2020年10月15日
Chromebook 全校導入、生徒の授業参加度大きく改善/浪速学院
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「Excellent School」ではない、「Good School」を
もともとよく通る声のトーンを、さらに1段階上げて彼は言った。「私はね、『Good School』を創りたいんです」。浪速学院 浪速高等学校・浪速中学校(大阪市)理事長・学院長の木村智彦氏だ。
同校は神社神道を起源とし、間もなく開校100周年を迎える伝統ある私立学校。一方、早期からICT教育に着目し、2,000人を超える生徒が ASUS Chromebook を所有。また教員もASUS Chrome tabletを所持している。さらに校舎全館で10GのWi-Fi整備も完了するなど、その先進性でも知られる。
木村理事長が「Good School」と称したのには、教育そのものへの強い信念が源泉にある。「確かに、毎年のように国公立大学への進学者も出ています。しかし目指したいのは、卓越した生徒ばかりを次々に排出することではないんです。私は本校を、すべての生徒が誇りをもって生きられる、普遍的な力を育てる学校にしたい。だから『Excellent』ではなく『Good』なんです」。
そして「Good School」を実現する手段の一つがICTだった、と力強く付け加えた。
ICTで「個性の群像」を伸ばしたい
「私はこれを『個性の群像』と呼んでいますが、生徒一人ひとりの異なる個性を探し出し、伸ばすこと。これこそ、教育の本質だと信じています。しかし、そうした『個』を尊重するために、一人の教員のアナログな力でできることにも限界があるでしょう。それを補うのがICTだと思っています」。
同校に限らず、教育にICTを利用することは、あらゆる場面で効率化を生み出す。しかし木村理事長は「スピードの問題ではない」と強調する。「スピードを上げるのではなく、(生徒に)ペースを合わせるんです」。80点だった子が、90点や100点が取れるようになる。40点の子が、60点取れるようになる。家で勉強しなかった子が、机に向かうようになる。そうした個々の変化と成長、つまり「個別最適化」と「伸び率」を重視しており、それをICTで目指したのだ。
従来の「チョーク&トーク」一辺倒の教育でも、伸びる子は伸びた。しかし、それについていけない子を多数生み出したのも事実だ。「それを救うのがICTではないか」と木村理事長は言う。
奇しくも、コロナ禍によるオンライン学習の浸透は、学校の存在意義を浮き彫りにした。極論ながら、知識の伝達だけなら、学校や教員が介在しなくても不可能ではないと分かってしまったからだ。だからこそ、木村理事長は教育と学校の本懐に立ち返る。それが、「個性の群像」を伸ばす「Good School」なのだ。
「21世紀に、ICT武装されたシティスクール」を目指す
ICTの可能性を信じて「トップである私がハードを整え、教員はソフト(教育内容)を整える」と大号令を発した木村理事長。「21世紀に、ICT武装されたシティスクール」をキャッチフレーズに、改革を断行した。
また「生徒にICTを推奨するなら、教員がその範となる必要がある」との考えから、教員全員の GCE(Google Certified Educator。Google for Education をベースにICT活用スキルを証明する、教育者向けの世界共通認定資格)受験を推進。教員もその期待に応え、95%がこれに合格する快挙を見せている。
あえて非タブレット、かつ黎明期の Chromebook を選択
また、ハード面で特に目立ったのが、冒頭でも触れた、生徒・教員1人1台の ASUS Chromebook の導入と環境整備だ。
Chromebook は、Google の Chrome OS を搭載した非Windows/Mac系のノート型デバイス。Google for Education ほか、Google が提供するサービスやアプリ、クラウドサービスなどと連動できることで人気を集めている。
しかし、同校が導入した2016年は、市場においてまだ Chromebook は珍しい存在だった。それでもなぜこれを選んだのか。なぜタブレットではなく、あえてノートPCにしたのか。同校ICT教育推進部長・下園晴紀教諭はこう明かす。
「スマホやタブレットは確かに素晴らしいツールですが、どうしてもキーボード入力ができませんからね。かつて、PCが使える人とそうでない人の間に人材的格差が生まれましたが、近年のスマホ文化で子どもたちのタイピング能力は再び低下傾向にあります。これから子どもたちが社会に出たとき、そのスキルがないのは問題だと考えました」。ちなみに同教諭は、GCE の中でもさらに難易度の高い「レベル2」を取得している。
また、価格も含む総合的なユーザビリティも重視したと言う。「導入当時、キーボード入力が可能なデバイスで、5万円を切る価格のものは他にありませんでした。加えて、生徒はよくデバイスを落としますから、堅牢性も欠かせません。起動の早さ(約10秒)や、バッテリーが1日もつことも魅力でした。」(下園教諭)。
新たな発見、生徒に授業への「関わりしろ」を生み出す
元をたどれば、クラスや授業運営において「Google Classroom」や「Google Forms」を使う考えが念頭にあった。これらとの親和性の高さも魅力だったようだ。「授業において、生徒の意見を吸い上げて共有したかったんです。アナログだと、どうしても手を挙げて発言する生徒の意見だけが注目されます。そうではなく、一人ひとりにその機会を与えたくて」と下園教諭。
例えば実際の授業では、「原爆ドームを見てみよう」というテーマで、Google Classroom にHPや YouTube、 Google Maps へのリンクを貼り、そこから各個人の感想を共有するなど、インタラクティブな活用事例が見られるようになった。
このような挑戦を続けるうち、下園教諭はあることに気付いたと言う。「物語を読んで、その感想を共有したときのことです。一人の生徒を指名して『答えなさい』ではなく、「みんなで意見を出そう」というスタイルに変えると、生徒が授業中にウトウトしなくなるんですよ。自分がそこ(授業)に参加しているという意識、『関わりしろ』を生むんです」。
生徒にとって Chromebook を使うことがあたりまえになった今、教員が生徒一人ひとりを見る時間が増え、「生徒の小さな意見を見逃さなくなった」と、充実感をのぞかせる下園教諭。こうした環境は、シンプルだが重要な要素だ。まさに木村理事長の目指した「Good School」の一つの形だと言えよう。
最後に木村理事長は、ICT改革に賭ける想いをこう表現した。「本来、生徒は『変わりたい』という欲求を持っているもの。だからこそ学校が、教員が、自ら変わる姿を示さないといけないんです」。
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