2021年2月15日
ICTで学びを保障する“合理的配慮”シリーズ 第6回 肢体不自由のある子どもたちの生活や学習面での合理的配慮(前編)
肢体不自由のある子どもたちの生活や学習面での合理的配慮 (前編)
金森克浩(日本福祉大学スポーツ科学部教授)
はじめに
本稿では、肢体不自由のある子どもたちの生活や学習面での合理的配慮について、2回にわたって紹介します。第1回目は「肢体不自由のある子どもとは?」「困難さを考える」「生活面での支援」「学習面での支援」という4つのお話をします。
次回は「コミュニケーション面での支援」「ICTを活用することでできること」「障がいの重い子供の支援機器」そして全体のまとめを行う予定です。
1.肢体不自由のある子どもとは?
さて、肢体不自由のある子どもとはどんなイメージでしょうか?多くの方が思い浮かべるのは、パラリンピックの車椅子マラソンの選手や、文筆家の乙武洋匡氏ではないでしょうか?文部科学省が出している教育支援資料には「肢体不自由とは、身体の動きに関する器官が、病気やけがで損なわれ、歩行や筆記などの日常生活動作が困難な状態」とあります。
私たちは脳からのさまざまな司令を受けて体を動かしています。しかし、そのような司令を上手に発信または受信できないために、上手に動けない「脳性麻痺」という障がいにある子どもが肢体不自由特別支援学校には多く在籍しています。すると、乙武さんのようにからだの動かない部分だけを補えばいいということにはならず、様々な面で困難さを示していきます。
2.困難さを考える
身体が自分の思うように動かないというのはとても辛いことです。それでも、全く動けないということではなく、足は上手に動かせないけど、手や指は普通に動かせるという子どももたくさんいます。つまり、それぞれにできることやできないことは幅が広く、困難さの度合いはとても多様になります。
ですので、特別支援教育では「ニーズ」という言葉をよく使いますが、子どもたちのニーズをよく把握した上で、それに応じてICTや教材、学習活動を作ることが大切になります。ですので、これがいいだろうと大人側が勝手に思い込んで支援をすると、大きな失敗につながるということをよく見聞きします。
3.生活面での支援
個々に違うとはいっても、あまりにも漠然と考えても仕方ありませんので、ここでは一つ例を挙げて、ニーズに答えるためにはどうするかを考えましょう。
それは「移動する」ということです。日常的な生活動作としては、歩行、書写、食事、衣服の着脱、整容、用便などがありますが、肢体不自由のある子どもの多くは、移動することに困難があります。これまでの考え方では自分で移動できないのなら、車椅子に乗ってもらい、大人が押してあげるという支援を受けることを基本としていました。
つまり「やってもらう支援」ですね。しかし、国連の機関であるWHOでは障がいを医学モデルから社会モデルに見直しました。これはどういうことかというと、病気や疾病によって身体が動けなくなっても、電動車いすや杖などを使えば外に出ることもできますし、社会参加できます。環境を変えることで障がいは障がいでなくなるという考え方になります。
今までは、障がいのある小さい子どもにはあまり電動車いすを支給していませんでした。安全面の配慮もあってだと思いますが、そうなるとどうしても障がいのない子どもと一緒に遊ぶことはできません。これを本人の問題にするのではなく、電動車いすに乗って動けるという環境を変えれば歩けない子どもも他の子どもたちと一緒に鬼ごっこもできるようになります。これは、「できるようにする支援」といえます。
4.学習面での支援
学習面でも同じことがいえます。手の操作が難しいので教科書をめくったり、ノートに文字を書くことができない子どもがいます。これまでなら、介助員の人が代わりにめくったり、筆記をしてもらうということが多くなっていました。
しかし、教科書を手の届く書見台のようなものに置いて、指を動かせばめくれるようにしたり、鉛筆を持ちやすい太さにしたり、筆圧が弱ければ消せるボールペンにすれば書けるようになるかもしれません。ノートの大きさを大きくしてもいいかもしれません。
からだが弱くて授業中に疲れてしまうのであれば、ベッドに寝ての授業参加でもいいかもしれません。こうでなければならないという考えを捨てて、見方を変えれば肢体不自由のある子どもも同じ学びを得られるでしょう。
《執筆者プロフィール》
金森克浩
日本福祉大学教授
金森克浩(日本福祉大学スポーツ科学部教授)
特別支援教育士スーパーバイザー。福祉情報技術コーディネーター1級。
文部科学省「教育の情報化に関する手引」作成検討会構成員。文部科学省新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議委員。文部科学省「障害のある児童生徒の教材の充実に関する検討会」委員。NHK for School「ストレッチマン・ゴールド」番組委員。
主な著書に、「発達障害のある子の学びを深める教材・教具・ICTの教室活用アイデア」(明治図書)「〔実践〕特別支援教育とAT(アシスティブテクノロジー)第1集〜第7集」(明治図書)「知的障害特別支援学校のICTを活用した授業づくり」(ジアース教育新社)「決定版!特別支援教育のためのタブレット活用」(ジアース教育新社)「特別支援教育におけるATを活用したコミュニケーション支援」(ジアース教育新社)他多数。
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イラスト:Atelier Funipo
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