驚かされることもしばしばです。これら“STEAM”に、私はRを加えたいと思います。Rとは、Reading、wRiting、pResentationで、読み・書き・プレゼン。例えば、プログラミング作品を作って終わりではなく、その意図などをプレゼンし、議論を深め、よりよい作品へと協働で改善していく。活発な言語活動を通して、人間の強みである自然言語処理力も磨いてほしい。もう一つ、Eでは、Ethics(倫理)も重要ですね。情報モラルをいかに身につけるか、AI・ロボットといかに共生していくかなど、倫理面での対応も課題になっています。人文知もバランス良く含むこれら“STREAM”教育を通じ、すべての国民がICTのよき利用者となる“流れ”を生み出していきたい。その広い“流れ”の中から、高度な供給者も生まれてくるのではないでしょうか」と、取り組みの必然性を熱く語る。
社会が動く、国も動く。自治体も教育現場も動きに遅れずに走り出して欲しい。
ティッピングポイントは、もうすぐそこまで来ているのだから。
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